深い海の底を想像したことがあるだろうか。暗く、音も光も届かないような地上とは隔絶された世界だ。

 そんな世界で頼れるのは潜水艦と無線越しに聞こえてくる声だけだとしたら? そして、容易に解消できない悩みを抱えていたら、人間はどうなってしまうのだろうか。

 『Under The Waves』は、喪失感に苛まれながら水中でもがき続ける男を描くアドベンチャーゲームだ。

 『HEAVY RAIN -心の軋むとき』、『BEYOND: Two Souls』、『Detroit: Become Human』といった印象深いアドベンチャーを手掛けてきたフランスのQuantic Dreamのインディー向けパブリッシングレーベル“Spotlight by Quantic Dream”の第1作でもある。

※本記事はNetEase Gamesの提供でお送りいたします。

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逃避か自らと向き合うためか、海に潜る男・スタン

 舞台は架空の1979年。主人公のスタンはUniTrench社の仕事を請け負うダイバーとして、海へと潜ることになる。

『Under The Waves』に漂うのは孤独と葛藤を煮詰めたような愁情。潜水艦に乗り、汚れゆく海を泳ぐひとりの男の物語

 海にはUniTrech社による巨大な油田施設が広がり、海中には魚たちのほかにメンテナンス ドローンたちがうごめく。そんな海の底に近い場所で壮年のスタンは、ビジネスパートナーで友人でもあるティムからの指示をもとに、さまざまなタスクをこなしていく。

 海底油田のオイル漏れを確認したり、海に落ちてきたコンテナの荷を見に行ったり、自らの居住スペースのメンテナンスをしたりしながら日々が過ぎていくことになる。

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 そんな仕事の合間にスタンは過去の出来事を思い出す。失ってしまった娘と地上に残してきたエマ(スタンの妻)のことだ。取り除けない海の汚れのようにこびりついた想いは、徐々にスタンを追い詰めていく。

 どこへ行っても逃げられないことに対する苛立ちと、頭で理解していても感情が追い付かない様は見ているだけで苦しい。唯一の話し相手といえば、仕事の指示をくれるティムと地上にいるエマくらいだ。

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 ティムは仕事人といった感じで業務外の話を陽気にするような感じでもなく、たまにエマと話せば意見の食い違いから感情的になってしまう。

 海中にいるスタンはまさに孤独だ。

 鬱屈とした気持ちのまま、海に飛び込む。

 このとき、スタンは何を思っているのだろうか。断片的に彼の思いを知る術はあるものの、本心までは計り知れない。自分だけではどうにもならない娘の喪失感と、誰にも頼れない孤独感を抱きながら、潜水艦“ムーン”に乗り込んでいるのだろうか。

 答えの出ない悩みは出口のない迷路と同じだ。一度迷い込んでしまえば、自ら脱出するのは困難を極める。

 そんなときは誰かと酒を酌み交わしてみるのも一興だが、残念ながら水中のスタンにはその相手もいない。ひたすらに孤独な男はどこに向かっていくのだろうか。危険な海中での仕事をしながら自らを追い詰めているのか、それとも人間関係が希薄な海中に逃げ込んだのか。先が気になってコントローラーを握る手が少しだけ強張っていた。

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汚れる海とその影響。目をそらしていた事実について考えさせられるゲーム体験

 スタンとともに海を巡るとプラスチックゴミや金属、オイル漏れなど海へ悪影響を及ぼしている要素が垣間見える。実際に海洋汚染の原因はほとんどが人間だと言われている。

 私たちの生活による残滓が海を汚しているという表現はあながちオーバーではない。それでは自分たちにいますぐできることはなんだろうかと高説を垂れるほど、日ごろから環境問題に取り組めているわけでもない。ゴミを減らし、ポイ捨てなどを避けるといった、当たり前の生活を続けるのが関の山だろう。

 ただ、それをひとりひとりが意識したら変わるのかもしれないと、思わせてくれるのが『Under The Waves』だ。普段は真剣に考えることすら忘れているような事柄を作品を通じて訴えかけてくる。

 正直に言って、ここまで罪悪感を抱きながらゲームをプレイしたのは初めてだ。まるで罪滅ぼしのように作中で海洋汚染を除去するレーザーを照射し、消耗品の酸素スティックのゴミを躍起になって回収した。

『Under The Waves』に漂うのは孤独と葛藤を煮詰めたような愁情。潜水艦に乗り、汚れゆく海を泳ぐひとりの男の物語
マップ上に毒のようなマークで描かれる海洋汚染された部分。
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おどろおどろしい黒い物体をレーザーで照射することで取り除ける。
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スタンが海中で活動するために必要になる酸素。補給のために使う酸素スティックは使用後に回収すれば再利用ができる。

幻想的な美しい光景も海が見せる側面

 海の中は辛いことばかりではない。

 孤独を紛らわせてくれる広大さがあると言えるし、そこに過ごす生き物たちの愛らしさが束の間の癒しをくれることもある。

 なかでも作中ではアザラシのJOが人懐っこく、スタンが生活する居住モジュールの丸窓から顔を出すなど、おちゃめな一面を見せてくれるのがうれしい。

 そんなJOとの心休まるひとときに限らず、カメラを手に入れれば水中のあらゆる場面を切り取ることが可能だ。

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 なんだか凝った構図で写真を撮ったり、フィルターをかけたりと海の美しさを満喫できるのもポイント。ただ、そんな海が汚れていくさまを見るからこそ、心が痛むところはあるのだが。

海の探索面に重きを置いたシンプルなゲーム性

 ゲーム的な部分を語っておくのであれば、ゲームサイクルの話から始めよう。

 基本的には1日の始まりとともに、ティムからのミッションを受け取り、それをこなしていくのが日課となる。ミッションはメインとルーティーン、フォトミッションに分かれており、必ずこなす必要があるのがメインミッションだ。

 ミッションをこなした後はスタンの拠点となる居住モジュールに戻り、自由時間になる。テレビを観たり、ギターを弾いてみたり、翌日のために必要品をクラフトしたり、再び海の探索にくり出したりしてもよい。

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 居住モジュールは、1979年という舞台設定に反したハイテク機器の数々が設置されており、どこかSF小説を想起させる。こういうレトロフィーチャーな雰囲気が好きな人にはたまらない。

『Under The Waves』に漂うのは孤独と葛藤を煮詰めたような愁情。潜水艦に乗り、汚れゆく海を泳ぐひとりの男の物語
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 ゲームの進行自体はメインミッションだけで事足りるが、しっかり遊びたいならば海の探索に多くの時間を割くことになる。探索では潜水艦“ムーン”を使いながら、海洋ゴミ(クラフトの素材になる)や潜水服に貼れるステッカー、クラフト用のアイテムを解放できる設計図などを探すことになる。もちろん、合間で美しい景色を見つけたら写真を撮ってもいいだろう。

 海中は完全なオープンワールドではないものの、高低差がある作りになっているため、探索は十分に楽しめる。物語の重圧に疲れたときは、UIを非表示にしてコントローラーから手を放し、ムーンに乗りながらなんとなく海を漂ってみるだけでもいいかもしれない。

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スタンが水中にいるときはつねに酸素ゲージの心配をしながら探索することになるが、ムーンに乗っているときにその心配はない。心ゆくまで海を眺めていられる。ムーン登場中は視点を一人称と三人称(室内・俯瞰)に切り替えられる。

『Under The Waves』は孤独と葛藤を煮詰めたような愁情を漂わせる

 『Under The Waves』に爽快感や何か心が晴れ行くような楽しさを求めてはいけない。

 この作品がもたらすのは、スタンという男の孤独と葛藤に対するもどかしさと、もの悲しさだ。それをゆっくりと反芻するように味わい、向き合っていく。たまには自分の人生と照らし合わせたり、スタンの心に深く入り込んでみたりするのもいい。

 物音がしない暗い部屋で孤独に遊んでいると、まるで自分も海の中に潜っているようだった。ゲーム画面の光が、海中で見えるひと筋の光のように輝く。

『Under The Waves』に漂うのは孤独と葛藤を煮詰めたような愁情。潜水艦に乗り、汚れゆく海を泳ぐひとりの男の物語

 辛かったらプレイを止めてもいいだろう。誰も責めはしない。ただ、スタンが孤独と葛藤のうえに何を見つけ、あなたが何を選択するのか。一度、海へと潜り始めたならば進み続け、見届ける必要がある。

 ゲームを遊んでいるのに考えることは人間の孤独と葛藤、そして環境問題だ。

 嫌になる人もいるだろう。

 それに物語の起伏は緩やかで、正直に言えば派手さはない。

 だが、それでいい。『Under The Waves』は孤独と葛藤を煮詰めたような愁情を漂わせる作品だ。エンディングを迎えたから、そう思う。

『Under The Waves』に漂うのは孤独と葛藤を煮詰めたような愁情。潜水艦に乗り、汚れゆく海を泳ぐひとりの男の物語

 誰しも、どうしようもない負の感情から逃れられないときがあるだろう。

 人間はそれにのみ込まれないように、立ち向かわなければならない。

 それはまるで深い海に放り出され、水面を目指すような気持ちなのかもしれない。

 Spotlight by Quantic Dreamsによるストーリー重視の手の込んだ1本。年末年始の余暇に時間があれば、手に取ってみてほしい。

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