2023年9月21日、マイクロソフトはオンライン配信番組“Xbox Digital Broadcast”にて、セガやアトラス、カプコンやスクウェア・エニックスといった日本のメーカーが手掛けるタイトルも含め、19本のタイトルに関する発表を行った。
配信同日の朝、品川にある日本マイクロソフト社のオフィスにて、マイクロソフトコーポレーション コーポレートバイスプレジデントであるサラ・ボンド氏(文中、サラ)へのメディアインタビューが行われた。インタビューでは配信での発表内容が簡単に発表され、そこで挙げられたタイトルなどについての質問にサラ氏が回答した。
回答の多くに、重要なのはゲームの規模やデバイスではなくユーザーがそのゲームを楽しめるかどうかである、というサラ氏の考えが出ており、マイクロソフトが見据えるゲーム市場やクリエイターの発展の方向性が見える内容となっている。
Sarah Bond氏(サラ・ボンド)
マイクロソフト コーポレートバイスプレジデント Xboxゲームクリエイターエクスペリエンス統括
ゲームで重要なのは開発の規模ではなく、ユーザーが楽しめるかどうか
――今回発表された19本にはいわゆる大手パブリッシャーからの作品も多く含まれていますが、インディーゲームスタジオの作品数とのバランスなどは考慮されましたか?
サラ正直、開発したのがいわゆるインディーゲームのクリエイターであるかどうか、そういった規模の違いについては考えていません。『PUBG』がいい例ですが、小さなスタジオからも大きなヒット作は生み出されていますからね。
――プレイヤーが楽しめるなら、ゲームの規模の大小は問題ではないと。
サラ以前、「いいゲームを作るにはどうすればいいか」といった質問を受けたことがあります。これは「どうすれば喜びを生み出せるか」と聞くのと同じようなことだと思っています。大事なのはゲームの出自ではなく、どのようなストーリーがあって、どのような特色を持っていて、遊ぶプレイヤーが人生においてどんな状況にあるかなんです。ゲームはエンターテインメントであると同時にアートであり、自己表現のひとつでもあるわけですから、新しくて、未知のもので、驚きに満ちているかどうかが大事なのだと考えています。
だからこそ、小さなチームでもあっても多くのユーザーにリーチできるXbox Game Passのような取り組みが重要になってくるのです。私はこの立場に立ってからの5年間でID@Xbox(ゲームデベロッパー支援プログラム)に貢献し、プログラムを拡大し続けることができて光栄に思っています。この5年間で、アジアでは約600名のクリエイターが参加してくれています。そのうちの半数、約300人は日本のクリエイターなんですよ。
――まだ世に広まっていない作品をユーザーに触ってもらえるようにする、キュレーションのようなものがXbox Game PassやID@Xboxが持つ役割のひとつでもあるとお考えですか?
サラ我々は、誰がいつ見ても楽しめるものがつねにあるような、ゲームのポートフォリオを提供したいと考えています。だからこそ参加してくれるクリエイターや対象となる地域を拡大し続け、選択肢を広げることで、真の意味でグローバルに展開していきたいのです。Xbox Game Passはマネタイズの選択肢を広げることもできますので、クリエイターたちがこれまでの売りかたではできなかった、実験的なチャレンジにも踏み出せるようになります。
――配信では、2019年に始動した『ホテル・バルセロナ』(※)の続報もありました。数年ぶりに情報が出た本作ですが、ついに形になってきたということでしょうか。
※『ホテル・バルセロナ』:『ノーモアヒーローズ』や『ロリポップチェーンソー』などを手掛けた須田剛一氏と、『スパイフィクション』や『Deadly Premonition 2: A Blessing In Disguise』を手掛けたSWERY(スエリー)こと末弘秀孝氏のコラボ企画。
サラそうですね。今回、実際にゲームが動いている様子をお見せできるのは非常に楽しみでした。素晴らしい作品になっていますし、本作の発表は今回の配信における見どころのひとつにもなったと思います。
――『Forza Motorsport』の映像では日本を思わせるコースも見られましたね。
サラあのコースは、日本の箱根からインスピレーションを得て制作されたものです。今回の配信でお見せした映像は本当に美しいショウケースになっていますので、ぜひ配信を見た方も改めて見返してみてほしいと思います。『Forza Motorsport』に限らず、配信全体を通して日本のクリエイターやユーザーに対する我々からの想いと愛を感じてもらえると思います。
――その想いというのは、開発規模の大小に関わらず注がれていると。
サラそうですね。我々はゲームそのものが好きですから。開発の規模や、どんなチームが作ったかというのは問題ではないのです。
――日本では依然、インディーゲームデベロッパーへの認知度は高いとまでは言えません。ユーザーたちにもっと小規模のデベロッパーにも注目してほしいとは思いますか?
サラ先ほども少し触れましたが、開発の規模は重要ではなく、より幅広くゲームを体験してほしい、というのが我々の考えです。ユーザーにも金銭面の限界があるので、気になった作品をすべて買うことは難しく、そうなると知っている作品を選びがちなところがありますよね。我々はその状況を変えたいと考えています。Xbox Game Passであれば、そこにあるゲームはすべて自由に遊べますから、より幅広い体験ができます。
本サービスに対してはユーザーからのフィードバックもよく、アジア圏でのPCのXbox Game Passユーザー数はこの3年で4倍近くに伸びているんですよ。
――やはり、ビッグタイトルがXbox Game Passに追加されるとユーザー数への影響も大きいのでしょうか。
サラそのタイトルを遊びたいと思う人が多ければ多いほど、影響は大きいです。でも、ゲームの規模は関係ないですね。今年出た作品で言えば、先日プレイヤー数が1000万人を突破した『Starfield』と、宝石のような作品である『Hi-Fi RUSH』がいい例だと思います。開発規模は異なりますが、どちらも人気が高く、Xbox Game Passへの影響も大きいものでした。『Hi-Fi RUSH』もユーザー数は300万を超えていますからね。
――『Starfield』は爆発的にヒットし、日本でもXboxユーザーを増やすチャンスにもなっていると思います。
サラクリエイターが作り上げた作品をプレイヤーの皆さんが愛してくださっているのは、いつ見てもうれしいです。とくに、『Starfield』は長年かけて作られたものですからね。これからもそういったゲームを世界中のユーザーに届けていくつもりです。
ユーザーはすべてのデバイスで遊べるべきだというのが我々の考え
――いまはコンソールやPC、クラウドを使ってスマートフォンでも同じゲームが遊べるようになっていますが、将来的にすべてのデバイスでの体験を均質なものにするか、それともそれぞれで差をつけていくのか、このあたりはどうお考えですか?
サラまず、ユーザーはすべてのデバイスで遊べるべきだ、というのが我々の考えです。実際、XboxというコンソールからPC、そしてクラウドへと対応デバイスを広げてきました。それぞれ画面のサイズも違えば操作方法、入力方法も異なるので、ゲーム体験を最適化するには調整すべきことが多くあります。
タッチ操作やマウス・キーボードを使った操作や画面サイズ対応など、さまざまな要素にも対応すべく投資を行ってきました。これからもあらゆるデバイスで遊べるようにしていくつもりです。プレイヤーひとりひとりのニーズに応えるかたちで、あらゆるデバイスで遊べる機会を提供していきます。
――ハードによって別々の体験ができるよう、コンテンツ自体をハードごとに分ける可能性もあるのでしょうか。
サラ最終的には、ユーザーからどのようなフィードバックが寄せられるか、という部分が重要になります。我々の調査したところでは、多くのユーザーがデバイスを問わずに共通の体験ができることを求めていて、逆にひとつのデバイスでしか遊べないことは好ましく思われていない、という結果が出ています。これこそが、我々の対応すべき問題だと考えています。
その対応というのも、いまある形式にならっていくのではなく、よりよい体験を実現する方法を考えながら、ユビキタスな(いつでもどこでも変わらない、偏在的な)経験を作り上げていきたいと考えています。
――クラウドによってスマートフォンでもコアなゲームが遊べるようになったことで、いわゆるカジュアルユーザーが触れる機会も増えるかと思います。このことはデベロッパーにどのような影響を与えると思いますか?
サラコンソールで遊びながらスマートフォンでも遊ぶ人もたくさんいますから、スマートフォン=カジュアルではないし、コンソール=コアということではない、と考えています。重要なのは、そのときに持っているデバイスで遊べる環境を提供することで、そのためには異なる画面や異なる操作方法のことも考えながら開発することが大事です。
これは開発者だけでなく、我々にとっても大事なことです。クリエイターがより多くのデバイスでゲームを提供できるようにし、より広い環境で活躍してもらえるようにしていきたいと考えています。
――ユビキタスなゲーム体験を、というお話がありましたが、開発者がマウス・キーボード操作にこだわった場合、それを排除するわけではなくクリエイターの意思が尊重されるのでしょうか。
サラその通りです。けっきょくのところ、チームにはクリエイティブのビジョンがありますよね。そのビジョンを実現するためのデバイス、選択肢を提供し、プレイヤーがそのゲームに触れやすい環境を用意することが我々の役目ですから。
――メディアやユーザーは日本や欧米など、現時点で活発なデベロッパーに注目しがちですが、グローバルに展開されているマイクロソフトさんから見て、将来的に盛り上がってくるだろうと思う地域はどこでしょうか。
サラインドやアフリカなど、人口が10億を超えるような地域ですね。いつか、こういったところからつぎのクリエイターが生まれてくるかもしれません。我々はそういった地域のクリエイターに対する投資を行っていますし、すでにコミュニケーションも取り始めています。作品が生まれるのにはまだ時間がかかるかもしれませんが、クリエイターとの絆はいまからでも築いていけますからね。
――最後に、日本のゲーマーに対するメッセージをお願いします。
サラXboxをサポートしていただき、ゲームをプレイしていただき、そして我々の配信をご覧いただき、皆さんに心から感謝したいと思います。今後も全世界に目を配り、皆さんに愛されるゲームを発見し、提供していきたいと考えています。それは大作かもしれませんし、小規模なものかもしれません。RPGかもしれませんし、リズムゲームかもしれません。あらゆるものを楽しんでいただきたいと思います。10月10日には『Forza Motorsport』も発売されますので、ぜひ注目していてください。