人は誰しも、生まれたときからずっとリズムを刻んでいる。これを書いている俺も、これを読んでいるあなたも。心臓の拍動、呼吸の律動、歩行の周期。リズムはつねに人とともにある。そして、リズムは人の身体を動かす。頭を振り、足を打ち鳴らし、手を叩く。そこには原初的な快感がある。

 Tango Gameworksが予告なしで電撃リリースした新作『Hi-Fi RUSH』は、リズムと一体化する身体の動きをそのままボタン入力に置き換えた作品だ。リズムにノッて攻撃し、ビートを刻んで防御する。高精細を意味するハイファイの名を体現するような、ノイズのないピュアなアクションゲーム体験。この数行を読んだだけでもう身体がウズウズしてきたなら、あなたはきっとこのゲームの虜になるはずだ。

『Hi-Fi RUSH』Microsoft Storeサイト 『Hi-Fi RUSH』Steamサイト

世界はリズムで出来ている

 本作の主人公は、ロックスターを目指す青年のチャイだ。巨大テクノロジー企業、ヴァンダレイ・コーポレーションによる人体実験に参加したことでチャイの右腕はロボットアームに改造され、ある偶然から心臓にはミュージックプレイヤーが埋め込まれてしまう。

 こうして、チャイにはある変化が起こった。心臓のミュージックプレイヤーから流れる音楽が彼のロボットアームに力を与え、攻撃を始めとするあらゆるアクションがビートとシンクロするようになったのだ。チャイが見る世界は、なにもかもがリズムに満ちている。上下するピストンも、明滅するランプも、なんと植え込みの木に至るまで、すべてがチャイの心臓から流れる音楽と同じ縦ノリで動いているのだ。

『Hi-Fi RUSH』レビュー。このリズムアクションに一切のノイズなし。想像を絶する丁寧な作り込みにより、リズムとアクションが高い次元でシンクロする

 不良品の処分のために襲い来るロボットと戦いながら、ヴァンダレイに渦巻く陰謀に立ち向かうチャイ。倒すべきは、品質保証、マーケティング、財務といった各部門のボス、そして社長のケール・ヴァンダレイだ。どれも手ごわく、そしてイカれたヴィランたちである。

 漫画、ゲーム、ドラマなどのパロディをさまざまに交えつつ企業文化をコミカルに描く『Hi-Fi RUSH』のストーリーはこの上なく明快で、小賢しいヒネりもない勧善懲悪のヒーローものだ。しかし、多くのIT企業が大規模なレイオフを行ういまのご時世とは皮肉な一致を見せており、子どもだましとは思えない奇妙な説得力をこのゲームにもたらしている。

Hi-Fi_RUSH_Chai のコピー

 いつも軽口を絶やさずノリと勢いで突っ走るのが取り柄のチャイは、声優を務める下野紘氏の好演もあいまって、嫌いになるのが難しいほど魅力的だ。いや、魅力的なのはチャイだけではない。パンク精神にあふれたハッカー少女のペパーミント、腕っぷしは強いが気が弱い大男のマカロンに、慇懃無礼な哲学者ロボットのCNMN(シナモン)と、生真面目な常識人枠コルシカ。もちろん、かわいいかわいいサイボーグ猫の808(ヤオヤ)も忘れてはいけない。クリアーするのが惜しくてたまらなくなる最高のメンツだ。

 強い個性を放つ四人と一機と一匹が結束し、ロックミュージックとユーモアで悪のブラック企業をぶっ潰す。アツくパワフルなその姿はまるで、アメコミヒーローがバンドを組んでいるかのようだ。

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 『Hi-Fi RUSH』のグラフィックについて述べると、Tango Gameworksがこれまで手掛けてきた『サイコブレイク』や『Ghostwire: Tokyo』のようなリアルでダークな路線とは一線を画す、ポップで陽気なカートゥーン調となっている。パキっとした線やビビッドな色使いには、『サイバーパンク:エッジランナーズ』や『プロメア』で知られるアニメ会社TRIGGERの雰囲気も感じられるかもしれない。

 付け加えると、本作のカットシーンではキャラクターの動作をコマ落としすることでよりアニメらしく見えるよう工夫されている。プレイ中にはCGと手描きのアニメが切り替わる場面がいくつかあるが、切り替わっていることにひと目では気付かないくらい本作のグラフィックはハイクオリティーだ。

オーソドックス×リズム=新次元

 ストーリーが王道なら、システムも王道。『Hi-Fi RUSH』の全体的なゲームデザインはオーソドックスな3Dアクションゲームの流れをほとんどそのまま汲むものだ。

 たとえば、起伏に富んだステージをジャンプやジップラインで進み、道中で集めたアイテムを使ってキャラを強化していくのは『ラチェット&クランク』によく似ている。ボタンの組み合わせでコンボをくり出したり、敵を空中に打ち上げてエリアルレイヴで華麗に叩きのめす戦闘システムは『デビルメイクライ』や『ベヨネッタ』を彷彿とさせるだろう。

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 『Hi-Fi RUSH』は偉大なる先駆者の優れたゲームデザインを忠実に引き継いでいる。違うのは、それらすべてをリズムというひとつの太い柱で貫いている点だ。“アクションとはリズムであり、リズムとはアクションである”という、本能に基づく力強い原理。それを突き詰めた結果、このゲームは突然変異的な進化を遂げた。魂に訴えかける新次元のリズムアクションへと変貌したのだ。

 このゲームの戦闘の基本となるのは、一拍で出る弱攻撃と二拍で出る強攻撃だ。流れるBGMのリズムに合わせてタイミングよくボタンを押すことで、各攻撃が少しずつ強化される。強攻撃を絡めたコンボは休符を挟まなくてはいけないのでちょっとややこしいが、リズムを合わせずにボタンを連打してもコンボは途切れず続いてくれる。チャイのそばでフワフワ浮かぶ808がビートに合わせて光を発しているほか、ボタンひとつで画面下部にビートを表示することもできるので、これらをうまく利用しながらリズムアクションに慣れていくといい。

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 各コンボの終わりには、画面に二重円が表示される。二重円は二拍後に重なり、その瞬間にボタンを押すとフィニッシュ技の“ビートヒット”が発動する。描き文字がそのまま浮き出るド派手なエフェクトと歪んだギターの効果音、そしてリズムに乗っかる楽しさが掛け合わさって、ビートヒットはとんでもなく気持ちいい。

 また、プレイを進めることでビートヒットの代わりに“ジャムコンボ”をフィニッシュ技として使えるようになる。その名前のとおり、仲間と協力してブチかます愛と友情のツープラトンだ。ジャムコンボの演出もビートヒットに負けず劣らずカッコいいので、何度でも発動したくなる。

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 敵が攻撃してきたときはどうするか? 高速で移動するドッジで避けてもいいし、ハイリスクハイリターンにいくならパリィで弾き返してやるのもおもしろい。パリィが完璧に決まると敵は体勢を崩し、エリアルレイヴを絡めた大ダメージを与えるチャンスが到来する。

 ドッジやパリィを狙うときに意識すべき重要なルールは、“敵の攻撃もリズムに合わせてやってくる”ということと、“攻撃が当たる一拍前には専用の効果音とエフェクトが発生する”ということだ。このルールはどんなときも変わらない。大勢の敵に囲まれて攻撃をたたみかけられているように感じても、そこには必ずリズムがあり、きっと合わせることができる。つまり、このゲームにおいてリズムは音楽的な楽しさを生んでいるだけでなく、攻防の公平さをも担保しているのだ。うまくビートをモノにすれば、画面外からの攻撃にすら難なくパリィを決められることだろう。

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リズムに合わせて連続パリィをする場面も。

 リズムを楽しませ、プレイを補助する機能として、『Hi-Fi RUSH』ではボタン入力がリズムと一致しているときは効果音が流れるようになっている。敵を殴ればギターが響き、ドッジをすればハイハットが鳴るというふうに。ほかにもハンドクラップやかけ声など、効果音のバリエーションは数えきれないほど多彩だ。こうしたこだわりのおかげで、実際に楽器を演奏しているかのような感覚が生まれる。ゲームと楽器、両方の“プレイ”が共鳴し、バイブスがブチ上がるのだ。

 多くのアクションゲームはプレイヤーに反射神経を求める。本作をプレイする上でも反射神経があって困ることはないけれど、それと同じかそれ以上に求められるのはリズム感である。同時に、このゲームではリズムを外しても必ずリトライのチャンスが与えられ、キツいペナルティーが科されることもない。リズムを楽しもうとする姿勢をプレイヤーが見せるなら、『Hi-Fi RUSH』はそれに強く応えてくれるはずだ。

ビートの魔法

 『Hi-Fi RUSH』をプレイしていて、驚いたことがある。多くのゲームでしばしばつまらなくなる要素でさえ、ビートと組み合わせることで魔法がかかったかのようにおもしろくなるということだ。

 たとえば、探索。先ほど名前を挙げた『デビルメイクライ』や『ベヨネッタ』でも同じことが言えるのだが、戦闘が主軸のアクションゲームの探索要素はプレイ時間を間延びさせるため、往々にしてダルくなってしまう。けれど、本作ではそれがほとんど苦にならない。タン、タン、タンの拍子に合わせた三連続の“リズムドッジ”を使った高速移動が、小気味よい感覚を探索中に与え続けてくれるおかげだ。言い換えると、本作はただの移動ですらちょっとしたリズムゲームとして成立しているのだ。

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 QTEもまた、つまらなくなりがちな要素だ。ムービーに合わせて特定のボタンを押すことでつぎのシーンに進めるこのシステムは古くから存在するが、駆け引きのないチープな体験を提供してしまうことが多いのでハードコアゲーマーからはよく目の敵にされている。ところが、『Hi-Fi RUSH』ではQTEすらおもしろい。QTEにもリズムがあることで、プレイと地続きになっている感覚を得られるからだ。

 ムービーという言葉が出てきたので触れておきたいのだが、本作ではただ見るだけのカットシーンもしっかりリズミカルに作られている。効果音のひとつひとつが、必ずといっていいほどBGMにうまく音ハメされているのだ。これがまた耳と目の両方に心地よく、ビートで戦うブッ飛んだ世界観にしっかりとした質感を持たせている。

ゲーム・オブ・ザ・イヤー級プレイリスト

 リズムアクションゲームなのだから当然といえば当然かもしれないが、『Hi-Fi RUSH』のBGMには最高にアガるナンバーが揃っている。オリジナルサウンドトラックも素晴らしいが、目玉はやはり、実在のアーティストによる名曲が揃ったプレイリストだ。ナイン・インチ・ネイルズやザ・プロディジー、ザ・ブラック・キーズといった洋楽ロックバンドの大御所がプレイリストの大半を占める中、ナンバーガールが唯一の邦楽ロックバンドとして異彩を放つ。もしゲーム・オブ・ザ・イヤーに選曲部門が存在したら、本作はぶっちぎりの1位を獲得するだろう。

※『Hi-Fi RUSH』オフィシャルサウンドトラックリスト

 これらの提供曲は各ステージのボス戦などの重要なシーンで流れ出し、プレイヤーのテンションをブチ上げてくれる。選曲もさることながら、流れるタイミング、ゲーム内容に合わせた微調整にいたるまでどれをとっても完璧としかいいようがない。

 具体的に何がよかったのか伝えたいので、先ほど名前を挙げたナンバーガールの提供曲『INAZAWA CHAINSAW』を例に取ってみよう。

 この曲が流れるのは、チャイと愉快な仲間たちが不利な状況からの大脱走を決めるシーンだ。のっけからギターが激しくかき鳴らされ、なにか派手なことが起こる期待が高まる。直後、皆で威勢よくガラスを突き破ると同時に、曲名の由来でもあるアヒト・イナザワの荒々しいドラムスがルードかつ直線的なベースといっしょに走り出す。最高の映像と最強のロックが融合した、疾走感あふれる逃走劇の始まりだ。ゲーム内で一、二を争うシビれるシーンといっても過言ではない。

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 これだけでもお腹いっぱいになるほどイカした演出だが、実際にはもっと手が行き届いている。

 まず、『INAZAWA CHAINSAW』は二分半ほどのかなり短い曲だ。かといって、これが流れるステージを二分半でクリアーできるものにするのはゲームとして物足りなさすぎる。なので、間奏などの一部分をうまくループさせてプレイの満足感と曲の尺を両立させているのだ。しかも、ループ部分は場面によっていくつもバリエーションがあるという芸の細かさ。このさりげない工夫のおかげで、ステージの始まりと終わりが挿入歌とピッタリ同期しているように感じられる。

 また、『INAZAWA CHAINSAW』が流れているあいだの戦闘では、ヒットやパリィの効果音が特別なものになっている。この曲とよく似た、甲高い歪みの効いたギターサウンドへと変わっているのだ。こうした演出は別の曲が流れる場面でも同様であり、ザ・プロディジーの『Invaders Must Die』が流れるステージではテクノ調の低音に変化したりする。意識しないと見過ごしてしまいそうなくらいの小さな仕掛けだが、これが挿入歌との一体感をさらに高め、プレイヤーの魂を強烈にロックする。

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オールタイムベストのロックスター

 最後にひとついっておくと、『Hi-Fi RUSH』は飛び抜けて奇抜なゲームというわけではない。すでに述べたように、ストーリーも、ステージの構造も、戦闘システムも、プレイステーション2時代の3Dアクションの残り香を感じられる古典的なものだ。けれど、そうしたクラシックをしっかりと磨き上げ、そこにビートの魔法がかかったことで、このゲームは唯一無二の輝きを得るにいたった。

 足音からまばたきにいたるまで、画面で起こるアクションをなにもかもリズムに乗せる。映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』のワンシーンに着想を得たこのアイデアを、ゲームというインタラクティブなメディアで実現してみせたのが『Hi-Fi RUSH』だ。想像を絶するような丁寧な作り込みがなければ、本作のリズムとアクションがここまで高い次元でシンクロすることはありえなかっただろう。

 リズムゲームとアクションゲーム。そのどちらの面からいっても、『Hi-Fi RUSH』はオールタイムベストとして語り継がれるべき傑作だ。ここまで読んでくれたあなたがいずれかのジャンルのファンであれば、このゲームを遊ばない手はない。

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『Hi-Fi RUSH』

  • プラットフォーム:Xbox Series X|S、PC
  • 発売日:2023年1月26日配信
  • 発売元:ベセスダ・ソフトワークス
  • 開発元:Tango Gameworks
  • 価格:4355円[税込]
  • ジャンル:アクション
  • CERO:12歳以上対象