E3はなくてもSummer Game Fest 2023など複数のイベントが開催
従来であれば6月は、ゲーム業界に身を置く者にしてみればいささか心が落ち着かなくなる月でもあった。言うまでもなくE3があったからだ。“世界最大規模のゲーム見本市”と謳われるE3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)は、例年毎年6月にアメリカ・ロサンゼルスで開催され(5月開催だった時期もあるけど)、“その年のゲーム産業の動向をうかがう絶好の機会”ということで、長きにわたって確固たる存在感を放ってきた。
近年は、メーカー各社によるオンライン配信も盛んになり、E3もそれまでの関係者のみの参加だった“トレードショウ”から一般参加も可能にするなど(2017年より)、いくつかの変節は迫られたりもしてきたが、関係者にとっては、「6月はE3だよね」という感じで、外せないイベントであった。
新型コロナウイルスの影響により、2020年中止、2021年オンライン開催、2022年中止となったのを経て、2022年9月にはいち早く、2023年のロサンゼルス・コンベンションセンターでの実施を明らかにしていたE3 2023だが、それが一転して2023年3月に“開催中止”の発表となったのはご存じの通り。E3のない2023年6月となったのだ。
結果として、6月上旬は、ジェフ・キーリー氏主催によるSummer Game Fest 2023やマイクロソフトによるXbox Games Showcase、『ファイナルファンタジーXVI』プレローンチイベント、ユービーアイソフトのUbisoft Forwardなどが行われ、日本からもたくさんのメディアが詰めかけた。オンライン配信された、Devolver DirectやPC Gaming Show、Capcom Showcaseなども含めると、6月9日~14日(日本時間)のあいだに10以上のイベントが行われたことになる。
さらには、6月ではなく5月24日となるが、ソニー・インタラクティブエンタテインメントがPlayStation Showcaseを、6月21日には任天堂がNintendo Direct 2023.6.21を開催しており、ゲーム産業的には極めて盛り上がったひと月となった。
とはいえ、古くからE3を知るベテラン記者からしてみたら、E3がないのはやはりさみしい……。取材で4年ぶりにロサンゼルスの地を踏んだ記者は、「世界中の関係者はE3が中止になったことをどう思っているんだろう」とふと疑問に思い、せっかくの機会なので、E3が中止になったあとも、複数のゲームメーカーの発表の場として存在感を発揮しているSummer Game FestのイベントSummer Game Fest Play daysの会場で関係者に直接聞いてみることにした。
なお、ご存じでない方のためにご説明しておくと、Summer Game Fest Play daysというのは、Summer Game Fest 2023の翌日から2日間にわたってロサンゼルスのダウンタウンで行われた、メディアやインフルエンサーなどの関係者を対象とした試遊イベント。E3がなくなったからその受け皿として試遊できるスペースを設けたのか、それともSummer Game Festに合わせての実施が当初から決まっていたのかどうかはわからないが(主催はゲーム販売などを手掛けるiam8bit)、急造の“ゲーム村”とも呼ぶべきスペースには、20~30社くらいのメーカーが試遊台を出展していた。
関係者に聞く。E3がないのはさみしいが……
Summer Game Fest Play daysの会場で聞いたのは、以下の3項目
- Summer Game Fest Play dayについての感想
- E3が開催されないことについてどう思うか?
- E3の将来はどうなると思うか?
まずはSummer Game Fest Play dayについては、「ビジネスではコネクションを作るにはよい場所だと思う」、「とても楽しくて気に入っている。あまりうるさすぎないし楽しいゲームがたくさんある」とおおむね好意的な意見。ただ、事前予約をしないと当日会場では試遊が一切できず、それに対して不満を漏らす声もチラホラ聞かれた。
いよいよ本題に入って、“E3が開催されないことについてどう思うか?”との質問には、「E3がなくてさみしい」、「これまで業界の大きな部分を占めていたので、今年それがないのは妙な感じだ」、「E3は開催してほしかった。存在しないのはさみしい」と、その不在を嘆く声が続々。
一方で、「E3をずっと見てきたのでノスタルジックな気持ちにはなるが、時代は変わりつつあるのも事実」、「E3は今後についてよく考えて答えを出すべきだと思う」、「正直なところ、E3の黄金時代は2016年で終わったと思う」といった意見も。時代は変わるので、E3の開催中止はやむを得ないのかも……といった感じだ。
では、皆さんはそんなE3の将来はどうなると思っているのか。意見を聞いてみると、ほとんどが「E3はもう戻って来ないと思う」、「E3の将来はないと思う」との否定的なお返事が圧倒的多数。E3との付き合いも長い記者からすると、“E3 is dead”などと口にされるといささか物悲しいが、現状を鑑みるに、無理もない判断と言えるのかもしれない。
「多くの大手パブリッシャーは自分たちのスケジュールで自分たちのやりかたで好きなプラットフォームで発表したいと考えている。彼らは10年前ほどE3を必要としていない。時代は大きく変わりつつあり、大手パブリッシャーは自由にコミュニケートできるので、E3はそれほど重要ではなくなった」、「E3はいままで状況に適応してこなかったので、それを改めて時代に即した形にするか、そうでなければ消えていくだろう」との意見に代表されるように、変わりゆく時代にうまく対応できなかったと感じている方が多かった。
今度のE3はどうすればいいのか? それに対しては「gamescomも開催されているので必要性はある」、「PAXのようにファンが参加できるようにすれば拡張できると思う」、「よりパブリックなものに変化していくと思う」といったように、より一般来場者を受け入れることに活路が開けることを期待する意見もあった。
前述の通り、E3では2017年から一般来場者の入場も可能になっているが、必ずしも全面的に“一般来場者向け”というわけでもなかった。たとえば、小さい例だが、開催期間が従来通り火曜日~木曜日のままということにもそのことは現れている。一般来場者を招いてのイベントは、その多くが参加しやすさのために、土日や祝日を会期に含んでの開催となっているのはいうまでもない。
さらに、E3に関しては、先日気になるニュースが海外の複数メディアより報じられた。ロサンゼルス市観光委員会の会議で提出された資料を根拠に、2024年と2025年のE3も、引き続きキャンセルされる模様だというのだ。どうやら決定事項ではないようだが……。
果たしてE3はどうなるのか。E3で数々の興奮を味わった者からしてみれば、その動向が気になってしかたがないところだ。
以下、現地でお話をうかがった皆さんの意見を紹介する。
ライター
- キオスク(小さい売店)やデモが整理して並べられていて、とてもよくできていると思う。予約をしてあるので楽に回れるし、飲み物も用意されていて、全体によくやっている。
- E3は今後についてよく考えて答えを出すべきだと思う。プレスの一員として恐れていることがあるのだが、これまで通りなら来週からE3が始まるという感じだ。Summer Game FestがあってXboxがあってそれからE3があると2週間かかる。これはあまりにも長い。E3がキャンセルされて少し落ち着いたし、管理しやすくなった。今回は3日間ここにいるが、それ以上滞在するのは難しい。
- E3はいままで状況に適応してこなかったので、それを改めて時代に即した形にするか、そうでなければ消えていくだろう。Summer Game FestがE3であったものを、いまやっているわけだ。
ビデオジャーナリスト
- ビジネスではコネクションを作るにはよい場所だと思う。
- E3がなくてさみしいね。一度だけ行ったことがあるのでまた行きたかった。でも家で座っているよりここにいるほうがいい。
- E3はもう戻って来ないと思う。僕は悲観的だからね。彼らもいろいろ試してみたけれど、動くパーツが多すぎて収拾がつかなくなったのだと思う。時代は変わってきたということだろう。
ブースで働いている人
- 業界にとってとても素晴らしいと思う。
- E3がなければそれなりに対処するしかないと思う。
- ファンとの交流をする機会やゲームを試す機会がないのは残念だ。このイベント(Summer Game Fest)はメディア対象なので消費者とは違う。
クリエイター
- とても楽しくて気に入っている。あまりうるさすぎないし楽しいゲームがたくさんある。
- E3が開催されないのは悲しいね。以前E3にはソニーも任天堂もXboxも顔を揃えていたが、いまはバラバラになってしまった。しかしいまは一年中ニュースが見られる。以前はE3がすべてで終わったらまた一年待つ感じだった。世の中は変化しているね。
- もうE3はないと思う。いまからでは何をやっても遅い。ジェフ・キーリーのイベントがさらに大きくなっていき、メーカーは独自のショウケースをやっていくと思う。
ライター
- とてもいいと思うし楽しい。もっとピリピリした感じかと思ったらとてもリラックスした雰囲気でナイスだ。みんな感じがいいし、自分たちが見せているゲームにとてもワクワクしているのがわかる。彼らが自分たちの仕事に情熱を持っているのが伝わってくるし、彼らを誇りに思う。
- E3はフォローしたことがない。すごく大きくてストレスが溜まるのは知っている。チームのほかの人は行ったことがあるが私は行ったことがない。彼らはとにかくめちゃくちゃクレイジーだと言っていた。それに比べたらこのイベントはリラックスしている。
- 以前はE3で大きな発表をしていたところが、すでに独自に発表の機会を作っているので、巨大なエキスポは必要ないということだと思う。このようなイベントがあればハンズオンもできる。私はもう戻って来ないと思うし、もしそうなっても前とは違うものになると思う。
メーカー
- 初めて来たが雰囲気がとてもいいと思う。ほかのこれまでのイベントに比べて親近感がある。
- これまで業界の大きな部分を占めていたので、今年それがないのは妙な感じだ。しかし、北米で別のものが開催されているので、それはいいと思う。
- このイベントのような違うやりかたがあり、gamescomも開催されているので必要性はある。当社も含めパブリッシャーはますます従来のやりかたではなく、独自のやりかたで進めているのは確実だ。
ジャーナリスト
- このイベントはE3不在に対処するよい方法だと思う。規模は小さいがよいイベントだと思う。
- E3がないのは不思議な感じだ。いろいろな国から来ている多くの人に会う場所だったし、インティーゲームなどに触れるよい機会だった。ここでは数が少ないので、予算が少ないデベロッパーは参加できていない。この業界ではお金がないとできないことが多く残念だ。
- あまり楽観視してはいない。同じ形にはならないと思う。多くの大手パブリッシャーは自分たちのスケジュールで自分たちのやりかたで好きなプラットフォームで発表したいと考えている。彼らは10年前ほどE3を必要としていない。時代は大きく変わりつつあり、大手パブリッシャーは自由にコミュニケートできるので、E3はそれほど重要ではなくなった。
マーケター
- 私たちは展示しているわけではないが、このイベントでは選ばれた人たちだけプレイできると聞いている。そこのブースに行ってただプレイできるというわけではない。イベントには招待されているが、ゲームをプレイするにはまた別のリストに載っていないといけない。そこだけが欠点で、今年のE3の代わりとしてはいいイベントだと思う。
- E3は開催してほしかった。存在しないのはさみしい。
- 彼らが考え直してうまくコーディネートしてほしいが、PAXのようにファンが参加できるようにすれば拡張できると思う。
ジャーナリスト
- アポが取れていればいいがそうでないと何もプレイできない。
- 初めてロサンゼルスに来たのでそれはわからないが、誰かがE3がないのでこれはE2だと言っていた。
- イベントが多すぎて少し飽きていると思う。ジャーナリストとしてもあまりおもしろくない。
ライター
- とても打ち解けた感じでいいと思う。ゲームを作った人の隣でプレイできるので開発の裏側がよく見え、ゲームの一部になったような気がする。しかしアポなしにはプレイできないのでそれが難しいところ。
- 正直なところ、E3の黄金時代は2016年で終わったと思う。その後は皆好きなことをやり始めて崩壊していった。つぎの進化はこのイベントのような形だと思う。一般の人たちにアクセスがないのは悲しいが、違う体験にはなるがコミコンのようなイベントには参加できるので、ほかの機会はある。
- 3の将来はないだろう。ジェフ・キーリーなしではおそらく無理だ。彼がその一部になれば生き返れるかもしれない。でもこのイベントがうまくいっているのに、わざわざそれをやるかなとも思う。
ジャーナリスト
- とてもいい構成だと思う。カナダにはビデオゲームのイベントがあまりないので、カナダも含め世界中からこうして集まれるのはうれしい。このイベントはとてもオーガナイズされていて、デベロッパーがひとつの場所に集まっている。E3は巨大なコンベンションホールなので、インタビューのためにあちこち移動しなければならなかった。ここではすべてが1ヵ所に集まっているのがいい。のんびりした感じもいい。
- E3をずっと見てきたのでノスタルジックな気持ちにはなるが、時代は変わりつつあるのも事実。家でNintendo Directを視聴して同じ体験ができる。実際E3はおもにロサンゼルス周辺に住む人たちが参加していたわけで、それ以外の人は行けなかった。Summer Game Festのように世界に配信して、このようなイベントをやってメディアに試遊してもらうというのは、理にかなっていると思う。残念なことだが、なぜE3が取り残されたのかは理解できる。
- よりパブリックなものに変化していくと思う。メディアやコンテンツクリエイターにとっては関係性が乏しくなってしまった。ファンのパブリックイベントにはなれるかもしれないが、それ以外は難しいと思う。
ジャーナリスト
- E3を新しい形にしたと思う。ジャーナリストにとっては実際にいろいろな人と会って知り合いになるよい機会。カナダの小さいインディーゲームもプレイすることができた。E3ではひとつの雑誌で5人くらい派遣しないと必ずしもカバーされないようなものだ。ここでは私ひとりだができるだけたくさんカバーしようとしている。小さなメディアにとっては管理しやすい。いまは雑誌やテレビではなく、ネット上の小さなメディアやYouTuberが中心になっている。
- E3には行ったことがないし、Summer Game Festのイベントに来るのは初めてだ。いまは名前以外にはあまり意味がないように思う。一般のゲーマーはトレーラーやサプライズを楽しみにしているが、ほとんどの会社は自分たちのショウやトレーラーで独自に提供できる。数日前のシアターイベントで来場者と話したが、ほとんどがYouTuberやジャーナリスト、業界関係者だったが、ロサンゼルスのファンも少人数いた。彼らのショウについての意見は賛否両論あった。
- ジャーナリストなのでそれはこっちが聞きたい。このイベントのようなものがE3に進化していく可能性はある。E3というブランドはなくなるかもしれないが、このようなイベントになっていくのではないか。
ジャーナリスト
- 楽しいがとても忙しい。メーカーが数週間前からコンタクトしてきたのでそこでほとんどのアポが取れた。そうでないとすでに満杯な状態だ。一部のゲームはアポなしでもプレイできたが、ほかはまったく受け付けてくれない。
- 付随したショウというのは考えられる。コンベンションセンターの一部を使ってファン向けのイベントはできるだろう。そうでないとゲームを見せる空間を作ってもそこへ辿り着くまでがたいへんで、ひとつのストーリーを書いて世に出そうと思ってもなかなかできない。
- E3という名称を買うかもしれない。多くの企業は夏のイベントとしてこのような形が好ましいと思っている。誰が所有してどんな名前になっても交流したい人たちには価値のあるものだ。ここへ来る目的のほとんどは人に会って話してネットワーキングすることだからだ。ゲームをプレイするのは二の次になる。見回してわかるように、ほとんどの人はそのように過ごしている。