全世界で若者から支持されるゲーミングプラットフォーム“Roblox”をご存じだろうか。
2006年のサービスイン以降、着実にユーザー数を増やし、いまや全世界で2億人以上のユーザー数を誇る。1日の利用者数は2023年3月の時点で約6600万人。さらにユーザーの約半数が13歳以下、24歳以下のユーザーが全体の約80%を占めるという点も特徴だ(※)。
特筆すべきは、誰でも気軽にゲームを開発・公開できるソフト“Roblox Studio”を無料で利用でき、さらにコミュニティー機能も充実していること。吉本興業はここに“FANY X Lab on Roblox”を設立し、ゲーム開発とコミュニティーの形成をサポートしていくという。
FANY X Lab on Robloxとしてもオリジナルのゲームを開発。ダイアンを落とし穴に落とす『ダイアン落とし』を5月11日にリリースしたほか、ジョイマンの攻撃をかいくぐりながらフロアを上っていく『無限ジョイマン』を近日公開予定となっている。
そんな吉報に乗じて、このおふたりに対談をお願いしてみた。
Robloxで人気の『顔から逃げるゲーム』を開発したManato 48氏(左)と、“野田ゲー”と称されるゲームを自ら開発するお笑い芸人・野田クリスタル氏(右)である。
いずれもインパクトのあるゲームを生み出してきた開発者。そんなおふたりから見たRobloxとはどういうプラットフォームなのか。また、Robloxのゲームと野田ゲーに通じ合うものはあるのか。お互いの開発したゲームにも実際に触ってもらいつつ、語り合っていただいた。
野田クリスタル
お笑いコンビ“マヂカルラブリー”のボケを担当。インパクト満点のミニゲーム“野田ゲー”を引っ提げたネタで“R-1ぐらんぷり2020”の優勝をかっさらい、同年の“M-1グランプリ”でも優勝。Nintendo Switchにて野田ゲーを集めた『スーパー野田ゲーPARTY』と『スーパー野田ゲーWORLD』をリリースしている。文中では野田。
Manato 48
Robloxの『顔から逃げるゲーム(Escape Running Head)』の作者。同作の閲覧数は全世界で10億回を超えており、いまもアイデアが湧きしだい、ステージの追加などのアップデートが行なわれている。文中ではManato。
そもそも“Roblox”とは。本当にゲームを開発しやすいのか
――おふたりは初対面とお聞きしました。まずは自己紹介からお願いします。
野田お笑いをやっております、マヂカルラブリーの野田です。お願いします!
ManatoいまはRobloxでゲーム開発者をやっております、ユーザー名“Manato 48”と申します。
――自己紹介も済んだところで、まずは大前提の確認を。野田さんはRobloxに触れたことはありますか。
野田まだないですね。そういうものがあるということも、今回お話をもらうまで知りませんでした。
――なるほど。実際に活躍されているManatoさんにお聞きします。Robloxとはどういうプラットフォームなのでしょうか。
Manato独自のゲーム開発プログラムである“Roblox Studio”を無料でダウンロードできて、無料で開発、さらに無料で世界に公開できる場所です。そこで人気が出れば収益も上げられます。
――Manatoさんは何本くらいゲームを開発してきましたか。
Manato10本くらいは作っています。そのなかでとくに遊んでいただいているのが、『顔から逃げるゲーム』ですね。
――『顔から逃げるゲーム』の内容を教えてください。
Manato顔から逃げるゲームです。
――そんな気はしていました。もっと詳しく。
Manato3D迷路の中で大きな顔が追いかけてくるんです。逃げながらステージを進んでいくというゲームですね。
――そのままだった。ちなみに、Robloxでの開発以前にプログラミングの勉強はされていたのでしょうか。
Manato2年前までは会社員で、Web系のエンジニアでした。プログラミング言語としては、PHP(※)やJava(※)などを使った経験があります。
※PHP:Webページ作成に適したプログラミング言語。サーバー側のデータに命令を与え、HTMLよりもより動的なWebページを作成できる。
※Java:汎用プログラミング言語と、それを活用したソフトウェアプラットフォームの総称。仮想マシンで動作する形式のためプラットフォームに極力依存せず、セキュリティー上の信頼性も高いことから、広く使用されている。
――そうした一般的な言語と比べて、Roblox Studioの使い勝手はいかがでしょうか。24歳で開発歴15年の人もいるというくらい、若い子でも使えるツールだと聞いたのですが。
Manato僕が触ってきたなかでは、かなり簡単なほうですね。Unity(※)やC#(※)よりも簡単かと思います。アップデートの実装もボタンひとつでできるので使いやすいです。事前審査もないんですよ(YouTubeの動画のように、公開後にAIによる審査がある)。
※Unity:総合的なプログラミング環境を構築する、さまざまなツールを融合させたゲームエンジン。おもにC#を用いたプログラミングを用いており、ゲーム開発をはじめ、さまざまなコンテンツの開発に利用されている。
※C#:マイクロソフトが開発した、長い歴史を持つプログラミング言語。Windows向けに開発された言語だが、ほかのOSやAndroid、Webアプリケーションなど、汎用的に使用できる。
野田開発環境は英語ですか?
Manatoいえ、日本語にもできます。
野田それはいいなぁ、使いたいって人が増えそう。ヒマな若手芸人から先に(Robloxクリエイターが)出てこないことを祈ろう。
――ちなみに、野田さんが使われているゲーム開発の言語はなんでしょうか。
野田だいぶマニアックになりますが、Hot Soup Processor(※)です。いちばん流行った当時、Flash(※)でゲームを作るか、それともHSPかと考えたときに、自由度が高いのはHSPかなと思いまして。
※Hot Soup Processor:1996年からフリーで公開されたプログラミングツールとその言語。手書き型のプログラミングを中間表現として随時解釈しながら動作し、自動的にウィンドウの作成や制御を行なう。理解しやすい仕様が特徴。
※Flash:かつてAdobeが展開していたアプリケーション群。Webページなどでゲームや動画を実行するために作られていた。2020年12月31日をもってFlash Playerのサポートは終了している。
――なぜHSPを選ばれたんでしょうか。
野田簡単でカジュアルなゲームを作る手段が、当時はそんなに多くなかったんです。いまはいろいろあるんですけどね。軽く調べてみて、自由にゲームを作れそうだなと思ったんですよ。10年か20年くらい前の話になりますね。
――ほかの言語に触れてみたことはありますか。
野田最近はPython(※)もちょっとずつ勉強しています。
※Python:オープンソースのプログラミング言語のひとつ。少ないコード量で簡潔なプログラムの読み書きを実現しているほか、多くのユーザーが開発した専門的なプログラム(ライブラリ)が活用できるため、あらゆるアプリケーションや人工知能などの開発に広く活躍している。
――HSPに続きPythonも勉強している野田さんから見て、カジュアルにゲームが作れそうなRoblox Studioには魅力を感じられますか。
野田めちゃめちゃ気になりますね。目的がはっきりしている言語ってすごく理解しやすいですから。いまゼロからプログラミング言語を学びたい人には、何を基準に決めればいいのかわかりづらいかと思いますが、Roblox Studioは見たまんま。Robloxでゲームが作れて、うまくいけば収益も出せるというわかりやすさがありますよね。たぶんなんですけど、
野田主婦層に流行りますよ。
――何を言ってるんですか。
野田本業があって、そこに加えて小銭がほしいんです。そういう気持ちはわかりますよ。僕自身も主婦層の目線でプログラミングを見ているところがあるので。
スマホでアプリを出しているんですけど、収益を出すにはどうすればいいのか、広告を載せたらどれくらい儲かるのかとか、めっちゃ調べましたから。
――主婦の内職的な。
野田お金を直接やり取りするのは難しいから広告を入れるんだなとか、仕組みをいろいろと勉強しました。Robloxなら収益のモデルがもとから用意されているわけで、そこもまたわかりやすくていいですよね。
――そもそも、ManatoさんはRobloxを選んだんですか?
ManatoRobloxが海外で人気なのは以前から知っていて、無料でゲームを作って無料で公開できるということも知っていました。当時、メタバース系やゲーム系の会社に向けた就職活動をしていたんですよ。その一環として、Robloxでゲームを作り始めたのがきっかけです。
野田そこからRoblox Studioでゲームを作れるようになるまでに、どれくらいかかりましたか。
Manatoプログラムを理解するまで……2ヵ月くらいだったと思います。
野田それなら忙しい主婦でもできますね、やっぱり。
――主婦目線が強い。
Manato僕は独学でしたのでそれくらい。人に教わればもっと早く覚えられると思いますよ。
野田人に教われる環境はたしかにほしいかもですね。
――野田さんはどうでしたか?
野田独学です。質問掲示板で質問攻めして、「ググれ」と言われても負けじと質問して、少しずつ理解していった感じです。
ManatoRobloxの場合、スクリプト(簡易的なプログラム)を配布している人もいますし、YouTubeで解説動画を公開している人もけっこういます。僕もそれらを見ながら、少しずつ理解を深めていきました。そういうところからアイデアを得られることもあると思いますね。
野田いいなぁ、そういう時代なんですね。
『顔から逃げるゲーム』と野田ゲー。それぞれの開発の発端
――『顔から逃げるゲーム』について、もっと教えてください。最初のバージョンはどれくらいの期間で作られたのでしょうか。
Manato最初に公開したものでしたら、3日くらいで作りました。
――3日!?
Manato最初は顔がただ追いかけてくるだけ。30秒くらいで終わる簡単なものでした。
――ステージも随時追加されていますよね。1ステージ作るのにはどれくらいかかるのでしょうか。
Manato規模にもよりますが、初期のものだと2週間くらいだったかな。最初はアイデアもたくさんあったんですけど、ステージ追加が進んでアイデアが足りなくなるとしんどくなっていく感じです。
――それにしても3日はすごい……野田ゲーのなかでいちばん開発期間が短かったタイトルの場合はどれくらいですか?
野田1時間です。
――1時間!?
野田配信で、1時間でゲームを作る企画をやったんです。そのときに、プログラムもアイデアもゼロの状態から1時間で作ったのが、Switchの『スーパー野田ゲーWORLD』にも入っている『やせちゃうよ?』です。
野田相方の村上が画面の真ん中にいまして、四方八方にランダムで散らばっている食材を口の中に持っていくゲームです。食べさせないと村上がやせていって、いなくなります。そうなるとゲームオーバー。
――これまたわかりやすいなぁ。
野田大急ぎで作ったんですよ。単純な話、最初は画面の真ん中に顔を表示して、散らばった食材もサイズを問わず判定(の大きさ)はすべて同じにしちゃって、口にひとつでも運んで入れたら消えてゲームクリアーという形にしていたんです。
そしたらスタートと同時にランダムで配置される食材が口元に出てくることがあって。麻雀の天和(テンホー)(※)みたいなことが起きちゃったんですよね。まぁ、それはそれでゲームかと思いつつも完成させました。
※天和:麻雀の役のひとつ。最初に配られた14枚の牌でアガれる形になっていると成立する。
――そもそも、なんで村上さんをやせさせようと思ったんでしょうか。
野田村上が「やせちゃうよ?」ってサインに添え始めたんですよ。そんなギャグを僕は見たことがなかったんですが、急に作り出したんですよね。それがおもしろくなっちゃって。
――ゲーム開発って、そんなパッと出たアイデアでできるものなんですか?
Manatoアイデア自体はそんな感じで出てくることもありますよ。そこから実際に作るのはたいへんなこともあります。
――そもそもManatoさんのほうも、なぜ顔から逃げようと思ったのでしょう? そういう願望が?
Manatoフリーモデルで配布されていた大きな顔が気になって、ゲーム画面に置いてみたんですよ。これが何かよくて。そこからさらに、この大きな顔に追いかけられたら楽しいんじゃないかと思いまして。
――その大きな顔も、Roblox内で配布されていたものなんでしょうか。
Manatoそうですね。追いかけてくるスクリプトも付いてくるので、プログラミングができなくても追いかけてくる顔を(ゲーム内に)出せるようになっていました。
――おふたりのゲーム制作って、そんなに衝動的なものなんですか? パッと思いついて「おもしろそう、作ってやろう!」という感じで取り掛かっている。ふつうはもっと綿密に準備をするものなんでしょうか。
Manato最初は思い付きのアイデアがベースになります。ちょっとずついじっていくと、こうしたいああしたいとアイデアが湧いてきます。アイデアも湯水のように湧いてくるわけではないんですが、何となくいじっていると思いつく感じですね。
野田僕は本当に思いつきで作っています。たとえば、「今度『桃鉄』(桃太郎電鉄)の新作が出るんだー」じゃあモモテツ作ろうって思いついたら、モモテツ、フトモモ、テツ、太ももが鉄のように硬い男だ! といった流れで、『太ももが鉄のように硬い男てつじ』(もも鉄)というゲームができ上がりました。
――納得していいか悩む理論展開なんだよなー。
野田理論じゃなくて、本当に思いつきですよ。お笑いと違うのは、思いついたボケがあったとしても、それを入れるのに3時間はかかるということですね。作っている途中で「ここまでして入れるボケか?」って葛藤することもあるんですよ。作業中に冷静になってしまう。
――おもしろいかどうか、という反応の話になったのでお聞きしたいのですが、Robloxは海外のユーザーがとくに多いですよね。Manatoさんはゲームを公開した時点では、海外で受け入れられると思っていたのでしょうか。
Manatoあのゲーム自体、当初はそこまで人気になるとはそもそも思っていませんでした。外国どころか日本でも気に入ってもらえるとは思っていなかったので驚いています。
――閲覧数も10億を超えていますからね。野田ゲーはどうでしょう。「こういう層に響くのでは」といった計算はあるのでしょうか。
野田僕の場合は(ライブやテレビ番組といった)人前で披露する要素がありますので。締切がライブ当日という点も含めてちょっと違うかもしれませんね。
――当日披露したときのお客さんの反応も考えつつ作るということでしょうか。
野田考えていますね。最近はゲーム実況しやすいようにもしています。ゲーム画面を見ればわかるような、いちいちルール説明を見る必要がない作り。説明の文字が入ると実況者は読まないといけませんし、絵だけで見てわかる、やったらわかるというゲームにしています。
実況の流れや山場も考えます。ここで盛り上がるんだろうなとか、ここでリアクションが来るんだろうなとか、ニヤニヤしながら作っています。
海外でウケる条件を満たしているのは、まさかのデッカチャンとノブなのか
――『スーパー野田ゲーWORLD』はもともと世界展開を想定されているわけですよね。となると、海外の反応も気になるのでは。
野田海外でウケる条件は本当に知りたいですね。国が違うと笑いのシステムもかなり違いますから。
Manato自分の経験からすると、やはり奇妙な顔ですかね。
野田やっぱり第一印象のわかりやすさですか。となると、デッカチャンしかないか。
野田海外に売り込む第一候補が見えてきましたね。デッカチャンの顔を使った『大乱闘 ブロックくずして』です。遠くからデッカチャンが声とともにだんだん近づいてきて、「Big Man!」ってね。
――デッカチャンは海外の人に通じるでしょうか。
野田大丈夫です。日本でもよくわからんところありますから。あとは最近(兵庫県養父市との施策で)『つり革』をVRにしていただきましたけど、日本の電車文化ありきなので、海外でもあの感覚は通じるのかな、とか。
――海外ですと、たとえばニューヨークは地下鉄網が発達しますよね。
野田なるほど地下鉄か。その辺のイメージの違いも出てくるでしょうし、細かい文化の違いは難しいですよね。大前提として、僕たちが知っている要素があるからお笑いとして成立しているというケースも多いですから。
――ゲームだけでなくお笑いもわかっていないと笑えない。野田ゲーならではの感覚です。
野田海外には“ツッコミ”の文化がないので、それも考えないといけませんよね。野田ゲーはツッコミ待ちのタイトルが多いのに、海外だと止めずにどんどん乗っかってくるんです。デッカチャンの場合、「僕もでかくなっちゃおうかなぁ」みたいな反応になるかもしれません。
――それらも踏まえて、海外向けという観点をどのように考えますか。
野田最初から(海外での大ヒットを)狙っていくのはいけないかもしれない。まずは出してみて、「意外とこんな反応があるのか」と実体験していくしかないのではと。
――野田さんの場合は観客を意識した作りかたでしたが、Manatoさんはどうですか? 人の反応を主眼に置いたり、逆に衝動に任せる部分はあるのでしょうか。
Manato最初は就職活動のために、TikTokに動画を出せるように作ろうと思っていました。誰でも見られるように。そうなると15秒から30秒くらいでオチまでつけないといけない。落とし穴があったり顔に追いつかれてやられたりしたらおもしろいかなと考えましたから、人からの反応のほうを優先しているところがあるかもしれません。
――野田ゲーが世界進出を目指すとしたら、Manatoさんからはどのようなアドバイスを送りますか?
Manatoやっぱりインパクトですね。前から思っていたんですが、『信 ~NOBU~』とかインパクトがすごいと思います。
野田まさかのノブさん世界進出ですか。NOBUloxってことか。
――『信 ~NOBU~』にハマった海外の方が日本に来て、テレビでノブさんを見て混乱してほしい。さて、ここで広いお話を聞かせてください。ゲームを作るにあたって、どういうこだわりがありますか。
野田野田ゲーのルールとして、どんなにメチャクチャでもクリアーはできるようにする、というのがあります。それが崩壊したら、本当にただの一発の出し物になっちゃいますので。
Manatoあまりゲームをやらない自分でもプレイできるようにして、ヘビーユーザーではない皆さんでも遊べるようにするのがこだわりと言えばこだわりですかね。
――なるほど。では、今度は哲学的な話を。なぜゲームを作られるのでしょうか。
Manato子どもの頃、ゲーム開発者になりたかったなぁと、大人になってから思い出したんです。昔はわくわくしながらゲームで遊んでいたので、それを作る側になって人を喜ばせたいと考えました。ゲーム産業やメタバース自体も盛り上がってきていて、若い子はメタバースのなかでコミュニケーションをとっていく時代になるんだとしたら、そこでいろいろな人を喜ばせたいなと。
――すばらしい……。野田さんはいかがですか。
野田人の笑顔が見たいから、ですかね。人を幸せにしたい。その一因になれればいいなと。
――さっき小銭がほしいからって仰ってましたよね。
野田はい、あとは金です。
Manatoそれももちろんあるかと思います。大事です。
野田夢がありますよね。ゲームは世界共通のものなので、もし広まったら国内に留まらないのがすごいと思います。そう考えると、世界にいちばん発信しやすいものなのかもしれない。その点、お笑いは世界で通用しようとすると難しいですよね。
――世界に何かを発信したいという想いは、お笑い芸人としても持ち続けているんでしょうか。
野田ないことはないですよ。こんなに長い芸人の歴史があるのに日本のなかに留まっていて、世界に行った人は本当にひと握りですから。ただ、僕がこれから英語を勉強してお笑いで世界に飛び出そうとしても無理に思えますし、それならしゃべらないでやってやろうとしても、それは海外の芸人さんたちのほうが強い。
そう考えると、やっぱりゲームはそれだけで強いですよ。そこからお笑いも持ち出して世界に通用させることができたら、これはもうひとつのスタートラインだと思います。
――見たいですねぇ、世界に向けた野田ゲー。
野田『スーパー野田ゲーWORLD』を世界対応にしたいと思ったのも、海外の人がどう思うのか、どういう反応が来るのかを知りたかったという側面があります。たとえばホラーなら、急に怖いのがバッと出てきたら誰でも怖がるし、グロいものも世界共通。でも、それが笑いに置き換わってどうなのかはいまのところわからないんです。それがわかるようになってきたら、世界でもっと活躍できるんじゃないでしょうか。
――『顔から逃げるゲーム』を見るに、この顔は世界共通でウケるみたいですよね。
野田あとはほかにも「うんこ」って言ったら海外でも笑ってもらえるのかとか。アニメや漫画が世界に広まって反応が集まってきている段階ですから、お笑いやゲームももっと広まって反応を集めてほしいですね。
――一歩間違えると世界中で炎上しますね。
野田何らかの文化的タブーに触れる可能性もありますからね。
対決! 大人げない芸人vs理解が早すぎる開発者
ここでおふたりには、お互いが開発したゲームを実際に遊んでいただいた。野田氏は『顔から逃げるゲーム』をスマホで、Manato氏にはNintendo Switchの『スーパー野田ゲーWORLD』で『つり革』、『信 ~NOBU~』、『やせちゃうよ?』をプレイ。
野田え、これはキツイな。思った5倍いるな、顔が。こんなに顔いるのか。
Manato操作感はどうでしょうか。
野田わかりやすいですね、感覚的にプレイできる。この操作に使う仮想コントローラーは、もとからRobloxのプログラムに組み込まれているものなんですか?
Manatoそうですね。ジャンプボタンなんかも最初から用意されているものです。
野田追いかけてくるプログラムも最初から用意されていたものなんでしたっけ。
Manatoソロ用のものは最初からあったんですが、マルチプレイ用のものは自分で作る必要がありました。
野田なるほど。は? え? うわっ!!
野田あ、いや、僕、そこそこうまいですよ。って、こっち回りで来るのかよ! むっず!
野田え、Manatoさん『つり革』初プレイで76秒? つり革の天才!
Manatoふだんからめちゃくちゃゲームをやるほうではないんですけど、これは永遠にできますね。
野田なら、『やせちゃうよ?』で勝負しませんか。僕、このゲームめちゃくちゃ強いんですよ。ちなみにこれ、相手側に悪いものを食べさせることができるんで。
Manatoなるほど(開幕から妨害に出る)。
野田一瞬で理解するの!? マジか! よくわかってるなぁ! でも勝ったぁ!
――大人げない。でもManatoさんも初プレイなのに、強かったような。
野田強かったですね。理解が早すぎる。ふた言くらいで全部理解して、妨害に来ましたから。
――得た知識をとりあえず試そうとする姿勢がゲーム開発者向きなのかも。さて、実際に野田ゲーに触れていただきましたが、Manatoさんから感想をいただけますか。
Manato単純にクオリティーが高くて、ずっとできる(原始的な)おもしろさがありました。Robloxでも人気が出ると思います。
野田おお、ついにノブが世界に。タイトルもNOBUloxにしないと。
――海外進出はいけそうでしょうか。
Manatoそれはもう、全然いけると思います。
野田うれしいですねぇ。
――野田さんは『顔から逃げるゲーム』をプレイしてみて、Robloxにどんな印象を持たれましたか。
野田どこまでが用意されているものかわかりませんけど、どんなに荒く作ろうとしても、操作性や判定などの面でストレスがないものが提供されているのがすごいですね。顔から逃げる際に追いかけてくる挙動もとても細かくて、これがまた不気味さなんですよ。
――思わず声も漏れていましたもんね。
野田見た目は個人開発のゲーム然としていながら、そうした細かなところのクオリティーが圧倒的で、そのちぐはぐさもめっちゃおもしろいですね。ずっとやっちゃいます、これは。そういえば、Robloxって対戦ゲームはあるんですか?
Manatoプレイヤー同士で対戦するゲームもありますよ。けっこう盛り上がっていますね。あと、簡単な(シンプルな)ゲームが多い印象があるかもしれませんけど、難しいゲームもちゃんと流行していています。
野田海外でも難しい“死にゲー”にストリーマーが挑戦する動画が人気になってますもんね。となると、あとは難易度よりも操作性の問題だと思います。その点、この『顔から逃げるゲーム』は細かいところの気持ちよさも含めてよくできてるなぁ。難しいけど、ストレスにならない。
開発者らしく、楽しいことやつらいことも語ってもらいました
――ゲームを作っていていちばん楽しかったり、やりがいを感じるのはどういった瞬間でしょうか。
Manato自分が思い描いていたものを実現して公開したときは達成感があります。その日の夜は眠れません。興奮しちゃうんですよね。どんなリアクションが来るのかな、ヘタしたらいっさい来なかったりするのかなって。Robloxだと海外の人が反応して、YouTubeなどで実況してくれますから、反応が確認できるとうれしいですね。
野田最初は「あのM-1覇者がゲームを出しました!」などの売り文句で始まり、『スーパー野田ゲーPARTY』に『WORLD』と続けて出させていただいていくなかで、“野田ゲー”が独り歩きしていって。ゲームはやってるけど作った芸人は知らないです、という人が出てきたことがむしろうれしくなりました。芸能人としての肩書きとか関係なく、ゲームとして評価してもらえているんだと。
――ライブでネタに使うといった、お笑いの一環としてのゲームという位置づけがあったかと思うのですが、いまとなってはそこも変わってきているわけでしょうか。
野田いや、そこに変わりはありません。マヂカルラブリー野田などの肩書きなしでゲームを遊んでもらえるのはうれしいですが、そのゲーム自体にはずっとお笑いが関わっています。
――すると、お笑いが必ず入るというのもこだわりと言えるかもしれませんね。
野田いまのところ、外さないようにはしています。笑いなしのガチンコのゲームはたぶん作らないですね。なにかクスリとしてもらえるものを必ず入れています。
――では逆に、ゲーム制作で、いちばんたいへんなことはなんでしょうか。
野田僕はもう、間違いなくバグですね。何かひとつ加えたら、バグがそこに1個出てくるんですよ。プログラムが1行なら何も起きないんですが、3行くらい書くと絶対に何か間違えていて。開発後半になってそのプログラムを見直すんですけど、何のことを言っているのかわからない。でも自分で解決しないといけない。
――最後のところは、会社ではなく個人だからこその悩みかもしれません。
野田会社勤めだと、人に渡せるように気を遣ってプログラムを書くのがたいへんそうですね。僕の場合は自分さえわかればいいんで気楽に書いていますけど。部署間で争いとか起きそうです。
――では続いて、Manatoさんにとってゲーム開発でつらいことは何でしょう?
Manato人気が出なかったときですね。2ヵ月くらいがんばって作っても、うんともすんともリアクションがないとき。
野田恐ろしいですね。ゲーム業界の、時間と何十億というお金をかけたゲームが不発とか、何というバッドエンドだろうと思います。
Manato逆に短時間で作ったゲームがものすごく流行ったりすることもあって。あと、部下はほしいと思います。こちらが思い描いたものを作ってくれたらいいなぁとか。
野田ゲーム開発は楽しいんですが、どうしても地道な作業が続くのが悩みですね。僕は絵は描けないので、人が歩いている写真を検索して、それを見ながらペイントソフトでがんばって描いていますが、ひとコマずつ描いているとそれがバカらしくて苦痛になることもあります。それこそ、人に任せられればいいんですけどね。
Manato外注する手もあるんですけど、自分の頭のなかで固まっていない部分もあるので、そんな簡単にはできないんですよ。ちょっとずつ作りながら「これがおもしろいかな」と発想を固めていく。ふだんからチームで動いていれば伝えやすいと思うんですけど。フリー音源を検索するのも地味にたいへんだったりして。
野田胃がもたれますよね、あれ。ほかには『スーパー野田ゲーPARTY』と『WORLD』の場合、クラウドファンディングで素材を集めたので、逆に集まった素材を消化せにゃならんという悩みも出てきました。ペットの画像が300枚も集まって、もちろんうれしいんですけど、いったい何に使えばいいのか。そこからゲームのアイデアを練ったりもしました。悩みつつもゲームのアイデアにもなったのがおもしろかったですね。
――続けてやや大きめのテーマについて聞いてしまうんですが、ゲームを作って人生は変わりましたか。
Manatoたしかに、そういうこともありますよね。ゲームを作るようになって考えかたが変わったかもしれないし、人生も変わりました。会社員から独立できましたから。収入面もだいぶ。
野田ほう。その面もしっかり聞きたいですね。
――同じく。あとでこっそり教えてください。野田さんはいかがですか。
野田僕の場合はそれ(ゲーム開発)でR-1優勝できて、M-1優勝につながりましたから、ひとつの転機になっていますね。そもそもNintendo Switchからゲームを出した芸人というのはいなかったはずで、それを最初に達成できたのはよかったです。
今後の展望は?吉本×Robloxの可能性を探る
――今後はどんなゲームを作りたいですか?
Manatoいま作っているのはホラー系のゲームです。ホラーゲームは実況プレイしてもらいやすい強みがありますから、そこに注力しています。こちらも“妙なものが追いかけてくる”というスタンスですね。
――具体的な話を聞こうとすると、単語ひとつでいろいろわかっちゃうからこれ以上は聞けませんね。
野田ホラーは解釈次第のジャンルだからいろいろと作れそうですね。ホラーと言えば、前に1回『あつ森』を作ったんですよ。
――「ホラーと言えば」という文脈で出てくる言葉じゃない。
野田集まってくるファンにモルックを投げつけるっていう(※)。あれを3D化してもおもしろいんじゃないかと考えていまして。大スターが群がるファンをかき分けていくのって、ひとつのゲームだと思うんですよ。
※『あつまってくるファンにモルックを投げつける さらば森田』(あつ森):お笑い芸人“さらば青春の光”の森田氏を題材にしたゲーム。森田氏はフィンランド発祥のスポーツ“モルック”の日本代表。押し寄せるファンにモルックの木の棒を投げて撃退し、仕事に遅刻しないようにする。
――スポーツを再現するようなゲームはふつうに遊んでみたいです。あまり知られていないけど楽しいスポーツはたくさんありそうですし、普及につながったらおもしろい。
野田あとはいまだと、小さいころにやっていた遊びをホラーにするブームもあると思います。(ドラマの)“イカゲーム”なんてそうですよね。だるまさんが転んだを怖くするとああなるわけです。『デッドバイデイライト』は鬼ごっこをホラーにしたゲームですよね。
――考えてみると、鬼ごっこはそもそもホラーなんですね。鬼が追いかけてくるんだから。
野田小さいころに楽しんでいた遊びとホラーのギャップがいいんだろうなと。ですので小さいころの遊びを探し回っています。
――野田ゲーのいちファンとしては、そうしたタイトルをRobloxでもぜひ作っていただきたいです。
野田作ってみたいですね。何か出してみて、日本でRobloxの知名度とともにより広がっていく最初のゲームになったらうれしい。
――ぜひ作りましょうよ。さっき、プログラミングは教えてもらったら早く習得できるってありましたよね。ほら、ここ(Manato氏)に先生が。
野田そうですね、ぜひオブザーバーに。吉本はピンと来たら何でもすぐ契約しに来ますから。
――では、これまでのお話をまとめたうえで、野田さんが世界進出を目指すにあたり、Robloxは使えそうですか。
野田すごくタイミングがいい話で、つぎはスマホゲームを出したいと話していたところだったんです。ミニゲームがたくさん溜まってきて、『つり革』などもそうですが、どれもスマホゲーム向けに思えています。どうにかしてスマホゲームで出せないかという話になったところに、Robloxのことを教えてもらいまして。
――ユーザーも集まっているし作りやすい環境だしで、絶妙なタイミングなんじゃないでしょうか。
野田むしろここまでそろっていて、うまくいかなかったら恥ずかしいレベル。それくらい参入したほうがいいと確定的に思っちゃっていますので、逆に穴を探しています。これだけ完璧なものが目の前に置かれて、飛びついていいのかどうかちゃんと確認しないと。あまりにちょうどいいストライクが来てるから逆にバットを振れない。当たればホームランだろうけど何か隠されてるんじゃないかと。
――野田さんはこう言われていますけど、Manatoさんのほうで思い当たる穴はありますか?
Manatoたとえば、PS5やXboxのAAAタイトルみたいなゲームは作りづらいかと思います。世間の目がアンリアルエンジンのパワーを活かして作るようなゲームに向くと危うくなるのが穴と言えば穴ですね。すごくいろいろ作れるんですけどね。100人同時対戦のゲームなんかも。どうだろう、動作が不安定になったりするのかな。
――スマホゲームの話に戻りますが、電車の車内『つり革』をプレイするなんておもしろそうですね。
野田『つり革』はそういうリアルの動きが加わるといいですよ。VRとの相性はすごくよかった。想像以上に遊べましたもん。
――『顔から逃げるゲーム』のVR版もいいですね。怖そう。
野田怖っ。プレイしたあと、部屋荒れまくってるんじゃないかな。
Roblox Studioに触れた野田氏の最終結論は?
対談の締めくくりとして、ノートPCでRoblox Studioを野田氏に試してもらった。ツール内に最初から読み込まれていたのは、障害物競争ゲームの一式だ。
野田ああ、車のモデルとかも、持ってくると(配置すると)すぐに乗れるんですね。この状態でスクリプトとして配布されてるのか。それはいいなー。誰かやっておいてくれって思いますもん。車なんだから最初から乗れるに決まってるだろ、って。
野田すごい、何も打鍵で打ち込んでないのにいろいろ変更できた。
Manato覚えるのが本当に早いですね。やっぱり天才だなぁ。
野田あー、この障害物にも最初から判定があってすり抜けられない範囲が決まってる。これはもうすぐにできるなぁ。小3の子でもたぶんいけますね。
――9歳でもいけますか。そりゃすごい。
野田思い描きながら作れるし、子どもはハマるだろうなぁ。ゲームを作っている感も強いし。時代の違いを感じますね。学校の必須科目になるかも。
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