ゲーマーにとってぬるま湯みたいなイベントがある。もちろん「いい意味で」なのだが、悪い意味で受け取ってもらっても、それはそれでかまわない。
僕のゴールデンウィークは“C4 LAN 2023 Spring”というイベント参加で幕を開けた。2023年4月28日14時~4月30日14時の3日間、48時間にわたって夜間もぶっ通し。「パーティーの始まりだぜ」からがすごく長い。
このイベントが好きなのである。過去に何度も取材していて、そのたびに会場に住みたいと思ってきた。今回も思った。
開幕の儀ではLANNERという人がステージ上で宣誓。彼がPCにLANケーブルを挿すと、3日にもおよぶ夢の時間が動き出す。
ちなみに、僕もオープニングアクトの一員だ。役割はほら貝を吹くこと。2023年4月28日15時30分頃、戦の始まりを告げるように、厳かな音色が会場のツインメッセ静岡に響き渡った。
ゲームイベント記事の導入としてはやや難解だが、ついてきてほしい。
興奮を内に秘めるタイプのイベント
48時間も何をするのかというと、ゲームをするのだ。会期中にクリアーしないといけないとか、何らかの目標達成を目指すとか、そういうことはいっさいなく、ただゲームをする。ふつうにゲームをする。
ソロで黙々と遊ぶ人もいるし、友だちとの対戦で盛り上がる人もいるし、eスポーツ大会の配信を観戦する人もいるし、ステージイベントを企画する人もいる。ステージを見る人は少なかったりするが気にしない。自分たちが楽しいからやっている。
みんながみんな別のことをしている。そして、その中心にはゲームがある。
C4 LANは“LANパーティー”という形式のイベントだ。パーティーや48時間ぶっ通しなどの言葉から音楽フェス的な「盛り上がろうぜ!」感をイメージするかもしれないが、全体的にのんびりした雰囲気。興奮を内に秘めるタイプである。
主催者が用意するのは場所とネット回線といった、いわゆる“ゲームを遊ぶための環境”だ。参加者は席の利用チケットを購入し(席なし入場券もある)、好きなゲームをハードごと持ち込む。
ゲーム機を持った有志たちが各地から集結。現代の南総里見八犬伝と言える。
受付を済ませたら、持参した、あるいは事前に配送しておいた大きな荷物からゲーム機を取り出してセッティング。あとは好きにゲームをして、疲れたら寝て、お腹がすいたらご飯を食べに行き、戻ってからまたゲームをする。ほとんど野生動物である。
Nintendo Switchのような持ち運びしやすいゲーム機が多いと思いきや、デスクトップPCをよく見かける。外見をごりごりにカスタムした“MOD PC”勢は、愛機を見せつけるように机の上にセット。その背中はどこか誇らしげだ。
C4 LANのなかにあるいろいろな世界
さらりと書いたが、ゲーム機を自分で持ち込むだなんて、わりとどうかしてるイベントである。なぜそこまでするのかと問われたとしても、楽しいからとしか返しようがない。
上の写真の『グランツーリスモ7』プレイヤーは、55インチのモニターとハンドルコントローラーとレーシングシートを群馬県から車に積んできたとのこと。長時間運転で疲れているはずなのにまた運転する。正気の沙汰ではない。
このようにゲーム機やPCを持ち込むイベント形式を“BYOC(Bring Your Own Computer)”と言う。僕はその歴史にはあまり明るくないのだけど、デモシーン(デモパーティー)にルーツがあると聞いたことがある。
プログラマーがデータ容量などの厳しい制限のなかでかっこいい映像や音楽を作り、披露し合うカルチャー。それがデモシーンだ。ネットが未発達の頃は作品をPCごと持ち込んでいたようで、それがBYOCスタイルのゲームイベントにつながったのだと思う。
C4 LAN 2023 Spring内では、“SESSIONS”というデモパーティーで変態技術の一端を垣間見れた。ゲームでたとえると縛りプレイみたいなもの。たった数キロバイトのプログラムですごく美しいビジュアルを生成する。職人芸の世界。
その技術が何の役に立つか、正直言って僕にはわからない。でも、いいのである。難しいことはいったん横に置いて、かっこいいから作りたい。作ったらおもしろかった。それがいい。
かっこいいものを追求するうちに、技術は自然と研ぎ澄まされていく。ほしいものは仲間内からの「超クール!」という賛辞。ひたすらピュアな衝動はゲーマーにも通じるものがあり、何だか愛おしい。
ただし、当事者たちとはあまり話したことがないので、これは僕の想像である。そうであってほしいという憧れも多分に含まれているが、そう遠くないんじゃないかと思う。
SESSIONS in C4 LAN 2023 SPRINGの個別の配信アーカイブを公開しました!
Clipped VODs of SESSIONS in C4 LAN 2023 SPRING are now up!
#SESSIONS_Party #C4LAN #Demoscene
https://t.co/Qc630pNYBF
— SESSIONS (セッションズ) 4/28(金)-30(日) (@SESSIONS_Party)
2023-05-03 13:38:17
衝動と言えば、「ゲームを最速でクリアーしたい」という情念に憑りつかれた人たちがいる。RTA(Real Time Attack)勢だ。
日本最大級のRTAイベントは“RTA in Japan”。走者と呼ばれるプレイヤーが1秒でも早くクリアーするまでの様子を現場と配信で見守る。夏と冬の年2回開催が通例で、その番外編となる“ex #2”が今回のC4 LANに誘致された。
RTAはその名の通り“リアルな”タイムアタックだ。プレイ時間だけではなく、休憩時間もタイムに含まれる。その競技の性質上、明らかにおかしいテクニックが生まれることもあるため、目の離せない展開が続く。
ゲームによってはすごい長時間プレイになるので、ご飯はちゃんと食べてほしいと思う。
RTA in Japan ex #2、ただ今より開幕です!
4月28日~4月30日の3日間にわたって全34作のRTAが続けて行われます。
現地観覧、オンライン観覧の方もどうぞお楽しみください!
スケジュールはこちら⇒https://t.co/dtWWvbtdFy
配信はこちら⇒https://t.co/ESrCXgTbN8
#RTAinJapan https://t.co/dLyaoy81Xd
— RTA in Japan (@RTAinJapan)
2023-04-28 15:59:14
コアな人からライトな人まで
ひたすらゲームをする人がいる。技術を追求する人がいる。スピードに魅せられた人がいる。こう書くと変人大集合の会みたいだが、そんなことはない。
嘘をついた。わざわざ自分用のゲーム機を持ち込み、みんなで集まっているのに個別でゲームをする。冷静に考えたらまあまあの変わり者だ。そんなやつらがぞろぞろいる。
僕はC4 LANを人に説明するとき“かわいげのある蛮族がたくさんいるイベント”みたいな表現をよく使う。本人たちにはけっこう理解してもらえるのではないかと思う。
そんなC4 LANではあるが、今回は雰囲気が少し異なっていた。おしゃれな女子がたくさんいる。華やか。陽のエネルギー。日の当たる世界。有料BYOCチケットを買ってゲームに明け暮れるおしゃれ女子も増えているのだが、さすがに多勢に無勢である。
これは会場の構成が前回までとは大きく変わっていたことに由来する。広めの無料ゾーンと有料ゾーンに分けられており、前述のSESSIONSやRTA in Japan、協賛各社のブースは無料ゾーンに設置。ふらりと来場できたのだ。
無料ゾーンはにぎやかだった。有料のBYOCゾーンとは盛り上がりの方向性が異なる。地獄のように底から活気を響かせるBYOC参加者に対して(ほめています)、無料ゾーンは一般的な大型ゲームイベントに近い。
格闘ゲーマーのボンちゃんさんやプロゲーミングチーム・DETONATORのブースでは交流やゲームプレイを楽しむ。『ギルティギア ストライヴ』オフライン対戦会のスペースもあった。
多くのおしゃれ女子の目的は、好きなストリーマーたちとの交流だ。インフルエンサーを起用した企画が走っており、会場内にはファンミーティングのスペースが設けられていた。
“超騙し合いブラザーズ”のスペースではしょぼすけさん、Isさん、バケゆかさん、ポン酢野郎さん、はたさこさんがゲームをしている様子をじーっと観察できた(かげまるさんは体調不良により欠席)。
ねろちゃんさん、まおさん、めーやさんがキャンピングカーで東海地区に住んでいるストリーマーたちを回ってくる“即ボンが行く”のファンミーティングも盛況。楽しんでもらえるのはうれしい。
なお、しょぼすけさんはもともとC4 LANの常連。「C4 LANはBYOC参加者のためのイベントなので、迷惑かけないように気をつけてくださいね」と事前に呼びかけてくれていたらしい。
その気遣いはありがたいが、BYOC参加者からすると「うちらみたいなもんが気を遣わせちゃって何かすみません」的な気持ちもあると思う。謙遜というかへりくだりというかLANパーティー仕草というか。僕は少しある。
この感覚が好きなのだ。それが事実かどうかは別として、自分たちが本流ではないことを心のどこかで自覚する奥ゆかしさ。胸を張ってもいいのだけど、あえて自分を低く見積もる謙虚さ。コミケ参加者とも似ている気がする。
周囲の人にも同じ意識があると感じ取っているから奇妙な仲間意識が生まれる。これこそC4 LANの心地よさの正体であると僕は考える。生ぬるさと言い換えてもいいかもしれない。
ゲーミングツアーコンダクター
僕はC4 LAN村の住人だ。せっかく来てくれた若者をもてなしたい。テレビ番組などで田舎のおじいちゃんおばあちゃんがあれもこれもとご馳走を出す気持ちがよくわかる。
おもてなし精神が高まった結果、こうなってしまった。
ゲーミングツアーコンダクターである。滋賀県立八幡工業高校の生徒たちがゲーミング修学旅行にやってきたので、案内役を買って出た。
【ゲーミングツアー工程】
- 説明をしながら無料ゾーンをぐるっと周る
- 有料ゾーンでBYOC席を見せてもらう
- 代表5人がステージに上がってインタビュー
- 記念撮影
- 有名人からひと言もらう
- 自由時間
本来、18歳未満は有料ゾーンに入れないのだが、主催者側で特殊なパスを用意。これで有料チケット購入者と同じ範囲を動き回れる。
ツアーの中で、eスポーツ情報サイト“Negitaku.org”のYossyさんを「きみたちが生まれる前からeスポーツを追いかけている偉人だよ」と紹介したりした。ピンと来なかったと思うが、ゲーム業界はいろいろな人に支えられていることだけでも伝わったらうれしい。
じつはDETONATOR代表の江尻さんからひと言もらう約束を取り付けていた。日本のeスポーツシーン醸成に関わった立役者のひとりだけに、交流できたらいい経験になると思ったのだが、微妙に時間が合わなかった。残念。
それでも高校生たちをすごい人と合わせたかった。そこでC4 LAN主催会社ニチカレの小林社長がつかまえてきたのがこの人である。
ZETA DIVISION所属のストリーマー・鈴木ノリアキくんだ。C4 LANにはMCとして参加。小林社長とは旧知の仲で、僕とも気安く接してくれる。
八幡工業高校の生徒のひとりは鈴木ノリアキファンだったのでちょうどいい。急に頼まれたらしく「何なんですか」を連発していたが、話す内容はなかなか深かった(内容は秘密。生徒たちの心の中に)。
ところで、僕はゲーミングツアーコンダクターを勝手にやったわけではない。ちゃんと話を通してある。
C4 LANの主催会社は製造や業務請負、物流を手掛けるニチカレ。千葉県の自社倉庫でLANパーティーを開催することがあり、2023年2月には学生イベンターに貸し出していた。そこに視察に訪れていたのが、八幡工業高校 esports部顧問の三浦先生だ。
ニチカレの小林社長と世間話をしているうちに、C4 LANに招待しますよという話に。たまたまその場にいた僕が「じゃあ僕がガイドします」と名乗り上げたというわけである。
三浦先生は生徒にいろいろな経験をさせてあげたいのだそうだ。地方在住者(とくに子ども)は外のカルチャーに触れる機会が少ない。広い世界を知らないまま一生を終える人もいる。
だから、さまざまな手を尽くして学校のPC設備を整え、電源等の環境が不十分だったら自分で何とかし(電気科の先生なので得意分野)、「ゲームイベントの渦中の人に会えるんだから行かないと損」と泊りがけで滋賀から千葉にやってくる。
こういったゲームイベントに参加しても直接的な学びにはならないかもしれない。だけど、もしかしたら何かを感じ取ってくれるかもしれない。だから連れ出す。
本気を出した教育者の行動力に震える。
少しまじめなことを書く
ツインメッセ静岡での開催は今回が2回目。前回は2022年8月12日~14日。コロナ禍に多少のほころびが見え、イベントが増え始めた時期だったと思う。
ゲームイベントに限らず、多くの催しごとは新型コロナウイルスの台頭によって縮小を余儀なくされた。オンライン開催に移行するケースも増え、配信だけでもそれなりの成功を納めたものの、LANパーティーはそうもいかない。“集まること”自体が本質だからだ。
僕は前回も参加している(そのときはほかの仕事が忙しくてリポート記事を書いていないのだけど)。大げさなことを言えば、ゲーマーの行く末を見届けたかった。
果たして、ゲーマーは負けなかった。世界情勢すらゲームのようなもの。バランスが崩れたらつぎのアップデートを待つだけ。文句のひとつも言いながらも、それはそれとして受け入れて対応する。それが僕らの生存戦略だ。
では、C4 LANはどうか。BYOC1000席を目標に掲げて徐々に規模を大きくし、2020年時点で500席ほどにまでなったが、コロナ禍で成長プランは崩壊。そんな折、当初よりコアゲーマー向けの施策を重視してきたC4 LANが下した選択は認知の拡大だった。
RTA in Japanやデモパーティー“SESSIONS”を誘致して方向性の異なるコア層にリーチ。さらに、ゲームと相性のいいインフルエンサーの協力を得てC4 LANそのものの知名度を上げる。オーソドックスではあるが、これまではあえてやらなかった手法だ。
C4 LANのことを知らなければ参加しようがないわけだから、コアゲーマー以外を呼び込むターンはいつか来ると思っていた。その判断は正しく、一定の効果を上げたようだ。
たしかに来場者はかなり増えた。だが、さみしい気持ちがないと言えば嘘になる。ふつうの大型ゲームイベントになってしまったような。僕の周囲では「もうおれたちのことは相手にしてないのかな」という声も少しだけあった。
きっとつぎの一手が重要なのだろう。やっぱりC4 LANを知ったインフルエンサーのファンたちに「自分もBYOC参加してみよう」と思ってもらいたいじゃないか。
そして沼に引きずり込もうよ。
闇鍋
まとまらない感想を書いてしまった。そういうイベントなのだから仕方ない。
C4 LANとは、LANパーティーとは何なのかと、ときどき考える。人によっては「自由なゲームイベントだからすばらしい」みたいに説明する。たしかにそれはその通りなのだけど、素直には首を縦に振りにくい。
自由というのはけっこう困るものだ。初参加だと何をしていいかわからないだろうし、人見知りの人は積極的な交流が必要な空気を感じてしまう。
個人的には「自由にゲームを楽しもう」なんて前向きな意識すらいらないと思う。誰もゲーム好きな気持ちを否定しないので、ぼんやりゲームをしていればいい。もちろんソロでもひと言もしゃべらなくてもいい。参加する意味を問われるかもしれないが、漠然と楽しいのだから、深い意味なんて不要である。
そもそも昨今はオンラインゲームが主流だ。わざわざ会場に集まる必要はない。だけど、やらなくてもいいのに、“楽しい”という理由だけで本気を出す。これこそ娯楽の本質なのではないか。
また、「よくわからないイベント」だとも言われる。正体はわからず、底が見えないけど、何だかみんな楽しそう。闇鍋みたいだ。
ゲームイベント界の闇鍋。ふむ、この表現はきっと正しい。
世間にはいろいろなゲームイベントがあって、どの運営者もゲーマーに楽しんでもらうために頭をひねっている。おそらくそれは間違いない。
でも、結局のところ、ゲーマーが真に求めているのはゲームを遊ぶことなんじゃないかと思う。そういう人たちを大切にしてくれたら僕はうれしい。
C4 LAN 2023 SPRING Recap
C4 LAN 2023 Spring最終日、閉幕の儀のエンディングムービーで次回の開催日程が発表された。2024年4月27日~29日。場所は同じくツインメッセ静岡。
周りにゲーム好きしかいない環境は存外に心地いいものだ。僕はすでに静岡県のホテルを調べ始めている。
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