ゲーマーを虜にする“C4 LAN”というイベントがある。

 50時間以上ぶっ続けで実施され、会期中はひたすらゲームを遊ぶ。まさに夢のような時間を過ごせるのだ。

 直近では“C4 LAN 2018 WINTER”が2018年12月7日~9日に開催され、大盛況のうちに終了した。

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会場のベルサール高田馬場は、そこらの体育館より広いイベントホール。ゲーム機やPCがずらりと並ぶ様子は圧巻。

 C4 LANの特徴は以下のとおり。

ゲームを遊びまくる3日間
会期中は昼夜を問わずゲームするのがC4 LANだ。ゲームのイベントというと、トークショーや試合などのステージを観覧するタイプが一般的。一方、C4 LANの目的は“ゲームを遊ぶこと”。参加者全員が主役である。

ゲーム機を持ち込む
C4 LANは“LANパーティー”と呼ばれるジャンルのイベントだ。基本は席の利用権を購入したうえでのBYOC(※)スタイル。もくもくとプレイする人もいれば、何人かでわいわい遊ぶ人もいる。

※BYOC:Bring Your Own Computerの略。参加者がPC本体やゲーム機を持ち込むスタイルのこと。

主催のニチカレは製造&物流関連の会社
述べ人数で1200人以上が参加する大型のゲームイベントだが、主催のニチカレはゲーム会社ではない。エンタメ業界から程遠いイメージすらあるお堅い会社である。

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 僕、ミス・ユースケはC4 LANの雰囲気が好きで、よく参加させてもらっている。イベントの雰囲気は前回取材した記事を読んでほしい。

 C4 LANの規模は徐々に大きくなっている。協賛する企業も少なくない。ゲーム業界以外の会社がわざわざ主催するということは、よほど景気がいいということなのだろうか。

 主催者に素朴な疑問をぶつけてみた。

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【Q.】儲かってますか?
【A.】いいえ、まったく。

 どういうことだ。じゃあ、何で続けてるんだ。プロデューサーと主催会社の社長に話をうかがった。

 インタビューは2時間30分ほどかけて実施。ひたすら長いので気合を入れてお読みください。

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田原尚展(たはらなおのぶ)

C4 LAN総合プロデューサー。10年以上前に海外に渡り、PC用FPS『Quake』などでプロゲーマーとして活動していた経歴を持つ。文中では田原。

小林泰平(こばやしたいへい)

ニチカレ株式会社 代表取締役社長。ニチカレは滋賀県に本社を構える企業。おもな事業は業務請負(アウトソーシング)、物流、IT関連。小林社長自身もゲーマーで、『Team Fortress 2』や『機動戦士ガンダムオンライン』などを好む。文中では小林。

C4 LANの母体は2004年に始まったesports関連事業“CyAC”

――ゲーム会社ではないニチカレがなぜC4 LANを主催しているのでしょうか。「儲かるから」だったら腑に落ちるんですけど、そうじゃないんですよね。

田原ええ。ぶっちゃけ言うと赤字です。みなさんは疑問でしょうね。何でやってんの? って。

――開催意図をイチから整理してお聞きしたいのですが。

小林最初は“CyAC(サイアック)”なんですよ。

 ニチカレ自体はもともと製造業関連の会社です。15年くらい前かな、中国との関係性が変わって、製造業が打撃を受けるなんて言われて、危機意識があったんですね。で、新しい事業が必要になるじゃないですか。

 世間的にIT事業が伸びている時期だったので、何ができるか、どうやって利益を上げるか、調査をしているうちに、ゲームだなと。それが“esports”だったんです。

 CyAC名義で大会を開いたりしていたので、イベント会社だと思われがちなんですけど、CyACはシステムの名前なんですよ。

田原“CyAC.com”というトーナメントのプラットフォームですね。

小林CyACを流行らせるために、バージョンアップしながら、イベントをくり返しやってました。東京ゲームショウに出展したりして。ところが、これが全然うまくいかない。

――15年近く前に始めて、調子が悪いながらも続いたわけですよね。どういう理由があったんですか?

小林BtoC(※)だからですかね。偉そうなことを言うわけじゃないですけど、いろんなBtoB事業をやっていたので、BtoB(※)については勘所がわかるんですね。これは変えたほうがいいなとか、こうやったら利益が出るな、とか。

 だからですかね、BtoCをやりたかった。一般のエンドユーザーに向けたものを作りたかった。最初は飲食店をやろうとも思ってたんですよ。

※BtoC:Business to Consumerの略。一般ユーザーを対象にしたビジネスのこと。

※BtoB:Business to Businessの略。企業を対象にしたビジネスのこと。

田原へぇー!

小林飲食店の案もあったし、オンラインの八百屋をやろうともしましたし。

田原いま野菜の通販みたいなの多いですよね。

――そっか、もともと流通も強いから。

小林そうですそうです。BtoCをやろうとしている中で、CyACが残ったんです。ある程度は利益が見込めるかなと。

田原多少なりともCyACの売り上げが立っていたのは、いろんなイベントの制作の下請けや補助をやっていたから、でしたっけ。

小林そう。それでも厳しかったけど。最初は現場を人に任せて、僕は上に立つかたちでした。なかなかうまくいかなくて(スタッフが)どんどん辞めていったりもしましたね。

田原赤字事業はつらいですからね。

小林優秀な子も辞めちゃって。決裁権があるような主要スタッフが居なくなったんです。個々の技術を持った人はいたんですけど。さすがに人手が足りないから「じゃあ、おれもやるわ」となって。

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ニチカレ公式サイトの会社沿革ページには、2004年5月1日に“コンピューター開発部開設”とある。これがCyACだ。

小林いまはC4が忙しくなってきたこともあって、CyACのサービス自体は終了しました。

――大会プラットフォームからスタートして、いまはゲームを軸に方向転換したと。

小林大きな流れで言えばCyACがC4に成ったイメージです。CyACのユーザーも来てくれますし、やっぱりCyACをやっていたことが大きかった。

 BtoCをやりたい。“角度”の高いものを。BtoCの経験がなかったから、ハードルの高いものをやりたいんですね。

田原確実性の高さじゃなくて、角度なんですね。難しくてチャレンジングなことがしたい。いやー、びっくりした。C4の確度が高いのかと思った。それを見切ってるのか、すごいなと(笑)。

――そこからどういう流れでLANパーティーを開くことになったのでしょうか。

田原C4 LANは日本でLANパーティーをやろうとして始めたプロジェクトじゃないんです。初回は“C4”って名前でした。

 ゲーマーのコミュニティに向けたBtoC事業をやろうと、議論していく中で誕生した感じです。何かしらのオンラインサービスになる可能性もありましたし、ステージをたくさん用意して企業さんに買ってもらうみたいなアイデアもありましたね。

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C4 LANのステージではコミュニティーやスポンサー企業主催の企画が実施される。

田原コミュニティには種類があって、タイトル単位でまとまっていることもあれば、友だち同士のマイクロコミュニティもあります。要素を分解していくと、コミュニティの最小単位は一個人のゲーマーですよね。

 ゲーマー個人からお金をいただく事業を始めましょうとなったとき、ぐるっと一周回って「その個人が集まるのがLANパーティーなんだ」と気付いて、BYOCのアイデアを加えて生まれたのが初回の“C4”。この形式をいったんフォーマットにして、“C4”というプロジェクトの中のLANパーティーとして2回目から“C4 LAN”になったんです。

 コミュニティといっしょにビジネスをするのがC4プロジェクトの根幹。今後、C4ブランドの別サービスが出てくる可能性もあるでしょうね。発露のひとつがC4 LANなので。

小林たとえば、コミュニティイベントにノウハウや機材を貸し出すサービスもやってます。お金はまだ取ってないですけど。そういう支援活動もC4プロジェクトの一貫です。

C4 LANは最強の総務部門が作るイベントだった

――オンラインサービスからオフラインイベントに舵を切った理由を教えてください。

田原業務オペレーションの整備が得意だから、というのはありますね。ニチカレは製造業に関連する会社なので、そこをがちがちにやるんです。イベントかどうかは関係なく、製造業務と同じように、オペレーションを事前に整備してやらないといけない。やらないといけないってのも変な表現ですかね。やるのが当たり前。

小林マニュアル制作、シフト組み、残業時間の管理……。こういうのは最初から全部設計するんです。シフト組み担当がひとりいて、それを総務側でもチェックして。

田原ニチカレのおもな業務の特性もあると思うんですけど、労働基準法を順守しようという意識が強いんです。

小林社労士さんにお願いして、アルバイトとボランティアの契約書も作ってます。

――土台の部分がすごいですね。基礎工事だ。

田原極端な話、LANパーティーにステージイベントはなくてもいいんです。C4 LANにはありますけど、QuakeCon(※)にはないですね。ステージがないとすると、ほとんど総務マターなんですよ。

※QuakeCon:アメリカ最大級のLANパーティー。もともとはFPS『Quake』シリーズのファンが集まるイベントで、いまは5000台近いPCが持ち込まれる一大イベントになっている。

――総務部が運営するゲームイベント。初めて聞く言葉です。

田原きらびやかなステージを作って興行するスキルより、大事なのは物流管理。たとえばパソコンが300台とか送られてくるので、これをどう捌くんだって話で。

小林機材の管理に物流に。いわゆるロジスティクスの部分が大きいですね。

田原新しいことをやってるので、法務との連携も大事ですね。会社で言うと管理部門側に関わることがあまりにも多い。警備と清掃もそうかな。それの集合体がLANパーティーです。

 僕がニチカレとならやれると思った理由がそこなんです。総務部門がすごく強い。いろんな事業を小林さんがやられてますからね。物流も倉庫もある。倉庫がない会社にはLANパーティーは難しいですよ。

――倉庫! たしかに。それを考えなくていのは楽ですね。

田原そうなんです。フォークリフトも小林さんが操縦しちゃうし。

小林まあまあまあ、最初はね。いまはやってないですよ。

田原ふつうの会社じゃなかなかできないですよ。社長とか総務の人間がフォークリフトをガンガン乗り回して物資を管理する(笑)。

 物流がほんと難しい。配送会社さんの都合も含めて、読めないところがあるんですよね。その辺りが極まってきたなと、今回の開催で感じました。

 ただ、その中で問題も見えてきました。 いまやってるものの完成度は上がってきたけれども、我々の事業としての課題はどうか。お金の問題もあるわけですよ。慈善団体じゃなくて企業なので、利益を上げるにはどうすればいいか。

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前日設営の様子。ボランティアスタッフの力も借りて、大量の機材をさばいていく。

――浅草橋で開催したときは「黒字です」と聞いたと思いますが。

田原あのときは黒字だって自慢してましたよね(笑)。あの規模で黒字にできるビジネスモデルであるということはよくわかったんです。

 ただ、これがいまの規模になると別の話。やっぱり地代がすごく増えてますからね。

――単純な広さとして、何倍かになってますよね。

田原浅草橋は400~500平米くらい。今回はホールだけで2800平米かな。全体で3100とか。広さは6倍くらいですけど、費用感はそれどころじゃなくて。

小林場所代がいちばんたいへんですね。各会場さんにもご協力をいただいていますが、24時間(どころか50時間以上)通しなので、いろいろと延長料金がかかってしまって。

田原会場費以外ですと、会場やステージの制作費と運営コスト。この辺はかなり抑えられていると思います。改めて全体の費用感を確認しましたけど、ふつうのイベント会社さんはびっくりするでしょうね。

 C4 LANは主催のニチカレとC4 LAN実行委員会というふたつの組織で動いていて、できる限り業務を内制するようにしています。中間マージンをカットしているから安いというのはありますね。制作会社さんたちにも知恵を絞っていただいていて、みなさんのご協力で大幅なコストカットが図れているというのが現状です。

小林そうですねえ。全部外注にして制作をやったらたいへんです。黒字化が果てしなく遠い規模でコストがかかると思います。ほんとにみなさんのおかげ。

田原根本的な会場内要素の見直しも毎回やっています。極端な話で言うと、“ステージをなくす”とか。とはいえ、ステージは費用に対してすごくすばらしいものをご提案していただいていて、自分も改めて驚いています。

小林そのレベルで検討や議論を行って、ギリギリまで最適化できないか、各社さんと丁々発止していますよ。

――僕らは各社の企業努力によって、C4 LANを楽しめているわけですね。感謝しかない。

田原ふつうにやってたら今後も地代は増えていきますからね。その辺は永遠の課題です。

小林もっと大きくしたい気持ちはありますし、ネットワークとかインフラ周りはもっとお金をかけたいと思ってます。

田原いまの価格帯の会場でやっている以上は、ここでの黒字化は難しいだろうな、と。赤字を減らすようには努めていますけど、リクープはつぎの展開で狙うべきところであって、まだまだ検証と実験。あとは宣伝という意味で投資をしている段階です。(黒字化できるとしたら)2020年以降。

――総合的に見て、うまくいっているとは感じますか?

田原いいところも悪いところも見えてきて、いまのところはうまくいってるんじゃないでしょうか。楽ではないですけどね。

小林順調にレールに乗ってます。むしろ早いくらい。想定では(ベルサール高田馬場を使い始めて)4回目くらいにいまの規模になるイメージでした。

――ベルサール高田馬場での初開催が2018年春で、今回が2回目。つぎのつぎですか。

田原(2017年冬に)東京流通センターでやったときはそんなに埋まらなくて、動員も少なかったんですね。ここで成長が1回ゆるやかになった。2019年の冬くらいにベルサール高田馬場が埋まるくらいのペースがいいねなんて言ってたら、1発目から埋まっちゃった。

小林びっくりしましたよ。今回は25分で(チケットが)完売。まいったまいった。想定以上にでかくなっちゃった。

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Red Bull 5GとDeToNator代表・江尻氏との出会いが引き金を引いた

――2004年からesportsに目を向けるとか、先見の明がすごいなと思ってました。

田原数年前に“esportsの興り”みたいな動きがありましたよね。esports関連の団体がいくつも立ち上がって、ここではあえて名前は出しませんが、そういった業界団体に小林さんも参加して。

 小林さんとしても、ゲーム系の営業戦略を立てられる方がニチカレ社内にいなくて、直接CyACの担当者として動くフェーズに入ってました。いろんな組織ができて、何となく業界内にお金の流れができたのが数年前。そこに何とか食いついていかなきゃみたいな恐怖があったと思うんですよ。

小林まあ、そうだったかもね。

田原僕は台湾の『Quake Live』大会に出るときに(ニチカレに)スポンサーになっていただいたことがあるんです。その後にちょっと疎遠になっちゃったんですけど、小林さんが右往左往している時期に付き合いが復活しまして。

 で、まあ世間話なり何なりしますよね。(組織の)構造と参加している人を見て、「小林さんのやりたい方向性とは違うんじゃないですか」なんて意見することもありました。

――結局、その後にそういった団体から抜けますよね。何があったんですか?

小林きっかけはRed Bull 5G(※)です。田原君から「1回見てくれ」と大阪に連れていかれました。

 見た瞬間に「これだ! おれがやりたかったのは!」って。その瞬間に、esportsっていう単語にこだわらないほうがいいじゃんって思えちゃったんです。

※Red Bull 5G:2012年~2016年にレッドブルが主催していたゲーム大会。選手たちが東西の2チームに分かれ、5ジャンルのゲームで雌雄を決する。2016年の開催をもって第1シーズンは終了し、現在は充電期間に入っている。

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小林氏が観戦したのは2015年に開催された大阪大会。こちらは東京開催の2014大会の様子。

――「これがやりたかった」と仰いましたけど、具体的に「これ」って何ですか?

小林うーん、簡単に言うとですね、(それまで思い描いていた)esportsじゃなかったんですよ。

田原これがキーなんです。みんなesportsって言葉を何となく使うじゃないですか。それぞれが形容している内容はたぶん違うと思うんですけど。

 「小林さんがesportsをやりたいというのはわかりました。具体的に何がやりたいですか。やっていくうちに変わるかもしれないし、いまのアイデアでいいから教えてほしい」。そういう話をずっとしてたけど、あまりピンと来てなかったみたいで。

小林そうですねえ。

田原忙しすぎて考えを整理する暇もなかったんだと思います。だったら、小林さんがいちばん気にする“現場”を見てもらうのが手っ取り早い。

 松井さん(※)は「esportsだという人もいるでしょうけど、ゲーム大会だとわざと言い分ける人もいます。これってesportsとカテゴライズする必要はないですよね」って。

 小林さんが好きなのは、プロのストイックさとか、みんなが期待するきれいな部分だけじゃなくて、もっと広い領域でゲームを楽しむことに軸足があるんじゃないかなと。

※松井さん:株式会社グルーブシンク代表取締役・松井悠氏。Red Bull 5Gでプロジェクトアドバイザーを務めていた。

小林“esports”に凝り固まったイメージを持っている人からしたら、Red Bull 5Gは型破りなんですよ。チームは東西に分かれて、格闘ゲーマーが『ぷよぷよ』のプレイヤーを応援している。考えられない。それでも盛り上がってる。何だこれ。「esportsかどうかなんて関係ないじゃん!」って。

――esportsと言う言葉に幻想を抱く人は多いですけど、そこにこだわる必要はないって腑に落ちたんでしょうね。あくまでも、大切なのはゲームを楽しむこと。

小林そうですね、すとーんと。

田原コアな人たちがesportsって言い出したのが2001年頃かな。当時とは意味合いが変わっています。当時はオリンピックなんて絶対ありえなかった。みんなで酒でも飲みながら、ノリで「おれらスポーツじゃね?」ってくらいな話で。

 CyACのDNAが呼び起こされた体験がRed Bull 5Gだったんでしょうね。お行儀のいい大会だとあんな応援できないですけど、5Gだと『ぷよぷよ』やってるときの応援が「○せー!」ですから。何だそれ。

――かわいいキャラが出てくると敵味方関係なく「かわいいー!」。テンションがおかしい。

小林ほんと意味がわからない。独特の空気があって、みんなすっごい楽しそうで、それなのに対戦はガチ。それを見てたら「何やってんだろう、おれ」って思えてきた。

 で、ですね、江尻さん(※)が最後の引き金を引いたんですよ。ずどーんって! 江尻さんは除霊って言ってます。

※江尻さん:プロゲーミングチーム“DeToNator”代表・江尻勝氏。早い段階から海外に拠点を設けるなど、ほかの日本のチームとは一線を画す活動を続けている。

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DeToNatorはC4 LANにもブース出展。人気ストリーマーたちによるサイン会や物販などを実施した。
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グッズ類は好評で、いちばん話題になったのはゲーミング煮豚。めちゃくちゃうまい。

田原何回か「(団体と)折り合いが合わないんだったら辞めてもいいんじゃないですか?」って迫ってたんですよ。

 引き金っていうのは、2回目の浅草橋のときの話かな。江尻さんと大川さん(※)とBRZRK(※)と小林さん、超強い面子で朝まで飲んでて。

※大川さん:Rascal Jester元代表・大川孝行氏。Rascal Jesterは『リーグ・オブ・レジェンド』や『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』などで活動するプロゲーミングチーム。

※BRZRK:フリーライター。FPSを中心に、執筆や大会での解説などを行っている。かつては『QUAKE』、『カウンターストライク』といったタイトルで日本代表選手として活躍した。

――面子がハードコアすぎる。

田原僕は呼ばれても引き込まれないようにしてました(笑)。小林さん、そこで江尻さんにズバッと言われたんですよね。

小林「つぎ会うときまでに(団体を)辞めてなかったら、もう口を利くことはないです。これが辞める理由になるでしょ」と言われて、それが引き金ですよ。つぎの日の昼過ぎくらいに電話しました。辞めますって。

田原除霊って表現すごいですよね。esports界の除霊師ですよ。

小林僕がいま全国を回ってるのは除霊活動ですかね(この活動については後述)。

田原esports界隈は、一部の人が地縛霊化してますからね。

――何か特定のイメージで縛りつけられるのはもったいないですから、みなさんには自分の意思を強く持って活動してほしいです。

小林もともとは田原君がすごい引っ張ってくれたので。松井さんにも感謝してますし、DeToNatorがC4 LANに来てくれなかったら江尻さんとしっかり話す機会もなかっただろうし。

 江尻さんからは「小林さんってうさんくさい人だと思ってました」ってはっきり言われました(笑)。そういうストレートさがあの人の魅力でもありますよね。すごい感謝しています。おかげさまで、CyACでBtoCをやりたかったんだと思い出させてもらいました。

C4 LANを通してゲーマーと友だちになりたい

――BtoBで成長してきた会社の人は、BtoCに憧れがあるんでしょうか?

小林憧れますね。

田原僕もです。前職はBtoBのマーケティングコンサルだったんです。BtoCのプロダクトにも関わるけど、メインはBtoB。自分がそこまでお金がほしい人間じゃないのはわかっているので、じゃあ何がやりたいんだろうと考えると、やりがいとか手ごたえがほしいよなあと。

 BtoBはある程度まではロジックで稼げるものだと思うんです。より難しいのは何かというとBtoC。生ものだけど、うまくいくと楽しいんですよね。

小林BtoCには感情論が入ってくるので、すごく難しい。

――ニデックさん(※)も憧れがあるって言ってました。お客さんと接したい気持ちが強いからゲーミングメガネ作りに気合いが入ると。

※ニデック:眼科の医療機器などを製造・販売するメーカー。プロesportsチーム・DetonatioN Gamingと協力して、ゲーミングアイウェア“G-SQUARE”を開発した。

小林まったく同じだと思います。BtoBでいちばん辛いのは、儲かる会社が出てくるとリソースをそっちに割かれちゃって、新しいことをやれなくなること。

――モチベーション的にもつらいし、会社の成長も停滞しちゃうんですね。

小林それに、BtoBとBtoCは求められるスキルがまったく別ものなんです。BtoBで優秀なスタッフがC4 LANの営業やれるかって言われたらできないですし、逆もそうですね。だから、BtoBで成功したら余計にBtoCに憧れるということなのかなと。

田原夢があって楽しい感じはありますね。たいへんですけど。

小林それに、一般のお客さんに近づく人ほど、BtoBの世界では偉いんですよ。

田原そっか。エンドユーザーですもんね。

小林CyACからの流れで、その感覚を疑似的に体験できていると思っているんです。C4を支持してくれるゲーマーがいますから。(企業さんに)スポンサーになってもらってますけど、みなさんすごく腰が低いんです。僕のいままでの企業との付き合いかただと、お金を出すほうが絶対に偉い。

 いまはまだ黒字にはなっていないけど、そういう部分を疑似体験できるのは仕事のモチベーションとしてすごく大きい。

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田原いろんなスポンサーさんがいらっしゃいます。規模が大きくなってきたので価格体系も変えていって、いまはわりと強気の価格になっていると思います。それでも応援していただいている企業さんは、目線が違うところが多いんですよね。「ゲーマーに楽しんでもらいたい」みたいなことを言ってくれる。

 我々に「こういうことをやってほしい」と要求するというより、「いっしょに盛り上げるためにできることはないか」みたいな観点を持ってくれています。

小林C4 LANを通してゲーマーと関わることをおもしろがっていただいている企業さんは多いみたいですね。

――すばらしい。みんなもそう言ってくれる企業の製品を買おう! この手のイベントへの出展って、短期的に黒字を狙える施策じゃないですよね。直接見てくれるのは多くて数千人ですし。

田原しっかり評価してマーケティング活動の一環としてやっている会社さんもいらっしゃるんですけどね。でも、やりたいから出展してるんですみたいなところが多い印象です。

――どちらにしても、スポンサーになる価値があると判断されている、と。

田原基本的に、ブランディングやイベント協賛はすぐに販売につながりやすいものじゃないですよね。セールスより一歩引いた概念とでも言いますか。

 協賛をしてリーチを求めるだけなら、ほかにもっと大規模なイベントはありますし、ネット広告だっていいわけです。それでもC4 LANに協賛してくれているメーカーさんは“より深くゲーマーとコミュニケーションを図りたい”というモチベーションを持っているのかなと。我々の場の特殊性から、現場でのコミュニケーションの“深さ”をご評価いただいているようです。

小林そういう流れは感じますね。C4 LANの参加者には発信力があるコアな人が多い。コアな人たちに好きになってもらえば、彼らのファンがつぎPCを買い替えるときに検討してくれるかもしれない。

田原企業さんと話すとき、リーチ数は思ったより話題に挙がらないんですよ。そこを大きくしたほうが手っ取り早く営業できるので、強化しようとがんばっているんですけど。レポーティングしたときも、リーチはおもな話題にはなっていなかったりします。

 最初の段階からその点を重視する企業さんが多いと思っていたので、僕も営業して意外に感じましたね。

――いろんな部分がうまいこと合致していますね。すごくざっくり言うと、C4 LANをきっかけにゲーマーと友だちになりたい企業が出てきている。

小林不思議なものですよ。

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つぎのステップに進むために必要なのは“発明”

――おふたりの話を聞いていると、ゲーム業界を盛り上げようとかイベントで稼ごうとは違う動機が見えてきますね。もっと原始的、ピュアとでも言いますか。

小林動機って改めて話そうとすると難しいですね。

――当然、しっかり利益を上げたいという気持ちもあるわけですよね。

小林それはまぁ、もちろん。CyACをやってたとき、利用者のゲーマーからどうやってお金をいただくかという課題はつねにありました。お金をくださいと言ってもらえるものじゃないから、“お金を払ってでも使いたくなるサービス”にしようと。

 田原君がいいことを言ってくれたんですよ。「それはもう発明するしかないですよ」。ゼロから作ることが発明だと考えていましたけど、すでにあるものの新しい利用法とか見方を作ることも“発明”だなあと。そういう言葉の定義を作ってくれたのは大きいかもしれないですね。

田原僕は覚えてないですけどね。適当に言ったから(笑)。

小林1000人のLANパーティーなんて日本にはない。だから、それくらいの規模の日本型LANパーティーは“発明”なんです。

田原ロジックで考えれば、コスト的に高いところを少なくする、入場料を高くする、法人からの収入を上げていく、これで黒字になる。わかりやすいですよね。ただ、ほかにも方法はあり得るわけです。それを見つけられるかどうかが、ビジネスとしておもしろくなるポイントだと思っていて。

――なるほど。

田原ふつうにイベントを運営するとなると、まずは構造を整理していくことになります。入場収入はいくらです、支出としての製作費はこれくらいです、とか。

 ただ、あの現場を使って、何か新しいビジネスと作ったり新しいシステムを作るとなると、それは別の話になってくる。東京で、少なくともあの規模で続けようとすると、おそらくそれが必要なんです。

 その“発明”が出てくるまで10年かかる可能性もあります。地代が安い別の場所に行くとか、そういうことを考えないといけない。

 事業としてうまくいってますと胸を張るには、ロジックでお金を整理するだけじゃなくて、新しい価値を作るところに行けないとダメなんじゃないか。そういうことを言いたくて“発明”と言ったんじゃないかなあ。

小林この言葉はすごくわかりやすいと思っています。ニチカレとしては新規の事業もけっこうやっています。うちの会社として初めてやることの場合は「これは発明に近い」と説明すると、けっこうみんな腑に落ちるんですよね。

 誰だって失敗を減らしたいので、どこかのうまくいった施策を持って来がちなんですけど、それはあくまで参考例。自分たちだったらどうするかを考えないと。C4 LANの考えかたはいろんな部分に波及してますね。

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本質の追求ができないことへの不満。そして、ついにゲーミング悟りが開く。

――そういう考えかたを踏まえたうえで、今回のC4 LANはいかがでしたか?

田原いまのC4 LANは発明の段階にあるんだなと実感しましたね。大規模化してからはイベント自体を回すことに囚われちゃって、何かモヤモヤしてたんですよ。

小林でかくすることばかり気にしていましたね。

田原発明のほうに誰も頭を使えないのがモヤモヤの原因だったと気づいて、いまはみんなすっきりした顔してます。今回はうまくいかなかった部分もあるけど、大発見としてそれがあった。

 本質の追求が全然できてなかったんですよね、ここ1年は。関係者のみんなもそれでストレスが溜まっていた。次回は“発明”という部分でいかに勝負できるか。時間はないんですけど。できる限りそういうところで抵抗していくと、我々の身になる部分もあると思ってるところですね。

――たしか「今回のC4 LANは気づきがあった」みたいなTweetしてましたね。その辺の話ですか?

田原まさにそれです。今回は設営や撤収が気持ち悪いほどうまくいったんです。予定は前倒しできたし、すごいスピードで物流も進んだ。トラブルもない。前回まではバタバタしながら何とかオープンに間に合う感じだったのに。ただ、すごくモヤモヤが残っている。何か気持ち悪い。

小林トラブルも予測できるんですよ。たぶんこうなるだろうな、予想通りだったね。対応もできてよかったね。これで終わっちゃう。

 きっとね、イベントとしてはすごくいいことなんです。でも、これで何か生まれたかと言われると、何もないんですよね。

田原ステージ周りの業者さんはイベントが本業なんですね。ゲーム系以外にも、いろいろな主催者を見ている人たち。そういう人から「過不足なくできるようになったからじゃないですか?」ってアドバイスをもらったんですけど、それも違うような気がして。新しいことにも挑戦してるよなーって。それなのに、この達成感のなさは何だ。スタッフがギスギスしている感じは何だ。

――答えが見えないとストレスが溜まりますよね。

田原C4プロジェクトのコアスタッフの中にはボランティアの人もいます。そういう人たちは、そもそもどうして入ってきてくれて、あんなに楽しそうにしてたんだっけ?

 やっぱり本質としてゲーマーが楽しんでいて、それを事業にすることにおもしろさを感じていていたから。それを全力で追求することが魅力的だったから、みんながまとまっていたんじゃないかなと。

 それなのに、大規模化して会場に引っ張られる形でうまく回すことだけ考えるようになっていた。まるでいまの現場が完成形であるかのような錯覚に陥っていたんです。我々としてはそんな意識はまったくなくて、まだまだ作ってる途中だと思っていたのに。

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田原いまあることの完成度を上げることにリソースが割かれすぎていて、新しい価値を作ることも本質を追求する議論も1年間まったく行われていなくて。

小林ルーチンに入ってしまったんだと思います。だから、みんなが何となくイライラしているような感じでした。

田原そこに単純な忙しさも拍車をかけてくるわけです。不満も出てくるし、不満の原因がよくわからないから、解決してもどうもすっきりしない。

 で、前日の設営のときにインターネット回線関連の障害がひとつ起きちゃって、当日の朝までいることになったんです。みんな意識朦朧としながら。

小林でも、それがよかったんです。あのときに、ふと気づいた。

田原疲れ切った状態で夜中にダラダラ喋ってたら何となく悟りを得たって感じですかね。

――ちょっと意味がわからないんですが。

田原仏教のお坊さんは修行をされますよね。肉体を追い込む修行して悟りを開くってこういうことなのかな、と(仏教的な悟りは苦行では開けないそうなので、それとは別のものです)。みんな頭をクリアにして議論しようって言いたがるけど、そうじゃなくて。

 疲れ切って意識があるかないかくらいの状態で、まとまらないまま話をしていると、みんなの気持ちが「それだ!」って一致する瞬間があるんです。いままでのモヤモヤはこれか! もしかしたら、これが悟りなんじゃないかと。

 本質をどんどん見誤っていくなかで気づいたんです。我々の価値は「ゲーマーはどうやったら楽しめるのか」を本気で考えて実現すること。これだけです。

――ゲーミング悟りが。

田原その結果が正しいかどうかなんてのは別の話ですけど(笑)。2020年は、おそらく大きな決断をしなきゃいけない年になります。そこに向けての準備が忙しくて、プレッシャーもあって、どうしようどうしようって不安になってたところもあります。そんな中で愚痴り合って、何も見えなくなっていた。もうね、限界です。

小林僕なんかは「成功してますね」とか言われるとうれしいんだよね。調子に乗ってないつもりでも、やっぱり。

 僕は成功していないと思っている。でも、周りは成功していると思っていて、僕もそれを言われるとうれしい。いろいろなことがズレている。違和感がある。

 そういう苦しさもありながら、床に寝転がってました。車から持ってきた毛布をかけて。

田原ステージに寝転がってましたね。マネタイズも僕が管理していて、発明が出てこない限りは、いまのまま続けるのは厳しい。事業として再評価する必要もあるな、と。続けるか続けないかも含めて。朦朧とした中で、そんなシビアな話もしていました。

――どこかで厳しい話をする必要はあるでしょうけど、まさかそんなタイミングで。

田原最初から事業計画としての予測はありましたけど、そこから外れるところもあれば上振れしてるところもある。再評価はしたほうがいいと思うんです。

 そこまでは、まあビジネスとしては当たり前の話。“いまあるものが完成形”という認識に、無意識のうちになっていると気づいたきっかけがその議論なんですよ。

小林限界の状態で話していたら、そこに気づけたわけです。このまま単純に1000席になったとして、それも違うよなあと。

田原当日はインターネット回線が厳しくて、かなり辛い状況のはずだったんですけど、スタッフは顔がすっきりしてましたね。今回は今回でめっちゃいい勉強になりました。

 我々は間違ったことはやってない。それでも、再評価と、本当にやりたかったことの意見のぶつけ合いをやらなきゃダメだと見えてきた。大きな発見でした。これがなかったら、たぶん再来年はやってないと思います。2019年内に重要なスタッフの大半が辞めてたんじゃないかな。黒字になったとしても、衰退するフェーズに入っていたと思いますね。

小林おもしろいことが起きないもんね。ただ人が集まっているだけ。参加したことない人は入れ替わりで入ってくるかもしれませんけど。

――ふつう、イベント運営で目指すのは大規模化と収益源の拡充だと思いますが、そこだけではないということですか。

田原もちろん黒字化を目指すのも事業の軸のひとつですけど、そもそも「東京でこの規模の会場だと黒字化しない。それを理解したうえでやってたんじゃなかったっけ」という話だったのに、そこからブレていたんですよね。

 参加者が増えているから黒字にできるかもしれないと、淡い期待が出たのもよよくなかった。まだまだ投資フェーズのはずなのに、無意識のうちにいまの状態をキープしようとしていた

小林ベルサール高田馬場で熱量高いものを作って、でかい会場にしたときにバーンと黒字になる、やりたいこともいっぱいできる。簡単に言うとそういうイメージがあったんですけど、それを忘れてたんですね。

田原我々の組織体がうまく機能したから気づけたんだと思います。スタッフはほとんどゲーマーで、ニチカレの社員だけじゃない。僕も社員じゃないですしね。フリーランスもいれば、毎週のように会議に参加してくれるボランティアスタッフもいます。彼らはつまんないと思ったら「辞めます」って言えちゃうんですよ。これは僕らにとって大きなプレッシャーです。

 彼らはおもしろいから来てくれてるんです。おもしろいチャレンジをしないとスタッフが減ってイベント自体を運営できなくなる。うまい構造ですよね。実際に、「このままだったら、つぎはもうやらんわ」って人も出てましたし。

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楽しいからという理由で参加するスタッフたちに支えられている。モチベーションを持続する状況作りが大切だ。

小林ギリギリの中での悟りミーティングの後に考えを整理していて、最初は僕が楽しんでること自体が端から見ていておもしろかったんだろうなと思えてきました。実際、僕もおもしろかったからいいんですけど。

田原イベントを私物化しているような雰囲気も含めてですかね。

小林正直なことを言うと、あの頃おもしろかったものは、いまはそれほどでもなかったりするんですよね。慣れもあるし、感じかたも考えかたも変わるものだから、当然と言えば当然ですけど。

 いまは心のどこかで“僕がおもしろがってる姿を見せなきゃいけない”というフェーズになっている気がします。

――いまあるもので満足せず、率先しておもしろいものを探しに行くようなイメージでしょうか。

小林そうですね。無理におもしろがっているわけではなくて。自分がそんなこと考えるなんて思いもしなかったですけど。

――小林さんの存在は、参加者のゲーマーからすると理想の社長像だと思うんです。いっしょに楽しむ人がイベントを開いてくれる。

小林今回いちばんおもしろかったのは習字を書かせるやつですからね。あなたにとって2018年のゲーム業界はどうでしたか? 漢字1文字で表してくださいってやつ。

――会場の隅にコーナーを作ってましたね。僕は“蝶”って書きました。

小林そうそう! これがまた絶妙なんだ。

――「これまでは芋虫。2019年には美しい蝶に変わって大きく羽ばたく」というのが表向きの意味なんですけど、虫だからよく見ると気持ち悪いという。ダブルミーニングです。

田原あー! なるほどね。めちゃくちゃいいじゃないですか。つぎからコメント欄があってもいいですね。エピソードとか意味合いを説明してもらいましょうよ。

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開催に向けてふだんからやっている活動

――少し質問の趣向を変えまして。C4 LANを開催するにあたり、ふだんから心がけていることや活動はありますか?

田原ずっとゲームやってます。C4 LAN直前の修羅場でも「きゃりーぱみゅぱみゅになりたい」とTweetしたときはだいたいゲームしてます。「おれが動いてもどうしようもない」と思ったら、とりあえずゲームすることにしてます。

 業界関係者になるとゲームしなくなる人も多いですけど、僕はいちゲーマーであり続けたいんですよ。あとは、何でしょうね。いろんなイベントを見学して勉強してます。QuakeConとか海外のLANパーティーにも趣味で参加してます。

小林田原君はいろいろ勉強してるなーと思いますよ。DreamHack(※)に行ったりね。

※DreamHack:スウェーデンで開催されている世界最大のLANパーティー。BYOC席の数は2万席超え。

田原ゲーム以外のイベントを見るのも好きですね。ゲームのイベントは形式が固まってきている気がして。つぎ行こうと思ってるのはボディビルの大会です。

――じつは僕も行きたいと思ってるところです。

田原まじっすか? いますごいらしいですね。テレビで話題になった後、すごく来場者も増えて。前日設営のときに、たまたま会ったイベント制作系の人から言われたんですよ。「この前めちゃくちゃおもしろい現場の設営をやったんです。日本初の国際ボディビル大会の決勝大会」って。

 もうね、「未知の世界ですごかった」と。テレビで見た通り、すごい褒め合い。前向きな声援が飛ぶから会場全体がすごく幸せな空間で。ラウンドが何回もあって、最後の大一番に向けてどんどん人が増えていくらしいんですね。会場のボルテージも明らかに上がっていくし、こっち(設営側)も楽しいし、すばらしい仕事だったと言ってました。

――祝福は最高のコンテンツですよ。誰も損しない。

田原負けたほうもお互いの努力を知ってるから、全員と握手して終わるくらいの勢いらしいんですよ。ほんとのスポーツマン。紳士です。

 C4 LANの壇上でいきなりボディビル大会やっても違和感がないと思ってるんですって言ったら、その方も「まさにそれを言おうと思ったんです。コラボしたらおもしろいですよ、ばっちり合いますよ」ですって。

小林おおおお、何それ何それ! 最高だね!

田原我々は何かを楽しもうとする集団になっているはず。特定のものがばかみたいに好きな人と、別のものがばかみたいに好きな人は、会話が成立すると思うんです。好きなものが異なっていても、好きな度合いが同じくらいなら。

――わかる気がします。たとえば、僕は野球が好きでサッカーはそれほどでもないんですけど、サッカー好きの人の話を聞くのは嫌いじゃないですね。

田原僕は生まれてからPCのFPSしかやってきてない人間ですけど、20歳くらいのときにやってたイベントの絡みで、格ゲーの人たちと仲よくしたいなと思ったことがありました。

 そのときは格闘ゲームをやらないと会話にならないだろうと思って少し挑戦したんですが、やっぱり自分はFPSのほうが好き。格ゲー自体はすぐ触らなくなったんですけど、案外その人たちとの会話に支障は出なかったんですよね。

 無理に同じ活動をやらなくても、何かに対する好きの度合いが同じくらいであれば、会話が成立するのに気づいたんです。

――C4 LANは「お前のそれ、めちゃくちゃおもしろいな」がたくさんある場所なんですね。同じように、ゲームが100好きな人とボディビルが100好きな人はわかりあえる可能性がある。

田原暴論ですけどね(笑)。あとは、自分が意識していることとしては、あの現場でいちばんゲームを遊び倒している、いちばんゲームが好きだと言える自信を維持するようにしています。

 海外の大会に出たのも関係してますし、それが高じてこういうイベントのプロデューサーやってるのもそうです。「ここまでゲームを遊び倒すやつおる?」ってなったとき、優勝できると僕は思っています。

 プロデューサーしての矜持です。命削って遊ぶくらいの勢いです。そうでもないと「お前のゲーム愛はそんなもんじゃねえだろ。もっと見せてみろよ」と説教して回れないですから。

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好きなタイトルやジャンルが違っても、いくらでもコミュニケーション可能。ゲーム好き同士は心の奥底でつながっている。

小林社長のライフワークは全国のゲーマーたちに会いに行くこと

田原小林さんは外交活動をしてますよね。会社としてというか、個人のライフワークだと思うんですけど。

小林全国のゲーマーに会いに行くのが好きなんですよ。ライフワークと言えばライフワークなんですかね。

 僕がCyACを直接やったり、esports系の団体に入ったのかというと、現場を知りたかったから。それまでも知識としては現場を知っているつもりでしたけど、ちゃんと体感したかった。

 業界団体に入って、そこに答えがあると思ったら、CyACと同じ悩みを抱えているんですよ。何ならどうやってCyACを流行らせたのか聞いてくる。

――勉強だと思って入ったところから、逆に助けを求められちゃったんですね。

小林CyACがやってきたことを参考にしてもらうぶんにはいいと思うんですよ。ただ、そこは僕が想像していた現場ではなかった。本当の“現場”ってなんだろうと考えたとき、やっぱりゲーマーだよな、と。有名だろうが何だろうが、片っ端から会って話を聞いてみようと。

田原C4の前くらいからでしたっけ。“ゲーマーに会いに行く”というテーマで、ひたすら小林さんがいろんな子にご飯をおごるという。イベンターじゃなくても無名でも、こいつおもしろいなと思ったら「めし食いに行こうよ」って声をかけちゃう。

小林最初は『コール オブ デューティ』のプレイヤーに会いに行きました。CyACで大会を開いていたので。話を聞くと、これがまたおもしろいんですよ。僕とはぜんぜん感覚が違う。彼らからしたら「やった、ただ飯が食える!」くらいだったと思うんですけど(笑)。

――本当の“現場”は、esportsの大会でも、それを主催する企業でも団体でもなく、ゲーマーだった。言われてみたら、そうですよね。

小林そう。まさに現場。そういうのを続けているうちに、各地でesports関係の協会がたくさん立ち上がってきた。こりゃ手っ取り早いやと思って、DMで連絡して会いに行くようになりました。

 話を聞くと、たいてい孤軍奮闘でがんばっていて、みんな不安らしいんです。LANパーティーやる? だったらノウハウ教えるよって。向こうはびっくりしますよね。

田原熱意はあるけど何やっていいかわからない人は多いでしょうからね。

小林ふつうはコンサル料を取られると思いますよね。いいからいいからって。めしもおごっちゃうし、何なら機材も持ってきて、いいからやれやれって。

――その善意は何なんですか?

小林これをビジネスにつなげたいとか、いやらしいことを言うのであれば、僕らのテイストを全国にばらまいて、C4 LANのちっちゃい版をやってもらったら、C4 LANに興味を持つ人は増えると思うんですよ。

田原LANパーティーに限らず、ゲームを楽しむ人たちが増えれば、僕たちが目指しているビジネスの土壌になりますからね。

小林最終的にフィードバックはあると思ってます。

――時間をかけて助けてきたみんなが集まってくる。少年マンガのクライマックスじゃないですか。

小林それだ!(笑)

田原あとは彼らの中から発明の種が出てくる可能性もある。みんながやりたいことを支援するのは、産業としては、産業というと大げさですけど、コミュニティの中で言うといいことだと思うので。

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地道な活動(趣味)でネットワークを広げ、それがいつしかC4 LANに還元されていく。気の長い話だ。

――最終的に、自分たちがやりたいことをやるために、いまは善意を振りまくタイミングなわけですね。よく言われる“ビジネスの種まき”だ。

田原とは言っても、半分は小林さんの趣味ですからね。

小林ライフワークと言ってしまえば、組織を作る必要がないんですよ。会社でやると営業を立てたり何だりしてフットワークが重くなる。プロデューサーとして全体を見ている田原君に報告をしないといけないですよね。僕が上の立場だったとしても。

 だけど、個人的な活動ですよと言えば、それをしない理由にもなる。

田原「小林さんが遊んでるだけですから」で済む。

――ゲームが趣味の社長が、空いた時間を使って日本全国の友だちのところに遊びに行ってると。

小林そうそう。C4 LANに関する活動ですと宣言すると「また何か仕掛けるんですか?」と勘繰られちゃう。そんな気ないのに。富山の地酒を飲みたいだけなのに(笑)。

 で、堺谷君(※)みたいに熱量のある子が悩んでいたりするわけですよ、当時。いろいろ話をしてね。

※堺谷君:富山県eスポーツ協会会長 堺谷陽平氏。プロゲーミングチーム“TSURUGI TOYAMA”を運営するほか、地元の酒蔵でオフラインイベント“Toyama Gamers Day”などを開催。

田原彼らから僕らも刺激をもらっているところがあるので、すごくいいコンビネーションだと思いますよ。

小林いまおもしろいなと思うのは、堺谷君と、大分の西村さん(※)と、Maraさん(※)かなあ。3人ともやることがめちゃくちゃですからね。自分が「こうしたい!」っていう意思が強くて、でも根が真面目なんだろうなと感じるんですよ。

※西村さん:大分県eスポーツ連合代表 西村善治氏。縁あってC4 LAN 2018 WINTERに出展していた。

※Maraさん:岡山県在住の『Dota2』プレイヤー 小笠原修氏。家業は牡蠣漁師。牡蠣を賞品にした大会“Dotaまらカップ”などで話題に。

ゲーマーを助けたい。『FIFA』の海外大会に挑む選手をふたりでサポート

小林話は逸れますけど、今回、あれやりましたよね。『JUST DANCE』。『FIFA』でマイキー君(※)を連れて挑戦したときを思い出しちゃった。

※マイキー君:世界的に人気のサッカーゲーム『FIFA』シリーズで活躍するプロゲーマー。

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ストリーミングチーム“RAD”のステージ企画はダンスゲーム『JUST DANCE』をみんなでプレイするというものだった。

田原ESWCですね。毎年パリで開催されている世界大会。

小林その中で『JUST DANCE』をやってるんですよ。まさにさっきのボディビルみたいに、みんなが褒めたたえて踊ってるんですよ。

田原予選で負けた人たちがメインステージの前に集まって、40人くらいが決勝で踊っている人とミラーで踊ってましたね。すごいハッピーなんですよ。盆踊りみたい。音楽もハッピーな曲が大音量で流れてるから、知らない人もノリノリになっちゃう。

 今回の『JUST DANCE』ステージは、C4 LANの制作チームからも好評でした。「このゲームめちゃくちゃおもしろいっすね」って。

小林つい写真撮ってTweetしちゃいました。「これでESWCに行きたいやついない?」って。

田原うりにゃんちゃんが行きたいんだったら、小林さんのポケットマネーで、ねえ。

小林ESWCに出たいんだったら全然考えますよ。

田原僕らがパリに行く理由になりますね。いいなあ。パリ大好きなんで。

――僕はそのうりにゃんって娘のことを知らないんですけど、どういう人なんですか?

田原『JUST DANCE』を今回のC4 LANに持ち込んだ方で、所属はRAD。アジアでは数少ない『JUST DANCE』ガチ勢です。コスプレして『JUST DANCE』をずっとやっていて、100万再生を超える動画もあったんじゃないかなあ。

 最近の『JUST DANCE』は日本語版は出てないですからね(過去にWii版が発売されたことはある)。『Quake Champions』ガチ勢に近いものがあるのが、彼女です。

――ハマってるのは『JUST DANCE』というクールなゲームだけど、精神的には『Quake Champions』勢と同じ。

田原どコアです(笑)。『Quake Champions』のやつらよりディープな可能性もありますよ。

小林毎年まだやってるのかな、ESWC。

田原(彼女は)前にオンライン予選には出たって言ってましたよ、たしか。大会側も国際色がほしいだろうから、日本人が参加するって言ったら喜ぶんじゃないかな。通訳とか選手のサポートとしてESWC側とやり取りしてるぶんには、そういう空気を感じます。

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小林ゲーマーに会う活動は、僕の中でしっかり糧になっています。その集大成がC4 LAN。田原君はC4 LANの統括プロデューサーですけど、最初はコンサル的なお仕事をお願いするつもりはなかったんです。こういう能力があることを知らなかったので。

 最初はね、マイキー君を助けてほしかったんですよ。英語ができて、海外でひとりで活動していた経験もあるから、力になってくれるんじゃないかなと。

――どんなスポーツでも、海外遠征は試合に集中しにくいと聞いたことがあります。プレイ面以外のことをサポートしてほしかったわけですね。

小林マイキー君はオンライン対戦だと(海外勢にも)勝てるんですよ。事前準備ができないから負けているんだろうなと。

 聞いたら準備を全部ひとりでやっているらしいんですね。通訳がいるくらい。こりゃいかんと思って「田原君っておもしろいやつがいるけどどうする?」ってマイキー君に聞いたら、彼も藁にもすがるくらいで。

田原ちょうど前職の会社を辞めてフリーになったタイミングでした。1週間後にパリに行ってくれないかと飲み会で頼まれました。

小林そこから6~7年ぶりくらいに(田原君との付き合いが)復活しました。台湾の『Quake』大会に出るときにスポンサーになったのが最初だったんですけど。

田原直前のブートキャンプもやってなくて、ぶっつけ本番で会場入りしてると聞いて、それじゃあ勝てないよって。

 日本と海外のトッププレイヤーは、能力的には似たり寄ったりなんですよ。ただ、スタイルが違う。ヨーロッパは本場なのでいろんなスタイルがあるから引き出しが多い。日本人のプレイヤーからすると戦ったことがあるスタイルが少なすぎるので面食らっちゃうんです。

 事前の調整さえできれば結果にはつながるんじゃないかな。こういうのはサッカーゲームとか『Quake』だけじゃないと思いますけど。

――飲み会に呼ばれたと思ったら「パリに行ってくれない?」。

小林急にお願いしたわりに食いつきはよかったよね。おもしろいじゃないですか、そんなやついるんですか? って。

田原PCがあればどこでも仕事はできたし、そのときはそんなに忙しくなかったので。

小林2回目の挑戦で本戦に進んだんだよね。ベスト16かな。泣けましたよ。マイキー君と田原君がかっこいいんですよ。

 最初は全然勝てなくて、ようやく1勝しても、もう顔がげっそり。そしたら田原君がバチーン! って(マイキー君の)顔を張ったんです。「よくやった!」って。鳥肌立った。うおおおお! このふたりかっこいいー!

田原サッカーゲームって見てて戦況がわかるじゃないですか。あれは(心臓に)よくない。わからないゲームだったら気楽に観てられるのに。胃がめっちゃ痛い。

小林サッカーの試合を1日に何試合も観るのはよくないね(笑)。

田原それでいて、こっちは細かい話まではわからないから。

――アドバイスもしようがないですよね。うわー、もどかしい。

田原論理的にどう考えるべきかは手助けできるかな。ロジカルシンキングはプレイヤーより一歩引いて見ている人のほうがしやすいので。こういう分析をしたらどう? って投げた後、本人に消化してもらう。

 あと、負けたプレイヤーの中には応援してくれる人もいたので、彼らから意見をもらうこともありました。スポーツマンシップのある選手も多いですよ。

小林トッププレイヤーのコミュニティはしっかりできてる印象はありました。

 いやー、いま思い返すとやっぱりかっこいいわ。ふたりの空気の中に入れないんですよ、僕みたいなおじさんは。できるのは「Good Job!! Good Game!!」って言うくらいです。

田原小林さんね、最悪なんですよ。小さい予選ステージなんで、柵のすぐ向こうで試合やってるんです。「ああああああ、だめだよだめだよ、負けちゃうよー」ってずーっとぶつぶつ言ってるんですもん(笑)。

小林もうね、不安で不安で。

田原どっか行ってくださいよ! って話ですね(笑)。それを(小林さんの)息子さんに話したら「僕がテニスやってるときといっしょ」ですって。

――そういうスポーツ観戦おじさんいますよねー。

田原せめて「枠に入れろー!」とか怒鳴ってほしいですよ。それなら前向きにもとらえられるから。

――いちばんのスポンサーなんだからやさしく接してあげてください(笑)。それだけ信頼があるからなんでしょうけど。

小林みんなで同じユニフォーム着てね。日の丸つけて。あれはいい経験でしたよ。

田原だてに15年もesports事業やってないですから。国際大会で選手に帯同してサポートするのもずっとやっていて、運営面も含めて見てるから、いかに海外の大会がすごいのかを知っている。

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ゲーマーと話すことが好きで、仕事に対するヒントもたくさんもらっていると、小林さんは語る。C4 LAN会場でも多くの参加者と世間話を楽しんでいた。

ゲーマーのコミュニティはマッドマックスのようなもの

田原僕がいろんなゲームコミュニティーを見てきた経験として、ひとつわかったことがあるんです。

 みんながいろんなことを言いだして、リーダーがそれをまとめて最大公約数的な幸福を求めようとすると、どんどん特徴がなくなって、疲弊していくんです。コミュニティが大きくなるほど顕著ですね。堺谷さんにも伝えたって言ってましたっけ?

小林その辺のアドバイスは少ししたかな。

田原我々は独裁なんですよ。おれがやりたいからやっていく、おれがこう思うからこうする。そういうやり方をすべきだと思っています。あとは、それについてくる人がいるかどうかだけの話です。

 周囲に人が増えるほど、「こうしてほしい」という声も多くなります。それをそのまま鵜呑みにするだけだと、自分がどんどんつまらなくなっていくんですよね。コミュニティの参加者も尖りがなくなって、ただのよくある場所になってしまう。

――平均値は高くなっていくけども。

田原段階にもよると思いますけど、「自分がやりたいから」を軸にすべての決断をしないとダメです。少なくとも僕はそう思いますね。多数決を取り始めたら終わり。

 独裁するために大切なのは、ふだんの生活からいろいろなものを吸収すること。みんなの感覚に近づけると逆の話になっちゃいますけど、自分に共鳴してくれる人にとってのおもしろさがどこにあるか、客観的にも評価できるように努力する。これは若い子には伝えたいです。

 学級委員長になると、つまらなくなるだけじゃなくて、不良が調子に乗るんです。不良が安心してほかの人に嫌がらせできる。独裁だと「てめえは二度と来るんじゃねえ」と、すぐにバンして終わり。

 僕の中ではゲーマーのコミュニティは荒野。マッドマックスです。多数決なんて取ってる場合じゃないですよ。

小林堺谷君も最初は悩んでいたみたいですね。僕は田原君みたいなタイプと組んで動いているから、そういう部分で悩んでいると、これっぽっちも思ってなかったんですけど。

――僕の中では中小規模の集まりがたくさんあるのが“ゲーマーのコミュニティ”のイメージでした。それぞれの意見でまとまっているような。

田原それでいいんだと思います。合わない人が出てくるのは問題じゃない。だったら、その文句を言う人が別のコミュニティを作ればいい。それだけの話ですよ。

 学級委員長になっちゃうのは、いまの学校教育とかも影響しているかもしれないですね。パッと見の正解を求めちゃうんです。

小林どこの県のどこの協会の人も、なかなか腹が決まらないんです。批判されるのは怖いですから。

田原自治体の名前が付いているようなところは公共性も気にするだろうし、仕方ないんですかね。

小林僕がいつも言うのは、まずは自分のことを信頼してくれるコアな10人が楽しめる場や状況を作る。そこからスタートして、つぎはコアな30人にする。30人いれば100人のイベント作れるよ、と。これまでの肌感なので根拠はないんですけど、正解を求める人が多いので、指針を提案してあげたほうがいいかなと思って。

 「まずは10人でいい」は適度にキャッチーですよね。「スタッフだけでも5人いるから、あと5人か」って。そのステップをクリアできれば、熱量と勇気を持てる。これもある意味、除霊かな。

田原当たり前なんですが、若い子ほど独裁で進めるのに抵抗感が強い。あと予算をかけたきれいなイベントがいっぱい開催されるようになったのも大きいかな。「イベントはこうあるべき」みたいな固定観念がすごいんです。

小林そうそう。きれいにやろうとしちゃう。

田原そうじゃなくて、たとえばカフェを借りて、手作りのイベントで全然いいじゃん。楽しいよ。本質は見た目をパリッとさせることじゃない。これは伝えていきたいし、我々も見失っちゃいけない。

小林つねにそこに立ち返る準備はしておかないと、やっぱりブレますね。

田原我々もきれいになってきましたけど、あれをやるのが目的ってわけじゃないですもんね。パリッとしてないほうがゲーマー的におもしろいんだったら、そっちを狙っていきたい。

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――ゲームをおもしろがるにはどうすればいいか。大事なことはシンプルですね。

小林大学生とか若い子は、言ってくる意見が生々しいんですよ。だから、ゲームがおもしろいのがいちばんだよねって立ち返れる。僕は若い子だからって下に見ることは絶対ないし。

田原そもそも“大会をやる”のもそこなんですよね。大会がイベントのテンプレートになって、esportsがバズワードになり、大会をやれば人が集まる、ゲームイベント=大会と刷り込まれている気がします。

 でも、大会を何でやりたかったんだっけ、何で出場したかったんだっけという議論はあんまりないですよね。議論したところで、言葉としての結論は似たようなものになるからなんでしょうけど。イベントやサービスをやる理由は、くり返し考えたほうがいいと思うんですよね。

――手段と目的ですよね。大会をやるのは“いちばん強いやつを決めたらおもしろんじゃないか”に対する手段。目的ではなく。

田原それが多いと思いますね。ただ、ゲームによってはそんなにいちばん強いやつ見たかったっけ? とも思います。

小林対戦ゲームをやるからには相手を倒したい、自分が強いと証明したい、認められたい。そういうストレートな言葉でいいんだろうなと思います。

――それを実現するための手段として、大会を開きましょう、と。

田原がんばってそういう思考をしているのは、“LANパーティをやる”という発想だけだとC4 LANは事業としてはものにならないと感じているからだと思うんですけど。

小林イベント主催者の中でも(開催理由に)悩んでいる子はいますね。「日本一でかい大会を開きたいです。だけど、自分はプレイヤーとしてトップに立ちたいんです」って言うから、「何で両方とも目指さないの? 両方目指しちゃいけない理由があるの?」って聞いたら、ありませんと。「まだ努力が足りないんじゃないの?」って言ったら吹っ切れてました。

――メジャーリーガーの大谷翔平選手みたいだ。大会運営と選手の二刀流。

小林そうです。ピッチャーとバッター両方やったらいいんですよ。彼も考えを整理して「そもそも強いやつとやりたいから。大会がなかったから自分で大会やりだしたんだ」って。

田原原点回帰ですね。「おれより強いやつに会いに行く」じゃないですよ。「おれより強いやつ、かかってこい」で大会を始めたんだから。目的を言語化して自分で再認識するって、ものすごく大事ですよ。

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小林続けるために、やりかたはいろいろあるわけですよ。入場料を上げたりね。入場料を上げる考えは持ったほうがいいってアドバイスもしてます。コミュニティの話に戻りますけど、それで出ていくやつは出ていけばいい。きみがやりたい(すばらしい)大会はほかのやつには作れないんだから。

田原値上げも悪いことじゃないですからね。全体数からしたら参加者は減るかもしれないけど、たとえば3000円くらいにして、どんな人が残るか見るのもいいんじゃないかなあ。

――すごい強豪しか残らないかもしれないし。そうなったら“強いやつと対戦したい”っていういちばんの目的は達成できます。

田原C4 LANでは2018年冬に値段を上げて、来場者は1300人弱でしたね。春より微増かな。料金を上げて一気に売り切れたからよかった。ある人に9000円から12000円に上げるから不安なんですって相談したら「いやいや、それ足りないですよ」なんて言われました。

 イベントの料金を上げるにはいろいろな理由がありますけど、上げたイベントは人が増えるんですよって。何を言ってるんだろうと思ってましたけど、実際に増えたからびっくりしましたね。

――いい環境といいサービスをきちんと求める人は高いほうが安心できると聞きます。

田原喫茶店とかでもそういう話はありますね。チェーン店としては高いほうでもファンが多かったり。

――C4 LANが持つ空気が浸透してきたから、「プラス数千円くらいは微々たるものだな」みたいに考える人は多いと思います。

小林ありがたい話です。

田原値上げする理由は“値上げできるという環境に到達した”からというのが多いと思うんですね、あらゆるビジネスで。お客さんが入ってなかったら値上げはできないので。それが功を奏することもあるかもしれませんけど、基本的には。

 いま思えば、総合的に評価して、一般論として値上げをしたらより人が来ますよというのは、そういうことなのかなと。

――C4 LANは「儲けたいから値上げします」と宣言しても、チケットを買う人は買うだろうなと思います。なくなったら困るから儲かってほしいですもん。

田原似たような来場者の声もあるんです。少数ですが、「料金を上げてほしい」という声も、あるのはたしかです。

 でも、ただ料金を上げるのはあまりしたくないかなあ。上げるんだったら、そのぶん何ができるのか、考えたいと思っています。できるかぎり勝負したい。よりベターな体験になるようにしたいですね。

小林CyACの話のときに出ましたけど、理想は“(高い)お金を払ってでも受けたいサービス”ですから。

田原DreamHackのいちばんいい席は3万円以上するんですよ。最初は「3万かー。さすがに高いなあ」とは思いましたけど、中のサービスを見ると非常に納得のいくもので、むしろ安いかもしれないくらい。

 我々はドリンクを安く売ってましたけど、たとえば1日に何本か付いてくるのもいいですよね。悪い気分はしないし、在庫の管理もしやすい。利益にもつながるのでwin-winにできるんじゃないかと。

LANパーティー運営の腕前はめきめき向上中

――事業としてのひとまずの目標は“黒字化”だというのは何度か仰ってますけど、そういう直接的じゃない部分でやりたいことはありますか?

田原コミュニティとの信頼をどう担保するかはずっと課題ですね。こちらが主張できるルールには限界があって、コミュニティにいろいろお任せしている部分があるので。スポンサーさんに対しても、ゲーマーに対しても、できるかぎり介入しない理由のひとつはそこにあるんです。

 介入はしないようにしているんですが、ちゃんと健康的にご飯を食べてほしいなあとは思ってます(笑)。

――ゲームがしたいからご飯を食べに行く時間がもったいないという気持ちはわかりますけどね。

田原会場の中は食べものが足りないんですよね。 HERO SUMMIT(※)ではお店がどん引きするレベルで食べまくったみたいで。

※HERO SUMMIT:C4 LAN 2018 WINTER会期中に近くのイタリアンカフェバー“Cucina Caffe OLIVA”で併催されたバイキング形式のパーティー。

小林すごくおしゃれなイタリアンなのに、参加者の雰囲気が学食みたいでした。

田原食べものが置かれているテーブルの前に、お皿と箸を持って立ってるわけですよ。急かしてるわけじゃないのに、オープンキッチンから全部見えちゃうからシェフの人たちが軽く殺気立ってたらしいです。

小林料理人としてのプライドですよね。待たせるのは嫌だし、腹を空かせて帰すのがいちばんかっこ悪い

田原お願いしていた分量よりも20%くらい多く出してもらえたんじゃないかな。男が多いのでパスタとかピザとか炭水化物を中心に出してもらってるのに、サーブした瞬間になくなる。一瞬ですよ。

小林いい年した参加者も若い子もバクバク食いますから。

――タワーディフェンスゲームですね。迫り来る参加者に対して料理を配置していく。

田原お店の社長さんもシェフも、最後に言ったひと言は「疲れた」じゃなくて「おもしろかった」ですから。バーテンさんは爆笑してましたよ。こんなスピードで料理がなくなるのは初めて見たって。

小林(参加者は)ピザ食ってチキン食ってカレー食って、なんですけどね。

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スポンサーのサイコムはピザを、サードウェーブ(ドスパラ)はチキンを提供。写真にはないが、アイ・オー・データ機器は同郷(石川県)の名店・チャンピオンカレーを用意した。

田原参加人数が増えてるので。700人くらいは会場の中にいて、(スポンサーが提供するフードを)食べられる人は200~300人くらい。全然ご飯を食べない人もいるんだなーって思いますね。

――そこはケアしたいところですよね。健康は大事ですから。

田原そうなんですよ。あそこに泊まる人も増えていますしね。体調を崩すのがいちばん心配。

小林参加者の様子を見ていて、勉強になったというのが今回の印象ですね。発見もありました。

田原不測の自体が起きてもすぐ対応できるように工夫はしています。専門家や消防・警察署、各機関に相談しながら。今回はより安全にするために通路を広げたりしました。タンカも用意してましたし。

 詳細は伏せますけど、じつは僕たちよりかなり上の世代の方から「仕事をリタイアしたので、esportsやゲーム関連のお手伝いがしたい」と申し出があったんですね。スタッフとして入ってもらったら、とにかく優秀で、さらに柔軟なんですよ。

小林月イチペースで滋賀(の本社)に行ってくれてるんだよね。で、パトロールと受付とキッティングと。その辺を全部チェックしてもらっています。

田原僕とかとコミュニケーションしながら、総務側の作業をまとめる役目ですね。きっちりやってるつもりでも抜け・漏れは出るので、いっしょに動いて細かくマニュアル化していってます。きらびやかなところ以外を下支えしてもらっています。

――かっこよすぎる。タフですね。

小林その人がすごいのは、上から俯瞰して指示を出してくれるだけでもありがたいのに、現場に直接入ることなんですよ。

 「まだ至らないところは多いです。1回目はいち選手(スタッフ)として現場を見てもらえませんか?」とお願いしたら、返事は「最初からそのつもりです」ですからね。

 バリバリ動いた後は問題点を洗い出してくれて。かっこいいでしょ? それ以降、こちらで大きく手を入れたことはないですね。お願いしますとしか言ってない。

田原マニュアルはいい感じにできあがってます。まだ抜けはあるかなと思いますけど、“LANパーティーを上手に運営する”という部分に関して言えばいいものになってますよ。

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つぎのテーマは“健康”。ストレスなく遊べるイベント作り。

田原今後は地方で開催する可能性もあります。そのときのために、参加者の予算を上げておきたいんですね。席料は1~2万円ですけど、宿を取って参加している人は、交通費もろもろを含めると5万~10万円くらいかかっていると思います。

 そういう予算の平均値をできるだけ引き上げておくと、地方で開催しても参加してくれる確率は高くなるかなあと。

 都内だと席料が2万円だとして、たとえば名古屋だと1万2000円になったとするじゃないですか。遠征組は差額でホテルを取ったりできると思うので。

小林コミュニティの子たちには偉そうに「値上げを検討するのもいいよ」とアドバイスしてるのに、こっちはそんなに上げてない。それも変な話なので田原君に相談しているんですけど、何かしらの意味を持った値上げがいいですからね。

田原言っていただいてよかったと思います。

小林やっぱり現場(プレイヤー)なんですよね。現場でええかっこしいなことを言ったからには、自分たちもやらないと。

田原東京開催といまのサービスを基準にして、新しい何かをつけた場合、僕の中でのちょうどいい落としどころは1万5000円くらいなんですよ、いまのところは。

小林“新しい何かをつける”と言っても、すごく大がかりなことをするんじゃなくて、ストレスを減らす方向ですかね。ドリンクを何本かつけるとか。

 今回の施策でいちばん気に入ってるのが、各席にごみ袋を置いたことなんです。これは田原君のアイデア。

田原やっぱりなるべく席から離れずにゲームしたいじゃないですか。散らかるのも嫌だし、パトロールしながら回収したら便利だなーって。

小林じつを言うと、スタッフの中では反対の声のほうが多かったんです。ごみを集めるのは地味にたいへんですからね。でも、僕は「これだよー! C4 LANらしいセンス!」って。こういうのはゲーマーじゃないとわからないですよ。

田原これも本質のところです。高いお金を払ってるんだから一秒でも長く遊びたいはずなので。

――たしかに、そういうのは意外と盲点かも。

小林お金をかけずに満足度を上げる。かかるお金はひとりあたり100円かそこらですけど、ストレスは減ったと思いますよ。そのほうが手作り感も出ていいんです。

田原ふつうの人からしたら謎ですよ。サービス向上のためにごみ袋を配りますって言われても。それは向上なのかピンと来ない。僕はそれをわかってリストに加えてるんですけど。

――サービス向上に大切なのは、便利な何かを増やすよりも“どれだけ不便をなくせるか”なんだろうなと思います。

小林そういう考えかたは大事ですね。見えないところでいろいろやってるんですよ。通路を広げたのもその一環。

田原通路を広げた結果、誰かの席の後ろに集まって遊びやすくなりましたよね。

――それ実感しました。今回は会場内を歩き回りやすかった。

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後ろの通路が広かったため、席を囲んでゲームがしやすかった。

田原「広くすると荷物を置かれちゃうよ」とか「広くして席数を減らす必要ありますか?」とか、そういう意見もありました。これは説明するとめんどくさいけど、当事者にならないとわからないから、今回はこの通路幅でいかせてくれと押し通したんですね。

 やってみたら正解でした。後ろで見ていられて、会話もしやすい。

小林僕はもっと雑で。「通路の幅はこれね、うん了解。席はどれくらい用意できるの?」って、それだけ。

――田原さんの感覚を信頼したわけですね。

田原広ければ救急搬送が発生してもスムーズに動けますしね。ただ、指摘された通り荷物を置く人は増えた印象はありました。その辺りの対応は考えてるところです。あと床で寝る人が出ちゃって。床で寝るなよ、踏んじゃうよ。

小林パトロールの体制も考えないとね。知らないうちに倒れてたみたいなのも困るし、安全に遊んでほしい。

 つぎのテーマに加えたいのは健康かなあ。料金を上げたとき、より健康的に遊べるよ、みたいな。雑な振りかたで申し訳ないけど。

田原ヘビーにリミックスしたラジオ体操でもやりますか。

――健康は大事。ちゃんとご飯を食べるとか。命削ってゲームするのもいいんですけど、アングラな不健康ゲーマーの集団になるのはよくないと思うんですよね。

田原まあそうですね。わかります。命削るのは精神論。十分に休養を取ってからゲームしたほうがおもしろいですもん。疲れてイライラしながらするゲームはおもしろくない。

小林事故が起きないような安全面も含めて、参加者が健康的に遊べるようにしたいですね。

 パトロールも、ごみ回収も、通路を広げるのも、お金をかけてるわけです。見えにくいところですけどね。もしかしたら田原君は目に見えるサービスが大事って感覚かもしれないけど、僕は見えなくてもいいと思っているんです。快適さに気付かないくらいのほうが。

――それがホスピタリティの本質かもしれませんね。

小林スタッフの間でもときどき意見は分かれるけど、僕から「これをやれ」と強制したことは一度もないんです。強制した瞬間に正解や答えを求めるロジックで考えて、そっちにまい進するようになっちゃうから。そうすると、「我々の本質は何だったのか」という議論に戻ってしまいます。だから、こういうふわっとした振りかたをするんです。

田原今回はここが変わりましたと変更点を出したりしますけど、アピールのつもりはあまりないんです。来てくれる人は、お客さんではなく参加者。“イベント”という名のゲームのプレイヤーみたいな感覚です。あれですよ、(変更点は)パッチみたいなものです。

――オンラインゲームのアップデート報告だ。

田原そうそう。パッチを当ててバランス調整しているんです。その感覚をみんなで持てたらゲームっぽくていいですよね。

小林こういう発想は僕にはないんですよね。ゲーマーならでは。正解はないものと考えたほうがおもしろい。

田原何かを変更して不便になったとして、クソパッチって言われたらいいですね。「何だよクソ運営」とか言われたらね、おもしろいですよ。

小林さすが大人気FPS『Quake Champions』をやってるだけのことはある。

田原癖の強い集団の気持ち、めちゃくちゃわかりますから。あの集団は30代半ばもいれば20歳くらいの子もいます。彼らがいろんな活動をして、それが伝播してほしいと思ってます。ほかのコミュニティーも、あんだけ楽しんでほしい。

――ああいうのは愛おしいですよ。この子たちゲームが好きなんだなーって。

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1000席を超えるとばかになる。C4 LAN進化の方向性とは?

――今後の進化の可能性として、どういう方向があると思いますか?

田原2019年は、スケールアップさせるというより、中身をいかにおもしろくできるかの戦いになると思います。C4 LANを始めたばかりのときとは環境が違うんですよ。参加者の数も性質も違うし、スポンサー企業さんについてもそうですね。

 だから、2019年は再構成する時期だと思っています。結果として、見た目は同じイベントになるかもしれないけど、いったん本質から立ち返ったうえで今後を考えたい。いろいろ進化させたいですけど、新しいことをぶち込む年ではないかもな、と思ってます。

――目に見える派手な動きは少ないかも、ということでしょうか。

田原たとえば、オンラインとの連携で何らかのおもしろいことができるかもしれない。どこかのイベントと組んで動くのもあり得る話です。

――何かのイベントの併催ですか?

田原そういう可能性もゼロじゃないですよね。海外のLANパーティーは併催が圧倒的に多数。興行や展示会が横についていて、我々はみんなで遊ぶ。集客で協力はできるでしょうから、お互いが得意なことを分担しながら質と数を広めていく。win-winになると思います。

――たしかに、一般論としてはあり得る話に思えます。

田原C4 LAN自体をより大きくしたい気持ちもあります。これは半分ロジック、半分情緒的。海外には5000席とか1万席規模のLANパーティーがあって、僕にとってはそれが当たり前なわけです。規模が1000席を超えた頃から、あからさまにばかになるんですよ。

――それ、ずーっと仰ってますよね。

田原参加するとわかるんですけど、笑っちゃうんですよ。ばかだなーって。みんなの体験を上げる観点でやりたいのがそれです。

――イベントとして規模を大きくする。いわゆる正当進化ですね。

田原僕の個人的な思いから来るアイデアもあります。まだ答えは出てないんですけど、協賛していただいている楽しいメーカーさんのブランドと、コアなゲーマーたちが、もっとコミュニケーションできないかと思っています。

 いまは物理的なスペースからいろんなコミュニケーションが図られている状況です。もっと踏み込んで、ひとりひとりの体験に関与できる気がするんですよね。そのブランドを好きになる体験ができればお互いおもしろいな、と。

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C4 LANにはいろいろなタイプの参加者が足を運ぶ。この辺はPCのカスタム自体を楽しむ“MOD PC”勢。
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オリジナルの水冷PC。本体が左右にスイングし、中の液体の揺らぎでパーツ類を冷やすのだとか。発想がよくわからない。
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三層構造のアタッシュケース型デスクトップPC。液晶ディスプレイの反対側にパーツ類が収められている。
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デジタルゲームだけでなく、アナログゲームを遊ぶのもあり。
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もちろん真剣にプレイするのも最高だ。

――大きくするのなら、C4 LANをフランチャイズ化する手もあるとは思いますが。

田原以前は可能性としてはあったんですけど、いまのところ僕らはやるつもりないですね。

小林最初は大分県でC4 LANをやろうとする動きもありました。でも、いまはいったん白紙に。田原君は反対してたよね。

――日本全国でいろいろなタイプのLANパーティーが開かれたほうがおもしろいのでは、ということですか?

田原そうですそうです。地方でLANパーティーが開かれるとして、それを大々的にC4 LANとして主動したり、何らかの利益をいただいたりする案もあったんですけど、僕は猛反対。C4 LANが全国に出張ると、その地方のLANパーティじゃなくなっちゃう。その地方のリーダーがやりたいことができないんですよ。

 我々の介入は、まさに学級委員長を産む瞬間。立ち上げからそんなことやったら絶対につまらないし、ビジネスとしてもうまくいかないと思います。やっぱり、大分なら大分の人が勝手に名前をつけて、勝手に突っ走るLANパーティーがあって、それを我々が下支えしたほうがいいと。

――その地方の仲間意識は強まりそうですね。

田原あと、イベントには地域制が出てきます。大分で突っ走るには、大分の人が大分で考えて大分でやらないといけないんです。僕らが大分でおもしろいことができるかと言ったら、できないですよ。東京のイベントの大分輸出はできますけど、それをやる必要があるのかという話で。

小林ないよね。やっぱり。

田原大分は別府とか温泉とかの雰囲気を活かしたLAN、岡山だったら瀬戸内LANとかね。マネタイズも含めて全権を握ってもらう。それぞれがやってもらうほうがアイデアは出るし、当人たちもおもしろいですよ。そもそもおもしろくないと続かないので。

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大分県eスポーツ連合はC4 LAN 2018 WINTERに出展し、ブースで物産展を開いていた。2019年3月30日~31日に“別府おんせんLAN”を開催予定だという。

――最初のほうの話にも共通しますね。

田原何らかの形で支援したいとは思いますけどね。それでかかったお金をどう回収するかはつぎの話。我々が大きなことをやるときに、潜在的な来場者が増えるという仮説を立てられるかもしれない。もうひとつは、彼らのイベントが大きくなって仮に事業化したら、我々が制作を請け負ってリクープするのも考えられます。

 立ち上げはぶっ飛んだことをやりたい放題やってもらう方向で。それを全面的に応援しましょうというのがいまの立ち位置です。

小林C4 LANに来てくれる人は経済的に余裕のある人も多いですから。きっかけがあれば全国に行くと思いますよ。それぞれの地方のイベントでLANパーティーを好きになってもらって、C4 LANにも来てもらえたら。

――理想的な展開ですね。個人的には大分県のLANパーティーが気になってます。別府市の市長はネットの施策に積極的なので、興味を持ってくれないかなあ。

田原じつは自治体側からちょくちょく連絡があったりするんですよ。このままC4 LANが全国の物産展になったらおもしろいんだけどな。

――「物産展と言えば東武百貨店。そのつぎがC4 LAN」と言われるくらいに成長したらアツい。

田原1000席になった暁には47都道府県ぶんがほしいですね。この前の大分県の出展みたいなミスマッチさはなくなるでしょうけど、親和性は高いですよ。

 地方からの参加者は3割くらい。彼らはお土産を持ってくるんですよ。地方から来た人がアンテナショップとほかの参加者の間に立つ形でアンバサダーになれるんです。

――なるほど!

田原彼らはその土地のうまいものを知ってるから宣伝に嫌味がない。本人が買って配り始める可能性もある。

小林友だちに勧められたら買っちゃいますよね。大分県のブースで売っていたかぼすジュースは郵便局でも扱っているらしいんです。郵便局で働いてた人が「これめっちゃうまいよー!」っておすすめしていて、ほんとにみんな買うんですよ。で、実際にうまい。

――全国物産展 in C4 LANはそんなに夢物語じゃない気がします。

田原我々はバーンって派手な興行じゃなくてひたすら地味なことをやっていきます。地に足のついた目線が得意。重力が強いんで。

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後片付けもみんなで楽しく。「C4 LAN、最高ー!」。

 一般的なインタビュー記事では本筋とは無関係の内容はカットしたりもするが、今回はなるべく残す方向で編集した。田原氏と小林氏の人柄も併せて伝わったのなら幸いである。

 ひたすらゲームを遊ぶ。“ゲームを遊ぶとおもしろい”というピュアな感情をみんなと共有する。それがLANパーティーだ。ゲーマーなら一度は参加してみてもいいと思う。

 さて、次回の“C4 LAN 2019 SPRING”は、2019年5月10日~12日に東京・ベルサール高田馬場で開催。C4 LAN 2018 WINTERの閉幕時にイメージムービー込みで発表された。

 もちろん僕も参加予定である。さぁ、ゲームをしよう。