2023年4月20日発売のアドベンチャーゲーム、『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』。本作のPCレビュー版を入手したので、その内容を紹介しよう。
なお本作の対応プラットフォームは、プレイステーション5/プレイステーション4/Xbox Series X|S/Xbox One/Nintendo Switch/PC。XboxとPCのGame Passにも対応する。
多様な種族が暮らす雨のシアトルに温かな一杯を
本作の舞台となるのは、今からほんのちょっと先の未来、雨が降り続ける2023年9月のシアトル。オークや吸血鬼などの多様な種族が暮らすもうひとつの現実の中で、プレイヤーは夜間のみオープンするコーヒー屋“コーヒートーク”のバリスタとして働くことになる。
バリスタとしての仕事は、大きく分けてふたつある。まずひとつは、店にやってきたお客にコーヒーなどの温かな飲み物を作って出すこと。そしてもうひとつ、彼らの話に耳を傾けることだ。
飲み物作りよりも聞き手としてのストーリー体験がメイン
ゲーム内容としては本作の前章となる『コーヒートーク』とほぼ同様。店の外に出ることもないし、飲み物作り以外でセリフなどの選択肢などを求められることもない。基本的にストーリーを読み進めていくのがメインのビジュアルノベルスタイルの内容となっている。
キャリアの行き詰まりや理想の結婚、生き方の模索、差別や誤解がある中での生活など、ファンタジー種族の要素がミックスされながらも、彼らの悩みはリアルで現代的だ。そんな彼らにあまり能動的に口を挟むことなく、ほっと安心する一杯を出しながら相手していく、聞き手としての物語が展開されていく。
そんな中で、かろうじてわずかにプレイヤーが“選択”して干渉できる要素が、どんな飲み物を出すかだ。うまくいけば記憶を刺激して話が弾んだり、好印象を得てなにかのきっかけになるだろう。
飲み物作りにプレイスキルは求められない。お客は「バタフライピーを使った物をなにか、ミルクはなしで」とか「温かいココアで甘いものを」といった希望のテイストを伝えてくれるので、そこから推測してベース(コーヒーや茶葉など)とメイン・サブの材料(ミルク、シナモン、ミントなど)を選べばオーケー。
ちなみに「正解」になるドリンクが完成した時は、大抵の場合は実在の飲み物の名前やオリジナルドリンクっぽい名前になることが多い。逆に、単に素材名が羅列されたものができあがった場合はだいたい間違いなので、怪しい時はもったいないが廃棄を選ぼう(1日あたり一定回数可能)。
外れのものを作ってもゲームオーバーではなく話はそのまま進むのだが、正解を導き出すためにどんなレシピが実現可能なのか知っておきたい場合は、飲み物作りに特化した“エンドレスモード”を事前にいくらかプレイしておいて、いくつかレシピをアンロックしておくといい(アンロックしたレシピはゲーム内スマホのアプリから確認できる)。
ストーリーに干渉できる新要素“預かりもの”
ところでサブタイトルにある“ハイビスカス&バタフライ”とは、今作からの新材料であるハイビスカスとバタフライピーのこと。しかしこれらの材料は選択肢が増えただけで、ゲームの進行自体が何か変わるわけではない。
一方、同じく新要素である“預かりもの”は、もっと直接的に大きくプレイにかかわるものとなっている。キャラが帰る際に、その忘れ物やほかのキャラへの預かりものとしてアイテムを入手することがあり、それらを別の機会に飲み物を出す際に取り出して渡せるのだ。
預かりものを入手する機会は限られているが、「この人に渡してみたらどうなるんだろう?」と思って試してみたりすると意外な反応があったりしてなかなか面白い。
ゲーム内SNSの中でも進行する物語
公式サイトでの紹介に記載されていないユニークな新要素が、ゲーム内SNS“トモダチル”のストーリーズ機能。今回はネットがテーマの話も多く、新キャラのストーリーとも結構関わってくるので、こまめにチェックするといいだろう。
トモダチル自体は前作にも登場したが、それは「それぞれのキャラクターとの関係が深まると細かいプロフィールを知れる」という程度のものだった。しかし今作ではそこにストーリーズが加わり、Twitterのようなタイムライン形式で各キャラクターの投稿を読める。
そしてコレがなかなかいい。キャラ同士の直接的なやり取りはもちろん、ひとり言のような投稿から感じられる性格、どんなテーマの投稿が多いか、誰がイイネをつけているか、イイネが何個ついているかなど、それぞれは本当にちょっとしたものなのだが、そのキャラを掘り下げるサブテキストとして優秀だ。
それぞれの境遇と悩みを抱えながらも生きるキャラクターたちの描写は、『コーヒートーク』の最大の魅力だと思う。今回は店での会話だけでなく、そこに彼らのSNSへの投稿という違ったアングルのテキストが加わることで、描写を立体的に深めている。
派手さはないが、それがいい。充実した第2章
というわけで本作、ゲーム的に新しい体験を提供する『2』というよりも、より話を深めていく“エピソード2”というのがふさわしい内容になっていると感じた。前作でのゲームデザインと執筆を共同で手掛けたMohammad Fahmi氏は昨年亡くなってしまったが、今作の開発チームはしっかりその物語を受け継ぐものを仕上げたと思う。(※Fahmi氏はそれ以前に独立して別作品『Afterlove EP』の開発に移っていた)
派手な展開があまりなく、個人個人の小さな決断や物語をじっくり追うテイストが合わない人もいるかもしれないが、むしろこの丁寧で静かなストーリーテリングが他にはない『コーヒートーク』のいいところ。前作が気に入った人なら文句なしに勧められる。
強いて難点を挙げるとすれば、物語の分岐部分が分かりづらかったり、リクエスト内容からレシピがピンと来ない時に当てずっぽうの総当りっぽくなってしまうあたりだろうか(もうちょっとサポートする仕組みがあってもいいとは思う)。
前作をプレイすべきか?
さてシリーズものであるがゆえに、「前作をプレイしたほうがいいのか?」という疑問を持つ人もいると思う。必須かと言われればそうではなく、本作だけでもそれなりに楽しめると思うが、正直に言うと個人的にはイエスだ。
というのも先に書いたように、『コーヒートーク』はシリーズとしてストーリー体験の比重が非常に大きいゲームだ。そしてエピソード2は新キャラなども織り交ぜつつ、多くの旧キャラが登場し、前作からのその後の新たな展開が描かれるものとなっている。
多分、本作でのやり取りだけでもちゃんと読めば過去に何があってどういう関係性になったのかという前提を知れるものの、それは1本のゲームを通じてじっくり体験するのと比べると、やっぱり単なる背景情報としての解釈になってしまう。なのでちょっともったいない。
旬を逃すとアウトというタイプのゲームでもないので、「このゲームちょっとやってみたいな」とか「なんかちょっと気になってたあのゲーム、2が出るんだ」と思った人は前作からプレイしてみるのをオススメしたい。