名作SF映画『トロン』シリーズを題材とする2Dアドベンチャーゲーム『トロン: アイデンティティー』を紹介しよう。日本語にも対応し、Nintendo SwitchとPCで2023年4月12日より発売される。

『トロン』世界を舞台にしたマルチエンドの短編アドベンチャーゲーム

 本作の舞台となるのは、擬人化されたプログラムたちが暮らすコンピューターの中。彼らをセットアップした“クリエイター”が去って長い時間が経過した、そんな創造主なき世界である日事件が起きる。

 その中の一つのセクションである“リポジトリ”で爆発が起き、「何かが盗まれた」らしいのだ。独立した探偵プログラム“クエリ”である主人公は、事件の真相を追うためにリポジトリに呼び出され、調査を行うことになる。

『トロン: アイデンティティー』
トロンでおなじみのライトサイクルなどのガジェットも登場。

 ゲームとしては主にテキストベースで進行し、クエリの行動や他のプログラムたちとの会話の選択肢によって事態が分岐していくというマルチエンディングの短編ゲームとなっている。

 語り口はハードボイルドな探偵物語風で、それぞれ異なる信念を持った癖のある“プログラム”たちが登場。さまざまな思惑が絡み合うなか、クエリは関係者たちを尋問しつつ真相に迫っていく。

『トロン: アイデンティティー』
警備が手薄になった隙をつくように出現した怪盗プロキシ。怪しい、怪しすぎるが……。

 展開によって対立したプログラムをあっさり消去(デレズ)してしまったりするドライな世界観なのもあって、「もしここで別の対応をしてこいつが生きていたら……」と違う可能性を模索したくなるのだが、2時間前後で一応のクリアーが可能だし、早送り機能などもついているのでリプレイもしやすい。

『トロン: アイデンティティー』
単に選択肢で直接分岐するだけでなく、以前の選択の影響で別の反応が出てくることも。

物語の鍵を握る“デフラグ”パズルゲーム

 もうひとつの要素として、事件の影響で部分的に喪失した関係者の記憶を復元する“デフラグ”がストーリーの鍵のひとつとなっており、パズルゲームとして登場する。これを解くことで新たな手掛かりが手に入り、話が進行するという寸法だ。

 このパズルは一種の柄合わせ/数字合わせゲームになっていて、以下のようなルールになっている。

  • “+/2”や“▽/0”など、それぞれマークと数字を持ったカードが弧の形に並べられた状態でスタートする。
  • 場に出ているカードを1枚選び、2つの条件を満たしたカードに重ねると重ねられた方を消せる
    • 条件1 同種のマークか同じ数字のカードを消せる
    • 条件2 選んだカードの隣または3つ隣のみが対象になる
  • 指定された枚数までカードを減らせたらクリアー
  • カウントダウンまでに消さないとカードを増殖させるもの、ターンが来ると入れ替わるカード、ランダムに登場してカードの間に挟まる障害などのギミックもある
『トロン: アイデンティティー』
基本ルールはこんな感じ。最初のうちは「こんなん解けるのかよ」って感じだけど、やってみて慣れると割となんとかなったりする。

 コツを掴むまで最初は手こずるかもしれないが、慣れてくると有利な形を作ってガンガン消していけるようになって地味に面白くなってくる。パズルのみを解くモードもあるので、気にいった人はそちらをプレイするといいだろう。

 ちなみに詰まった時は巻き戻しもできるし、AIのヒント機能があるほか、そもそも苦手な人はスキップしても大丈夫な仕組みになっているという親切設計だ(解いた事になって話が進む)。

コンパクトに濃縮して描かれるアナザーストーリー

 本作を開発したBithell Gamesは、往年の名作インディーゲーム『Thomas Was Alone』に始まり、スパイもののストーリーを高速な変則ソリティアで表現した『The Solitaire Conspiracy』など、ユニークなゲームデザインとストーリーテリングの融合を得意とするインディースタジオ。

 今回は『トロン』を扱うことになるが、実は大手のIPを扱うのはこれが初めてではなく、アクション映画『ジョン・ウィック』シリーズをストラテジーゲーム仕立てにした『John Wick Hex』を手掛けており手慣れたもの。

 本作は出てくる場所は“リポジトリ”のみで登場人物も限られているが、その中身は丁寧で濃い。『トロン』の抑圧的で冷ややかなコンピューター世界を、サブテキストなども交えつつオリジナルストーリーでじっくり体感させてくれる。

 また“オートマタ”なる独立系種族の大使“シエラ”などオリジナル設定のキャラが出てきたかと思えば、原作映画でも大きな存在である“フリン”についてのショートテキストなどを読めたりして、ファンとしてもなかなか楽しい。

『トロン: アイデンティティー』
たまに背景に表示されている白いポイントをチェックすると、関連するサブテキストを読める。やっぱり文体が渋い。

 なお、権利元であるディズニーのオフィシャルファンクラブ“D23”に掲載されたインタビューでは本作が“Bithell Gamesとディズニーによる『トロン』のゲーム化コラボの始まり”と表現されており、どうも複数のプロジェクトが予定されている模様だ。

 ではまったく『トロン』を知らない人がやったらどうなのかと言うと、ハードボイルドなSFモノとしてサブテキストもガッツリ読み込みながら世界観に浸れる人にはいいんじゃないだろうか(物語上の“謎”の解明はあまり本質ではないので、単にストーリーを追うだけだと物足りないのではと思う)。