Frogwaresの探偵アドベンチャーゲーム『Sherlock Holmes The Awakened』が2023年4月11日から12日にかけて順次対応プラットフォームで配信される。

 本作の対応プラットフォームはプレイステーション5/プレイステーション4/Xbox Series X|S/Xbox One/PCおよびNintendo Switch。今回PCのレビュー版を先行でプレイしたので、その内容をご紹介しよう。

“ホームズ×クトゥルフ神話”がテーマの初期作品のリメイク

 本作はウクライナを拠点とする同スタジオのシャーロック・ホームズシリーズから、初期作品をリメイクしたもの。2021年発売の『シャーロック・ホームズ チャプター・ワン』から続く、若きホームズと彼と出会ったばかりのジョン・ワトソンの冒険が描かれる。

 テーマとなるのは原作通り、“ホームズ×クトゥルフ神話”。ホームズたちはロンドンで起きた失踪事件の調査をきっかけに、スイスやアメリカのニューオーリンズにまで足を運び、旧き神を信仰する者たちの国際的な陰謀に迫っていくこととなる。

『Sherlock Holmes The Awakened』
舞台は1882年。シックで暗くていい感じ。
『Sherlock Holmes The Awakened』
ダークで怪しい感じたっぷり。
『Sherlock Holmes The Awakened』
謎の呪文もちゃんと出てきます。

シャーロックとワトソンが犯罪捜査コンビとして成長する“チャプター1.5”

 先に今作の最も優れた部分を挙げてしまうと、それは“チャプター・ワン”の続きとして語り直された物語だろう。天才的な推理力を持ちながら心に弱さを抱えるホームズと従軍経験から来るトラウマを引きずるワトソンが、力を合わせて奇怪な事件を追う中で、単なる同居人から真の友人としての関係性を構築していく様子をじっくりと味わえる。

 ワトソンは“チャプター・ワン”ではエンディングのみの登場だったが、今作では捜査を進めるためにワトソンとして行動する場面が何度もあり、さらには短いサプライズ的なものではあるが完全にワトソン単独で進めるエピソードもあって、なかなかの活躍を見せてくれる。

『Sherlock Holmes The Awakened』
ホームズたちが回収した書物には何やら異形の神について記されているようなのだが……。

 また今回、個々の現場がほぼすべてひとつの大きな事件に繋がっているのも特徴と言えるだろう。ロンドンでの捜査で浮かんだスイスへ行き、そこから次の手掛かりを求めてニューオーリンズへ……といった具合に一本のホームズ映画のように進んでいく。

 なのでいくつもの事件を解決する推理モノというより、ホームズ&ワトソンの“チャプター1.5”の物語を味わうアドベンチャーゲームとして楽しむのがベストだと思う。

『Sherlock Holmes The Awakened』
手掛かりを頼りにとある邸宅に向かうと、そこはすでに凄惨な殺人現場と化していた……。

戦火の中での開発という厳しい事情はわかるが難点も

 さて肝心の謎解き要素はというと、細かな違いはあるものの、基本的な捜査・推理システムはチャプター・ワンのものを継承。その流れは、現場捜査や聞き込みを行って手掛かりを得て、現場の証拠から当時の状況をイメージしたり、“記憶の宮殿”で手掛かりを組み合わせて仮説を組み立てたりして真相に迫っていくというものだ。

 このシステム自体はすでにシリーズで確立されたものをベースとしているので安定している。だが悩ましいことに、全体的には支障なく興味深く捜査を進められるのだが、謎の作りそのものには何箇所か問題がある。

『Sherlock Holmes The Awakened』
まずは現場検証から……。
『Sherlock Holmes The Awakened』
ニューオーリンズの沼地でホームズが手掛かりから導き出したのは、生贄を前に行われた儀式。禍々しくて大変よろしい。

 というのも、ところどころ「むやみに見つけにくい場所に手掛かりが隠されている」とか「なぜそれがヒントになっているのか特に理由が見当たらない」とか「ワトソンに切り替わったシーンでも記憶の宮殿にワトソンが知らないはずの内容が項目にある」といったような、妙に雑な作りの部分にしばしばぶち当たるのだ(そもそも記憶の宮殿はホームズ固有のものだろうという問題はこの際置いておこう)。

『Sherlock Holmes The Awakened』
異形の神の像の前で憔悴しきったホームズを発見するワトソン。もっとこう、ふたりの認識の違いから謎を解くとかあっても良かったなぁとか思ったり。

 同じように最終盤のパズルもギミック自体は悪くないのだが、一見どこからでも解けるのに、指定の順番で解かせるために後からころころ仕掛けが増えたり障害の配置が変わるのを見ると、どうしても「プレイヤーを足止めするために作ったパズル」をやらされている感じがしてしまう。

 また、本作での独自要素としてホームズが迷い込む心理世界のパズルパートがあって、その超常的な表現自体は本作のテーマやトーンにも沿っていて特徴と言えると思う。しかしその中のパズルが毎度のようにやたらと自傷的だったりすると(わざと飛び降りたりデストラップに引っかかる必要がある)、次第になんともいえない気分になってくる。

『Sherlock Holmes The Awakened』
狂気の世界の描写そのものは悪くないんです、悪くないんだけど、そこの仕掛けがね……。

 本作はそもそもロシアによるウクライナ侵攻の中で、完全新作に取り掛かるのは難しいなかでも開発可能なプロジェクトとして企画され、実際に爆撃による停電などの影響をモロに受けながら開発されたという(公式YouTubeアカウントに上がっている映像には、兵士として防衛戦に参加しているスタッフの映像なども出てくる)。

 なのでそんな中でも仕上げた事自体はとんでもなくすごいのだが、もっと物理的・精神的な余裕があれば“ホームズ×クトゥルフ”という絶好の題材のリメイクとしてもっと完成度を上げられただろうことを思うと、なんともやるせない思いになる。

推理モノとして考えるか、ドラマを重視するか

 というわけで、推理を求めるのか、ホームズの物語を求めるのかで評価は変わってくるだろう。個人的には「ドラマ重視のシリーズファンなら」といったところで、完全に新規の人がいきなりプレイするのはあまりオススメしない(それだったらチャプター・ワンを先にプレイしながら価格が下がるのを待った方がいい)。ちなみに、ゲームのサイズ的にはクリアーまで7時間前後といったところだ。

『Sherlock Holmes The Awakened』