2023年3月10日にPLAIONより発売された近未来風ミステリーJRPG『異夢迷都(イム メイト) 果てなき螺旋』(以下、『異夢迷都』)。対応機種はNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)。本作を発売に先駆けてプレイしてのレビューをお届けします。
本作はJRPG(日本で独自に発展したRPGの様式)を謳いながらも、ビジュアルノベルやカードゲームといったジャンルの要素も取り込んでいる意欲的な完全新規タイトルです。さらに、世界設定としては近未来でありつつ、探偵と祓魔師のダブル主人公……。
その“ごった煮感”が魅力である一方で、総合的にどんなゲームなのか、わかりづらい面もあると思います。今回のレビューは、『異夢迷都』の構成要素を切り分けて書き記すことで、このゲームの魅力が、本来届くべきゲームファンに的確に伝わるものを目指しました。
荒削りな部分もありますが、間違いなく唯一無二の魅力も備えたタイトルです。あなたの求めるゲームかどうか、見極めてみてください。なお、レビューはPS5版のプレイをもとに執筆しています。
『異夢迷都(イム メイト) 果てなき螺旋』公式トレーラー
九龍城砦のようなロケーションも。“旧上海を模した架空の近未来都市でくり広げられる探偵×サイバーパンクSF”な世界観にビビッとくる人は要注目!
『異夢迷都』がどんなゲームか気になっている人にまず注目してほしいのは、これからお見せするスクリーンショットの数々です。
グラフィックの品質は近年の大作タイトルと比べると落ちるものの、ビジュアル全般の“特定の趣向の人のツボを突いてくる感じ”はかなりのもの。
本作の舞台は旧上海を模した架空の未来都市。“良人”と呼ばれるアンドロイドたちが人間の生活をサポートしていたりと、サイバーパンクな設定が、ノスタルジーを呼び起こす街並みとの融合を見せています。
いまは廃れてしまった建築様式の建物群に、派手な色彩の電光掲示板が並び、バーチャルアイドルの巨大なホログラムが存在する区画も。現実には1993年に取り壊された九龍城砦を思わせる住宅地域もあったりと、その場に佇むだけでうっとりしてしまう人もいるのではないかと思います。
退廃的なビジュアルからピンと来る人も多いかもしれませんが、一部の科学技術は現代社会より進んでいながらも、この都市の経済状況は決して豊かなものではありません。貧富の差は拡大しており、下層の区画で働く労働者は、健康被害に苦しんでいる場合も。人々の対立や諍いは避けられない状況です。
そして彼らの不満や欲望といった強い感情が、人知れず“凶渦”と呼ばれる魍魎の活動を活性化させている中、物語は幕を開けます。
利害の一致により集う“はみ出し者たち”が、都市に巣食う闇を暴く
私立探偵の“何某”が、知人である情報取引所のオーナー“鉛鶴”から、とある調査依頼を受けるところから始まる『異夢迷都』のストーリー。調査を進めているうちに、何某は凶渦が跋扈する異空間へと迷い込むことに……。凶渦に襲われる絶体絶命の状況から救ってくれたのは、“鍾馗”と名乗る祓魔師。鍾馗は凶渦をすべて狩り尽くすことが自分の使命であること以外、過去の記憶はすべて失っていると言います。
調査を続けなければならない何某と、凶渦を始末するために行動している鍾馗は、利害の一致から協力することに。現実世界の調査は何某が、調査により場所を特定した異空間“巣窟”の探索と、凶渦の始末は鍾馗が担う形で、ふたりの共同戦線が始まります。
本作は章仕立てで進行していきます。何某が暴くべき真実には、さまざまな事件が複雑に絡んでおり、ふつうの人間には知覚できない凶渦の存在も関わっているため、なかなか全容がつかめません。
章を重ねるごとに、何某のもとに新たな事件の情報が舞い込みます。調査は一筋縄では行きませんが、そこで待っているのは困難ばかりでもありません。調査の過程で助けることになった人々は、協力者としてその後の何某たちの活動をサポートしてくれる場合も。鍾馗とともに凶渦と戦ってくれる人物が現れることもあります。
何某と鍾馗はもちろん、その後に仲間になる人物たちも、利害の一致から手を組むことになるはみ出し者ばかり。お互いを罵り合ったりと、チームワークと呼ぶには程遠いやりとりを見せることも。それでいて、重要な局面ではそれぞれの適性を活かして事件を解決していく様は痛快で、章ごとに連作小説を読んだような読後感が味わえます。
ストーリーの進行はノベルゲーム風の画面構成で行われる局面が多いのですが、緊迫のシチュエーションでは3DCGによるムービーや、マンガ風のコマ割り表現により躍動感を演出。こうした演出のバリエーションの豊かさも、キャラクターたちに“生きている”感じをもたらしています。
バトルはオーソドックスなターン制、しかし“リキャスト制のスキル”などの独自要素で、臨機応変な戦術が求められるやりごたえある仕上がり
事件の調査を行う過程で見つかる凶渦の痕跡。鍾馗は、ともに暮らす良人である“天眼”の力を借りることで、痕跡から巣窟の座標を特定して、裂け目を作って出入りすることができます。この巣窟が一般的なRPGで言うところのダンジョン。
先に進むために謎解きをこなさなければいけない局面もあるものの、頻度も難度も低め。一般的なJRPGと同様、このパートの重心は、鍾馗と戦闘能力のある仲間たちによる、凶渦とのバトルにあります。
凶渦とのバトルは序盤のうちこそ「けっこう難度は低めなのかな?」と思ったものの、パーティーメンバーが3人、4人と増えるあたりからなかなかの歯応えに。攻撃の属性相性や、スキルを使うタイミング、メンバーどうしのシナジーをよく考えて戦わないときびしい局面も出てくるので、ターン制のバトルが好きな人なら燃えるはず。育成方針を練るのも、悩ましくも楽しいものになっています。
本作でパーティーメンバーがバトル中に使えるスキルは、通常攻撃扱いのもの以外、一度使用すると数ターンのあいだ使えなくなり、その後また使えるようになる、いわゆるリキャスト制。MP(マジックポイント)を消費するような形式ではないので、ある意味ではその後の探索のことなど気にせず、つねにそのとき取れる最善手を選択するようなアグレッシブな戦いかたができます。個人的にはこれがすごくいい!
もうひとつユニークなのが、本作では味方側のHPがすべてのパーティーメンバーで一本化されている点。誰かが倒されると大幅に戦力がダウンし、一気に大苦戦……といったことがなく、「運悪くひとりが集中攻撃に遭う」といった理不尽も感じづらい、かなり合理的なシステムのように感じました。この点でも「敵のターンでHPをゼロにされてゲームオーバーになるか? それとも生き残れるか?」というシンプルな駆け引きに全力を注ぐことができます。
各パーティーメンバーはレベルアップするたびに“タレントポイント”をひとつ手に入れます。これを振り分けてバトルが有利になる“タレント”を習得していくのですが、各メンバーのタレントにはそれぞれ“陽の儀”と“陰の儀”というふたつの系統が設定されており、高度なタレントを習得するにはどちらかに特化して覚えていくのが有効。
それは選ばなかったほうのタレントはいったん切り捨てることを意味するため、自分の戦略に合ったタレントがどういったものなのか、慎重に選ばなければいけません。
タレントには攻撃力や防御力、HPなど基礎能力を向上するものもあれば、リキャストのためのターンを減少させるといった、特定のスキルの使い勝手をよくするものも。鍾馗の場合、“魚腸無刃(全体攻撃スキル)で多くの敵を一度に攻撃するとリキャストのターンを短縮”、“二重天(単体に強力な攻撃を放つスキル)で敵を倒せばリキャストのターンがゼロに”などの効果を持つタレントを習得すれば、使いかた次第で強力なスキルを連発できます。
凶渦が複数同時に出現した場合、なるべく早く数を減らしたくなりますが、凶渦の攻撃を無効化するスキルや回復スキルをこまめに使ったほうが被ダメージを抑えられる局面もあり、バトルはつねに悩ましい選択を迫られることに。
「ほかのメンバーの補助スキルを使って、鍾馗の攻撃力を活かせば倒し切れるか?」
「敵の弱点属性を考えて、鍾馗以外のメンバーが攻撃に徹するべきか?」
「それとも、カウンターが使えるメンバーに凶渦の注意を引き付けて、反撃を狙うか?」
「はたまた回復スキルがまた使えるようになるまで、防御力を上げるスキルに徹するか?」
メンバーたちの成長度合いに加え、ターンによってはリキャストの関係で使用できないスキルがあるため、その瞬間に考えられる最善手は、状況によって変わってきます。これを試行錯誤するのが楽しく、またバトルのマンネリ化軽減にも一役買っているように思いました。
レベル上げや強力な武器・装備の入手はサブクエストや“ランダム巣窟”で
メインストーリーで訪れる巣窟は一度倒した凶渦は復活せず、また一度クリアーした巣窟には再び入ることができない本作。仲間たちのレベルを上げたり、より強い武器・装備で戦力増強を図りたい場合は、何某による調査パートでサブクエストを請け負ったり、“ランダム巣窟”に挑戦することになります。
メインストーリーに関わる巣窟は複数の階層に分かれていたりと、ボリュームが大きいものが多いのですが、それ以外の巣窟は比較的コンパクト。サブクエストの巣窟ではクリアー報酬としてアイテムやお金が手に入り、ランダム巣窟では巣窟内の宝箱から何度でもアイテムが手に入るため、これを売却してより強力な武器・装備を手に入れるといったこともできます。
装備できる武器種はパーティーメンバーごとに2種類用意されており、初期装備の武器に耐性のある凶渦には別種の武器を使ってみるのが有効な場合も。一部のスキルは武器種ごとに固定されているため、戦いかたが大きく変わり、新たな立ち回りが編み出せる可能性もあります。
パーティーメンバーごとに装備する武器とは別に存在する“装備品”の概念も本作はユニーク。HPゲージと同様にこちらも一本化されており、メンバー全員に影響を及ぼします。装備の組み合わせによってはシナジーが発生し、パーティーのレベルが上がるとより多くのスロットがアンロック。最終的には9つの装備を同時に装着できるようになります。
“マインドブレイク”――カードゲーム的な駆け引きで、秘密を抱えた者の口を割れ!
何某による事件調査のパートに存在するユニークな要素が、天眼の力を借り、秘密を抱えた人物の精神世界に侵入することで口を割らせる“マインドブレイク”。ここではカードゲーム風のミニゲームで、自分の精神力がゼロになる前に相手の精神力をゼロにしなければいけません。
プレイヤーが自由にカードデッキを構築することはできないものの、鍾馗といっしょに凶渦と戦ってくれるパーティーメンバーが増えると、新たなメンバーに対応したデッキがアンロックされる仕組み。さらにパーティーメンバー絡みのサブクエストをクリアーしていけば、そのメンバーに対応した“アドバンスデッキ”が手に入り、戦いかたはさらに広がります。
あくまで『異夢迷都』におけるメインとなる駆け引き要素はJRPGらしいターン制のバトルにあるので、マインドブレイクではすでに構築されたデッキを使用するという手軽さがちょうどいい塩梅。それに、どのデッキも異なるコンセプトにより組まれているため、使い分けが楽しい仕上がりになっています。
マインドブレイクでは、対象となる人物の精神への直接攻撃以外に“心魔”と呼ばれる対象の精神を守る物体への攻撃が可能。心魔がいる状態では対象の攻撃力や抵抗力が上昇するなど、厄介な効果を生み出します。
複数の心魔を放置した状態で対象への直接攻撃を決行するのは無謀である一方、倒しても心魔は数ターンで復活するので、「どんな順番で、どの心魔を倒せば本体を効率よく叩けるか? そのために効果的なカードの組み合わせはどんなものか?」と戦術を練ることに。
先ほど「メインの要素ではない」と書いたものの、このマインドブレイクでもまた、熱中度の高い駆け引きが味わえます。
唯一無二の魅力に惹かれたなら、この世界に飛び込むべき!
さまざまな先行作品の“いいとこ取り”でもありつつ、魅力的な世界観やキャラクター、捻りを加えられたゲームシステムにより、総合的には唯一無二の魅力が味わえる『異夢迷都』。一方で、少々気になる難点も少なくありません。
より強力な武器を購入しようと思ったとき、使わなくなった武器や装備を売却してお金に替える局面が多い本作。にも関わらず、売却時に複数種のアイテムをまとめ売りできないのがなかなか面倒です。“武器商人”とアイテムを買ってくれる“旅商人”が別の区画にいて、行き来するときにいちいちロードを挟むのも快適とは言えません。
メニュー画面を抜けたときなどに、一瞬だけ操作を受け付けない“間”が生じることがあるといった、技術的な問題も見受けられました。
バトル時は、攻撃対象を変更するときに入力する方向キーが、見た目の敵配置から直感的に想像できるものとは異なる場合があるのも気になります。また、タレントの習得によってスキルの性能が強化されても、これがバトル中の説明文に反映されないのも少々煩わしい部分。
日本語ローカライズの品質はなかなか高く、物語のおもしろさは十二分に伝わってくるのですが、テキストにときどき誤字脱字が見受けられたのも残念でした。
ほとんどはアップデートによる改善に期待できる部分ではありますし、こうした荒削りさも含め、完全新規タイトルらしい味わい、または猥雑な世界観に合っていると好意的に楽しめる人もいるのではないかと思います(筆者はわりとそういうタイプです)。
最後にいろいろ付け加えましたが、先ほどまで書いてきた本作ならではの魅力に強く惹かれたのならば、恐れる理由はありません。『異夢迷都』の世界が放つ魅惑の物語に、ぜひとも溺れてみてください。
『異夢迷都(イム メイト) 果てなき螺旋』
- プラットフォーム:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)
- 発売日:2023年3月10日発売
- 発売元:PLAION
- 開発元:Arrowiz
- 価格:5280円[税込]
- ジャンル:アドベンチャー
- CERO:15歳以上対象
- 備考:Xbox Series X|S、Xbox One、PC版はダウンロード専売