スクウェア・エニックスより配信中のNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC向けソフト『パワーウォッシュ シミュレーター』。
高圧洗浄のプロとしてさまざまな依頼を受け、対象をひたすら洗い流す……というシンプルなゲーム性が話題を呼び、世界中で大ヒットしているタイトルです。
Switch『パワーウォッシュシミュレーター』(マイニンテンドーストア) PS5/PS4『パワーウォッシュシミュレーター』(PS Store)2023年1月31日のSwitch、PS5、PS4版の発売と合わせて配信された『トゥームレイダー』とのコラボDLC(ダウンロードコンテンツ)も話題となった本作。
さらに2023年3月3日午前2時より『ファイナルファンタジーVII』とのコラボとなる無料DLC“ミッドガル特別依頼”が配信されることが発表されました。
今回は、『パワーウォッシュ シミュレーター』をこよなく愛する筆者が“ミッドガル特別依頼”を先行プレイ(Steam版)する機会を得たので、先行レビューという形でその偏愛を語り尽くします!
洗浄に取り憑かれた人間が本作に気づいた!
幼少のころから「水回りの汚れは心の汚れ」という家訓を叩き込まれたおかげで、いまも洗面台やキッチン、風呂などはつねにキレイでないと落ち着きません。水滴が残っていようものなら、雑巾で乾拭きしないと気がすまない性質です(ほかは汚れていてもまったく気にならない)。
学生時代に縁あって清掃会社でバイトしていたのですが、「掃除をしたら絶対にキレイになる」という当たり前のことに感動。清掃会社の社長さんに「真面目にやれば30代で家が建つぞ」とそそのかされ、本気で就職を考えたこともありました。
20年以上前の話とはいえ、清掃のバイトではここには書けないようなアレコレを体験させていただき、よし悪しは別としてたくさんの鮮烈な思い出が残っています。その中でも印象深いのが、ビルにあった雨水などを貯める大きなタンクの清掃でした。
残っていた水を排出してタンクの中に入り、内側に付いた汚れを高圧洗浄機で洗い落とす職人さんをサポートするという仕事だったのですが、季節は夏。送風機を使って空気を循環させても、死ぬほど暑い。
洗浄機の水圧が強烈で汚れが跳ね返ってくるため、ゴーグルとマスクも手放せません。汗やら泥水やらで全身ぐしゃぐしゃなのですが、手作業では到底取れないであろう汚れが高圧洗浄でウソのように落ちていく様に、とてつもない快感を覚えたものです。
なんだかんだでゲーム誌の編集という仕事に落ち着いたのですが、『パワーウォッシュ シミュレーター』を知ったのはSteam Deckの購入がきっかけです。新しいハードを手にして「どのゲームで遊ぼうか」とウキウキしながらSteamをチェックしていたとき、目に飛び込んできたのが本作。
2022年7月にXboxとPC向けに発売され、東京ゲームショウのスクウェア・エニックス公式チャンネルにて本作の番組が配信されていたので、タイトルは頭の片隅に残っていたのですが、正直あまり気にしていませんでした。
“水回りをキレイにしたい”という思いはある種の性癖のようなもので、よそ様の家で文句を言ったり勝手に掃除を始めたりするほどではないのですが、『パワーウォッシュ シミュレーター』のトレーラーでいろいろな汚れを高圧洗浄機で吹き飛ばしている様子を観たとき、確かに頭の中で何らかのスイッチが入ったのです。
掃除という要素が含まれるゲームには、構築やデザインで廃屋などを“再生”するという目的があるものが多いでしょう。
もちろんそれも楽しいのですが、このゲームの“再生”は、ただひたすら汚れを落としてキレイにするという一点に特化されています。自分以外の人物も登場しません(マルチプレイならほかプレイヤーが登場しますが)。「なんて潔く、美しいゲームなのだろう」。当然、速攻で購入しました。
その結果は、このレビューを書いていることが証明しています。まあ、あり得ないくらいハマったというわけです。
洗浄というゲームシステムが秘めた爆発力
このゲームがユニークなのは、確かにシミュレーターではあるのですが、そこにアクションやアドベンチャーの要素が含まれている点にあります。
掃除をする対象はクルマや一軒家だけではなく、公園といった広大な施設や遺跡のような巨大建築物も登場します。汚れている部分は表面だけでなく、パッと見てもわからない場所が汚れていたりします。汚れの度合いや距離によって、洗浄機のアタッチメントやノズルを変える必要もあります。
ステージ(洗浄する対象物)に登場する敵(汚れ)に合わせて武器(洗浄機)を選択し、攻撃(水で洗い流す)するという流れは、まごうことなくアクションゲームのエッセンスです。
ステージを探索して攻略法を考える。すべての汚れが落とせないとき、オブジェクトを観察して見落とした部分を検証する。そして、“メッセージ”という形で物語(依頼)が進行する。これはもうアドベンチャーでしょう(きちんとストーリーがあるんですよ)。
なかなか落とせなかった汚れを、パーツや角度を変えてなんとか落とせたときの爽快感。文字通りすべてが“クリアー(キレイ)”になったことで湧き上がる達成感。ゲーム、いやエンターテインメントの根源が『パワーウォッシュ シミュレーター』には詰まっていると言っても過言ではありません。本気で書いてます。
そんな本作ですが前述の通り、Nintendo Switch、PS5、PS4向けの日本語版が2023年1月31日に発売。それに合わせて配信された無料DLC“トゥームレイダー特別依頼”には「DLCを待ち望んではいたけれど、別作品を洗浄するのか!」と驚いたものです。
しかし、『FFVII』とのコラボは正直、その驚きを上回りました。
クラウドが駆る“ハーディ=デイトナ”、“壱番魔暁炉”に登場した“ガードスコーピオン”、“アバランチ”のアジトである“セブンスヘブン”など、おなじみのオブジェクトを高圧洗浄できるという内容はオリジナル版の直撃世代にはたまらなかったのと、想像していなかった角度からの一撃だったからです。
『トゥームレイダー』の世界はまだ『パワーウォッシュ シミュレーター』と地続きになっていてもおかしくないイメージですが、『FFVII』はいわば異世界ですから。あ、本編の展開から見たら異世界もアリか(本編の依頼を最後までクリアーすれば共感できるはず)。
ミッドガルを洗い流した先にあるものとは⁉
ということで今回、先行して『FFVII』コラボDLCをプレイする機会をいただき、ハーディ=デイトナ&神羅sA-37式自動3輪、ガードスコーピオン、そしてセブンスヘブンという、『FFVII』を象徴するようなオブジェクトの洗浄に着手しました。
この3ステージが本コラボDLCのすべてではありませんが、結論から申し上げると、『FFVII』の世界観と『パワーウォッシュ シミュレーター』の魅力がガッチリとハマっているので、どちらのファンも楽しめるものになっています。
ベースとなっているのは『FFVII リメイク』のモデルだと思いますが、本作のキモは清掃するために、ゲームでおなじみのオブジェクトをあらゆる角度からなめまわすように観察できるところにあります。
まだ本作をプレイしていない方に説明すると、プレイヤーの目的は対象のオブジェクトを余すところなく高圧洗浄機でキレイにすることです。オブジェクトはそれぞれパーツで区切られており、すべてのパーツをキレイにする=掃除の進行度を100%にすればクリアーとなります。
ただし、現実と同じく汚れはあらゆる場所にこびり付いているので、100%にならない場合は這いつくばってでも汚れを探す必要があります。BGMもなく、効果音と言えば高圧洗浄機から噴出される水の音くらいなので地味に思われるかもしれませんが、ここにポイントが。
オブジェクトに設定されたパーツのひとつを完璧に掃除するごとに「チャリン」という音が流れます。この音がすごく目立つ。「ザーッ」と一定のリズムで流れ続ける水の音の中に、「チャリン」と高音が鳴ると、否が応でも強い印象が残ります。
パーツはかなり細かく分かれているので、洗浄し続けていると「チャリン」が連続して鳴ることも多く、そのうち「チャリン」の耳心地がよくなってきて、さらに「掃除した」という達成感に紐づいてくるんですね。「チャリン。あ、やったなあ」と感じたら、もう洗浄のトリコです。
『FFVII』コラボDLCは、『トゥームレイダー』と同様に『パワーウォッシュ シミュレーター』本編の集大成というイメージで、小さな車両から大きなロケーションまで登場します。DLCきっかけでプレイを始めるという方は、本編のトイレ掃除くらいまでは進めておいたほうがいいかもしれません。
なかでもガードスコーピオンは、多脚式で構造が複雑なうえに巨大なので、けっこう手強い相手です。セブンスヘブンもパーツが細分化されているので、「どこに汚れが残っているんだ!?」となりがちでしょう。でも、そこで投げ出さないでください。
ゲーム内のタブレットを開けば各パーツの状態が表示され、汚れが残っているパーツも教えてくれます。そして、汚れをチェックしてノズルを選び、水を噴射すればいいのです。DLCでは最初からさまざまな拡張部品とノズルが用意されているので、あらゆる状況に対処できます。
ハーディ=デイトナやガードスコーピオンと異なり、セブンスヘブンは洗浄する範囲が広くなるので、また違った視野とアプローチが求められます。
床や天井、壁といった大きな面と、タルや椅子、照明のような小さい物の両方をキレイにする必要があるので、洗浄のリズムに起伏が生まれます。
セブンスヘブンは見つかりにくい洗浄ポイントが多く、はしごを使ってフロアから見えない部分を探したり、姿勢を低くして洗い残しを見つけ出したりと、マップは広くてもせわしなく動くことに。このあたりの緩急がロケーション洗浄の醍醐味でしょう。
敵が手強いほど撃破できたときの達成感は格別。これはどのゲームにも共通している点だと思います。そう、『パワーウォッシュ シミュレーター』も同じです。すべての汚れを洗い流した光景を目前にしたとき、心に沸きあがるものに身をゆだねてみてください。
きっとあなたは“新しい依頼”を求めているはずです!