コーエーテクモゲームスのガストブランドが手掛ける『アトリエ』シリーズ。2022年に25周年を迎え、2023年3月には最新作となる『ライザのアトリエ3 ~終わりの錬金術士と秘密の鍵~』の発売を控える同シリーズに新展開! シリーズの原点である『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士~』が、完全フルリメイクされて発売されることとなった。

 リメイク版のタイトルは『マリーのアトリエ Remake ~ザールブルグの錬金術士~』。対応プラットフォームはNintendo Switch、PS5、PS4、PC(Steam)で、2023年7月13日発売予定だ。

『マリーのアトリエ』リメイク版インタビュー。楽しさの本質を現代のユーザーに伝えるため、無制限モードなどを用意。一方、25年前のボイスを使用するなど、ノスタルジーも大切に
『マリーのアトリエ』リメイク版インタビュー。楽しさの本質を現代のユーザーに伝えるため、無制限モードなどを用意。一方、25年前のボイスを使用するなど、ノスタルジーも大切に

 本記事では、同作のプロデューサーを務める細井順三氏と、ディレクターを務める勝又祐樹氏へのインタビューをお届け。なぜいま『マリーのアトリエ』をリメイクすることを決めたのか、リメイクするにあたって重視したことは何か。詳しくお話をうかがった。

細井順三氏(ほそい じゅんぞう)

コーエーテクモゲームス ガストブランドのブランド長。本作を含め、数々の『アトリエ』作品のプロデューサーを務める。

勝又祐樹氏(かつまた ゆうき)

『マリーのアトリエ Remake ~ザールブルグの錬金術士~』ディレクター。

『アトリエ』シリーズの原点、そのゲーム体験を、現代のユーザーに楽しんでもらうために

――シリーズ1作目にあたる『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士~』(以下、『マリー』)のリメイク版となる『マリーのアトリエ Remake ~ザールブルグの錬金術士~』(以下、『マリーリメイク』)が発表されましたが、『アトリエ』シリーズにおいてリメイクというのは、じつは珍しいですよね。要素を追加した“Plus”版は何作か出ていますけど。

細井そうですね。『マリー』は過去にいろいろなハードに移植されていて、そのときどきで調整は入っているんですけど、ここまでのフルリメイクは初めてです。ほかの『アトリエ』作品に関しても、グラフィックやシステムなどをしっかりリメイクしたのは『新・ロロナのアトリエ はじまりの物語~アーランドの錬金術士~』くらいです。

――ではなぜ、今回『マリー』をリメイクすることにしたのですか?

細井ここ数年、“秘密”シリーズ(※)などをきっかけに、新規のユーザーさん、『アトリエ』シリーズそのものに興味を持ってくださるお客さんがとても増えたんです。そういった方々は、『マリー』の名前は知っているけれど、詳しくは知らない方が多いと思います。そこで、「シリーズの原点はこういうゲームだったんだ」ということをお伝えしたくて、シリーズ25周年の大きな目玉タイトルとして企画しました。

※『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』から始まる3作品。最新作『ライザのアトリエ3 ~終わりの錬金術士と秘密の鍵~』は2023年3月23日発売予定(Steam版は3月24日配信予定)

――確かに、これだけ長く続いているシリーズですから、若い方など、1作目を知らないユーザーも多くいますよね。

細井『マリー』は“新感覚RPG”というジャンルですが、シミュレーション要素が多いゲームなんです。そういったシステムから、徐々に変遷していって、『ライザのアトリエ3 ~終わりの錬金術士と秘密の鍵~』にいたるのだという、シリーズの歴史に触れていただきたいと思いました。

――とはいえ、リメイクするというのは大きな決断です。『マリー』のPlus版である『マリーのアトリエ Plus ~ザールブルグの錬金術士~』は、現在はスマートフォン向けに配信されているので、いまでもプレイする手段はありますし。

細井もちろん、スマートフォンでオリジナル版を遊ぶことはできます。でも、それが現代の『アトリエ』ユーザーの方にマッチするとは言い切れなくて。たとえば、『マリー』は5年という時間制限があるゲームですが、近年の『アトリエ』には時間制限がないので、慣れていない方には難しく感じられると思うんです。そこでつまずいてしまうと、『マリー』の本質的な楽しさが伝わらないのではないかと思い、リメイクすることを決めました。

――リメイクを決意して、開発がスタートしたのはいつごろだったのですか?

細井2021年の段階で「リメイクしよう」という話は出ていましたが、動き出したのは2022年に入ってからですね。

勝又だいたい1年前くらいでしょうか。

――1年くらいで、ここまでゲームが完成しているとは……ガストブランドのスピード感にはいつも驚かされます。勝又ディレクターは『ソフィーのアトリエ2 ~不思議な夢の錬金術士~』と並行しての開発だったのですね。

勝又ソフィーのアトリエ2』本編の開発が終わって、ダウンロードコンテンツを作る一方で、本作の開発に着手しました。

――勝又さんは、『マリー』を当時プレイしていたのですか?

勝又いえ、じつは当時はプレイしていませんでした。私は『ヴィオラートのアトリエ ~グラムナートの錬金術士2~』からシリーズをプレイし始めたので、『マリー』に触れたことがなく、スマートフォン版で初めてプレイしました。それから、本作のディレクターを担当することになって、改めてプレイし直しました。吉池さん(吉池真一氏。『マリー』のディレクター)に、「この要素は、どういう意図で入れていたんですか」というのを細かく質問したりしつつ、『マリーリメイク』の内容を固めていきました。

細井吉池さんは、『マリーリメイク』の開発に直接関わっているわけではありませんが、細かな部分をチェックしていただいています。

――『マリー』ファンも安心ということですね。

細井はい。先ほど、シリーズの原点を知らない方に遊んでほしいとお伝えしましたが、もちろん、1作目からプレイしてくださっている方にも遊んでいただきたいので、『マリー』ファンの皆さんがより快適に楽しめるよう調整しています。その一方で、時間制限がなくなる“無期限モード”など、新規のユーザーさんに合わせた要素を入れています。

――『マリー』をプレイしている身からすると、時間制限の中でやりくりするのが楽しいところなのですが、未プレイの方には、確かに難しいかもしれません。

勝又『マリー』は、チュートリアルや指針がないので、「何をすればいいのかわからない」となってしまう方もいると思います。そこから試行錯誤するのが楽しいのですが、理解するまでにはどうしても時間がかかってしまいます。そこで『マリーリメイク』では、中間目標となる“イングリド先生の課題”や、達成することで報酬がもらえる“実績”の要素を入れました。“イングリド先生に卒業を認めてもらえるアイテムを作る”という大目標に加えて、中目標、小目標を入れた形です。

『マリーのアトリエ』リメイク版インタビュー。楽しさの本質を現代のユーザーに伝えるため、無制限モードなどを用意。一方、25年前のボイスを使用するなど、ノスタルジーも大切に

――『マリー』は序盤から要素が多いゲームですからね。お店には参考書と道具がずらっと並んでいて、何から買えばいいかわからなかったり。

勝又参考書や道具を買うとお金が足りなくなりがちなので、依頼の難易度を調整して、お金を稼ぎやすい依頼を追加したりもしています。それと、依頼で何を作るべきか、足りない材料はどこに行けば手に入るのかというヒントを、しっかりと表示するようにしました。

『マリーのアトリエ』リメイク版インタビュー。楽しさの本質を現代のユーザーに伝えるため、無制限モードなどを用意。一方、25年前のボイスを使用するなど、ノスタルジーも大切に

細井依頼などについては、最初は当時の仕様をそのまま入れていたのですが、開発段階のものをプレイした他部署のスタッフから「これでは不親切だ」と指摘があったんです。「当時のおもしろい体験と、いまおもしろい体験は全然違う。当時のデータをそのまま持ってくるだけではいけない」と。「当時、ここがおもしろかったよね」という感覚、ゲーム体験のコアな部分は残しながらも、データは現代用に調整しなければいけない。それを実感して、かなり親切にしました。

勝又それを踏まえて、『マリー』を経験した方も、近年『アトリエ』を始めた方にもテストプレイをしてもらい、高評価をもらっているので、ここは自信を持ってオススメできるポイントだと思っています。

細井グラフィック面に関しても、同じことを意識しました。

――今回は、デフォルメ調のかわいらしい3Dモデルを採用していますね。

細井「『ライザ』のような、頭身の高い3Dモデルにしないの?」という意見もあったのですが……『ライザ』があの頭身なのは、我々が“RPG”を強く意識しているからなんです。一方、『マリー』のゲーム性は、完全なるRPGではないと思っていまして。やはり、シミュレーション要素が強いんです。これで『マリー』の頭身を上げてしまうと、新規のユーザーさんは『ライザ』と同じようなゲーム体験を想像してしまうかもしれません。そうすると、「想像していたゲームではなかった」と残念に思われてしまう可能性があり、それは我々としても本意ではないので、グラフィック面からも、明確に示そうと思いました。

02_エンデルク
13_妖精_01

――確かに、ゲーム性は『ライザ』とは違いますからね。『マリー』のゲーム性を楽しむうえで、広いフィールドを駆け巡る必要はありませんし。

細井シミュレーション要素を楽しむなら、キャラクターがコンパクトに動けるほうがいいので。それでいて、表情が豊かに見えてかわいいバランスは、これくらいの頭身だと思いました。

――会話シーンでは2Dの立ち絵が出てきますが、当時の雰囲気を残しつつ現代っぽいイラストになっていて、とてもいいと思います。そういえば、ボイスについては、当時のものをそのまま使用しているんですよね。

細井絵もボイスも、『マリー』ファンの方がノスタルジーを感じられるものにする必要がありました。ボイスは撮り直すという選択肢もありましたが、当時らしさを感じられることがとても重要だと思いましたので、あえてそのまま収録しています。

『マリーのアトリエ』リメイク版インタビュー。楽しさの本質を現代のユーザーに伝えるため、無制限モードなどを用意。一方、25年前のボイスを使用するなど、ノスタルジーも大切に

キャラクターとの交流イベントが追加。アレンジ楽曲を聴く楽しみも

――『マリーリメイク』ならではの追加要素として、キャラクターとの交流イベントがあるそうですね。

勝又仲間キャラクターそれぞれに、交流イベントを追加しています。それから、イングリド先生と校長先生が、じつは裏でこんな会話をしていた……というイベントもあります。仲間との交流イベントは、友好度やレベルが発生条件になっているので、基本的にはそのキャラクターといっしょに行動すればするほど見られるようになります。それと『マリー』では、イベントを進めることで登場しなくなるキャラクターがいましたが、無期限モードでは登場し続けるように調整しています。

――エンディングについては追加はないのでしょうか?

勝又エンディングの追加はありません。とはいえ、もとから複数のエンディングがあるゲームですので、ぜひ複数回プレイしていただきたいです。

――1周クリアーするまでのプレイ時間は、だいたいどのくらいでしょうか。

勝又1周目はだいたい10時間くらいかと思います。プレイに慣れてくると、どんどん効率が上がるので、もっと短い時間でクリアーできると思います。

細井近ごろの『アトリエ』は周回前提のゲームではなかったので、いまのユーザーさんからすると、新しいゲーム性だと感じられるかもしれません。

――プレイすることで、まさに“『アトリエ』のシステムの変遷”を感じられそうですね。仲間といっしょに外に出かける際、賃金が必要だというのも、いまとなっては新鮮かもしれません。続いて、『マリーリメイク』ならではのほかの要素について伺いますが……音楽についてはいかがでしょうか?

細井今回、谷岡久美さん(※)に曲をアレンジしていただいています。もともと私自身、谷岡さんの楽曲が大好きでして。『アトリエ』のテイストと、谷岡さんの作風が合うと思ったんです。それに音楽面でも、これまでの流れを汲みつつも、新しい風を入れていく必要もあると思いましたので、谷岡さんにお願いしました。

※作曲家。代表作は『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』シリーズや『ゼルダ無双 厄災の黙示録』など。

勝又方向性が決まるまでには少し時間がかかりましたが、その後のアレンジは、すごく順調に進みました。

細井こちらからリクエストしたことも少ないですね。あまり電子系の楽器は使わないでほしい、とお伝えしたくらいで。あとは谷岡さんが素敵に、いまっぽさを入れてアレンジしてくださいました。

『エリーのアトリエ』以降の作品がリメイクされる可能性は?

――今後、『マリーリメイク』に関して、ダウンロードコンテンツを展開する予定はありますか?

細井いえ、有料のダウンロードコンテンツはありません。ダウンロード版ゲームソフト『マリーのアトリエ Plus』やコスチュームセット、BGMが付属したDigital Deluxe版の発売はありますが、その後コンテンツを追加する予定はないです。

――では、『マリー』以外のタイトルをリメイクする予定は? 『マリー』とくれば、つぎは『エリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士2~』ではないかと期待してしまいますが……。

細井可能性はもちろんあります。私としては、『マリー』から始まる『アトリエ』作品を、すべて遊べるようにしたいと思っていますので。途中のタイトルが抜けてしまうのは好ましくないと思っているんです。『マリー』から最新作までを、ストアにずらっと並べるのが夢ですね。過去の作品も最新作も遊んでいただいて、ご意見をいただく中で、つぎの『アトリエ』ができてくるはずだと思っているんです。

――今回の『マリーリメイク』が、その足掛かりになりますね。

細井先ほどもお話しした通り、『マリー』がどんなゲームなのか、詳しく知らない方が多いと思うので、どんなゲーム性を楽しめるのかを、今後のプロモーションでもしっかりお伝えしていきたいと思っています。『ライザ』では、どちらかというとキャラクターやストーリーを押し出したプロモーションをしていましたが、『マリー』については、システムも丁寧に説明していくつもりです。

勝又当時のプレイ感を崩さずに、いまのユーザーさんに楽しんでいただけるように、スタッフ全員……プログラマーもプランナーも関係なく一丸となって、「この素材が採りやすすぎるんじゃないか」とか「むしろ、この素材が足りない」と細かいところまで意見を出し合って調整しました。ユーザーさんに親切にしつつ、でも簡単になりすぎないように、バランス調整にはかなり気を配っています。ぜひプレイしていただきたいです。

細井『アトリエ』25周年を記念して、さまざまな企画を用意してきましたが、この『マリーリメイク』でひと区切りとなります。『アトリエ』をここまで続けてこられたのも、『マリー』のリメイクを実現できたのも、本当にユーザーさんの大きなお声があったからです。みなさんの期待に応えられるリメイクになったと思いますので、ぜひ手に取っていただければ幸いです。