2023年1月26日にXboxとベセスダ・ソフトワークスが配信した“Developer_Direct”で、突如として発表された『Hi-Fi RUSH』。
開発を手掛けたのはベセスダ・ソフトワークス傘下の開発スタジオで、『サイコブレイク』シリーズや『Ghostwire: Tokyo』などを手掛けたTango Gameworks。ディレクターは『サイコブレイク2』でもディレクターを務めたジョン・ジョハナス氏が担当していることも明らかとなった。
いきなりTango Gameworksの新作が発表され、しかもすぐに配信が始まったことにも驚かされたが、何より『Hi-Fi RUSH』が、カートゥーン調のポップなアニメーションが展開するリズムアクションゲームであることに驚愕した人も多いだろう。
そして、このゲームはビートを刻む爽快感と高いアクション性が両立し、フルローカライズされた表情豊かなアニメーション、バリエーションに富んだサウンドトラックが見事なバランスで調和した、愛すべき傑作となっていた。その完成度は、Steamに寄せられた8000件を超えるレビューで“圧倒的な高評価”を獲得していることが証明している。
そこで、本作の開発において中心を担ったディレクターのジョン・ジョハナス氏にインタビュー。この“宝石”のような作品が生まれたきっかけと、本作に込めた思いを訊いた。
ジョン・ジョハナス
Tango Gameworks所属。スタジオ設立時からのスタッフで、『サイコブレイク』のDLC『ザ・アサインメント』と『ザ・コンセクエンス』の2本、『サイコブレイク2』でディレクターを担当。『Hi-Fi RUSH』は自身にとって4作目のディレクション作で、初の完全新作となる。
――まず、突然発表されたうえに即配信スタートという流れには驚かされました。
ジョンティザートレーラーなどを事前に発表することも考えていたのですが、あまり説明しなくともパッと画面や映像を観ておもしろさが伝わるゲームですし、できるだけ早くユーザーの手元にゲームを届けたかったということもあって、今回のような形でリリースしました。
Tango Gameworksと言えば、やはり『サイコブレイク』や『Ghostwire: Tokyo』のようなダークなイメージが強いですよね。でも、『Hi-Fi RUSH』はそれらとはまったく違ったテイストのゲームなので、リリースされる前に「これがTangoのゲームなの!?」という先入観を皆さんに与えたくなかったという理由もあります。
もちろん、発表してすぐに発売というスタイルにはリスクもあるので、当日はドキドキしましたが、結果としてうまくいったかな、と思います。
――本作はXboxとPC向けになっていますが、Steamでは“圧倒的に好評”という評価になっていて、ゲームメディアでも高い評価が寄せられています。
ジョンヤバいですよね(笑)。私たちも皆さんのレビューを拝見して、「信じられない」と感動しています。
The reviews are in! Thank you for cheering us on; YOU ROCK! https://t.co/GBtnjlseoP
— Hi-Fi RUSH (@hifiRush)
2023-02-11 08:44:51
――実際にプレイして、こんなにポップなリズムアクションをTango Gameworksが開発したことに正直、驚きました。そもそも、本作のアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?
ジョンこのゲームのアイデアは、ゲームのクリエイターとして作ってみたいと昔から温めていたものです。
Tangoに入ってから『サイコブレイク』シリーズの開発に携わりましたが、三上(三上真司氏。ゲームデザイナーおよびTango Gameworks代表としてスタジオをけん引)からは「Tangoはさまざまなゲームを作っていいスタジオだ」と言われていたので、「スタイリッシュなアクションと音楽を組み合わせたゲームを作りたい」と企画書をプレゼンしたんです。
私はずっと音楽を勉強していて、サックスやピアノを弾いて、バンドでギターやベース、ドラムを担当していました。大学でも音楽を専攻していたので、その経験から、4分音符とアクションを組み合わせてゲームにするシステムなどを仕様書に落とし込むことができました。
新規の作品なので「実現は難しいかな」と思っていたのですが、「リズムアクションにはまだ可能性があるよね」ということで、『Ghostwire: Tokyo』の開発が落ち着いた段階から一気に開発を進めました。
――アクションそのものはオーソドックスですが、コンボをつなげていくことでアタック音とBGMが重なって、まるでひとつの曲のようなグルーブが生まれます。しかも、それが途切れない。口で言うのは簡単ですが、動きの激しいアクションと音楽を融合するというコンセプトを実現するのは、なかなか難しかったのでは?
ジョン開発当初からゲームのコンセプトは変わっていません。アクションゲームではユーザーに正確な操作を求めるものが多くて、ちょっとでもタイミングがずれたらダメというゲームもありますよね。それに、リズムゲームはリズム感がないと遊べないと思う人もいるでしょう。そこが、私にはちょっと窮屈でした。
楽器のプレイやバンドのライブでキーやフレーズを間違えたとしても、音楽のおもしろさや気持ちよさは失われませんよね。それらをゲームに置き換えたとき、少しタッチやタイミングを間違えても敵にヒットするくらいの余裕を持たせれば、よりたくさんのユーザーが楽しめるゲームになると思いました。操作をミスっても「失敗した!」とネガティブになるのではなく、成功したらさらに楽しくなるというポジティブなゲームを目指しました。
――パリィとか、タイミングを狙いすぎなくとも音楽のリズムに合わせてボタンを押せばうまく発動したりしますよね。敵の攻撃もリズムに乗っているので、その読み合いがユニークです。遠距離攻撃が使えるペパーミントのような仲間を呼び出してアクションをプラスさせたり、マグネットを活かした空中戦がくり出せたりと、とにかくアクションのバリエーションも豊富で。
ジョン個人的には「楽しくプレイしてもらえれば、どんなアクションでもいい」と思っているのですが、それだけにたくさんの“選択肢”を用意する必要があると考えました。その選択肢の中から、プレイヤーは自由に選んで好きに遊んでほしかったんです。
すごくうまいプレイヤーなら華麗なコンボを決めてスタイリッシュに魅せることも可能ですが、あまりアクションが得意でないプレイヤーでも、ある程度までは連打で先に進めるような幅を持たせました。「こんなアクションをしないとダメ」みたいなゲームにはしたくなかった。
パリィのシステムはいちばんリズムアクションっぽいと言えるのですが、リズムに合わせてボタンを押すだけでも発動します。たくさんの人が快適に遊べることがいちばん大事でした。ただ、連打だけでオーケーにすると単調になるだけなので、そうならないように構成しています。
――ゲーム全体の流れが、止まることがないんですよね。ずっと音楽が鳴っていますし。
ジョンだって、音楽が止まったら楽しくないでしょう?(笑)
――その通りですね! 本作の魅力はカートゥーン調のグラフィックにもあると思うのですが、アニメーションがなめらかで、色数は多いのにうるさくなく、洗練されている印象を受けます。当初からこの方向性は決まっていたのでしょうか?
ジョン最初から、軽やかでにぎやかな世界にしようと決めていました。アートを担当した阪井(阪井圭太氏。Tango Gameworksのコンセプトアーティスト) とは、本作のアートのキーワードはカラフルでシャープ、『ジェットセットラジオ』や『ビューティフル ジョー』のような“パッと見ただけでも楽しそうと思えるような世界観を目指そう''と話していました。
アメコミと日本のアニメを組み合わせたようなニュアンスを持たせることで、『Hi-Fi RUSH』ならではのユニークなアートが生まれたと思います。
――キャラクター性も高くて、主人公のチャイと808(ヤオヤ)、仲間たちはもちろん、ボスたちも個性溢れる人物で。モブのロボットですらキュートですよね。
ジョンLemon Sky(マレーシアの外部協力会社)にも手伝っていただいて、かなり個性的で特徴のあるキャラクターがたくさん生まれました。ただ、それをモデリングするのがたいへんで、『サイコブレイク』や『Ghostwire: Tokyo』とはまったく異なるデザインのキャラクターを、なめらかなアニメーションで動かすことには苦労しました。でも、とてもいい勉強になりましたね(笑)。
――音楽こそ本作の主役と言えますが、ゲームプレイのジャマをしないのはもちろん、オリジナルも既成の曲も含めてじつに多彩な曲が実装されています。音楽に関してこだわった部分はありますか?
ジョン音楽は、ロックをメインにすることは決めていました。ただ、サウンドチームからは「全編がロックだとプレイヤーは疲れてしまうのでは? もっとジャンルを増やしては?」という意見もありました。でも、生楽器のニュアンスにこだわりたいということ、ロックにもさまざまな幅があることを説明しましたね。
ステージのメリハリと合わせて、音やBPMのメリハリでバリエーションをつけて、プレイヤーにも「ステージや音楽が長すぎ」と思われないよう細かく調整しました。
――ボス戦でNine Inch Nailsが流れたり、特別なステージでナンバーガールが流れたときは度肝を抜かれました。
ジョンライセンス曲をボス戦で使っているのは、その戦いがスペシャルなもので、プレイヤーにクライマックス感を感じてほしかったからです。それぞれのボスのコンセプトに合った曲を選んでいるのですが、選曲は私の趣味嗜好がふんだんに盛り込まれています(笑)。
許諾を取るのはたいへんでしたが、個人的に思い入れのあるアーティストの楽曲を使用させていただけたのは、とてもうれしかったですね。
――しかも、フルローカライズで。ここはベセスダの「我々のゲームは必ずフルローカライズする」という強いこだわりを感じました。
ジョンけっこう豪華な声優陣に参加していただいているんですよね。シナリオは、私が英語で書いたものをTangoのローカライズチームに日本語に翻訳してもらいました。
――ちなみに、三上さんは本作の開発に参加されているのですか?
ジョンプロトタイプのゲームを触って「これはいいんじゃない」と言ってもらったくらいですね。このゲームでやりたいことは理解してもらえたので、あとは変な方向に進まないよう、遠くから見守ってくれているくらいでした(笑)。
いわばメンターのような立ち位置で、困ったことがあったら相談に乗ってもらいましたが、チームを信頼してくれて、すべてを任せてくれたことに感謝しています。
――ジョンさんはこのゲームでやりたいことはできたと思いますか?
ジョン言いかたはよくないかもしれませんが、けっこうわがままを貫いた作品になりました。開発スタジオとしていろいろなジャンルのゲームを作るという姿勢は見せられたかなと思います。
ライブでお客さんがいっしょにジャンプしたときのような高揚感や一体感、自分で楽器を演奏しているような感覚など、なかなか言葉にできない感覚を表現したかったのですが、少しでもプレイヤーの皆さんがそんな楽しさを感じてもらえたらうれしいですね。
――とくに思い入れのあるステージやキャラクターは?
ジョンネタバレになるのでくわしくは言えないのですが、仲間たちが集うことになるパートは好きですね。ボスのザンゾウが出てくるステージには、ちょっとゲーム開発の愚痴的なものが入っているかもしれませんが(笑)、作っていてすごく楽しかったです。
――ザンゾウはあの金切り声もいいですし、ちょっとしたパロディもあって。ザンゾウの補佐をするロボットのボヤキも最高でした。
ジョンあのパロディは海外のプレイヤーからも大好評でしたね(笑)。
――パロディの詳細は実際に遊んでいただくとして、楽しく作っていることが伝わるゲームでした。
ジョンありがとうございます。できるだけ多くの方々にプレイしてほしいと、純粋に思います。リズムゲームだからアクションゲームだからと敬遠しないで、気軽に遊んでください。幅広いユーザーに楽しんでもらえるように作ったつもりですし、最後までハイクオリティーで、テンションも高く目が離せない展開が待っていますから。