2022年12月4日、Epic Gamesの手がけるゲームエンジン“Unreal Engine(アンリアルエンジン)”(以下UE)の最新バージョン“UE5.1”によって開発された、『フォートナイト バトルロイヤル』(以下『フォートナイト』)の“チャプター4シーズン1”がスタートした。
ご存じの通り、“UE”はいまや国内外、メジャー、インディーを問わず多くのゲームメーカーが採用しているもっともメジャーなゲームエンジンのひとつ。その最新版である“UE5.1”は、
- 『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』
- 『キングダム ハーツIV』
- 『鉄拳8』
- 初代『ウィッチャー』リメイク作品
- 『トゥームレイダー』シリーズ最新作
など、国内外のAAAクラスのタイトルが、開発に“UE5”を採用することを明言している。
その次代のゲーム開発のマスターピースとも言える“UE5.1”を手掛けたEpic Gamesのエンジニア、ニック ペンワーデン氏にUE5.1が『フォートナイト』にもたらした進化と、UE5.1が持つ可能性について聞いた。
Unreal Engine 5.1を採用した次世代のフォートナイトに飛び込もう
インタビューでは、ゲームはもちろん、エンタメ業界や、私たちの実生活にも影響を与える“UE5”及び“UE5.1”の実力の一端が明かされるが、「そもそも“UE5”って何がスゴイの? 何ができるの?」と、ピンと来ていない人も多いはず。
そんな人はまず“UE5”のこれまでの歩みを振り返る記事のリンクを掲載。さらに、オープンワールド構築にあたり、より精細でリアルな表現を世界にもたらした“UE5”の2大機能の“Lumen(ルーメン)”と“Nanite(ナナイト)”についても紹介しているので、まずはこちらに目を通してほしい。
Amazon.co.jpで『フォートナイト』を検索するアンリアルエンジン5(UE5)の歩み
2022年5月:“Summer Game Fest”でお披露目!
2022年5月にUE5の映像デモが初公開。光差し込む洞窟や人間の立像があまりにもリアルな描写で話題に。洞窟内をキャラクターが冒険したり、崖を登ったりする様子も紹介されている。
2021年12月:“UE5”の機能を使って映画『マトリックス』の世界を再現したコンテンツ『The Matrix Awakens』が公開!
有名映画を題材としたプレイアブルデモが2021年のTGA(The Game Awards)で公開された。プレイステーション5やXbox Series X|Sで実際に遊ぶことができ、リアルな街で銃撃戦やドライブが楽しめ、空を飛び高層ビルの屋上に立って街を眺めることもできた(※現在は配信終了)。
2022年4月:“UE5”正式リリース時のインタビュー
昨年行ったニック氏へのインタビュー。『The Matrix Awakens』の話題を中心に、UE5.0の機能などについて訊いた。
UE5の2大機能“Lumen(ルーメン)”と“Nanite(ナナイト)”について
Lumen(ルーメン)
リアルタイムでハイクオリティかつ自然な反射光を実現した照明システム。時間による日光(自然光)の違いをリアルタイムで表現。リアルな反射光により、さらに奥行きを感じる空間が実現可能に。
Nanite(ナナイト)
数100万のポリゴンをリアルタイムで展開することができる。仮想化マイクロポリゴンジオメトリックシステム。城壁を構成しているブロック、ひとつずつの違いや影も表現できるように。また、木々の葉っぱなども1枚1枚を“Nanite(ナナイト)”で作成し、木漏れ日を“Lumen(ルーメン)”で再現するなど新機能の組み合わせにより多彩な表現が可能に。
Nick Penwarden 氏(ニック ペンワーデン)
Epic Games エンジニアリングヴァイスプレジデント(文中はニック)
“UE5.1”の機能が実現した『フォートナイト』チャプター4の世界
――“UE5.1”で開発した『フォートナイト』のチャプター4が開幕しましたが、世界中のプレイヤーからの反応はどうですか?
ニックすごくポジティブで大きな反響が出ています。とくにビジュアル面で「まったく新しいゲームのように感じる」とか、「『フォートナイト』が、いま出ているゲームの中でもっとも美しい!」など、ビジュアルのクォリティに驚いたというコメントを多くもらいました。
――映像が高精細になればなるほど、異なるハードやネットワーク環境でのマルチプレイにおいて、高いクオリティを維持するのが難しいように感じますが。
ニック『フォートナイト』は、AndroidやNintendo Switch、Xbox、PlayStation、PCなど、いろいろなハードで遊べますが、それぞれに対応するためにさまざまなレンダリング手法を用いて同じ世界観を表示できるように努めています。だからこそ、チャプター4においても、屋外、屋内のビジュアル面において、どのプラットフォームでプレイしているかに関わらず、できる限りクオリティの高い、最高の体験をすべてのゲーマーに届けたいと考えて開発しています。
――“UE5.1”によって『フォートナイト』内で何が変わりましたか?
ニック“UE5.1”の開発にあたり、私たちの中で大きなゴールとして設定していたのが、“秒間60フレームのコンソールゲームに対する最適化”と“拡張性”でした。
じつは、“UE5”のLumenのライティングは、秒間30フレームで最適化されており、5.1で60フレームに拡張しています。そして、実際に『フォートナイト』の新チャプターを“秒間60フレーム”で開発することで、新世代のゲームへの“UE5.1の有意性”を証明しようと考えていました。
と言いますのも、『フォートナイト』には、作中に時間の概念が存在し、さらに物を作ったり、壊したりするアクションがあるため、時間経過や遮蔽物による光の明暗、陰影なども表現できるLumenのダイナミックライトを使うのにとても適しているのです。
なので、LumenとNaniteが作る美しいビジュアルの下、秒間60フレームによるなめらかなゲームプレイや、コントローラーの反応のよさといった、『フォートナイト』チャプター4での進化を、視覚と手触りの両方で感じられるのではないでしょうか。
――“UE5.1”は、Lumen以外にも多くのアップデートが行われておりますが、『フォートナイト』の開発チームからのフィードバックを受けて実装したのでしょうか?
ニック『フォートナイト』のチームとは、テクノロジー系のテクニカルアーティストたちと連携を密にして開発を進めました。彼らが求めているレベルを達成するため、クオリティを改善したり、各種設定において調整可能な幅を広げたり、屋内の見た目などをゲームプレイに耐えられるものにしたりと、何度もやりとりし、設計・改善をくり返しました。
――“UE5”及び“UE5.1”を使用したクリエイターからの反響はどうですか?
ニックEpic Games内からも“UE5.1”に関して、「新しいライティング機能がよかった」とか、「ワールドパーティション(※)を使うことでマップ構築が進めやすかった」といったポジティブなフィードバックがありました。とくに、ワールドパーティションは、コア機能は“UE5”で実装されていたのですが、今回開発チームとのコラボレーションの中、改善を重ねて、より開発面で進めやすい環境を構築できたと思っております。
※ワールドパーティション……ワールド全体を自動的に分割し、プレイヤーからの距離などに応じて自動的に調整した読み込みを行う機能
ゲームだけにとどまらない“UE”の実力とこれから
――“UE5”には新たに映画制作、放送、アニメーション、ライブ イベント向けの新機能も搭載されていますが、今後どのような展開を考えておりますか?
ニック私たちは、“UE5”のリアルタイムレンダリング、そして3Dレンダリングはゲーム以外にもいろいろな応用の方法があって、その中でもとくにエンターテイメントにおいて、UEは革新的な存在になっていくと考えています。
――『フォートナイト』で米津玄師さんのコンサートが行われるなど、メタバース的な展開もありました。
ニックエンターテイメントは、ゲームのようなインタラクティブなものから、映画やテレビのようなリニアなものまで幅広くあります。そして、その両方で我々は、“UE5.1”は活躍の機会があると思っています。
実際にすでに“UE”自体は、ゲームの汎用プログラムという枠を超えて、映画、テレビ、3D映像製作、そして建築など、幅広い分野で使われております。我々としては、すべての3Dレンダリングの用途に前向きであり、その使われかたにワクワクしています。だからこそ、ゲーム業界以外でも“UE”が最適解に選ばれるものになるようにしていきたいと考えています。
――ゲーム分野以外のUEの使われかたとして、意外だったものはありますか?
ニック情報×エンターテイメントの“インフォテイメント”のひとつとして、自動車メーカーのゼネラルモーターズが手がけた電気自動車“Hummer(ハマー) EV”の車内インターフェイスシステムに使用されたことですね。その他にも、スバルがユーザー体験の研究用に開発したVRアプリなど、クルマを運転する部分の架け橋としてUEが使われているのは、多くの人が驚くのではないでしょうか。また、テレビのアニメ番組や都市開発のシミュレーションを行う“デジタルツイン”としても使われています。
――今後、“UE”が目指すものとは?
ニックデベロッパーがPCで制作したコンテンツを、家庭用ゲーム機やスマホなどで展開していくことが、今後ますます重要になると思います。そこで使用できる新しいツールやテクノロジーを用意して、ひとつのデバイスではなく、さまざまなデバイスで楽しんでもらえるようにすることが私たちの役目だなと。“UE5.1”自体も、フォトリアルとリアルタイムレンダリング、デジタルヒューマンは、まだ改善の余地があります。また、カオスエンジンへの投資や、AIシミュレーションも進め、さらに生き生きとした世界を構築したいですね。