ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。ライターのヨージロがおすすめするタイトルは『Session: Skate Sim』(セッション:スケートシム)です。

【こういう人におすすめ】

  • スケボーゲームが好きな人
  • 高難度なゲームが好きな人
  • 折れない心を持っている人

ヨージロのおすすめゲーム

『Session: Skate Sim』(セッション:スケートシム)

  • プラットフォーム:プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC
  • 発売日:2022年12月1日発売
  • 発売元:3goo(プレイステーション5、プレイステーション4)、Nacon Games(Xbox Series X|S、Xbox One、PC)
  • 開発元:crea-ture Studios
  • 価格:プレイステーション5版/6710円[税込]、プレイステーション4版/6380円[税込]Xbox版/5850円[税込]、PC版/4100円[税込]
  • 備考:Xbox Series X|S、Xbox One、PC版はダウンロード専売
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※本レビューではXbox Series X|S版を使用しました。

スケボーをストリートに解き放った“オーリー”という革命

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 1982年夏、アメリカ・カルフォルニア州の都市ウィッティアで開催された、スケートボードのフリースタイルコンテンスト“ザ・ラスティ・ハリス・コンテスト”。その初戦、当時16歳のロドニー・ミューレンは、バンクやランプといった“発射台”を使うことなくスケートボードと自身を宙に浮かび上がらせた。

 スケボー雑誌『スラッシャー』で“オーリー・プロップ・ポップ”と名付けられ、現在ではオーリーの呼び名で定着しているそのトリックの発明は、ストリートスケートに革命を起こした。

 オーリー登場以前の70年代、スケボーシーンの中心にいたのはサーフショップ“ゼファー”を母体としたチーム“Z-BOYS”の面々。彼らは水を抜いたプールでのライディングを発見し、バーティカルを広めるなどしてスケボーを大きく進化させたが、ストリートでの滑りについてはサーフィンの亜流の域を出るものではなかった。

 しかし、平面からでも自由にジャンプできるオーリーの登場で状況は一変する。

 スケーターたちをすっ転ばせてきた縁石(レッジ)は鮮やかなスライドを披露する場となり、階段は命知らずたちが宙を舞う華やかな舞台となり、行く手を阻むフェンスや柵は飛び越えるものとなった。オーリーによってスケボーはストリートに解き放たれ、このカルチャーのスタンダードとなったのである。

 今回紹介する『Session: Skate Sim』(以下、『Session』)は、数年間のアーリーアクセスを経て2022年12月に発売(海外では9月発売)されたばかりのタイトル。スケボーゲームとしては新顔だが、この新顔、スケボーゲームにおける“オーリー”のような存在になるのではないかと僕は勝手に期待している。

 つまり、新たなスタンダードになる可能性を秘めているってことだ。

『THPS』、『Skate』シリーズの先に登場した“リアル”なスケボーゲーム

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 『Session』がいかに革命的かを伝えるには、まず現在までのスケボーゲームの流れに触れておく必要があるだろう。

 3Dのフィールドを自由に滑るスケボーゲームの原点を、初代プレイステーションで発売された『トニー・ホーク プロスケーター』(以下、『THPS』)1作目だとするならば、このジャンルはすでに20年以上の歴史があることになる。それなりに長い歴史の中では挑戦的なタイトル(※)も展開されてきたが、現在まで継続的にシリーズ展開がされているのは『THPS』と『Skate』シリーズくらいしかない。

 実在するプロスケーター、トニー・ホークの名を冠した『THPS』シリーズは、パンクロックを中心とした秀逸なサウンドトラックや、バカでアホでエクストリームなアクションといった、スケボーゲームのスタイルを決定付けたパイオニアだ。ゲームプレイは基本的に3Dアクションの文法で構成されていて、キャラクターの移動は左スティック(方向キー)で行い、各種トリックはボタンと方向キーの組み合わせで表現していた。

 一方『Skate』シリーズは、コントローラーの右スティックでトリックをメイクする。

 冒頭で紹介したオーリーは、デッキの後方(テール)を地面に叩きつけて前方(ノーズ)を浮かし、同時にもう片方の足でデッキをすりあげることでボード(とスケーター自身)を宙に浮かすというトリックだが、本シリーズではこれを“右スティックを下方向に入れてから、上方向に弾く”という操作で表現。現実のトリックにおける脚の動きに即した操作は『THPS』シリーズとは一線を画するリアルさがあり、後発ながら一躍スケボーゲームの人気ブランドとなる。

 2010年の『Skate 3』発売後に開発スタジオが閉鎖してしまったためシリーズ展開が長らく途絶えていたが、2020年に突如最新作の開発が決定。現在、基本プレイ無料の『skate.』として開発が進められている。

 以上のような流れの先に登場した『Session』は、タイトルに“Skate Sim”とあるとおり、徹底してリアルなスケボーにこだわった作品となっている。

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 コントローラーのスティックでトリックをメイクするところは『Skate』シリーズと同じだが、『Session』で使うのは左右両方のスティックだ。

 左スティックが左足の動きに、右スティックが右足の動きに対応していて、オーリーであれば片方のスティックを下に入れてから、もう片方を上に弾く……という操作になる。ちなみに“片方”という曖昧な表現を使ったのは、スケボーに乗るときのスタンス(左足が前になるとレギュラー、反対ならグーフィー)によって足の動きが逆になるからだ。

 キャラクターの動きが全体的に重いーー正確に言えば“重力”を感じるところも本作のリアルなポイントだ。『THPS』も『Skate』シリーズも、実際のスケボーに比べると「月面?」というレベルで、オーリーを始めとした跳躍がふわっとしていた。それはそれでゲームとしては楽しいのだがリアルではない。対して『Session』は、平面でのオーリーだと膝丈くらいの障害物を超えるのが精一杯だ。

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 そのほかにも、フリップ(ボードを空中で回転させるトリック)のキャッチを手動で行えたり、スライドをくり返すうちにボードのデザインが削れていったりとさまざまなリアル要素が存在している。

 だが『Session』が従来のスケボーゲームと比べて決定的にリアルなポイントは、このゲームがクソ難しいという点だ。

 そしてこのクソ難しさは、本作最大の美点でもある。

※挑戦的なタイトル……たとえば、ソリッド・スネークがスケートする『Evolution Skateboarding』シリーズとか、スノボーの帝王でスケボーのプロでもあるショーン・ホワイトが街に色を取り戻していく『ショーン・ホワイト スケートボード』とか、かわいい小鳥が『THPS』並のビッグエアーを決める『SkateBIRD』とか。もちろん、どれも最高の作品だ。

『Session』最大の美点は「クソ難しい」ところにある

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 『THPS』、『Skate』の両シリーズは、システムこそ異なるが、現実ではありえないビッグトリックを手軽に気持ちよくくり出せるという点は共通していた。言い換えれば、どちらも遊んでいて爽快感があるのだ。

 対して『Session』はどうかと言えば、爽快感からはだいぶ遠い内容である。

 左右のスティックを脚に見立てた操作は頭では理解ができても体(指)が追いつかないくらいに忙しいし、方向転換を左右トリガーによる“重心移動”で行うのもアクションゲームとしては直感的とは言い難い。なかでも印象的なのは、スライドおよびグラインド(デッキをレッジやレール上に当てて滑るトリック)の難しさだ。

 自分が知る限り、スケボーゲームにおけるスライド/グラインドは、ゲーム中で屈指の爽快ポイントのはず。

 たとえば『THPS』シリーズであれば、しかるべき場所でボタンを押せば“カチン!”という小気味よい音とともに物理法則を無視したスライド/グライドが発動。そのまま加速して(そう、なんと加速するのだ!)飛び出し、ビッグエアーを決めたら地面ではなく別のレールに着地して再び滑る……みたいな超人的アクションが簡単にくり出せたのである。

 それが『Session』ではどうなっているか。レールに吸い付く便利なボタンなどもちろんなく、進入角度と速度を慎重に調整したうえで、どちらの足を重心にして、デッキのどこを当てるかを考えながら飛びこむ(そしてだいたいコケる)という感じだ。

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『Skate』シリーズのスライド/グラインドも仕組みは『Session』と同じだったが、一定の範囲まで近づけば吸い付いてくれるような“ゲームの嘘”がちゃんとあった。しかし『Session』は嘘をつかない。チュートリアルでの初歩的なグラインドを成功させるまでに、プレイヤーを軽く30回はズッコケさせるくらいの正直者だ。

 ストレスMAXのマジで最悪なゲーム?

 いや、こんな誠実なスケボーゲームを僕は見たことがない。マジで最高のゲームだ。

※オーリーの高さやグラインドのしやすさなど、プレイヤーの挙動はかなり細かく調整することができる。そのため、極端なパラメーター調整を行えば本作のクソ難しさはほぼ払拭することも可能だ。でも個人的にそれはおすすめしない。

『エルデンリング』よりも「うまくなりたい!」と思わせてくれた『Session』のすばらしきクソ難しさ

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 『Session』はクソ難しい。だが、本物のスケボーはさらにクソ難しい。基本トリックであるオーリーの習得には数ヵ月を要するのがふつうだし、プロたちが映像で見せる鮮やかなトリックの裏では、数え切れないほどの失敗がくり返されているのだ。

 もちろん、現実に近いことがゲームのおもしろさに対してつねにプラスに働くわけではない。だが、“Skate Sim”の名に恥じない納得感をプレイヤーに印象づけるうえでは非常に重要なポイントだ。また、失敗も含めたリアルさは、本作に関して言えばゲームのおもしろさを高めることにちゃんと貢献していると僕は考える。

 さきほど、チュートリアルで初歩的なグラインドを成功させるまでに「軽く30回はズッコケさせる」と書いたが、これはただ理不尽に転ぶ30回ではない。時折ファニーな反応を見せることはあるものの、基本的には優秀に働く本作の物理エンジンは、失敗のたびにプレイヤーへ上達のヒントを誠実に与えてくれる。

 たとえば、ノーズグラインド(ボード前方のトラックをレッジに当てて滑るトリック)というトリック。これに失敗するとき、横に崩れ落ちるように転んでしまうなら、それはトラック以外の部分を当ててしまっている証拠だ。決まって前方に吹っ飛ぶなら、それはシンプルにオーリーの高さが足りない。

 上記のような失敗原因がテキストでわかりやすく説明されることはないが、物理エンジンの描写は誠実なので、失敗→反省→練習→失敗の反復によって、ちゃんと原因は“体感”できるはず。30回の失敗はスケーターとしてより高みへ上がるための確かな階段となり、充実した成長実感をプレイヤーへ与えてくれるというわけだ。

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 なお、ゲームのシステム的にも“失敗はするもの”という前提に考えられているため、リスポーンポイントの設定とリスポーンはともにワンボタン、かつ読み込みなしでスピーディーに実行可能。失敗のストレスは限りなく低い。

 そして言うまでもなく、どんなトリックであろうと、どんなライン(滑りながら複数のトリックを決めること)であろうと成功したときの達成感は格別だ。

 改めて言うが『Session』はクソ難しくて、『THPS』、『Skate』シリーズのような爽快感もない。でも、納得感、成長実感、達成感というポジティブな3つの“感”が光輝いている。「おまえはアホか」と呆れられる覚悟で言うが、この輝きは高難度の“ソウルライク”を遊んだときに見る輝きに近いものがあると思う。

 実際、『Session』では街にいるスケーターたちから「ちょっとそこでスライドしてみてよ」とか「ギャップをオーリーで飛び込えたら、その先にある手すりで50-50グラインドを決めてフリップでアウトしてみよう」といったミッションがつぎつぎと飛び込んでくるが、どれも頭を抱えるほどクソ難しい。だが、失敗とリトライをくり返し、ついに成功したときのよろこびはすさまじいものがある。

 The Game Awards 2022でGOTY(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)に輝いたフロム・ソフトウェアの『エルデンリング』。僕も夢中で遊んだ。稀に見る傑作だった。でも、「どうやったらうまくなるんだろう?」という気持ちをもっとも強く抱かせてくれたのは僕の場合『Session』だった。

 そして困ったことに、『Session』にはミッションを乗り越える以外に、もうひとつ終わりの見えない楽しみが用意されている。

最強のリプレイエディターが提供する“スケボーを撮る楽しみ”

 80年代に活躍した伝説のスケボーチーム“ボーンズ・ブリゲード”。トニー・ホーク、スティーブ・キャバレロ、ロドニー・ミューレンといった天才スケーターが名を連ねるなか、ランス・マウンテンは実力の面で言えば2流のスケーターだった。しかし彼には“スケボーを楽しむ”という点でチームの誰よりも秀でた能力があり、映像メディアでその才能は爆発。チーム屈指の人気者となったのである。

 スケボーは上手に滑ることだけが楽しみではない。いかに最高な映像を撮るかというのも、重要な楽しみのひとつなのだ。『Session』のリプレイエディターは、映像を撮る楽しみをシミュレートするうえで、非常に充実した機能を有している。

 どんなものが撮れるかは実際の映像を観てもらうのが手っ取り早いと思う。そこで、現役のスケーターで『Session』プレイヤーでもある、やまさんによる本物さながらのすばらしいリプレイ映像集を紹介させてもらう。

 スケーターの動きを低い視点から追うカメラワークや、フィッシュアイ(魚眼レンズ)撮影、トリックの瞬間のスローモーションなど、ストリートスケートの映像には特徴的なスタイルがある。ご覧のとおり、それらはすべて再現できると考えてもらっていい。そのほかにも撮影後に昼夜を変更したり、太陽の位置を動かしたり、夜間撮影時の照明の有無を切り替えられたりと、ゲームならではの便利なオプションもある。

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 ストリートスケートっぽい映像を再現する試みは『Skate』シリーズにもあったし、直近の作品であれば『Skater XL』のリプレイエディターも充実していた。だが、最強は間違いなく『Session』だ。

 この最強のリプレイエディターがあれば、シンプルなギャップ超えも超カッコいい映像になるかもしれないし、失敗の瞬間がオンリーワンの素材になる可能性もある。つまり「どうやったらうまくなるんだろう?」に「どうやったらかっこいい映像になるんだろう?」という思いも加わってしまうわけで、これはもう本当に終わりが見えない。

 さらに『Session』のマップには、人気プロスケーターたちが撮影に使った実在のスポットが数多く用意されている。つまり、歴史的なスケボー映像を再現するという楽しみかたまでできてしまうのだ。なんてこった、やることがいっぱいだ!

『Session』の登場でスケボーゲームはどう変わるのか?

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 僕は『トニーホーク・プロスケーター3』でスケボーゲームの楽しさを知り、それ以来、それなりに多くの作品を遊んできた。『Session』はいままでに遊んだスケボーゲームの中でもダントツにおもしろいし、よくできている。

 ただ、ゲームの完成度という点ではけっこう問題が多い。

 たとえば、ゲーム中で発生するミッション内容は基本的に“どこで、なんのトリックをする”というシンプルな指示しかないので、スケボー用語をある程度把握していないと何をすればいいのかまったくわからないだろう。

 ミッションの成否判定もシビアというよりは不可解なことが少なくないため、難しさとは別のストレスを抱えることもあった。また一部のミッションでは先にお手本のデモが流れることもあるのだが、1回しか見られないのはどう考えても不親切だ。

 ボードのカスタマイズも本作の楽しみのひとつだが、ウィールのサイズを変えると何が変わるのか、トラックの高さは何に影響をするのか……といったことについて解説がない。だから僕はわざわざスケボーカスタムについての情報をWEBで探すことになってしまった。

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 スケボーでやれることの再現度に関しても、グラブトリックがなかったり、ノーコンプライのような遊び心のあるトリックはできなかったりと、じつはやれないことが意外と多い(なんとなく、ここは今後アップデートで追加される気がしないでもない)。

 ……そんな感じで、文句を言い出すとけっこうキリがなかったりもする。

 だが、スケボーの楽しさを再現することにこだわり、それをちゃんとゲームの楽しさにも結びつけた点で、間違いなく本作はスケボーゲームの最高峰だ。

 本文中で何度も触れた『THPS』と『Skate』シリーズのほかにも、継続的なアップデートを続ける『Skater XL』や早期アクセス中の『True Skate』など、じつは近年スケボーゲームはにわかに盛り上がりを見せている。『Session』が示したスタンスに対して、それらのタイトルがどんなアンサーを見せてくるのか、このジャンルのファンとして非常に楽しみなところだ。

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 そして最後に、しつこいようだが大事なことなのでもう1回言わせてもらう。

 『Session』はマジでクソ難しい。

 『THPS』や『Skate』シリーズを知っている人ほど、遊んだときの戸惑いは大きいかもしれない(僕がそうだった)。でも、このクソ難しさは必ず乗り越えられるものだし、乗り越えた先には最強のリプレイエディターというご褒美が待っている。

 年末年始の休み、ぜひじっくりと向き合ってほしいタイトルだ。

執筆者紹介:ヨージロ
元ファミ通編集部ニュース班。現実のスケボーではオーリー習得がやっと。グラインドなんて怖くてやったことないです。でもゲームなら好きなだけ転べるので、ほんとゲームって最高だと思います。

■参考文献
・YouTube,TEDチャンネル,ロドニー・ミューレン: ロドニー・ミューレン : オリーで飛んでイノベーションを創ろう(2022年12月25日取得)→動画はこちら
・ステイシー・ペラルタ,2002,『DOGTOWN & Z-BOYS 』[DVD]
・ステイシー・ペラルタ,2013,『ボーンズ・ブリゲード』[DVD/Bru-ray]
・ロドニー・ミューレン,2009,『ザ・マット』,トランスワールドジャパン

『Session: Skate Sim』PlayStation Storeサイト 『Session: Skate Sim』Microsoft Storeサイト 『Session: Skate Sim』Steamサイト
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