2022年11月12日に福岡県・九州産業大学にて開催された、CEDEC+KYUSHU 2022。本イベントは、日本最大のコンピューターエンターテインメント開発者向けのカンファレンスとしておなじみのCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)の九州版だ。
その中で、バンダイナムコエンターテインメントによる『スカーレットネクサス』に関するセッション“「SCARLET NEXUS」新規オリジナルタイトル創出への道”が披露された。
本稿では、当講演内容を紹介していく。
『SCARLET NEXUS (スカーレットネクサス)』の購入はこちら(Amazon.co.jp)登壇したのは開発を担当したバンダイナムコスタジオの制作プロデューサー兼ディレクターの穴吹健児氏、協力会社として開発を担当したトーセのシニアアーティスト兼ゲームディレクターの江見勝也氏だ。
コンセプトを尖らせる!
完全新規アクションRPGである『スカーレットネクサス』。開発は企画立案などを担当するバンダイナムコスタジオ、全体の開発の本隊を務めるトーセの2社体制。プロジェクト自体は2015年から始まっており、穴吹氏は自身が当時担当していた業務の裏で密かに進めていたそうだ。発売までには6年掛かっている。
穴吹氏らがこのセッションで最も伝えたかったこと、それは“新規タイトルはコンセプトとの向き合いが大事”ということ。
『スカーレットネクサス』のコンセプトは“超能力を使ってカッコよく戦いながら、仲間たちと特別な絆を体験する”ということだったという。いわゆる“中二病”な雰囲気の中で超能力を発揮して戦うゲームが作りたかったようだ。スライドには開発初期のコンセプトアートも披露された。最初から“RED Strings(赤い糸)”はテーマとなっていた。
コンセプト自体はさらに深く、メチャクチャ長文のアイデアで構成された文章が用意されていた。短くまとめると、要はアニメ的なビジュアルで、超能力と脳を結んだ“超脳力”で仲間たちとの絆を深めたり、派手なバトルをくり広げる……というものを目指したようだ。
開発初期の映像も公開され、現在の主人公・ユイトに値するようなキャラクターのグラフィックなども披露された。開発初期からだいたいのコンセプトは『スカーレットネクサス』本編と同様だが、グラフィックやキャラクターデザインは異なる。それまでは明るめのグラフィックだったが後期には淡い色合いとなり、少しダークでレトロな空気も感じられるように。
ブラッシュアップはいくらでもできるので、大切なのは開発の焦点をコンセプトの実現に絞るということ。そうしないと開発期間が大きく伸びたり、コストが大きく掛かってしまう。穴吹氏は「初期に決めたコンセプトを尖らせることが重要だ」とアピール。
本作において“コンセプトを尖らせる”という考えかたのもと手が加えられた例では、おしゃれなアニメ風のグラフィックでありながら、単なるセルルックな見た目にするのではなく、独自性の強いグラフィックスタイルに調整。また、“超脳力”は“SAS”というシステムで、仲間と脳を直接つなぐシステムに。仲間の“超脳力”を借りて効果を発揮できるという要素が加わった。システムの運用方法はいろいろと研究を重ねていったようだ。
また、フィニッシュ技の“ブレインクラッシュ”。
これは製品版では敵ごとにこだわりのモーションが披露されていたが、開発途中まではそこまで派手な演出ではなくふつうの必殺技という感じで、こちらもいろいろと紆余曲折があった様子。穴吹氏がリードゲームデザイナーを務めた『テイルズ オブ ヴェスペリア』の“フェイタルストライク”というシステムが下敷きになっていたのだとか。
穴吹氏の心に刺さった数多の言葉
そんな最中に“カッコ悪い事件”が起きる。
プリプロダクション(本開発を始める準備段階)の段階で、トーセのスタッフが成果物を確認したところ「なんかカッコ悪い……」とつぶやいたという。これが穴吹氏の心に深く突き刺さった。
実際にカッコ悪いと言われたのは『スカーレットネクサス』の念力アクションについて。製品版ではボタンを押すとオブジェクトを主人公が引っ張ってきて、敵に投げつけたりぶつけたりするのが基本のアクション。プリプロの段階では、範囲内のオブジェクトを集めて敵に投げつける仕様だったのだとか。
この“集める”というアクションがオブジェクトをせっせと集める感じがしてカッコ悪い、見た目が「えっさ、ほいさ」とオブジェクトを運んでいるような感じがしてカッコ悪い、ということだった。
『スカーレットネクサス』のコンセプトには“カッコよく”という言葉がある。カッコ悪いと言われてしまったことに、かなりの危機感があったそうだ。しかし、当時の念力システムもだいたい完成していたし、スタッフも苦労して作ったモノだと穴吹氏も知っている。悩んだ結果……穴吹氏は江見氏にシステムを「作り直したい」と、打ち明けたという。
江見氏は作り直すと決めた際の問題点は理解しつつ、トーセ内でも“カッコ悪い”という意見が多く挙がっていたため、作り直しを決断。江見氏は「ゲーム業界あるあるですが」と前置きしながら、“儀式”を慣行。バンダイナムコスタジオの社員、トーセの社員、会社の偉い人たちに謝罪をし、仕様変更を決定した。
結果、念力アクションは、オブジェクトを引っ張って投げる、武器のアクションと組み合わせてコンボにできるなど、製品版の仕様となった。初期の案は穴吹氏はカッコイイものだと信じて作っていたが、開発に没頭しすぎて客観性に欠けていたと反省。第三者の新鮮な視点が大事なんだと、改めて気づいたという。
続いて起きたのが“スクショ見比べ事件”。開発中期、『スカーレットネクサス』のスクリーンショットをバンダイナムコエンターテインメントのとあるプロデューサーが見たとき、ほかのゲームのスクリーンショットを持ってきて「パッと見て違いが感じられないです」と指摘されたという。この瞬間、江見氏は「またあの儀式が……」と、開発チーム全体が再度作り直しの予感にゾクっとしたそうだ。
ここで気づいたのは、ゲーム画面からパッと見で違いが感じられないどころか、ゲーム自体の差別化が弱かったと穴吹氏。ゲームが差別化できていないから、それがゲーム画面にも出ているんだと分析した。『スカーレットネクサス』が発売された2021年内で、約1万種のゲームが発売されていたゲーム業界。そんな中では、完全オリジナルタイトルは、ほかのタイトルとしっかりと差別化された魅力を持てていないと、注目すらしてもらえない。
そこでゲーム自体の差別化を図ることに。
コンセプトテキストをより差別化し、単に“超脳力”を駆使して戦うアクションRPGにするのではなく、プレイヤーが“強くてヤバい奴”になって自己陶酔できたり、脳接続によってより仲間との連携や絆が感じられるシステムを導入した。
それらをまとめたときに本作をひとことで表せる造語として“ブレインパンク”という言葉を作成。
ブレインパンクという言葉を軸にビジュアルを差別化し、服装には点滴をイメージした医療的なケーブルを装着。また“超脳力”を使う際には頭(脳)からカタカナで表現された粒子が放出されるエフェクトを追加。インフラとして背景を横断する赤い糸やUI(ユーザーインターフェイス)をネオン調で統一するなど、本作ならではの要素を追加していった。
コンセプトを伝える重要性
これらのことを踏まえてコンセプトに向き合った結果、みごと製品版『スカーレットネクサス』らしいゲームに……とはならなかった。
開発スタッフから上がってくる成果物に、どうもコンセプトがうまく反映されていない。これはおかしいぞと思い、さまざまなスタッフに聞いたところ“そもそもコンセプトがうまく伝わっていなかった”のである。
開発規模が大きくなるにつれて、末端のスタッフにまでコンセプトがうまく伝わっておらず、それに気づかず開発進行をしていたという。穴吹氏は「伝える側はしっかり伝えているつもりだったが、じつは半分も伝わっていなかった時代だった」と当時を振り返って反省。“コンセプトの共有”も大事なところだという。
自分が練りに練り上げたコンセプトを熱弁しても、それが受け手に理解されないと意味がない。穴吹氏は熱くなりすぎて、それをうまく伝えることができなかったようだ。また、バンダイナムコスタジオからの依頼でトーセが開発していくという体制の中、全て理解する前に “とりあえず作ってみる”みたいな状況もあったのだとか。
シリーズタイトルならば「あそこは(過去作品の)〇〇みたいな感じで」と、既存のシステムをあげれば伝えられるが、完全オリジナルタイトルだとそれが難しいのもあるという。ほかの作品を例にポイントを挙げて伝えたが、それでも現場としては「つまりどういうこと?」という感じがあった様子。
そしてなにより、これまでのスライドでもそう思った人もいるかもしれないが、“コンセプト文が長文”、“抽象的な表現が多い”というところ。
長文のコンセプト文をすべて理解していたスタッフは、正直多くなかったという。はっきり言うと、長すぎてまったく読んでいなかったスタッフもいたそうだ。それもすごい話だ。
結果的にゲーム全体のクオリティが低下。また、作り直しなどでスケジュールが遅れたため、コンセプト通りにつくることよりも“仕事としてとりあえず作る”と作業終了を目標にしてしまうこともあったようだ。穴吹氏はゲーム開発あるあると言いつつも「いちばんよくない傾向にありました」とコメント。
そこで、制作工程ごとにゲームコンセプトを分解。それぞれを短くまとめて細分化し、抽象的な言葉をできるだけ具体化することに注力した。ここでようやく理解度が浸透してきたそうだ。さらに説明会や個人個人への解説なども取り入れ、とにかく説明しすぎるくらいの情報共有をしたという。
また、バンダイナムコスタジオが掲げたコンセプトを、ゲームとして実現する役割で進めていたトーセ。ここからはバンダイナムコスタジオとトーセ、どちらも共同でコンセプトを分解する仕事に転換した。バンダイナムコスタジオのスタッフがトーセに行く、またその逆もあるなど、とにかく密にゲーム開発を進めたのだとか。
ボス格である強敵のコンセプトの中には、トーセが主体に考えたものもあるのだという。これまでは提案コンセプトに沿って制作するケースが多かったが、自分たちでコンセプトも考え始めた時期から、より「自分たちの作品なんだ」という自覚が生まれてきたそうだ。
……と、ここまで語られてきたように、完全新規タイトルというのは
- コンセプトを尖らせること
- 差別化すること
- それをスタッフに共有すること
が大事なんだと穴吹氏と江見氏は『スカーレットネクサス』の開発を通じて感じたとのこと。
というまとめをもって、以上で本セッションは終了となった。
なお、穴吹氏は発売まで続けるはずだったTwitter上での『スカーレットネクサス』スクリーンショット投稿を、現在も続けている。「いつもエゴサしています!」と言うほどに熱心なSNSでの活動をしているので、もしゲームを遊んで気に入ったらツイートしてみてはいかがだろうか。
★700日目!!!!!!!
力の代償。
★Day 700!!!!!!!
Power sacrifice.
#SNX発売日まで毎日スクショ公開
#ScarletNexus
#スカーレットネクサス
#SNX毎日スクショ… https://t.co/dU4cUS7e69
— 穴吹 健児 / Kenji Anabuki @ Scarlet Nexus 発売中 (@shibainu_kenji)
2022-11-11 01:46:12