日本のゲームメディアのほとんどは、拠点を関東に置いている。そんなゲームメディア記者の出張先として多いのは、パブリッシャーやデベロッパーが数多く存在している京都、大阪、福岡あたりだ。
ところがこの数年、自分は上記のいずれにも当てはまらない、とある県を頻繁に訪れている。数えてみたら、今年で4回目の訪問だった。東北出身の自分にとっては未知の土地だったというのに、こんなにも親しみのある土地になるだなんて、昔の自分に言ったら驚くだろう。本当に、まったく予想もしていなかった――『サガ』シリーズと佐賀県が、まさか8年以上もコラボ(連携)し続けるなんて。
これだけ長く取材を続けていると、コラボを通じて、いろいろなものが見えてくる。8年という歴史があったからこそ生まれてくる味わいが、このコラボ“ロマンシング佐賀”にはあるのだ。
佐賀県の名所や名産が、ディープなところまでわかる
佐賀県にあまり詳しくない人が、佐賀県に抱くイメージというのはどんなものだろう。“焼き物”、“呼子のイカ”、“明治維新で偉人が活躍”、“サガン鳥栖”、“芸人のはなわ”……あたりだろうか。
8年にわたる“ロマンシング佐賀”では、上記のうち、はなわさん以外とはすでにコラボ済みである(そう、佐賀の七賢人とすら、すでにコラボしているのだ。七賢人って何? と思った人は、こちらのページをチェック)。メジャーな観光地・名産品はすでに制覇しているため、近年は、佐賀県の人にもあまり知られていない(と、佐賀県庁の方が言っていたので間違いない)場所やモノまで取り扱っている。
今年10月に本格スタートしたコラボ“ロマンシング佐賀2022”の目玉のひとつとして、JR唐津線・筑肥線を走るラッピング列車“ロマ佐賀列車”が挙げられるが、このロマ佐賀列車のラッピングはなんと16種類もあって、それぞれに、佐賀県の名所・名産品がどどーんとあしらわれている。これは、スクウェア・エニックスの市川雅統氏のこだわりで、「何よりも佐賀県の名所をアピールしたい」という、強い佐賀愛から生まれたデザインだという。
列車に描かれているものの中には、佐賀県にはそこそこ詳しくなったはずの自分も知らないスポットがあったりして、「まだまだ佐賀県の旅は終わらないな……」と感じさせられるのだ。
また、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』(以下、『ロマサガRS』)内でも、コラボイベント開催中は佐賀県の名産・名所がかなりしっかり解説されていたので、ゲームプレイヤーは、いつのまにか佐賀に詳しくなっていたのではないだろうか。楽しんでいるうちに、佐賀県への理解が深まっていく……それが“ロマンシング佐賀”なのだ。
佐賀県関係者の『サガ』愛がわかる
8年も続いているだけあって、佐賀県関係者の『サガ』への理解は非常に深まっている。
たとえば、佐賀県知事の山口祥義氏は、『ロマサガRS』をしっかりやり込んでいて、インタビューをすると、最近のパーティー編成などを教えてくれる。ちなみに、いまのお気に入りキャラクターはオトマンらしい。オトマンというチョイスが、もうすでに渋い。
また、今回のコラボによってJR唐津駅内に生まれたイベントスペース“ロマ佐賀ステーション”の壁面には、佐賀県関係者のメッセージが書かれているのだが、唐津市長 峰達郎氏はここに、「私が市長です。」と書いている。『ロマンシング サガ3』をプレイした人には有名な、キドラントの町長のセリフのオマージュなわけだが、お堅いイメージのある市長が、こんなユーモアのあるメッセージを書いてくれるなんて、『サガ』ファンとしてはうれしい限りだ。
さらに言うと、今回のロマ佐賀列車の発車式には、佐賀県知事と唐津市長だけでなく、JR九州の代表取締役社長執行役員・古宮洋二氏、佐賀市長 坂井英隆氏、小城市長 江里口秀次氏、多久市長 横尾俊彦氏、伊万里市長 深浦弘信氏も参加。沿線駅の各市長らが集合して、ロマ佐賀列車の出発を見守るさまは壮観で、『サガ』とのコラボを、佐賀県側も大事に思ってくれていることが伝わってきた。
#ロマ佐賀 ラッピング列車 出発〜 https://t.co/BYfRHRpyUo
— ロマンシング★嵯峨@ファミ通 (@famitsu_saga)
2022-10-08 11:34:35
佐賀県の日常と『サガ』が溶け合っているのがわかる
実際にロマ佐賀列車に乗ってみてわかったことだが、今回は、JR唐津線・筑肥線のすべての車両がラッピングされているので、JR唐津線・筑肥線を利用する人は、必ずラッピング列車に乗ることになる。
あたりまえのように駅構内にロマ佐賀列車が入ってきて、あたりまえのように中高生などがロマ佐賀列車に乗り込むのを見て(※車両ラッピングは一度に行えるものではないので、一部のラッピング車両は、コラボの本格開始前から運行を開始していた。よって、すでに地元の人は、ロマ佐賀列車を見慣れているのである)、「ああ、ロマ佐賀列車のある生活は、この人たちにとっては日常なんだ……」としみじみと感じられた。
さらに、JR長崎本線・唐津線・筑肥線内の17駅には、『サガ』キャラクターと各駅の名所・名物をドット絵で描いた駅名標が設置された。駅を利用する人は、必ず『サガ』キャラクターを目にするというわけだ。
もし、これが初めてのコラボだったら、「全車両をラッピングするなんて」と、佐賀県の皆さんから若干抵抗があったのではないだろうか。実際、2015年にロマ佐賀列車が走ったときは、ラッピングされたのは2両だけだった。
『サガ』の存在が、ここまで佐賀県の日常に寄り添えているのは、8年という時間をかけて、認知が広まり、信頼関係が生まれたからにほかならないだろう。
また、佐賀県内にあるコラボマンホールの数は27個にもなった。今後、おそらく何十年にもわたって、『サガ』キャラクターたちのマンホールが佐賀にあり続けると思うと、これもまた胸が熱くなる。
佐賀県の“いま”がわかる
佐賀の過去だけでなく、佐賀の最新情報がわかるのも、“ロマンシング佐賀”のいいところだ。
今回、佐賀駅北に3つのコラボマンホールが新設されたが、これらのマンホールを見ようとすると、佐賀駅北の最新情報が自然とわかるようになっている。
現在佐賀県では、“SAGAサンライズパーク”の建設が進められている。2023年春にグランドオープン予定の、非常に広大な複合施設で、九州最大級の多目的アリーナ“SAGAアリーナ”、トップクラスの大会も開催できるプール“SAGAアクア”などを内包する。
なぜこのパークが建設されるかというと、2024年に、佐賀県で“国民スポーツ大会・全国障がい者スポーツ大会”が行われるからだ。以前は“国体”と呼ばれていた大会が、“国スポ”に名称を改めてから初の大会となるわけで、佐賀県の力の入れ具合もかなりのものと思われる。
佐賀駅北から、このSAGAサンライズパークをつなぐ市道三溝線は新たに“サンライズストリート”と名付けられた。今後佐賀県では、このストリートを利用した催しが増えていくのだろう。記者が取材に行ったときは、“SAGAサンライズパークストリートフェスタ”が行われていて、飲食物や雑貨などのマルシェが立ち並んでいた。
また、コラボ商品からも、佐賀県のいまを感じることができる。今回のコラボ商品の中でも、ネーミングセンスが光る“ロマンシング サバ”だが、じつはこのサバ、唐津市と九州大学の共同研究によって生まれた、完全養殖のマサバ“唐津Qサバ”なのだ。
唐津Qサバの販売がスタートしたのは2014年のことで、現在は、唐津市内の旅館や飲食店のほか、福岡などの飲食店でも提供されているという。とはいえ、サバは非常にデリケートなので、養殖するのは難しく、出荷できる数には限りがあるとのこと。佐賀県の人でも、出荷されたてのQサバをお店で食べる機会はなかなかないらしい。
今シーズンのQサバの出荷は、先日(10月20日)に始まったばかりだという。今後、ロマ佐賀の旅の中で唐津に立ち寄れば、もしかしたら、運よく生のQサバが食べられるかも……!?
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お待たせしましたー
唐津Qサバ今シーズン初出荷!!
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様々な不調を乗り越え
やっと、やっと今日の日を迎えることができました
数量限定での出荷開始となりましたが、関係者一丸となって頑張って参りますので、皆様今シーズンも… https://t.co/YV8DKKM35b
— 唐津Qサバ【公式】 (@karatsuQsaba)
2022-10-20 23:39:31
『サガ』と佐賀のコラボが続くことで、佐賀の歴史や地理、文化についての理解がどんどん深まっていくのは、とても楽しいことだ。来年以降も、長い信頼関係があるからこその、深い連携に期待したい。