島崎信長さんが語る、原作の魅力、テレビアニメならではの魅力
1991年に誕生した、アクションRPG『聖剣伝説』シリーズ。スクウェア・エニックスを代表する作品のひとつであり、30年以上にわたって愛されている同シリーズの初のテレビアニメ化作品『聖剣伝説 Legend of Mana -The Teardrop Crystal-』の放送が、2022年10月よりスタートした。
MBS・TBS系全国28局ネット"スーパーアニメイズム"枠にて、毎週金曜日 深夜1時25分より放送中。
ABEMAでは2022年10月11日23時30分より放送開始。1週間の無料視聴が可能
このアニメでは、1999年にプレイステーション用ソフトとして発売された『聖剣伝説 レジェンド オブ マナ』(※)に収録されているシナリオのうち、“宝石泥棒編”をベースにした物語が展開する。主人公シャイロに加え、もうひとりの主人公セラフィナが登場することが明かされており、アニメならではの物語がどのように紡がれていくのかが気になるところだ。
※2021年に、Nintendo Switch、PS4、PC(Steam)、iOS、Android向けにリマスター版が配信。
本記事では、シャイロを演じる声優の島崎信長さん(※)のインタビューをお届け。島崎さんは原作ゲームの大ファンということもあり、宝石泥棒編のお話だけでなく、ギルバート編やエスカデ編の話でも大いに盛り上がった(そのため、原作ゲームを未プレイという人はご注意を)。島崎さんの愛溢れるトークを、たっぷりとお楽しみください。
※島崎さんの“崎”の字は、正しくは“たつさき”です。
島崎信長(しまざき のぶなが)
青二プロダクション所属。宮城県出身。おもな代表作は『Free!』シリーズ(七瀬遙役)、『ワールドトリガー』(ヒュース役)、『ソードアート・オンライン』シリーズ(ユージオ役)、『Fate/Grand Order』(アルジュナ役ほか)など。
――初めに、今回『聖剣伝説 Legend of Mana -The Teardrop Crystal-』への出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
島崎嬉しかったですね、やっぱり。自分がこの仕事に就く前から好きだった作品に関わらせていただける機会をいただいて。僕はこれまでにも、そういうとても素敵な機会に恵まれていて、幸せだなと思っていたんですけど、とはいえ、僕が子どものころや、そのもっと前に生まれたコンテンツに改めて声が付くということは、もうなかなかないだろうなと思っていたんです。……と思っていたらこのお話が来たので、人生まだまだわからないですよね。
――まさか、20年以上前のゲームがいまアニメ化するとは、予想できませんよね。
島崎本当に青天の霹靂というか。アニメ化されそうな気配もなかったですし。確かに、『聖剣伝説』シリーズは近年リメイクされていましたけど。『聖剣伝説2』のリメイク作(『聖剣伝説2 シークレット オブ マナ』)で、ランディ役が友だちの小野賢章に決まって、『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』では、江口拓也とか逢坂良太が主人公を演じていて、「いいな」と思ってはいたんですけど。まさか『聖剣伝説 レジェンド オブ マナ』(以下、『聖剣伝説LoM』)の、まさか主人公役が来るとは思わなくて。もう、みんなもね、人生は希望を持ち続けたほうがいいと思いました!
――ということは、オーディションではなくてご指名だったのですね。
島崎はい、今回はご指名をいただきました。これまで積み重ねてきたものが活きたんだな、コツコツやっているといいことあるな、と本当に思いました。
――島崎さんは、シリーズの中でも『聖剣伝説LoM』がいちばんお好きとのことですが、どんなところがお気に入りなのですか?
島崎僕が『聖剣伝説LoM』を最初にプレイしたのは、小学校高学年から中学校ぐらいのころだったんですけど……このゲームを好きな方はご存じだと思いますが、小学生にはこのお話がわかるわけがないですよね(笑)。だから当時、雰囲気で遊んでいたんですよ。でも、絵本がそのまま飛び出してくるような素敵なファンタジーの世界観と、当時の2Dグラフィックのひとつの完成形のようなものが好きで。いまではLive 2Dのようなものも当たり前にありますけど、当時、1枚絵がそのまま動くようなアニメーションは珍しくて、すごくびっくりしたんですよね。
――トレントがしゃべるアニメーションなどは、当時とても驚きましたね。
島崎びっくりしましたし、お話もわからないなりに、「何か、すげえこと言ってる気がする」と思いながら楽しんでいました。賢人とか、だいたい言っていることがわからないんですけど、あの人たち悟ってるから(笑)。それでも「ほぉーっ」って思ってたし、当然RPGとしても楽しんでました。いろいろな武器が使えて、技もカッコよくて。主人公には確か“ノブナガ”という名前を付けて、大剣を好んでいた気がします。必殺技は“一刀”が好きでした。ポケットステーションも持っていて、一生懸命素材集めてました。当時、攻略情報は見ていないから、最適なランドメイクとか、最適な武器の強化法もわかっていませんでしたけど、なんだかそれでも楽しめたんですよね。すごく思い出に残って、好きで。その後、大人になってから「改めてストーリーを楽しみたいな」と思ってプレイして、「やっぱり、めっちゃ深いな」と思いました。
――大人になってからプレイすると、見かたが変わるイベントもありますね。お気に入りのイベントはありますか?
島崎いっぱいありますが、たとえば挙げるなら、ギルバートの最初のお話。ランプを売るイベント(精霊の光)です。あそこのギルバートとリュミヌーの関係が、子どものころもなんだか心に刺さっていたんですけど、いま大人になって見ても「すごいな」と思うんですよね。ギルバートは軟派なヤツに見られがちですけど、大人になって改めて見ると、ギルバートの言っていることは間違ってなくて。せっかく商売が軌道に乗ったんだから、その商売を大きくして自分たちがそこまで働かなくてもいいようにして、それで得たもので、いっしょにいろいろなものを見に行こうって。そういう未来もアリじゃないですか。いまで言うFIRE (※)みたいな考えかた。でもリュミヌーは、1個1個のランプを手作りして、手渡しして喜んでもらいたいっていう。
※FIRE……経済的自立を達成することで早期に退職し、退職後は資産運用などを行い生活していくという考えかた。
――すごい、かなり細かいところまで覚えていますね!
島崎リュミヌーが「彼はもっと大きなランプが欲しい人なのに、私のランプはとても小さいの。ランプが大きくても小さくても本当は関係がないはずなのに」って言うんですよね。「だってそうでしょう? ベッドに入ったら、ランプは消すでしょう?」って、なんだか深いことを言っているなあって。そしてギルバートも考えを押し付けないんですよね。「なんでだよ、絶対こっちのほうがいいじゃん」とかは言わない。価値観が違うからお別れだね、と去っていくギルバートは、子どものころも好きでしたけど、大人になってみると、いいヤツだなあって。あと、エスカデ編も好きです。
――エスカデ編は、『聖剣伝説LoM』のメインストーリーの中でも、かなり考えさせられるストーリーだと思います。
島崎今回、もしエスカデ編からアニメ化していたら、これはもう、昭和の残り香がする平成からの、令和への挑戦状になっただろうなと思うんですけど(笑)。あの賛否両論になるような、解釈が分かれる、あえて説明しすぎないところが好きです。昨今はどうしても、手厚くきちっと説明することが求められていると思うんですけど、あの時代のゲーム、とくに『聖剣伝説LoM』は違って。ちょっとみんな電波を受信しているような感じ……あの感じがいいんだよなあ。エスカデ編を大人になってから見て、考えかたがかなり変わりました。
――大人になってから見ても、やっぱりあの結末には複雑な感情を抱いてしまいますが……。
島崎でも僕は、腑に落ちました。勧善懲悪のお話ではないし、誰がいいとか悪いとか、誰が正しいとか間違ってるとかじゃなくて。みんなそれぞれ好きに生きた結果、それぞれの思いで生きた結果こうなったよっていう。もしマチルダが最後に幸せになったら、逆にモヤっとしてしまった気がします。マチルダも、「選ばない」ということを選んだ結果、ああなったので。みんなが幸せにならないから、誰も正しくないし、誰も間違ってないっていう……あの感じが、腑に落ちたというか。昔は、マチルダのことがよく見えていたんですよ。人に押し付けない、誰かに強制もしない。それがカッコよく見えていたんですけど、大人になって見ると、ダナエも悪いことは言ってないし、むしろいいことを言っている。マチルダが仮にその内容を受け入れられなくても、ダナエはマチルダのことを思って行動しているんだから、もう少し応えてあげてもよかったんじゃないかって。これまでいろいろなことを強制されてきたから、人に何かを強制したくなかったのかもしれないけど、もう少しだけマチルダ自身も動いていたら、全然違う未来があったんじゃないかなあ、とか。エスカデもエスカデで、彼の事情を鑑みると、意外とわかるというか……「だから、この物語は“エスカデ編”なんだな」と思ったりしました。だって、“マチルダ編”と付いていてもよさそうじゃないですか。
――確かに、そうですね。
島崎でも、やっぱりあれはエスカデ編なんですよね。
――……と、エスカデ編についてお話ししていると、なかなか宝石泥棒編のお話に辿り着けなさそうなので(笑)、そろそろアニメについて伺いたいと思います。島崎さんは主人公シャイロを演じられていますが、ゲームでは主人公はほとんど言葉を発さないので、役作りで悩んだのでは?
島崎そもそも『聖剣伝説LoM』の主人公のイメージは、プレイヤーによって解釈が分かれると思うんですよね。表示される横顔が無表情なので、“クールであまり喋らない、周りに流されている”というようなイメージを持たれることが多いのかなと思いますが、僕はけっこう、主人公はあの世界を楽しんでいたんじゃないかと思うんですよね。サボテン君の日記とか見ると、主人公にはお茶目な面もあるように感じられたので。それで、このアニメ『聖剣伝説LoM』は、原作の世界をとてもリスペクトしているアニメなので、自分としては「あとはもう、ここで自然に生きればいい」という思いで演じました。ちゃんとこの世界を見て、この世界に生きて、この世界を楽しんでる人なんだな、と意識して。
――ではシャイロは、明るく冒険を楽しんでいるような男の子として描かれるのですね。
島崎生命力はけっこうありますね。じゃないと、果樹園やったりペット牧場やったりできないですよ(笑)。楽しんでカニも割っていたと思います。
――ミニゲーム“カニバッシング”のことですね(笑)。さて今回のアニメは、“-The Teardrop Crystal-”という副題の通り、宝石泥棒編がベースになっているそうですが、宝石泥棒編については、どのような思い出がありますか?
島崎まずやっぱり、瑠璃と真珠姫のキャラクターがいいですよね。ふたりがとっても魅力的で。どう魅力的かっていうと、現代の最新のキャラクター造形じゃないんですよ。昨今の、体系化されたキャラクターのテンプレートみたいなものに沿って作られているわけじゃないんですよね。瑠璃って、いま新しく作られるんだったら、わかりやすいツンデレのようなキャラクターになっていたと思うんです。ツンデレという言葉ももう古いですけれども。でも瑠璃は違って、情緒がもうヤバいんです。だって初登場時に、か弱い女の子に対してブチ切れているんですよ。
――原作における、宝石泥棒編の最初のイベント“まいごのプリンセス”のワンシーンですね。
島崎アニメでも、瑠璃はやっぱブチ切れてるんですよ、ちゃんと。別の作品で似たようなシーンがあったら、僕でも「女の子に対してこんなにキレるのはマズいから、ちょっとマイルドにしたほうがいいですよね」って僕でも言うと思います。でもこの作品ではね、そんなの関係なくブチ切れます。だって必死なんだもん。大事な人を捜すための手がかりを持ってるやつがモゴモゴしてたら、「こっちは必死なんだよ」って。それがいいですよね、忖度がないというか、人間的なんです。現代の作品においては、キャラがブレてるって言われるかもしれない。クールな人はこんな急に怒らないって。でも逆に、そこが瑠璃の魅力になっていると思います。急にやさしくなったり、急に謝ったり、身内だと認めるとすごい(距離感が)近くなったり、そんな感じがとてもリアリティーがあって、そういうキャラクターの魅力だけでも引っ張ってくれるようなお話です。それで、真珠姫もね、ヤバいんですよ。抜群に。
――ヤバいキャラクターだらけですね(笑)。
島崎何と言うか、昔の天然なんです。本物の天然。いまの作品は、視聴者にストレスをかける感じがあまり好まれないので、天然と言っても、もうちょっと母性があったり、お姉さん感があったりするものですが、真珠姫は当時の天然だから、もう、話が通じない。「こいつはマジモンや」って思う。それで、天然であることを説明しすぎないんですよね。ちょっとした言動とか、返答とか、表情とかで、ヤバさがわかってくる。アニメで声がついて、いっしょに話を追っていくとわかるのですが、改めて、このふたりのキャラクター造形が秀逸だったんだなと気づかされましたね。……と長々とふたりのキャラクターがいいという話をしてしまったんですけど、宝石泥棒編の何がいいって、王道ですよ。
――確かに、展開は王道です。
島崎“ドラゴンキラー編”は、バトルものの王道なんですけど、宝石泥棒編はドラマの王道。『聖剣伝説LoM』のパッケージとかキービジュアルを見た人が思い描くようなファンタジーの王道をしっかりやってる。そのうえで、絵本みたいな世界観で、キャラクターの頭身も低くて、かわいい子もたくさん出てくるけど、意外と中身は殺伐としているところがあって……その見た目とのギャップ、シリアスさも乗ってきて。シナリオはどんどん重いほうに行くんですけど、だからこそ心も揺さぶられるし、先が気になるし。『聖剣伝説LoM』は、どちらかというと哲学的なお話が多いですが、その中で王道をやっている。そりゃ、最初にアニメ化するならそれは宝石泥棒編だよねって。
――さすがにエスカデ編からアニメ化、とはなりませんでした。
島崎初手エスカデ編だったら、あまりにもロックすぎますね(笑)。でも、アニメのやりかたはいろいろあると思ってて。もともとがオムニバス形式のゲームですから、短めのお話を描いていくのもいいと思いますし。ディドルとカペラのお話(ディドルいやになる)とか、好きなんですよね。急にディドルが奈落に行っちゃって、ふつうなら情熱的に助け出すじゃないですか。「俺がいるから戻って来いよ!」みたいな。でもカペラの連れ戻しかたはそうじゃなくて、押し付けないんですよね。ディドルがそう思うなら、そうかもしれないけど、自分はこう思う……という感じがヒロイックすぎなくてすごくよくて。そういうイベントを、短編集みたいな形でやっていくのもいいし。ドラゴンキラー編は、やっぱりアクションが映えるので、カッコいい王道の剣戟を見たいですね。で、エスカデ編は劇場版とか。メッセージ性が高めの劇場版アニメとして展開するのがいいと思います。ほかにも、没になってしまったセイレーン編をアニメでやるとか、そういうのもいいですよね。
――当時の攻略本(アルティマニア)には、没になってしまったシナリオの設定なども載っていますからね。
島崎結局、不死皇帝とはなんだったのか、とか。妖精戦争のお話とか。最初にアーティファクトが生まれたときの話とか。そういった過去編とかもおもしろそうですし。
――宝石泥棒編に続くアニメ化を期待したいです。では最後に、改めて、今回のアニメならではの魅力というものを教えていただけますでしょうか。
島崎やっぱり、みんなが動いて喋っているというのが、まず大きなひとつの魅力だと思うんです。瑠璃とか真珠姫がどういうキャラクターかというのが、いっしょに話していて伝わってきたし、僕の中でも解像度が上がりました。それと今回は、セラフィナが登場することが発表されているわけですよ。「男主人公と女主人公が共存するって、どういうこと?」という。これは本当にアニメならではの展開だと思うので、楽しみにしていただければと思いますし。そしてやっぱり、本当にアニメのスタッフさんの愛が深くて、1話を見たらもう感じてもらえると思うんですけど、原作やゲームが好きな人が嬉しくなるような要素がしっかり入れ込まれてるんです。宝石泥棒編には直接的にはそこまで関わってこないキャラクターたちが、チラっと顔を見せてくれたり。
――公式サイトには、ドミナの町のキャラクターの名前が書かれていたりしますね。
島崎キャラクターひとりひとりのキャスティングも、考え抜かれたすばらしいもので。たとえばヌヴェルを、尊敬する先輩の家中宏さんが演じていて、掛け合いで収録させてもらったんですけど。ああいう、世界観を説明してくれるような、その世界に生きているキャラクターの言葉に説得力や人間性が乗ることで、一気に世界の解像度が上がるというか、深まるんですよね。といっても僕もまだ、完成品の映像は全部見ているわけではないので、放送をすごく楽しみにしているんですけど、きっとそれぞれのシーンに愛のこもった、素敵なアニメになっていると思うので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
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