感情入力システムにより、プレイヤーが自由な主人公像を作り上げることができた

 いまから24年前の1998年(平成10年)6月18日は、プレイステーション用ソフト『東京魔人學園剣風帖』が発売された日。

 『東京魔人學園伝奇』シリーズの第1作として発売された『東京魔人學園剣風帖』はアトラスにグラフィッカーとして勤務していた今井秋芳監督がその後立ち上げたシャウトデザインワークスが制作を担当し、アスミック・エースエンタテインメントから発売。今井監督が総監督としてすべての制作に関わっているほか、後にスクウェア・エニックスで『ドラゴンクエストX』の2代目ディレクターを務めることになる齋藤力さんも企画に携わっています。

『東京魔人學園剣風帖』が発売された日。現代の東京を舞台に不思議な力に目覚めた高校生たちが異形のものと戦う伝奇ジュヴナイル【今日は何の日?】
『東京魔人學園剣風帖』が発売された日。現代の東京を舞台に不思議な力に目覚めた高校生たちが異形のものと戦う伝奇ジュヴナイル【今日は何の日?】

 ストーリーはアドベンチャー、戦闘はシミュレーションで展開する作品で、ジャンルは当時としては珍しかった現代日本の学園を舞台とした伝奇ジュヴナイル。東京を舞台に、不思議な能力を持った高校生たちが異形のものと力を合わせて戦うという設定に燃えた人は多いハズ。また、キャラクターたちは学園で青春を送っているふつうの高校生の顔も持ってるので、みんなでお花見に行ったりプールに泳ぎにいったりと学生らしいイベントも。こんな楽しい仲間たちと自分も学校生活を過ごしたかったと思わせてくれます。とくに本作をプレイして学校帰りの放課後、みんなでラーメンを食べに行くシチュエーションに憧れました。

 和風で統一された雰囲気もポイントで、作曲家の新田高史さんの笛や太鼓をつかった曲はどれもすばらしいものばかり。また、キャラクターデザインの小林美智さんは本来はアニメチックな絵柄ですが、本作では作風に合わせるために劇画的なデザインに変えているという凝りようです。

『東京魔人學園剣風帖』が発売された日。現代の東京を舞台に不思議な力に目覚めた高校生たちが異形のものと戦う伝奇ジュヴナイル【今日は何の日?】
『東京魔人學園剣風帖』が発売された日。現代の東京を舞台に不思議な力に目覚めた高校生たちが異形のものと戦う伝奇ジュヴナイル【今日は何の日?】

 本作が新しかったのは“感情入力システム”。主人公は通常の選択肢ではなく、コントローラーの各ボタンに対応した愛・友・同・喜・悩・怒・悲・冷という8つの感情(加えてボタンを押さないことで無視も可能)を相手に伝えることができます。セリフはないので「自分はこんなこと言わない」という違和感がありませんし、セリフがないからこそ想像力が働きます。分岐のパターンは膨大なので、作るのはとても大変だったと思います。

 ストーリーは1話完結型。インタビューで今井監督が「『剣風帖』を作ったときは、“これから先、伝奇やジュヴナイルを扱ったゲームが出たとしても、『剣風帖』が最高峰であってほしい”と思って、すべてを詰め込みました」と語っている通り、風水や黒魔術、クトゥルフ神話などさまざまな題材が詰め込まれています。

 各話に登場するキャラクターは敵も味方も個性豊か。味方は会話などでフラグを立てれば仲間になりますが、ドッペルゲンガーの空手家や暗殺者集団の殺し屋、現在に生きる陰陽師など、濃いメンツばかり。仲間になったキャラクターは各話のインターバルで会話をして事件を振り返ることができるので、ともに戦っている仲間であることを実感できます。こういったキャラクターの多いゲームは、戦闘でメインに使わないかぎり空気になりがちですが、本作は全員と会話する機会があるので影が薄くなることがありません。また、ストーリーが進むにつれて関係も深くなっていき、会話も熱くなっていきます。

 主人公が生死の境をさまよって危篤から目を覚ましたときと、ある人物との別れがあり、失意の中にあった後のインターバル会話は仲間の温かさにマジで泣けました。

 戦闘はターン制で、特定の仲間で敵を囲むことで使用できる“方陣技”も。意外なキャラクターの組み合わせもあったりして、見つけるのが楽しかったです。

『東京魔人學園剣風帖』が発売された日。現代の東京を舞台に不思議な力に目覚めた高校生たちが異形のものと戦う伝奇ジュヴナイル【今日は何の日?】
『東京魔人學園剣風帖』が発売された日。現代の東京を舞台に不思議な力に目覚めた高校生たちが異形のものと戦う伝奇ジュヴナイル【今日は何の日?】

 この『東京魔人學園剣風帖』はアニメ版もありますが、設定が異なるので別物と割り切って鑑賞するのがオススメ。アニメしか知らなかった人はぜひ原作ゲームをプレイしてみてほしいです。

 逆に大きく繋がっているのは、ファンディスクの『東京魔人學園朧綺譚』とドラマCD『東京魔人學園退魔陣』、ワンダースワンで発売されたあとにゲームボーイアドバンスでリメイクされた『東京魔人學園符咒封録』です。ほかにもいろいろな展開がありますが、『東京魔人學園剣風帖』の世界をより理解するならこの3つはマストかなーと。ライトノベルの『東京魔人学園双龍変』もキャラクターたちのその後が描かれたりもしているのですが、挙げだしたら切りがないので……。じつは携帯アプリで格闘ゲームの『東京魔人學園群星伝』などもありましたが、いまではプレイできないですからね……。

 『東京魔人學園伝奇』シリーズとしては、幕末を舞台に『剣風帖』の祖先たちの物語を描いた『東京魔人學園外法帖』が2002年に発売。昭和初期を舞台にしたシリーズ最終作となる『東京魔人學園帝戰帖』が2008年にニンテンドーDSで発売されることが発表されましたが、開発中止になりました。しかし、今井監督は2018年のインタビューで『帝戰帖』を出したいと言っており、2020年のインタビューでも設定や描こうと思っているエピソードは頭の中にあると答えています。

 待っているファンは本当に多いと思いますし、自分自身も高校生時代に『剣風帖』をプレイしてゲーム媒体の可能性を感じ、この業界に入ったぐらいなので絶対にプレイしたいです。できれば5年……がんばって10年……ギリギリ20年、本当にラストチャンスであと30年は待つので絶対に完成させてください! 30年後だったらぼくは70歳ですが……それでもシリーズ完結を見届けたいです。よろしくお願いします!!

これまでの今日は何の日?

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