2022年5月現在、各種動画配信サイトにより配信中で、TOKYO MXでのテレビ地上波放送が2022年5月3日よりスタートしたアニメ『Shenmue the Animation』(シェンムー・ジ・アニメーション)。

 本作は1999年に発売されて以降、根強い人気を誇るゲーム『シェンムー』シリーズをアニメで映像化したものだ。

 ファミ通.comでは、『Shenmue the Animation』配信記念として、『シェンムー』シリーズの原作者でありアニメの監修も務めるYS NETの鈴木裕氏、アニメのプロデューサーを務める浄園祐氏、そしてゲームでもアニメでも主人公・芭月涼を演じた声優の松風雅也さんへのインタビューを実施。本記事ではその模様をお届けする。

 『Shenmue the Animation』の制作秘話や今後の展望などについて詳しく訊いた。

アニメ『Shenmue the Animation』(アマゾンプライムビデオ)
『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

鈴木裕氏(すずき ゆう)

YS NET代表取締役社長。『シェンムー』シリーズの生みの親。セガ・エンタープライゼス(当時)在籍時、『バーチャファイター』シリーズや『ハングオン』など手掛け、斬新な作品の数々を世に送り出す。(文中は鈴木)

浄園祐氏(きよぞの ゆう)

テレコム・アニメーションフィルム代表取締役社長。『Shenmue the Animation』プロデューサー。近年では劇場作品『LUPIN THE THIRD』シリーズを手掛ける。(文中は浄園)

松風雅也さん(まつかぜ まさや)

青二プロダクション所属の声優。『シェンムー』シリーズでは1作目から芭月涼の声を担当。モーションアクターも担当した。(文中は松風)

鈴木裕の監修は屋根から始まった

――裕さんと浄園さんには、アニメ化発表時にその経緯を伺ったオンラインインタビュー以来となります。

浄園「リアルでは初めまして」というやつですね(笑)。

※アニメ『シェンムー』制作の経緯に迫った前回のインタビュー記事は以下の関連記事をチェック!

――『シェンムー』アニメ化については松風さんはどのようにお聞きに?

松風時期を逆算すると『シェンムーIII』の制作時からすでにアニメ化の企画があったはずですが、僕がゲームの方に関わっていたときはまだ知りませんでした。

 ファンの皆さんのおかげとそして裕さんの力で『シェンムーIII』がついに発売されて「生きててよかったな、これはまさに奇跡だな」と思っていたところに、アニメ化の話が飛び込んできまして。お話はだいぶ企画が進行してからお聞きした形です。

 『シェンムーIII』が発売された後も、『シェンムー』の奇跡はまだ終わっていなかったんだ! と、非常に感激しました。

――『シェンムーIII』が開発・発売されたこともファンとしても奇跡だと感じましたし、さらにアニメ化で、まさに奇跡の連続です。アニメ『シェンムー』はどのような評判が届いていますか?

松風『シェンムー』シリーズはフル3Dで世界に挑んだゲームで、ドリームキャストの時代にハイクオリティーな3D表現を実現していました。そんな『シェンムー』が2Dのアニメーションになって、しかも1980年代の雰囲気を残したような作風になっていて、今度は時代の逆を突くところがすごいですよね。そして、配信開始からものすごく評価が高くて驚いています。こんなにみんな評価してくれるんだなとビックリしました。

鈴木『シェンムー』ファンの皆さんは、いつも暖かく見守ってくれています。ただ『シェンムーIII』が発売された後はちょっと継続的な話題性に欠けていたかな、と感じていました。そんな中、アニメ化の話を出せてよかったです。継続してサポートしてくれる、ファンの皆さんの力を実感しました。非常にうれしい限りです。

浄園今回は海外の配信主導でアニメ化をするというところから、日本だけでなく海外にもファンの多い『シェンムー』をアニメ化させていただいたわけですが、熱いファンに向けて作った作品ですのである意味予想通りではありつつも、思った以上に手ごたえを感じています。

 これだけ受け入れてもらえるのも、何10年もかけて大人になっても『シェンムー』を愛してくれているファンが大勢いるからだと思います。また、昔と比べて海外でも日本のアニメを見る文化がいまは根付いていますよね。

――ああ、確かに、『シェンムー 一章 横須賀』や『シェンムーII』が発売されたタイミングでは、高速インターネットも普及しきっておらず、もちろん動画サイトの存在自体がないわけですから、いまのアニメ化というのはそういう意味で納得できますね。

浄園今回のアニメ化では、ゲームファンの方々といっしょにアニメも楽しめるという文化のつながりが見えました。

鈴木つながっていけばいいですね。『シェンムー』の“つぎ”は何なんだろうというところから、ちょうどアニメが来て。これがまた何かしらの形で“つぎ”につながってほしいです。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

――続報に期待しています! 『Shenmue the Animation』は海外先行で配信され、ちょうど終わりを迎える直前とお聞きしています。海外ファンの評価もやはり高いのでしょうか?

浄園海外ではクランチロールさんで配信中で、全話一挙公開ではなく日本と同じく毎週配信のスタイルでお届けしています。これが毎話評価が高くてですね、評価システムの★も最大評価の★5に毎話近いです。

鈴木おおっ。それはうれしいなぁ……。

松風料理店ならもう名店中の名店の評価ですね!

浄園毎週の評価を聞いて「本当!?」と疑うくらい、評価が高くて驚きました(笑)。海外のファンの方々もすごく熱くなっていただいているのも要因かなと。

松風アニメ版の声優陣もすごく真摯取り組んでくださって、その影響も大きいと思います。

――海外版でも日本の声優陣の声で(外国語字幕で)アニメを見ることもできるんですよね。

浄園はい、英語音声と日本語音声の選択式です。最近は「日本の声優でアニメを楽しみたい」というファンもすごく多いですから。

鈴木原音が聞きたいという人がいるのはいい話ですね。ゲームだと必ずすべてを吹き替える必要がありましたが、「オリジナルに近い形でも楽しみたい」という方がいるというのはうれしいです。

松風僕、海外の方から「『シェンムー』の原音の人」って呼ばれますからね(笑)。

――(笑)。アニメは非常にテンポのよいストーリー進行で、物語を知っているからこそより楽しめた側面があったように感じました。テンポのよさはゲームファンのことも意識して?

浄園テンポがいいのはなんとか1クールに物語をまとめるためであり、かつ「これも入れたい、あれも入れたい」といろいろな要素を詰め込んだ結果、テンポを上げざるを得なかった……という感じです(苦笑)。

――ものすごく詰め込まれていますね。

浄園横須賀の話だけで1クールやるか、『シェンムーII』の香港~九龍城までやるべきなのかというのは、制作開始前から意見が分かれたところです。僕は横須賀だけで1クールやりたかったのですが、『シェンムーII』の話もやはり入れたいという形にまとまりました。

 『シェンムーII』の話は規模が大きく、どうしてもアニメに入れ込めなかった『シェンムー 一章 横須賀』の要素もあります。たとえばヒロインのひとりである原崎望の描写というのは本当はもっと増やして、魅力を引き出したかった。その自分の悔しさを全部エンディング映像に詰め込みました。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)
エンディングの原崎望。
『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

――エンディングの原崎、かわいいですよね。

浄園スタッフのひとりにすごく絵のうまい子がいるんですよ。その子は本編制作の方にはあまり関われなかったのですが、エンディングを全部任せました。

松風本編がテンポよく詰め込まれた内容で、逆にエンディングは静止画で心休まる感じで、すごくいいですよね。まさに「これぞアニメのエンディングだ!」と思いました。

鈴木ただ、エンディングの原崎は僕の方から鼻と唇だけ修正させていただきましたね。

松風えっ!? そうなんですか、やはり手きびしいチェックが入ってるんですね!

浄園ありましたね。裕さんに直接、手描きで直してもらいました。

――具体的にはどのような修正を?

鈴木作者が違うので当然表現方法が違うのは仕方ないですし、それがアニメのよさにつながる部分もたくさんあると思います。ただ、こだわりのある部分もありまして。鼻と唇の出かたがちょっと違うので、そこだけは直させていただきました。でも素敵な原崎でよかったです。

浄園裕さんにはかなり細かいところまで監修していただきました。たとえば、道場の屋根ですね。いちばん最初に出して監修していただき、すぐに指摘が入りまして。その場で明確に絵で表現してくれて「ああ、そういうことか」と驚いたのを覚えています。それと同時に「もしかしたらヤバイかも!」と正直思いました。

――と、言いますと?

浄園最初の作業で建物の屋根から監修が入るということは、ここから作るすべてはどこまで監修されるんだろう!? と戦々恐々となりましたね(苦笑)。これはよりしっかり作り込まないと大変なことになるぞと、気合を入れ直しました。

――「この後すべて、背景の屋根ひとつまで気が抜けない!」(笑)。道場の屋根は何がダメだったんでしょうか?

鈴木芭月家の道場は、神社仏閣を改造して作った設定があります。神社仏閣というのは、右側と左側に居住区とパブリックスペースで分かれているものです。そこで、母屋の屋根の向きが違うぞと。修正前の屋根の形だと、近代の一般住宅のような西洋の屋根になっていて。古風な日本の建物らしさがなくなってしまうのでそこは修正していただきました。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)
芭月家外観。

松風芭月家が神社仏閣から作られたというのも初耳の設定ですよね?(笑)

――はい。

松風(笑)。ただ、言われてみれば、芭月家は丘の上にありますから、言われてみると非常に神社っぽい立地なんですよ。「なぜこの坂道を登らなくてはならないんだろうか、涼は毎日大変だな」と思っていましたが、合点がいきました。

――数十年越しに『シェンムー』の奥深い裏設定がまたひとつ明らかになりましたね。

鈴木ほかの建物だったらさほど気にしなくてもいいかなという感じですが、やはり芭月家ですから。「ちょっと指摘してみようかな?」と思い、言ってみました。

浄園あと、たとえば三橋五郎のリーゼントのボリューム感にも指摘がありましたね。

――そこは……重要ですね(笑)。ゴローといえば、彼女の沢野麻衣がアニメではゲーム以上に活躍していました。

浄園そこはやはりアニメ全体として「女性キャラクターの活躍シーンはもっと欲しい」という理由がいちばんですね。アニメ版では第1話からシェンファがチラチラと映ってはいますが、それでも前半には女性キャラクターが少なくて。また、アフレコ現場の活気というか、キャピキャピとした雰囲気もあると望ましいなという現場づくりの観点からも麻衣ちゃんの活躍を増やしたりしています。

――キャピキャピ……(1980年代的表現だな)。

鈴木ゴローと麻衣ちゃんでスピンオフ作品とかできそうですよね。

松風お、いいですね! ゴローと麻衣ちゃんの関係って、ゲーム的にはイベントを進めていかないとわからないもので、本編ではあくまでサイドストーリーですけど、そこをアニメで取り上げてくれたのがうれしかったです。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

――ゲームだと、ホクホク弁当の沢野ひさかから受ける、「妹の麻衣がグレてしまいそうで、涼くんなんとかしてくれない?」という相談から始まるサブイベントですもんね。

松風そうそう。あと『シェンムーIII』では、ゴローと麻衣ちゃんがうまくいっているという後日談も電話で聞けますよね。

浄園その関係性も踏まえて盛り込めた部分でもあります。『シェンムー 一章 横須賀』だけ見てアニメを制作していたらフィーチャーしていなかったかもしれません。『シェンムーIII』まで体験したからこそ、ゴローと麻衣ちゃんについて少し触れられたのかなと。

松風第1話の白鹿村で、村にある高い櫓(やぐら)がちゃんと見えて「おおっ!」って思いました。『シェンムーII』までだとあの櫓は僕たちは知らないわけですよね。シェンファといえば、崖の上に立っているシェンファと桂林の中を走り回る印象が強いところにちゃんとゲーム最新作の彼女が取り入れられていて。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

――『シェンムーIII』があるおかげで、アニメ制作のための物語を再構成する作りやすさみたいなものはあったのでしょうか?

浄園僕たちは『シェンムーIII』を開発中からも見させていただきました。アニメはあくまで『シェンムーII』までが主軸ですが、のちにどうなるのかという要素も取り入れたかった部分です。とくにシナリオライターはキャラクターたちの結末を知ってからその過程の物語を構成したいものですし、最後までというわけではないですが、『シェンムーII』の続きとなる『シェンムーIII』がアニメ制作時からあったのは大きかったと思います。

――ゲームとアニメの違いで言うと、アニメの原崎望はゲームよりも深く物語に介入している印象です。裕さんとしては、『シェンムー 一章 横須賀』でも、本来はアニメくらい物語に絡ませたかったのでしょうか?

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

鈴木あれはあれでちょうどいい、と思っています。古風な奥ゆかしい女性像のキャラクターで、ひとつの理想形なんじゃないでしょうか。

――アニメを観て再認識しましたが、服装のデザインなどもいま見てもかわいいですし、古さを感じませんよね。

鈴木女性プレイヤーがどう思うのかはわかりませんが、ゲームは男性プレイヤーが多かったので男性人気の出るような衣装を意識しました。あと、時代背景を意識したりですとか。1986年だからこそ、チェック柄のスカートにフィッシャーマン系のセーターにして、昔の流行を取り入れています。

――なるほど。ちなみに声優に原作の安めぐみさんを起用しようというアイデアはありませんでしたか?

浄園そうですね、望はもともとは安めぐみさんでしたねえ……。アニメでも松風さん同様に、主要キャラクターはゲームと同じ方にしたい思いはあったのですが(苦笑)。

鈴木ゲームでも莎花やレンのように『シェンムーII』と『シェンムーIII』で変わっている人もいるしね。

松風それを言い出すと芭月巌を藤岡弘、さんにしないといけないですし!

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

声優陣が自発的にシェンムーを学ぶ

――アフレコはどのように進められたのでしょう。たとえば「もとの声に寄せてほしい」などの要望があったり?

松風制作側からそういった指示はとくになく、声優陣がみんな『シェンムー』について自発的に勉強してからアフレコに臨んでくれました。「プレイしてください」みたいな指示はひとつもなかったのにみんな事前にチェックしてくれたんですよ。

 オーディションで声優が決まったキャラクターは貴章とあと何人かのキャラクターだけです。それもあってか、アニメ版・貴章役の木島隆一さんはオリジナル版の貴章役の酒井哲也さんにすごく似ていますよね。それ以外の方々は、そのうえでオリジナル版の声優陣の声質にすごく寄せてくださいました。

 たとえば麻衣ちゃん役の日野まりさんは、オリジナル版ではかすれ声だったからとかすれ気味の演技にしていたり、チャイ役の下山吉光さん、ゴロー役の木村隼人さんもオリジナル版をもとに演技したと言っていました。オリジナル版のゴローって藍帝役の櫻井孝宏さんによる兼役だったじゃないですか。あと、チャイも二又一成さんが演じていて、どちらも現役バリバリの大先輩なわけで。そんな先輩たちのキャラクターを演じるということで、今回の声優陣はふだんなかなかない種類のプレッシャーを感じていたようでした(笑)。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

――自発的に取り組んでくれた、というのがすごいですね。裕さんはアフレコ現場はご覧になりましたか?

鈴木はい。ゲームでは自然体の演技を求めて普段のよさを出すようにしていましたが、アニメはしっかりと印象に残るような演技を強めている部分もあるので、声優さんの本来持っている表現力を生かす形だと思いました。注文自体はほとんど付けず、たとえば「ゲームとは違う麻衣ちゃんがいてもいいじゃないか」というくらいの感覚で見ていました。ノビノビやってもらったほうがアニメではいいだろうと思ったんです。

――裕さんから具体的な指示などはとくに出すことはなかったと。

鈴木オーディションの段階から何種類かの声色を聴いて「この傾向でお願いします」とリクエストしていますから、それに従ってやっていただいていますから、現場でどうこう言うことはなかったです。

――サウンド面の話題では、劇中BGMもすばらしいですね。ゲームのメインテーマがギターアレンジやバラード調などで登場したり。サウンドトラックが発売される予定というのは?

浄園アニメのサウンドトラックって、結構難しいんですよ。と言いつつ……出ます。『シェンムー』だからこそ出せると言っていいでしょう。詳しくは続報をお待ちください。

松風BGMでいうと、『シェンムー 一章 横須賀』って製作中、本当に毎週何曲もの新曲がセガのサウンドチーム上がってくる、そんな進行でした。いま思うとすごいですよね。

鈴木いやぁ、すごい時代だったね。

松風いやいや、そんな新曲たちを裕さんが「これは違う」ってポイポイNG出してたじゃないですか。新曲を毎週ひとり4曲上げるみたいなノルマにサウンドチームの人たちが死にそうになっていたのを僕は覚えていますよ(笑)。「コレだめ、コレだめ……あ、たとえばこの曲いいよね」って例に挙げたのが、当時大ヒットしてる宇多田ヒカルさんの曲だったりして。

鈴木「これくらいのいい曲を作らないとねぇ」とか言っていた(笑)。

――ハードルの高さ!

松風サウンドの方々が「我々は宇多田ヒカルさんを超えないといけないんですよ」って困ってました(笑)。

鈴木ゲームの場合は一曲すべて作らなくてはいけないというわけでなく、究極、そのシーンに合った1フレーズがあればいいわけですから(笑)。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

――涼の声は20年以上前の『シェンムー 一章 横須賀』の声と比べて年齢の差を感じないことに驚きました。

松風僕の演技って、人によって評価が大きく違うんですよ。「すごくじょうずになったね」って言う人と、「ぜんぜん変わらない」って人もいれば、「うまくなった松風が当時の松風にわざと戻してる」って言われることもあります。

 きっと、プレイしている人にとって、涼はご自身だったんだと思います。自分がプレイした印象や思い出が、声の印象として残っていて。ですので、涼の声の話をする人は、松風雅也の声の話をしているわけではないんです。自分と涼を近しい存在として愛してもらっていたんだと、『Shenmue the Animation』のアフレコを通じて改めて感じました。

――アニメのアフレコでは当時に近づけようという意識は?

松風僕は実際に年齢を重ねているので、その点について気は配りました。ただ、ゲーム開発時の若い僕の声って、もっと高い声だったんですよ。ですから、ゲーム版の涼はカッコイイ演技にするためにわざと声を低くしてしゃべっていました。それが年齢を重ねて地声がどんどん低い声になっていき、ちょうどいい涼の声になりました。実際、改めて当時の自分の声を聴いてみたところ「うわ、めちゃくちゃ低い声でしゃべってるな!」と驚きました。

鈴木いまの声、すごくアニメに合っているよね。やはりアニメは声を張るんで。

松風ありがとうございます!

――アニメを観ていてうれしかったのは「そうですか」というセリフでした(笑)。

松風ゲームの汎用セリフというか、『シェンムー』頻出ワードですよね(笑)。「すみません」、「あの…」、「ちょっと……」、「そうですか」。

――そうそう、それです!

松風皆さん何千回と聞く、涼のキメゼリフですからね(笑)。

――ありがとうございます。そのほか有名なセリフですと「親父? 親父! 親父ッ!」がありますが、今回の収録はどうでしたか?

松風ファンの方々にイジっていただけるセリフですよね。イベントの台本に“3親父”とか書かれていたり、「松風さんここであの親父のセリフを」って言われたこともありました(笑)。アニメの台本では、最初は2回親父と呼ぶ、2親父だったんですよ。「いやそれは3親父でしょうよ!」と、3親父に増やしたりしました(笑)。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)

さらなる横須賀編も作られる……かも!?

――今後、『シェンムーIII』をストーリーをアニメ化するという可能性はあるのでしょうか。

浄園可能性としてはあると思います。ただ、僕としては横須賀のストーリーをもっと描きたいんですよ。『Shenmue the Animation』が終わった後でも描けると思うので、もしつぎを作れるのならば横須賀の話を深堀りしたいですね。

――今回のアニメで入れ込めなかった要素をまたアニメにしたいと。

浄園フォークリフトレースなども入れたかったのですが、やはいりどうしても入りきらなかった要素がたくさんあって。キャラクターだけで1エピソードできそうなところをかなり内容を詰めていますから。

鈴木見ていても、やはり1クールで横須賀やりたかったんだろうなというのがわかりました。また香港は香港で、1クールで納めるのも大変なくらいで。

松風もう、横須賀も濃いのに香港はさらに濃密ですからね。

――では最後に、今後の観どころなどをいただきつつ、インタビューは終了となります。

浄園ゲームプレイされている方は、答え合わせをしていくような感じで「ここは違うんだな」みたいな要素を楽しんでいただければと思います。

 アニメというのは、誇張したりはみ出したりといくらでも自由にできるものなのです。ですが『Shenmue the Animation』はそこをグッと抑えて、『シェンムー』らしさ、そして1980年代のゆったりとした時代感を大事にしています。風景ひとつとっても昨今のアニメではなかなか見られない光景だと思います。ちなみに個人的には貴章がすごく好きで、ゲームをプレイした方にはわかるかと思いますが、今後登場するアクションシーンにも力を入れていますので、お楽しみに。

松風皆さんのおかげで、『シェンムー』の奇跡が続いています。『Shenmue the Animation』は本当に評判がいいので、まだ観ていないという方はぜひ1話から見てみてください。

 今回、横須賀市さんとのコラボキャンペーンも始まりますし、ゲームも『シェンムー I&II』、そして最新作『シェンムーIII』があります。アニメ、ゲーム、リアルイベントと、いろいろな側面から『シェンムー』を楽しんでみてください。

鈴木ゲームはボリュームも多いですし、全部遊ぼうとするとなかなかたいへんですよね。まず『Shenmue the Animation』を観てみてください。『シェンムー』のよさが濃縮されて味わえるのでここから興味を持って、『シェンムー』シリーズを遊んでみてもらえるとうれしいですね。

『シェンムー・ジ・アニメーション』配信記念インタビュー。「シェンムーの奇跡がまた起きたんだなと感激しました」(松風雅也)
アニメ『Shenmue the Animation』(アマゾンプライムビデオ)