“タワーディフェンス”というものがある。
決まったルートを侵攻してくる敵ユニットに対し、定点から動かない味方ユニットをマップ上に配置して迎撃するゲームジャンルだ。詰め将棋のようなストイックなおもしろさがあり、待つことが前提なだけに、どうしても地味なイメージが付きまといがち。
そんなタワーディフェンスの新作ブラウザゲーム『モンスター娘TD ~ボクは絶海の孤島でモン娘たちに溺愛されて困っています~』(以下、『モンスター娘TD』)が、2022年3月14日にDMM GAMESからリリースされるということで、ひと足先にプレイさせていただいた。
最初の感想は「タワーディフェンスどこ行った?」であった。
正直びっくりした。ちなみに言うと、このボスはまったく動かない。迫りくる敵を食い止めるというタワーディフェンスの定義はどこに行ったのか。
侵攻を止めさせてよ。拠点を守らせてよ。“ディフェンス”ゲームなんだから。これではもはやオフェンスゲームじゃないか。
さらに、タワーディフェンスらしからぬ要素は味方側にもあった。
動かない敵がいる。
味方ユニット側から殴りかかる。
派手。
このように、本作の端々からはいくつもの「タワーディフェンスとは」が見え隠れしていた。タワーディフェンスをベースとしつつ、そのシステムを活かしてさまざまな遊びかたが作り出されていたのだ。
開発者側がタワーディフェンスという材料でいろいろ試行錯誤していることは前回のインタビューでも伝わってきた。つぎは何が出てくるかと楽しみになる本作。今回はその多彩かつ斬新な要素を味わっていきたい。
なお、今回提供していただいたプレイ環境は開発段階のもので、デバッグメニューやスキル名などの仮テキストが画面に残っている。画面構成や仕様が正式版とは異なる可能性があることをご了承いただきたい。
モンスター娘とのドタバタ劇が固いイメージを吹き飛ばす
まずは本作の世界観について解説。本作の舞台となる“ゲシュペンス島”は、いろいろツッコミどころが多い“少年信仰”の伝説が残る島だ。主人公の少年が記憶を失ってこの島に漂流してきたところからメインストーリーは始まる。
かつてこの島に降臨した少年を守り愛でるために、恐ろしい姿だったモンスターたちは人間に近い姿に変化していった。これが“モンスター娘”の起源だという。
本作のストーリーは、少年がモンスター娘たちと出会い、そしていろいろな意味でもみくちゃにされながら進行していく。
筆者がプレイできた範囲では重い話は皆無。少年が個性が過ぎるモンスター娘に始終振り回されたり惚れられたりするドタバタ展開が続き、心がほっこりした。こういう軽くておバカなストーリーは、ときどき無性に摂取したくなるものだ。
ゲームの主軸となる“メインストーリー”モードは、ライトなストーリーのパートを挟みつつ、ステージをクリアーしてつぎのステージを解放する、というサイクルで進行していく。
各ステージのゲーム性はかなり本格的だ。何しろ本作のシステム開発には、同じDMM GAMESのロングランタイトルであるタワーディフェンスゲーム『千年戦争アイギス』の開発陣も関わっているのだ。
記事冒頭でも触れたとおり、タワーディフェンスには詰め将棋的な部分があり、最善手に近いユニット配置を突き詰めないとクリアーは難しい。そのひりひりした感覚は魅力にもストレスにもなる諸刃の剣だ。
そのひりつきの悪い部分を、ストーリーのほんわかした雰囲気とモンスター娘たちのかわいさ&ぶっ飛んだ性格、そして何より少年をひたすら愛でるハーレム展開がほぼ中和している。タワーディフェンスを気軽に遊びたい人には、これぞ最適解とオススメしたい。
ここで何名か、モンスター娘のかわいらしい姿も紹介しておこう。各種モンスター娘を愛好するイラストレーターにデザインを依頼しているとのこと。
かわいさはもちろん、細かなディテールにこだわりを感じられたなら、あなたも立派なモンスター娘愛好家だ。
本格的な下地と掟破りの両面がおもしろい
続いて、システムについても解説していこう。先ほど触れたとおり本作は『千年戦争アイギス』の血統に連なるゲームということで、筆者は『アイギス』と同じ感覚で遊び始めた。
実際にプレイしてみると、『アイギス』とは違うという驚きがあったのはもちろん、その違いが独自のおもしろさにつながっていることに気付いた。それらは難しそうに見えるタワーディフェンスの弱点をしっかり補っていた。
まずはタワーディフェンスパートの基本的な流れから解説。ステージが開始すると、時間経過とともに“コスト”のリソースが溜まっていく。これを各ユニット(仲間のモンスター娘)の“出撃コスト”の値だけ消費することで、パーティー編成で用意した味方ユニットをステージ内のマスに配置できる。
時間経過とともに敵ユニットが決まったルートを歩いてくるので、味方ユニットでこれを迎え撃つ。敵味方ともに、ユニットは攻撃範囲に敵がいると自動で攻撃していく。
マップ上のハートマークはプレイヤー陣営の本拠地だ。ここまで敵ユニットが到達すると画面左上のハートが減少し、ゼロになると敗北。そうならないように敵を足止め&せん滅していく。
敵をしっかり足止めしたり止まっている敵をすばやく倒したり、モンスター娘たちにはそれぞれに設定された“クラス”ごとの役割がある。初期段階の基本クラスは7つ。
- ガーディアン:敵を3体まで足止めできる、頑強な近距離用クラス
- ウォリアー:攻撃力が高い近距離用クラス。さまざまな特性を持つ
- スカウト:遠近両方のマスに配置でき、射程の短い遠距離攻撃を放つクラス
- スナイパー:空を飛ぶ敵にも攻撃できる、射程が長い遠距離用クラス
- ソーサラー:周囲の複数の敵に同時に魔法攻撃を放つ遠距離用クラス
- ヒーラー:範囲内の味方のHPを回復する遠距離用クラス
- サポーター:範囲内の味方を強化し、コストの蓄積速度を上げる遠距離用クラス
これらのクラスが持つ基本的な能力に加えて、各モンスター娘はそれぞれ特有の“EXスキル”を持つ。EXスキルは一定時間ごとに発動でき、これによって同じクラスでも得手不得手がかなり違ってくる。
さらに、ステージクリアー時の報酬として入手できる“装備”を集めると、上位クラスへの転職が可能となる。クラスチェンジすると能力やレベル上限がアップするうえに、自由に付け替えできる“サブスキル”の枠が解放される。
モンスター娘の中には、ほかとは異なる上位クラスにクラスチェンジできる者もいる。育成を進めれば進めるほど各ユニットの個性が尖ってくるため、編成するのが楽しくなる。
ユニットの個性面でとくにおもしろかったのは、おもにウォリアーとソーサラーの中に、基本クラスの時点からクラス特性が異なるモンスター娘がいるということだ。たとえば、ウォリアーには“敵を2体までブロックできる”という防御的な特性を持つユニットと、“攻撃範囲内の敵すべてを攻撃する”という攻撃的なユニットがいる。
先ほど“育成を進めると”と書いたが、ゲームを始めたばかりの段階でもこうしたクラス内の特性の違いから、多彩な編成や戦略が楽しめた。
これらのクラスやサブスキルの付け替えなどによる多彩さに加え、本作には『アイギス』をはじめとするほかのタワーディフェンスとは大きく異なる特徴がある。ユニットを“移動”させることができるのだ。
一般的なタワーディフェンスでは、一度配置したユニットを別のマスに配置するには、一回撤退させて再度配置し直す必要があった。余計なコストがかかったり、ユニットがやられたときと同じく再配置できるまでにクールタイムがあったりと、不利になる要素しかない。
だが本作では、多少のコストを払うだけで再配置が可能なうえに、移動中も攻撃を行ってくれる。これが非常におもしろい要素で、たとえば、
- 予想外の方向から来た敵に対してガーディアンを移動させる
- ふたりのガーディアンをローテーションで前線に配置する
- 傷ついたウォリアーをいったんヒーラーのそばまで退避させる
このように、タワーディフェンスというよりリアルタイムストラテジーのような遊びかたができるわけだ。戦略要素として一段階深くなるだけでなく、タワーディフェンスに不慣れな初心者に遊びやすい仕様になっているかと思う。
さらに本作にはタワーディフェンスの固いイメージやストレスをまとめて吹き飛ばす要素が用意されている。その名も“獣神召喚”。
獣神召喚は1ステージでの発動回数は決まっているものの、開始直後からいつでも発動可能だ。発動方法も簡単。画面左上の獣神召喚ボタンをクリック&ドラッグすることで効果範囲が表示されるので、好きな位置に範囲を移動させたらマウスボタンを離すだけ。
発動すると獣神ごとのド派手なアニメーション演出が入り、範囲内の敵に大ダメージを与えたり、問答無用で毒やスタン(気絶)といった状態異常を与えたりと、その効果は絶大だ。
タワーディフェンスは時間で溜まるコストをいかに有効利用するかが大事なジャンルだ。コストが足りない序盤に敵が押し寄せてきたり、配置完了後にどこかのルートが突破されそうになったときなど、従来はとっさに対処できないことが多かった。獣神召喚は、そんなタワーディフェンスにおけるピンチ時の閉塞感からプレイヤーを一瞬で救い出してくれる。
ステージ構成も掟破り
タワーディフェンスという硬派でストイックなゲームジャンルながら、移動や獣神召喚でこれまでの定石を覆す楽しみかたができる本作。メインストーリーモードのほかに、さまざまなステージが用意されている。
メインストーリー&スペシャルチャレンジ
本作のメインとなるモード。物語を楽しみながらタワーディフェンスのステージに挑戦する。スペシャルチャレンジはいわゆるハードモードで、メインストーリーと同じ内容ながら、敵が格段に強化されたクエストが用意されている。
また、クラスチェンジ用の装備が報酬として得られるのもこれらのクエストなので、狙った装備が出るクエストをある程度周回することになる。難易度は低めで、敵のルートも単純明快なステージが多い。
育成素材クエスト
キャラクターのレベル上げなどに必要となる素材を集められるクエスト。メインストーリーのクエストと比べて敵の“属性”が偏っており、ユニットの属性を考えた編成で挑むおもしろさがあった。
ボスチャレンジ
メインストーリーなどで遭遇したボスが強化されて再登場するモード。特別な報酬が得られるほか、ボスが持つ独自のギミックをいかに突破するかという、ふだんとは異なる采配が楽しめる。
ダンジョンディフェンス
筆者がとくに気に入った感じたのがこのモードだ。侵攻ルートがかなり限定されているが、そのぶん強力な敵が数多く押し寄せて来るステージで、ひとりでも本拠地に敵を通した時点で敗北になる。
ユニットの育成をしっかりやるだけではなく、獣神召喚を惜しみなく使ったり、移動をうまく使いこなしたりと、本作の面白さや独自要素の活用が凝縮された遊びごたえのあるモードとなっている。
さらにこのモードでは、報酬としてランダムでサブスキルが獲得できる。サブスキルにはレアリティーも設定されており、何が手に入るかで一喜一憂すること請け合いだ。
また、ステージ画面全体を見てもらうとわかるかと思うが、本作には立体交差したり螺旋階段状に進んだりといった、タワーディフェンスにありがちな複雑な地形やルートがない。
これらの地形があると、遠距離攻撃役のユニットをどこに置くと複雑なルートを歩いてくる敵を攻撃し続けられるかなど、考えることが容赦なく増えていく。本作ではそうした難しい考えかたをせずとも、各侵攻ルートをきっちりカバーさえすればステージを攻略できるのが、わかりやすさとストレスのなさにつながっていると思えた。
ライトでおねショタっぷりに癒されるストーリーに加え、独自のシステムによる新たな切り口により、タワーディフェンスというジャンルそのもののイメージも変え得るタイトルとなっている『モンスター娘TD』。しっかりとタワーディフェンスらしさを残すことと、遊びやすさを追求すること、その両方に熱意を感じられた。
かわいらしいモンスター娘たちのドタバタ劇だけでも、日常や他のゲームで精神が張り詰めている人にはまずは一見の価値あり。タワーディフェンスやストラテジーゲームは重い、などといった先入観を吹き飛ばしてくれること請け合いなので、ぜひお試しあれ。