1991年にPC版でリリースされた『シヴィライゼーション』が、昨年2021年に30周年を迎えた。

 『シヴィライゼーション』と言えば、全世界でシリーズ累計5100万本の販売本数を誇る、歴史と文明をテーマにしたターン制ストラテジーゲームの金字塔。プレイヤーは、各文明の指導者からひとりを選び、紀元前数千年から21世紀にかけて、国家を築き上げていくことになるという、スケールの大きさが魅力のシリーズだ。

 1991年の1作目のリリース以降、ユーザーからの要望に応える形でシリーズは代を重ね、2016年にリリースされた現時点での最新作となる『シドマイヤーズ シヴィライゼーションVI』まで、派生作品や日本未発売タイトルも含めて、全部で17作を数える。ゲームを代表するシリーズのひとつと言っていいだろう(そう、近作にはタイトルに“シドマイヤーズ”が冠されている。シグネチャーシリーズみたいなものか)。『Civ』との愛称でも親しまれている。

 そんなゲームの歴史に燦然と輝く『シヴィライゼーション』の生みの親として知られるのが、シド・マイヤー氏。シド・マイヤー氏は、1982年にマイクロプローズ社を共同で創業し、『シヴィライゼーション』や『パイレーツ!』(1987年)、『レイルロードタイクーン』(1990年)などを開発。1996年にはフィラクシス・ゲームズを設立して……という、ゲーム業界を代表するクリエイターのひとりだ。シド・マイヤー氏が『シヴィライゼーション』シリーズの開発に直接携わったのは1作目と『II』で、以降はおもに監修を担当しており、『シヴィライゼーション』の“精神的支柱”といった存在だ。

 記者は、シド・マイヤー氏が基調講演を務めたGDC 2017は現地での取材担当だったのだが、その会場の盛況ぶりに、「さすがの人気ぶりだなあ……」と感嘆したのが、いまでも強く印象に残っている。

 ちなみに、シド・マイヤー氏が設立したフィラクシス・ゲームズは、現在『シヴィライゼーション』シリーズの開発元であり、『X-COM』シリーズなどでも知られるストラテジー開発会社の雄で、いま2K傘下となる。シド・マイヤー氏は、現在フィラクシス・ゲームズのクリエイティブ・ディレクターを務めている。

 今回、『シヴィライゼーション』30周年ということで、シド・マイヤー氏にインタビューする機会をいただいた。『シヴィライゼーション』が30周年を迎えたことに対する感想から、好きなゲーム開発に対する想いまでうかがった。

【『シヴィライゼーション』30周年記念】生みの親シド・マイヤー氏に聞く。「つねに新しいものを提供したい」と取り組んできた30年

シド・マイヤー氏

『シヴィライゼーション』シリーズの生みの親。フィラクシス・ゲームズのクリエイティブ・ディレクター

好きなゲーム開発に、思うがままに自由に取り組めてきた30年

――『シヴィライゼーション』が30周年ということですが、まずは率直はご感想からお教えいただけないでしょうか。

シドこれだけの長いあいだゲーム開発に携わり続けられていることをうれしく思います。ゲームを開発するという行為は本当に楽しくて、私はこれを愛しています。こうしてキャリアを継続できているのは、ファンの皆さんが、シリーズを重ねるごとにプレイしてくださっているからということで、心から感謝しています。

 ご存じの通り、このゲーム業界は浮き沈みの激しい世界です。志半ばでなくなってしまう会社もあれば、新規参入してくる企業もあります。私たちがこうして続けてこられるのは、ファンの皆さんのおかげだと思っていますし、『シヴィライゼーション』を30年間続けられたのは、本当にすばらしいことだと思います。

――ひとつのIPが30年間続くというのはすばらしいことだと思いますが、『シヴィライゼーション』が継続してこられた理由はどこにあると思いますか?

シド私たちはある意味、本当にラッキーだったと思うんです。私たちは、ゲームの特定のジャンルに縛られることなく、何でも挑戦できる時代に『シヴィライゼーション』を作りました。私たちは適切な時期に適切な場所にいて、この種の最初のゲームを作り、30年間、ゲームを新しく新鮮に保ちました。それが秘訣だと思います。

 シリーズをよくしていきたいという方針は30年間変わらない思いです。これからも継続していきたいです。

――30年間進化を続けてきたとのことですが、方針というか、道筋のようなものはあったのですか?

シドいい質問ですね。ゲームの新鮮さというものを保つために、30年間“哲学”として取り組んできたことは、ゲームを3分の1ずつに分けて考えるということです。

 ひとつは、ベースとなるターンベース制でのゲームプレイの充実。外交や経済、軍隊といった要素の構築ですね。

 もう3分の1が前回盛り込んだ新要素をさらに改善してよりよくするということです。制度の改良などをします。

 最後の3分の1が新しいアイデアを盛り込むことです。たとえば、『シヴィライゼーションVI』では気候変動といった新要素を盛り込んだりもしています。

【『シヴィライゼーション』30周年記念】生みの親シド・マイヤー氏に聞く。「つねに新しいものを提供したい」と取り組んできた30年
初代『シヴィライゼーション』。画面は英語版です。

――なるほど。コンテンツ作りを3分の1ずつに分けて、開発しているということですね。ところで、この30年間でとくに印象に残る出来事はなんですか?

シド私たちが『シヴィライゼーション』を開発したときは、作りたいものを自由に作れるという環境でした。いま振り返ると、それはとても重要な点だったと思います。まったく新しいアイデアで、ほかに同じようなタイトルがないという状況で取り組めました。もちろん、成功するかどうかは誰にもわからなかったのですが、“新しい取り組み”ということで刺激的でした。

 先ほどの話につながりますが、“自由にできた”ということで印象に残っていますし、それが『シヴィライゼーション』が成功できた理由でもあると思います。世の中になかった新しいタイプの、革新的なゲームを提供できたんです。

――シリーズ作でとくに印象的なタイトルはありますか?

シドやはり1作目は特別な体験でした。実験的な試みでもあったし、やったことがなかったことなので、楽しかったです。私とソーレン(ソーレン・ジョンソン氏。ゲームデザイナー)とのあいだで、何カ月ものあいだ意見を交換しては試行錯誤して作り上げました。私にとっては特別な時間でした。

 『II』以降は、ある程度の手応えを感じながらやっていましたね。『II』に関しては、ライアン・レイノルズがデザインのリードを担当していたのですが、彼と協力して、Modを盛り込みました。これによってゲームの楽しさがさらに広がりました。ゲームをプレイするだけではなくて、遊ぶ人がゲームを自由に構築することができるようになったんです。

 『II』のModは象徴的で、そこから『シヴィライゼーション』は新しい要素を追加して、どんどん進化していったということはあるかもしれません。

【『シヴィライゼーション』30周年記念】生みの親シド・マイヤー氏に聞く。「つねに新しいものを提供したい」と取り組んできた30年
『シヴィライゼーションII』。※画面は英語版です。

――『シヴィライゼーション』には数々の文明が登場しますが、個人的に「とくにこの文明に住みたい」と思われるのはどこですか?

シドははは(笑)。いままで聞かれたことがなかった質問だなあ。えと……、私は中華料理が大好きなんですね。ビデオゲームは日本のゲームが好きで、海岸や太陽も好きです。訪れたい場所もいくつかありますし……まあ、選べないですね! 基本はすべての時代のすべての文明が好きです。

――そうですよね(笑)。ゲーム業界に30年間携わってきて、とくにお好きなハードなんてあります?

シドいろいろなゲームが好きなので、すべてのハードを楽しみたいと思っていますが、個人的に遊ぶのは、XboxやPCが多いですね。実際に自分が作るとなったら、PCがメインで言語はC+を使ったりしていました。Unreal Engineを使うこともあります。

 プレイステーション5が入手できなくて、『グランツーリスモ7』をプレイできないのが残念です(笑)。

――本当に、ゲームがお好きなんですね。冒頭でゲーム作りがお好きだとおっしゃっていましたが、どんなところがお好きなんですか?

シドゲーム開発に取り掛かって、最初の数ヵ月に、これから作るゲームの新しいアイデアを出す段階が好きです。その時間はいろいろなことを構想できるんです。突拍子もないアイデアを出したり、試作品を作ったり……。その段階が好きです。“新しいアイデアで新しいことを試す”ということを楽しんでいます。

――シドさんのどんな資質が、30年間ゲーム業界で働き続けられる要因になったと思いますか?

シド私はゲーム開発に関わる、いろいろな椅子に座ることができます。たとえば、デザイナーの椅子に座ってゲームについて構想を練ったり、プロデューサーの椅子に座って、少し俯瞰からプロジェクトを眺めてみたり。そして、プレイヤーの椅子に座って実際にプレイしてみて、「ここがよかった」「あそこはこうしたほうがいい」ということを判断して、デザイナーの椅子に戻って、それを反映させることができるのです。

 ほかの人がどう感じるのか、ということを理解することができます。他人の視点で、そのゲームのいいところ・悪いところ、好き・嫌いといったことができるのだと思います。それによって、楽しい要素やうまくいく要素をゲームに反映することができます。

 私は新しいことを試すのが好きなので、「どういったことが楽しいと受け止めてもらえるのかなあ」と、いろいろな立場から試行錯誤できるのは、ゲーム開発にはとてもマッチしているかもしれませんね。

 そして何よりも、私はあきらめません! あきらめないという資質を持っています。たとえ困難なことがあっても、それを回避しようとはしません。いいアイデアがあれば、なんとかしてそれを実現しようと思います。

――非常に興味深いですね。ゲーム業界の30年間を振り返って、どのような感想をお持ちですか?

シドこの30年、多くの方たちがゲームを遊ばれるようになりました。それだけゲームが成長してきたということは言えると思います。

 最初は、家でコンピュータを楽しむといった人たちが遊んでいたところから、いまはあらゆる人がゲームを楽しんでいる状況になっています。ゲームのジャンルも広がっていて、アクションやRPG、アドベンチャー、シミュレーションなど、あらゆるジャンルのゲームを楽しめます。

 30年前に、私は「ゲームが世界を征服する」と思っていましたが、それが実際に実現する過程を見ることができて、それを楽しんでいます(笑)。自分自身もその中に関わることができていて、そんな中でゲームをする友人が増えていったり、それまで知らなかった人と友だちになれたりしている状況を楽しんでいます。

 『シヴィライゼーション』を親が子どもに教えて遊ばせるといったことも起きていて、多くのファンの方がゲームを楽しんでくれているのはうれしいですね。

――最後に聞かせてください。今後、どのようなことをしていきたいですか?

シド私はいまやっていることをとても楽しんでいます。ときに「いつリアイアするの?」と聞かれることもあるのですが、現状そのつもりはありません。20年前だとリタイアしたあとに、「本当にやりたかったことを楽しむ人生がある」というふうにみんな考えているような時代だったかと思うのですが、いま私は楽しいことをやり続けられているので、リタイアする必要がないんです。いまやっていることをこれからもどんどん続けていきたいです。

【『シヴィライゼーション』30周年記念】生みの親シド・マイヤー氏に聞く。「つねに新しいものを提供したい」と取り組んできた30年
最新作となる『シドマイヤーズ シヴィライゼーションVI』。