2022年2月23日に、『暁月のフィナーレ』の楽曲が収録された第9弾オリジナルサウンドトラック『ENDWALKER: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』が発売。

 その最新サントラの発売を記念して、ファミ通.comではサウンドディレクター祖堅正慶氏への、前編・後編2回にわたるインタビューを実施。リードストーリーデザイナー・石川夏子氏を迎えての前編に続き、今回の後編ではコンポーザーの石川大樹氏、今村貴文氏を迎えてお話をうかがった(インタビューは2022年1月18日に実施)。

【FF14】3人チームで作り上げた『暁月のフィナーレ』の楽曲。“ゲーム好き”だからこそ作れた楽曲の制作秘話を直撃! 最新サントラ『ENDWALKER』発売記念インタビュー後編
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 なお前編に引き続き、今回のインタビューでも『暁月のフィナーレ』の物語に関するネタバレを要所に含んでいる。まだエンディングを見ていないプレイヤーは、ストーリーをクリアーした後に読んでほしい。

祖堅正慶(そけん まさよし)

『FFXIV』サウンドディレクター。文中は祖堅

石川大樹(いしかわ だいき)

『FFXIV』コンポーザー。文中は石川

今村貴文(いまむら たかふみ)

『FFXIV』コンポーザー。文中は今村

“ゲーム好き”の新戦力ふたりがサウンドチームに加入

――まずは、今回がメディア初登場となる今村さん、石川さんにお話をうかがいたいと思います。自己紹介を兼ねて、簡単な来歴からお聞かせください。

今村自分は小学生の時にギターを始めて、中学生からバンドをやっていました。バンドではベースを担当してまして、大学生のときに「スタジオミュージシャンになりたいな」と思っていたのですが、教わっている師匠に相談をしたところ、「この先なかなか食えないよ」と言われまして……。でも自分はポジティブな性格で、バンドでも作曲をやっていたということもあり、今度は作曲家になろうと20歳ぐらいから音楽の作家事務所に所属したんです。

 そこでアーティストに曲を提供するコンペに参加して、24歳ぐらいに初採用されました。でもその後「これからもっと稼げるようになるのかな」と思いつつ、27歳くらいまで低空飛行を続けていたんです。ちなみに昔からずっとゲームは好きで、そのころも毎日FPSをプレイしていたのですが、そんなある日「ゲーム音楽の作曲家の道もあるんじゃないか?」と閃きまして……。

――そこでゲーム業界に目を向けたと。

今村お金が尽きたくらいにようやく、「そういう道もあるのかな」と気づきまして……(笑)。それまでBGMを作ったことはなかったのですが、ゲームとしても音楽面でも『FF』が大好きだったので、スクウェア・エニックスに応募してみました。そこで面接時に祖堅さんと話をして、僕のゲーム愛をひたすらしゃべっていたら、ゲーム好きということが伝わったのか採用された、という経緯になります。

――入社されてすぐに『FFXIV』の仕事をするようになったとのことですが、最初に手がけられた曲は何だったのでしょうか?

今村最初に手掛けたのは、『漆黒のヴィランズ』のアマロの曲『運命の旅』です。祖堅さんから「このメロディーでなんでもいいから作ってみて」と言われて作りました。もともと『FFVII』のコスタ・デル・ソルや、『FFX』のビサイド島などの海辺の曲が好きで、「こんな曲を作りたいな」と思っていたんです。そこでボサノバチックな曲を作ったら、祖堅さんに「まあまあいいんじゃない」と言っていただいて。パッチ5.0の開発がバタバタしていたのか、曲が足りなかったのかわからなかったのですが、そのまま採用していただきました(笑)。

祖堅最初は曲を発注するのではなく、あくまでも「課題を作ってくれ」と言って作らせていました。もちろん、できあがったものをそのまま実装したわけではなく、何度も手直しさせています。当時の今村としては「課題なのになんでこんなにうるさいんだろう……」と思っていたんじゃないかな(笑)。

今村あとは『漆黒のヴィランズ』ですと、“希望の園エデン:覚醒編3”のリヴァイアサンと、“覚醒編4”のタイタンの曲を担当しました。それも課題という形での制作でしたね。採用されるという意識がまったくなくて「ブレイクビートっぽい曲を作ってみて」と言われて、「なにに使うんだろう?」と思いながら作った記憶があります。

【FF14】3人チームで作り上げた『暁月のフィナーレ』の楽曲。“ゲーム好き”だからこそ作れた楽曲の制作秘話を直撃! 最新サントラ『ENDWALKER』発売記念インタビュー後編

――それは実装されてビックリしますね。では、次に石川さんの来歴をお聞かせください。

石川じつは僕は法学部出身で、新卒で電機メーカーに入社して、人事総務部で数年仕事をしていました。

――その職歴がいまにどうつながるかまったく想像できないのですが……(笑)。

石川もともとゲームのサウンドクリエイターに興味がありました。そして会社の忙しい時期に、漠然と人生を振り返るタイミングがありまして……。そこで、「元から興味のあった分野でお仕事をしてみたい」と考え、業界も職種も未経験でしたが、スクウェア・エニックスの中途採用に履歴書を送り、面接を受けに行きました。

――そこでも祖堅さんが面接を?

石川そうですね。僕自身ゲームに心を動かされた経験がたくさんあったので、そういうものが作りたいと伝えたら「キミみたいな人はサウンドクリエイターになったほうがいい」と言われて、拾っていただいたという形です。それが入社までの経緯ですね。

――とはいえ音楽の経験がないとこの仕事は難しいですよね。

石川じつは高校と大学では、オーケストラでヴィオラという楽器を弾いていました。その環境下で、プロの指揮者や演奏家の方々に指導していただいていました。結果、クラシックとゲーム音楽が僕のルーツになっているのかなと思います。

祖堅今村も石川も、面接に来たときはまったくゲームサウンドの知識がない状態だったんですよ。でも、このふたりからは「ゲームが好きだ」という意思がすごく伝わってきたので、とりあえず採用してみようと(笑)。

 正直、人員が足りていなかったのもありますが、やっぱりゲームが好きな人といっしょに仕事をしたいと思っていたんです。サウンドクリエイターの門戸はいつでも開いているのですが、なかなかそういった人の応募が来なくて……。

――サウンドといえば花形の部署なので、応募数はかなりありそうですが……。

祖堅サウンドへの応募自体はたくさんあるのですが、とくにコンポーザー志望の方はゲームに対して興味があったり、愛があったり、そういう人があまりいなかったんです。そのときにたまたま、ゲームに興味がありそうなふたりから、ほぼ同タイミングで応募が来たんですね。そこでポートフォリオ(作曲例)を聴いて、「悪くないな」と思い面接で話を聞いてみたら、ふたりともいい意味で変なヤツだったから採用と。本当にそれだけです(笑)。

――これまで祖堅さんにいろいろとお話をうかがってきて、“独立した曲を作る”のではなく“ゲームの一部としての曲として作る”ことを非常に重視されているという印象があります。ゲーム好きなおふたりを採用したのは、そのあたりを意識されてのことですか?

祖堅当然、重要視しています。どれだけスキルがあっても、“ゲームに対してどういうアプローチをすればいいのか”という根本的なところに興味がないと、この仕事は成り立たないと思います。少し昔だったらスキルだけあれば十分な時代があったと思いますが、いまの時代はそれだけでゲームサウンドは作れないです。だから僕の中では“ゲームに対して造詣がある人”が最低条件としてありました。そんな時にこのような若者ふたりが応募してきてくれたので、めちゃくちゃラッキーでしたね。

――石川さんが入社して最初に手掛けられた『FFXIV』の曲はなんだったのでしょうか?

石川ピクシー族の蛮族クエストの拠点となるリェー・メグの『生きる理由』という曲です。ピアノの簡単なメロディーを渡されて、「牧歌風にしてくれ」と言われたのですが、牧歌風な曲を聴いたことがなかったので、どうしようかなと頭を抱えましたね。

――それもまた課題という形だったのですか?

祖堅課題ですね。やらせてみて、ダメだったら自分で作るけど、もしいいものができあがりそうなら、仕事がラクになるな~と。

石川気が付いたら実装されていましたね。

祖堅最初から「お前らの曲を採用するぞ」と言うとプレッシャーになるじゃん(笑)。

今村それはそうですね(笑)。

祖堅「ふたりが自然な感じで作ったら、どんな感じのアプローチをしてくるのかな」というのが正直見たかったんですよね。そうしたら、それっぽいものをあげてきたので、修正を重ねていけばいいものが仕上がるな、と思いました。ちなみに、ふたりが入社した直後は課題を作る期間をめちゃくちゃ長く用意しました。ほかに業務として与えたことは“朝から晩まで『FFXIV』を遊べ”ということのみです。

今村それが2~3ヵ月ぐらいですね。ずっと会社でゲームを遊んでいました。

祖堅当時はパッチ4.5ぐらいまで実装されていたかな。「とりあえず、そこまでプレイしてこい。細かい話はそれからだ!」と言って(笑)。そうしたら、ふたりとも「本当にいいんですか?」と何度も聞きに来て。

石川入社してからしばらくはゲームしかしていなかったので、逆に不安になりましたね(笑)。

祖堅どうせあとで地獄を見ることになるから、いまのうちに飴をあげておこうと(笑)。メインストーリーは石川が先にクリアーしたんだっけかな。“零式”も行き始めていたよね?

石川“希望の園エデン零式:覚醒編”も、リリース直後に踏破しました。

祖堅なんならサウンドスタッフ内でいちばん早かったよね。「サウンド部隊の攻略のホープが来たぞ、やべえ」って話題になりましたから(笑)。

――おふたりはそのときに初めて『FFXIV』をプレイしたわけですが、プレイしてみての感想をぜひお聞かせください。

今村自分は世代というのもあり『FFVII』~『FFX』をいちばんガッツリ遊んでいたのですが、『漆黒のヴィランズ』はこれまでのシリーズの中でもトップレベルで感動できました。プレイヤーの感情をそのときのシチュエーションに入り込ませてくれるので、音楽が素晴らしいのはもちろんですが、やはりストーリーがすごくよかったなという印象が強いです。

石川僕は中学生のころからオンラインゲームを浅く広くプレイしていて、オンラインゲームというとひたすらレベル上げで時間がかかるという印象がありましたが、『FFXIV』を遊んでからはその印象が変わりましたね。

 おもしろいストーリーが体験できて、キャラクターのひとりひとりが粒立って見える。それがオンラインゲームで体験できる時代になっていることは、すごいと感じました。

――『暁月のフィナーレ』より前にご自身が手掛けられた曲のなかで、いちばん思い入れの深い曲はなんですか?

今村難しい質問ですね……(笑)。パッと思い浮かぶのは、“希望の園エデン:覚醒編3”のリヴァイアサンの曲でしょうか。ブレイクビーツを作ったことがなかったので、いただいた元のデータをカットアップしながら、どうすればかっこよくなるかを実験的に作っていきました。

 完成した曲を祖堅さんに初めて聴いてもらったときに、「めっちゃカッコいいじゃん」と言われたことが印象に残っていますね。ボス曲を作らせていただけるのは光栄なことでしたし、THE PRIMALSでも演奏していただいたので、思い入れが深い曲です。

祖堅ファーストプロットで出してきたときに、すでにカッコよかったんですよね。「スゲー」と思って。

――石川さんはいかがですか?

石川自分は“偽造天界 グルグ火山”の曲ですね。入社して2曲目に作った曲でした。フルオーケストラの曲で作業の工数的にも重いのですが、それをいきなりやってみてと言われて、またしても頭を抱えながらもトライしました。

 最終的には、祖堅さんとのやり取りでアドバイスをいただいたおかげで、いい楽曲が作れたかなと。自分でも満足できるものを残すことができたので印象に残っています。

【FF14】3人チームで作り上げた『暁月のフィナーレ』の楽曲。“ゲーム好き”だからこそ作れた楽曲の制作秘話を直撃! 最新サントラ『ENDWALKER』発売記念インタビュー後編

祖堅今村だったら今村の傾向、石川だったら石川の傾向があって、じつは適当に割り振って「曲を作って」と言っているわけではなかったんですよ。課題という形ではありましたが、「こういうものだったら恐らくできるだろうな」という予測をして、分配をした感じです。

――今村さんならばバンドをやられていた経験、石川さんならばオーケストラをやられていた経験も加味して、予測をした感じでしょうか。

祖堅ですね。採用の際も、まったく傾向の違うふたりだったので「これはいいな」と。同期になるわけですから、お互いがすごく刺激になるだろうなと期待して採用したわけです。

――ちなみに、祖堅さんがいる前でお話ししづらいかもしれませんが、おふたりから見た祖堅さんの“ここがスゴイ”という部分を教えてください。

石川クリエイターとしてまったく妥協しないことですね。作った曲がダメだと、いくら出してもダメなものはダメだからと、無限にやり取りが続くんですよ。曲によっては2~3ヵ月やり取りが続くこともあったりして。本当に妥協しないのがすごいなと。見習わなきゃいけない部分ですね。

祖堅いい面でもあり、悪い面でもあると思いますけどね(苦笑)。

――そこにはこだわりがあると。

祖堅ゲームを遊んでもらう人に対して、中途半端なものは出したくないので、そこはふたりにも守ってもらいたいと思います。

――今村さんから見た祖堅さんはいかがですか?

今村もともとの僕の周囲の音楽作家の人たちは、当たり前の話ですがアーティスト志向の方が多かったんですよ。だから祖堅さんもそういう考えをお持ちなのかと勝手にイメージしていたのですが、まったく違っていました。アーティストではなく、あくまでゲーム開発者のひとりで、“いいゲームをお客さんに届ける”というポリシーを持っている。そこにいちばん感銘を受けました。

祖堅へー、そんなこと思っていたんだ(笑)。

今村自分もどちらかというと職業作家志向だったので、その考えにはすぐにしっくりきましたね。いいゲームを作ろうと、素直に思えました。

――逆に、祖堅さんから見た、おふたりの持ち味を教えてください。

祖堅ふたりともまったく色が違うんですよ。先ほど言ったとおり石川はオーケストラ系統が強くて、今村はわりとガチっとしたロックやテクノが得意で、僕にないものを持っている。逆に、ふたりがあげてくる楽曲を聴いて勉強させてもらったり、刺激をもらったりしていますね。

 性格的なことを言うと、ふたりとも変わっていますね。石川なんか、電気メーカーの人事部で将来が安定しているのに、「なんでウチにくるの?」って(笑)。今村も変わっていますし、“変なヤツ”というのはふたりの共通点でしょうね(笑)。

石川否定できないですね(笑)。

祖堅でも、ふたりとも変なヤツだから、そこが楽しい。3人でいっしょにいろいろな試練に立ち向かっていくにあたって、バランスがいいなと。

――たとえるなら“ロールバランス”が取れていると(笑)。

祖堅ロールに例えると僕はタンクです。意外と石川がDPSで、今村がヒーラーかな。すごくいいバランスのパーティで仕事ができています。

ふたりが最初に感じたインスピレーションを大事に

――あらためて『暁月のフィナーレ』の楽曲制作が本格的にスタートしたタイミングや、どういう分担で作業を進められていったかをお聞かせください。

祖堅楽曲の発注は、石川夏子から発注書をもらうところから始まります。そこからふたりに見せて。3人ともげんなりしながら「こんなに作らなきゃいけないの!?」というのがスタートです(笑)。

今村毎回そうですね。

――石川さんと今村さんは、本格的に拡張パッケージに関わるのははじめてだったかと思いますが、「ここまでの量の発注が来るのか!」という思いはありましたか?

石川ありましたね。エクセルデータで発注書をいただくのですが、下にスクロールしても終わりが見えないんですよ(笑)。

祖堅『漆黒のヴィランズ』のときは、発注書自体はふたりに見せていなかったですからね。

――当時はあくまでも“課題”という形で依頼していたわけですからね。

祖堅発注のエクセルシートはパッチごとにあるので、曲ごとに共有していましたが、拡張パッケージの発注書を見せたのは初めてでしたね。実際に見てみてどうだった?

石川「うわっ……」という感じでした(笑)。

今村「どうするの、これ」って……(笑)。

祖堅そんな発注書を見せて、ふたりの様子を見ていたのですが、「やりたい曲とかある?」と聴いてもダンマリでしたね(笑)。

今村多すぎてどこから手をつければいいのかわからず……。

【FF14】3人チームで作り上げた『暁月のフィナーレ』の楽曲。“ゲーム好き”だからこそ作れた楽曲の制作秘話を直撃! 最新サントラ『ENDWALKER』発売記念インタビュー後編

――膨大な量の発注を見て、背筋が凍る気持ちだったと(笑)。そこから具体的にどのように分担されていったのですか?

祖堅それぞれ得意不得意もありますので、いつも僕が「このへんどう?」と彼らに担当を振っていく感じですね。いっぽうで余裕があるときは、これまでやっていなかったことにチャレンジしてもらうようにも分担していきました。いままで彼らに仕事を割り振って断られたことはないですね。

――そんな『暁月のフィナーレ』の楽曲を制作するにあたって、祖堅さんからおふたりにコンセプトを補足するようなことはありましたか?

祖堅基本的なことは発注書に書いてあるので、それをよく読んでまずは作ってみてください、というスタンスでした。発注書を読んだり、実際にフィールドを見たりして感じたそれぞれのインスピレーションには、あまり横槍を入れたくなくて、それぞれに任せています。

 ただ、アウトプットとして製品のクオリティーに達していないものは、ダメ出しをしないといけない。彼らが最初に感じた根本的な要素はいじらずに、“出してきたものの味付けをどうすればよくなるか”という部分をやり取りして、楽曲を作っていきました。

――おふたりが最初に感じた直感を大事にされたということですね。

祖堅そこは、課題を与えていた時代から信頼して任せていますね。「根本的に変えてくれ」ということは基本的に言いません。

石川“とんでもなくヘッポコな曲を作ったとき”以外はそうですね。入社して間もないころに、「スーパーマーケットで流れてそう」と言われて作り直した曲はあります。

祖堅あー、あったね(笑)。“スーパーマーケットで流れていそうな曲”は、インストゥルメンタルの曲を作るときに、誰しもが陥りがちな象徴的な事例なんですよ。慣れないうちは絶対にその罠にハマってしまい、最初はどうしてもそっちに寄っていってしまう。

 もちろん、それが悪いと否定するわけではなく、「『FFXIV』として求められているクオリティーはそこじゃないんだ」ということをわかってほしかったんです。ふたりとも最初はその罠にハマっていましたが、そこから脱出するまで延々と引っ張り続けましたね。「またスーパーで流れている曲になっちまうぞ」と(笑)。

――その罠から自力で抜け出すのはたいへんでしたか?

石川すごくたいへんでしたね。

祖堅何がダメ、という明確なものではないのですが、「スーパーで流れているような曲になるぞ」は、楽曲制作をいくつかこなすとなんとなく通じる言葉なんですよ。それに対してふたりとも、どうにかするためにダサい絆創膏で傷を塞ごうとしていましたが、僕がその傷をえぐるかのように突っ込みを入れていく……最初はそんな感じでした。

――その罠から抜け出して成長していった証が『暁月のフィナーレ』の楽曲であると。ちなみに今回は“ゾディアーク・ハイデリン編の完結”という要素が非常に大きかったと思いますが、おふたりはどのようなことを意識されましたか?

今村自分は『Answers』のアレンジを担当したのですが、『FFXIV』の根幹にあたる曲ということもあり、気合いが入りましたね。ハイデリン戦で流れる『Your Answer』をはじめ、「下手なものは出せない」という緊張感がありました。

石川今村さんも自分も、祖堅さんに鍛えられて数年経っているということもあって、『暁月のフィナーレ』というひとつの区切りのタイミングで、「いま持っているすべてを出し切りたい」という思いがありましたから、すごく気合いが入りました。

“毎日がラストバトル”であることを意識した『FFXIV』のボス曲

――ここからは実際にご担当された楽曲についておうかがいします。今回ご自身が作られた曲の中で、それぞれ印象深いものはなんでしょう?

石川自分はガレマルドで流れるラジオの曲『帰らん、地平の彼方へ』ですね。この曲は最初に、誰が担当するのかを3人で話し合いました。そのときは誰もやりたがらなくて、タスク配分を鑑みて僕と今村さんのどちらかがやることになったのですが、“ミニゲームで負けたほうが担当する”ということになりまして……(笑)。そこで自分がゲームで負けて、ラジオを担当することになったというわけです。

祖堅そのときのミニゲームはテキストだけでできる心理ゲームだったのですが、ふたりのあいだですごい心理戦が始まって……。

石川今村さんのほうが一枚上手でしたね(笑)。

――誰もやりたがらなかったというのは、難しさを感じたからですか?

今村いえ、抱えていた仕事の物量の問題ですね(笑)。

――単純な物量の問題でしたか!

石川開発も佳境を迎えていた時期だったんです。

祖堅ふたりも制作に慣れてきた事もあって、その時は1曲ずつ片付けていくのではなく、何曲も同時に作業を進めてもらっていたんですよ。そこに1曲上乗せされるとなると、作業がさらにたいへんになるので……。

――石川夏子さんとのインタビュー(前編参照)でも話題になりましたが、ラジオ曲の『帰らん、地平の彼方へ』は非常にストーリーに密接した曲だったと思います。石川夏子さんからは“暗いシャンソン”という発注だったそうですが、ほかにはどんな内容のオーダーだったのでしょうか?

石川“モノクロの画面で女性が歌っているイメージの、悲しいシャンソン”という発注でした。参考曲もいただいていて、それをもとにガレマルドのメロディーや帝国のメロディーを使って作ってくださいと。作るときは、またまた頭を抱えましたね。

【FF14】3人チームで作り上げた『暁月のフィナーレ』の楽曲。“ゲーム好き”だからこそ作れた楽曲の制作秘話を直撃! 最新サントラ『ENDWALKER』発売記念インタビュー後編

祖堅最終的に“誰が歌うか”で詰まっていました。僕は石川夏子との話でも言ったように「お前が歌えばいいじゃん」という答えを隠し持っていましたけど、石川は結局1週間ぐらい悩んでいたよね。

石川できるだけ自分が歌うのは避けたかったんですよ……。

――でも最終的に歌うことになったと(笑)。

石川自宅の自室で録音したのですが、裏声っぽい声で歌って、同居している家族に「なんで変な声を出しているんだ」と心配されました(笑)。それで録音した音を1オクターブあげて、女性の声っぽく編集してうまく混ぜた感じです。

――実際にゲームに実装されたものを聴いていかがでした?

石川ガレマルドの重々しい雰囲気にうまくマッチしたなと。ただ、「自分の声だな」と感じて、ゲーム体験どころではありませんでした(笑)。

祖堅“サウンドチームあるある”だよね。ゲームサウンド全般的な事で言うと、サウンドスタッフがNPCのバトルボイスなどを担当することも多く、デバッグ時に自分の声が聞こえてきたときに、なんだか急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてしまうことがあるんですよ

石川古代人ボイスなども担当しました(笑)。

――では次に今村さんの印象に残っている曲を教えてください。

今村IDの1~2番目のボス戦で流れる『震える刃』ですね。この曲は、もともとベンチマーク用の楽曲として作った曲でした。ベンチマークで最後にゼノスと戦うシーンで使う予定でしたが、実装ギリギリのタイミングで吉田さんから「この場面でロックはダメだ」と言われて、ボツになってしまったんです。

祖堅ゲーム開発は、最終段階でちゃぶ台返しを食らうことが多いんですよ。もちろん、「ぐぬぬ」とはなりますが(笑)。

今村結果、ベンチマークでは採用されませんでしたが、個人的にはかっこよく作れたなと感じていて、どこかで使ってもらえないかなと思っていました。そんなときに、祖堅さんから「中ボス用のBGMとして使ってみないか?」という提案をいただいたので、ID用に修正を重ねて、いまの形になったという経緯があります。

――結果的にIDのボス用としてかなりマッチした曲になりましたね。

今村じつは『暁月のフィナーレ』ではロック調の曲が少ないんですよ。だからその中でも違う色を出せたかなと。“戦っている感じ”を出そうと思って作った曲でしたので。

――たしかに『漆黒のヴィランズ』に比べるとロック調の曲は少なかった印象があります。

祖堅あえて言うならウルティマ・トゥーレの『Close in the Distance』くらいですが、『震える刃』ぐらいの活きのいいロック調の曲は、じつは『Endwalker』以外あまりないんですよ。『震える刃』は中ボス戦用にシフトチェンジしましたけど、結果的にうまくハマったなと。プレイヤーの皆さんからも「テンションが上がる楽曲だ」という声をいただいていて、よかったよね。

――ちなみに、IDの3ボス目で流れる楽曲は誰が担当されたのですか?

石川僕が担当しました。じつはこの『終の戦』も、ベンチマーク用の曲として作ったのが始まりでした。この曲は本当に難産で、完成するまですごく苦戦しましたね……。自分でも何を作っているかがわからない状態に陥りながらも、何度も祖堅さんとやり取りをくり返して、ベンチマーク用の曲としてなんとか形にしたんです。

 その後この曲が『暁月のフィナーレ』のIDの3ボス目のBGMとして使われることが決まって、ブラッシュアップしていくことになるのですが、そこでもまた苦戦をして……。『暁月のフィナーレ』を作り始めてから、リリースギリギリのタイミングまで、祖堅さんとやり取りを続けていました。

【FF14】3人チームで作り上げた『暁月のフィナーレ』の楽曲。“ゲーム好き”だからこそ作れた楽曲の制作秘話を直撃! 最新サントラ『ENDWALKER』発売記念インタビュー後編

――1曲に対してそんなに長くやり取りをされることもあるのですね。

石川自分が担当した曲の中で、いちばん時間がかかりましたね。なんなら夢の中でも作っていました……(笑)。サントラのコメントにも書いたのですが、祖堅さんから「石川の作る曲は、メロディーが“ふりかけ”なんだよね」と言われていて。

 おっしゃっている意図はわかるんですけど、どうしたらいいのかわからなくて……頭を抱えながら作っていました。結局、「練りすぎたものはダメだな」と思って、同じ曲を最初から作り直したんですよ。そうしたら「いいね」と言われて。

祖堅1回リセットして作り直したところ、一発でいい感じのものができあがってきたんですよ。

石川自分の曲をイチから打ち込み直すのはすごく新鮮でした。

――この曲はクライマックス感があるというか、ボス戦に合っていてテンションが上がります!

祖堅一般的なRPGだと、通常のボスとラスボスとで、明確に曲の強弱がついていると思うんですよ。でも『FFXIV』はそこのコントラストをつけたくなくて。

 IDのボスといっても、その日に遊ぶコンテンツとして、いちばん最後に出会う強敵であり、ひとつの区切りになるわけじゃないですか。そんなときにボス戦で流れる楽曲が、コントラストのついた楽曲の中の“弱バージョン”の曲だったら、テンションが落ちると思うんです。

 そもそも『FF』というタイトルに対する制作側のスタイルって、そのときにできるテクノロジーやスキル、自分のモチベーションをすべてぶつけることだと個人的に思っていて、IDのボス楽曲ひとつにとっても、ただのボス曲という感覚で作るのはダメだと思っています。『新生エオルゼア』からそうやって作ってきたので、今回も、最終決戦じゃないかと思われるぐらいのテンション感の曲がほしかったんですよね。

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――IDのボス曲は、どれも物語の途中で訪れるダンジョンの曲とは思えないほど迫力がありますよね。

祖堅ラスボス感はあると思います。各拡張パッケージの開発中には毎回、ラスボスの曲を作ろうという段階で異なる2曲を作る事が多いんですよ。それで、ラスボスにしっかりハマったほうがラスボス曲になって、採用されなかったほうをIDボスの曲として修正していく。それぐらいのテンション感で作っています。今回もそこはいっさい妥協せずに踏襲したくて、石川にはつらい目に合わせてしまいました……(笑)。

石川この曲がいちばんたいへんでしたね。でも、曲としての仕上がりには満足しているので、できあがってホッとしています。

――ボスと言えば、ハイデリン戦の曲である『Your Answer』を手掛けられたのもおふたりですよね?

今村『Answers』のアレンジである『Your Answer』は、僕と石川が共同で制作しました。石川が骨格を作って、僕が最後まで仕上げるという流れでしたね。ふたりが作業を分担するというケースはほかの曲にもあって、“異形楼閣 ゾットの塔”の曲はこの逆パターンで制作しています。

 『Answers』のアレンジは……僕の中でいちばんたいへんな作業でした。物語のキーとなるボス戦で流れる楽曲ということで、迫力を持たせないといけない。かつ、ストーリー的に切ない部分もあって、それをどう織り込んでいくかで何回も修正を受けました。

 この曲の終わり際は少し静かになりますが、もともとはそれがありませんでした。そこに原曲のフレーズを入れてみたらうまくハマって、ようやく完成した形です。できあがるまで、本当にしんどかったですね……。

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――長い歴史がある曲であり、さらに『暁月のフィナーレ』でも重要なシーンで流れる曲ですからね。祖堅さんから何かアドバイスはされたのですか?

祖堅いっぱいしたと思うけど、覚えてないですね(笑)。

石川締め切り直前で、祖堅さんから長文の爆弾が今村さんに投げられて、今村さんが顔を真っ青にしていましたね。その日の夜中にふたりで作戦会議をしてブラッシュアップをしていったので、僕としてもすごく印象に残っています。

祖堅この曲は、ふたりに任せて本当によかったと思っています。僕だけでは、こんな感じは出てこなかったと思いますし。

――ここまではおふたりが印象に残っている曲をお聞きしましたが、逆に、祖堅さんからおふたりに発注して印象に残っている曲はなんでしょう?

祖堅やはり『Your Answer』がいちばん印象に残っています。ほかの曲なら、オールド・シャーレアンの昼と夜の曲です。昼は石川、夜は今村が担当していますが、今回あえてプレイヤータウンの曲をふたりに頼んでみたんですよ。

――それはかなり大きなチャレンジですよね。

祖堅いままでもいろいろな曲を作ってもらいましたが、数年前まではゲームへの理解度と、曲を作るスキルや成果物のクオリティーを鑑みて、まだ物語の柱となる部分は任せられない、と思っていました。ただ、この2年でふたりともすごく力をつけてきたので、今回、思い切ってプレイヤータウンとなるオールド・シャーレアンの曲を頼んでみた形です。お願いしたときは、ふたりともビビっていたよね(笑)。「祖堅さんがやったほうがいいですよ!」って。

石川言っていましたね(笑)。

祖堅その際、楽曲の構成や方向性の大枠は伝えましたが、どの楽器をメインで使うとか、そういう細かい部分の指示は一切出さずに、ゲームから受けたインスピレーションで作ってほしかったんです。そうしたら、偶然ふたりともメインのメロディーをアコースティックギターで奏でてきまして。

 本来であれば、昼夜で同じ楽器を使うのはサウンドデザイン的になるべく避けたいところですが、どちらもいい感じに仕上がりそうだったので、このまま突き進んでほしいなと思って、あえて何も言いませんでした。オールド・シャーレアンのイメージとバッチリ合っていたかと思います。ふたりは、実際に作ってみてどうだった?

石川これまでもそうですが、今村さんと切磋琢磨してやってきたので、お互い影響し合っている部分があるのかなと感じました。今回のオールド・シャーレアンの曲は、僕が実際にギターや弦楽器、フルートを演奏して録音していますが、それは今村さんが以前からギターでやっていたことで、それに影響された部分があるんです。お互いに、いい方向に相互作用しているのかなという印象はありますね。

今村たしかにそれはあるよね。僕は、オールド・シャーレアンの夜を担当すると決まったとき、最初はクリスタリウムの夜の曲を参考に作ろうと思っていました。でも、実際に開発中のゲームを見て、「夜の海辺が素敵で、すごくエモいな」と感じたんです。

 そこで、シャーレアンは北洋の街ではあるものの、思い切って“夏の夜感”のある曲にしてみようと思って、ダメもとで作ってみました。そうしたら祖堅さんから「いいね」という返答をいただいたので、そのままブラッシュアップしていった感じです。

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ストーリーのクリアー後に初めて聴けるラザハンの曲

――『暁月のフィナーレ』では、シチュエーションで変わる楽曲が多いと思います。たとえばラザハンだと、物語の途中までは終末を感じさせる悲しい曲が流れていますが、メインクエストをクリアーすると、エスニック感あふれる曲が流れます。同じ場所でも、物語に合わせて違う曲が流れるということは、とくに意識した部分でしょうか?

祖堅そこは、石川夏子からの発注でしたね。いままでもイベントをクリアーしないと曲が変わらないケースはありましたけど、今回はとくにそれが多かったです。従来はメインとなる物語がパッチX.3まで継続して描かれるので、今後作るであろうコンテンツも考慮して曲の幅を持たせて作ってきました。でも今回は6.0でいったんフィナーレを迎えるじゃないですか。ですから“今後のことは気にせずに物語にバッチリはまるように作る”という意識がすごく強かったですね。ちなみにラザハンもふたりが手がけた曲ですが、どういう感じで作ったのか聞いてみたいですね。

今村クリアー後の昼に流れる『多彩なる都 ~ラザハン:昼~』は僕が作りました。最初に石川夏子さんから届いた参考曲の映像を見たら、インド映画の終わり際にみんながダンスしているシーンが流れてきて「これを作るんだ……」ってなりましたね(笑)。

祖堅3人で楽曲制作の割り振りをしているときに、参考曲の映像もみんなで見たんですよ。それがスゴすぎて、3人でずっと笑っていました(笑)。あのダンスは独特ですごかったよね。

今村ですから最初は、参考曲のダンスミュージックをそのまま踏襲して作ってみたのですが、1~2分で耳が疲れちゃうんですよね。そこから修正を加えたのがいまのバージョンです。「物語がすべて終わったタイミングで流れる曲だから、ハッピーに振り切っていい」と言われていたので、作っていて楽しかったですね。

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祖堅石川もラザハンの曲を2曲作ったよね。

石川クリアー前の『落日の都 ~ラザハン~』と、クリアー後の『薫香の都 ~ラザハン:夜~』を担当させていただきました。『落日の都 ~ラザハン~』は終末に見舞われたときのラザハンで流れる楽曲ですが、じつは当初、クリアー後の夜に流れる曲として作っていたものなんです。

 夜のしっとりした感じをイメージして作っていたところ、「これはどちらかというと陰鬱な雰囲気だよね」という指摘を受けまして、クリアー前に流れる楽曲として採用されることになりました。それを開発末期ぐらいに言われ、夜は夜でまた新たなものを作り直さないといけなかったので、冷や汗をかきましたね(笑)。

――それはなかなか……。

石川その後1~2日ぐらいで勢いよく夜用の曲を作りました。夜に流れる『薫香の都 ~ラザハン:夜~』では、メインメロディーにトロンボーンを使っていますが、最初はちょっと主張が激しすぎたので、一部を削って弦楽器を入れたりしながらブラッシュアップしてきました。

今村もともとラザハンが終末に見舞われたときの陰鬱な曲は、僕に発注されていたんですよ。それをたまたま、石川くんの曲が採用されることになったので、助かりましたね(笑)。

――逆に、祖堅さんが作られた曲で、おふたりが印象に残られている曲はありますか?

今村Flow Together』ですかね。ギターのすごくきれいな音色や、ヴェーネスとのイベントバトルで流れるというシチュエーション的にも、めちゃくちゃ印象に残っていますね。あと、曲自体の話とは少しずれてしまいますが、この曲のギターは、GUNNさんがリモートでレコーディングしているんです。

 リモートで録るのはめずらしかったので、僕と祖堅さんでリモート環境のテストをしました。テストのときは30分ぐらいでセッティングできたんですけど、本番ではGUNNさん側の通信環境がなかなか構築できず、レコーディングできるまで結果3日ぐらいかかったと噂で聞きました(笑)。そういったエピソードも含めて、すごく印象に残っています

祖堅録ったときはギターシミュレーター(アンプを使用せずにギターの音を加工するエフェクター)を入れていなかったから、わりとペロンペロンの音色だったんだよね。でも、あとからギターシミュレーターを入れたら、最初からそれを見越していたかのように、すごく生々しい狙っていた音になりました。

今村生音で録音したんじゃないかと思うぐらいのクオリティーでした。名曲です。

祖堅ありがとうございます! 石川はどう?

石川僕は『Flow』が印象に残っています。ちなみにアマンダさんの歌がない、デモ段階の曲を聴いたときの第一印象は「なんだこの曲?」だったんですよ。歌ものなのに、Aメロ、Bメロ、サビという構成ではない。展開も変わるし、どういった曲に仕上がるんだろうと思っていたんです。

 でも、実際にできあがった曲をゲーム内で聴いて、なんてゲームに合った曲なんだろうと感銘を受けました。「これがゲームのサウンドクリエイターの技なんだな」と感じさせられましたね。思わず言葉を失うぐらい、すごいと思いました。

祖堅ありがとうございます! って、ふたりから曲の感想を聞くのが初めてだから、変な感じになっちゃったよ(笑)。

【FF14】3人チームで作り上げた『暁月のフィナーレ』の楽曲。“ゲーム好き”だからこそ作れた楽曲の制作秘話を直撃! 最新サントラ『ENDWALKER』発売記念インタビュー後編

――普段は曲の感想を言い合ったりしないんですか?

祖堅できあがった曲の個人的な感想を言い合うことはあまりないですね。

――話は変わりますが、楽曲以外にSEについてもお聞かせください。『暁月のフィナーレ』では新ジョブであるリーパーの鎌を振っている感じや、賢者のレーザーのような音などが印象的ですが、どのように作られたのでしょうか?

祖堅SEに関しては、『FFXIV』のプレイヤーキャラクターのアクションの音を主に担当しているサウンドスタッフがいて、そのスタッフがこだわりをもって作っています。賢者は電子的なシンセチックな音を混ぜて、リーパーは“抜け”のいい金属的な鎌を振るような音を、突き詰めて作っていってます。

 『FFXIV』は、MMORPGではありますが、アクション要素が強いじゃないですか。だから、操作していて気持ちいい効果音が鳴るかどうかは、すごく大事だと思っていて。新ジョブも同じで、プレイしていて気持ちいい効果音になっていれば、それが「触ってみよう」というモチベーションにつながるはずです。もちろん、ほかのジョブと差別化できているかどうかも、逐一話し合っていますよ。

パッチ6.1でも大量の楽曲が追加される!?

――先ほど、“今後のことは気にせずに楽曲を作られた”というお話が出ましたが、それもあってパッチ6.1以降の展開や楽曲は、まだ想像すらできない状態です。“ハイデリン&ゾディアーク編”の曲の傾向とは、またちょっとイメージが変わりそうでしょうか?

祖堅なんとも言えないですね。いま作っている最中ですけど、形になっていないので、何ともお答えできない状態で……(笑)。

――まさに現在進行形という感じですか。

祖堅本来、拡張パッケージ後のパッチX.1は、制作スタッフが疲弊しているタイミングなので、それほど仕事の物量はないんですよ。緩やかにX.3に向かって物量が増えていって、そこから「落ち着いてほしいな……」と希望を持ちつつ、絶望に変わるX.4、X.5。そして迎える“地獄の拡張パッケージ”……という流れが毎回続くのですが、いつもなら立ち上がりのX.1だけは、ちょっと穏やかなんです。でも、今回はひどい!

――穏やかなはずなのに、とんでもない物量がきたと(笑)。

祖堅石川夏子からの発注段階で、物理的な作業量や、期間的な問題、あとは人員的な側面を考えて、そもそもできる・できないの判断をするわけですが、今回は初めて「ここを圧縮できないか」という相談を先にこちら側からしましたね。

 いつもであれば不満を言いつつも、来た発注はいったんすべてを引き受けるのですが、さすがに今回は人員と期間を鑑みても「この量は無理!」というぐらい多い。ですからいろいろなセクションに問い合わせをして、圧縮できないかという相談をしたのですが……。結局「圧縮はできない」という返答だけをもらって、いまは3人で集まって「困ったね」というタイミングです。

――たいへんそうですが、プレイヤーとしては楽しみです(笑)。

祖堅なるべくがんばります(苦笑)。ただ、直前のパッチ6.0の物量自体がとんでもなかったですからね。いつもなら6.0の物量で6.3ぐらいまでいける、というくらいのボリュームでした。

――それほど多かったんですか!?

祖堅リソース量を計算したところ、3.0と4.0を足したリソースを上回っているんですよね。

――ふたつの拡張パッケージのリソースを足して、それを上回る物量だったと!?

祖堅異常なんですよ! 本当に勘弁してくれよって感じです。まあ楽しいのでいいですけど(笑)。

――ちなみに6.1についてはお話しできないタイミングだと思いますが、“ハイデリン・ゾディアーク編”の完結後の物語としては、すでに“万魔殿パンデモニウム:辺獄編”が実装されています。こちらの楽曲はどのように作られたのでしょうか?

祖堅これもしんどかったですね……。事務作業から実装作業、サントラ制作作業まで、いろいろな作業が詰め込まれていて「もう無理!」という状況で差し込まれた発注で、あまり記憶がないです(笑)。

今村あのころはやばかったですね(笑)。

祖堅そういえば曲を作っているときに、『ENDWALKER 7-inch Vinyl Single』の販促用インタビューでTHE PRIMALSのメンバーがたまたまいたので、取材後にスタジオに来てもらってコーラスを録りましたね。

――いきなり4層の曲のコーラスを?

祖堅「いるんならやってくれ!」と言って、訳もわからずにスタジオにぶち込んで(笑)。そこで録り切って、ギリギリで作った曲です。

【FF14】3人チームで作り上げた『暁月のフィナーレ』の楽曲。“ゲーム好き”だからこそ作れた楽曲の制作秘話を直撃! 最新サントラ『ENDWALKER』発売記念インタビュー後編

――曲調としてはどのようなことを意識されたのでしょうか?

祖堅世界観はゴシックを意識しました。いままでも、“名門屋敷 ハウケタ御用邸”や“禁忌都市マハ”でゴシック調の曲を作ったことはありますが、その際はどちらかというと“日本のRPGのゴシック”をイメージして作っていたんです。それに対して今回の“パンデモニウム:辺獄編”では、“海外のゲームで出てくるようなゴシック調”を意識して作りました。

――なるほど!

祖堅JRPGのフィールドとはちょっと違うゴシックをイメージして作った感じですね。ですから評価がくっきりと分かれています。国内の人からは「なんだこれは」という意見もありつつ、海外の人からは「最高だぜ!」と称賛されていたりして。

 そこはいろいろと反省しましたね。“万人に受ける音楽は作れない”ということを、今回も思い知りました。でもこのイメージは、今後の“万魔殿パンデモニウム”の物語がどうなっていくかという部分にもつながっていくので、ぜひご期待いただければと思います。

――次のアライアンスレイドの曲も含め、期待しています!

石川アライアンスレイド……どうなるんでしょうねぇ……。

今村どうしよう……っていう感じですね(笑)。

祖堅弊社のサウンド部は新しい人材をつねに募集しています! 門戸はつねに開いておりますので!(笑)

――今村さん、石川さんのような人材が、さらにやってきてくれることを期待して……。

祖堅そうなればすごくうれしいですね。冒頭で述べたように、ゲームが好きだとうれしいです。いっしょに働いていて“そもそもゲームが好きかどうか”は、わりと大切かもしれませんね。

『暁月のフィナーレ』の物語を追体験できるサントラに

――いよいよ2月23日に『暁月のフィナーレ』のサントラが発売になるわけですが、その聴きどころ、そして収録されている映像の見どころを教えてください。

今村映像も僕たちがすべてチェックしていて、どのスクリーンショットにするか、順番をどうするかもすべて決めていきました。たいへんな作業でしたが、そのぶん楽しめるものになっていると思います。

――今回もスクリーンショットの撮影はサウンドチームの皆さんが行ったのでしょうか?

祖堅基本そうですね。サウンドスタッフ総出で実際にプレイして撮影しました。そこで撮影したスクリーンショットを厳選し、音楽に合わせてスライドショーが楽しめる形になっています。一部動画もあり、サントラとしてだけでなく、映像作品としても楽しめると思います。今回はとくに、ストーリーラインに沿って落とし込んだ曲と画が多く、プレイヤーの皆さんの心に刺さる仕上りになっているのではないでしょうか。

――そういえば収録曲の順番も、物語に沿ったものになっていますよね。

祖堅ゲームで感じたことを追体験してほしいというコンセプトがあるので、この曲順にしています。

――つよくてニューゲームの前に、このサントラで『暁月のフィナーレ』の物語を追体験できるという感じですね。

今村できると思います。

祖堅ただ、画はネタバレ全開なので、映像込みで視聴する場合は『暁月のフィナーレ』のメインクエストを終わらせてからがいいかもしれません。あと、今回のサントラには、中国、韓国ファンフェスティバルでのTHE PRIMALSのライブ映像が収録されています。そちらもお楽しみいただければ。

今村僕たちも実際に見ましたが、めちゃくちゃ楽しめましたね。

祖堅あとは従来どおりネットワーク経由でMP3データがダウンロードできますし、『Endwalker』のMVや、インゲームアイテムとしてヴリトラのミニオンのアイテムコードもついてきます。

――さらに『Endwalker』のチップチューンバージョンも収録されていますよね。

祖堅前廣(前廣和豊氏。シナリオセクション:マネージャー)が2Dドットの画を作ってきたから、チップチューンの曲を作ることになったんですよ(笑)。

――この画を見たときに、「前廣さんが絡んでいるのでは……」と思ったのですが、やはりそうだったんですね(笑)。

祖堅Twitterでショートバージョンの曲をアップしたら、サントラ制作チームが匂いをかぎつけてきて、「これのフルバージョンを作ってもらっていいですか?」と言われて作らされることになりました。

――あとは祖堅さんたちのコメントも楽しみですね。

祖堅これまでのサントラよりもさらに自由にコメントを書いているので、すごく読みごたえがありますよ。石川が「この曲がたいへんだった」と愚痴っていたり、今村がひと言だけ「ナマステ」とコメントを書いていたりと(笑)、それぞれの色が出ていて楽しめると思います。

――では最後に、『暁月のフィナーレ』をプレイしてくださった人、そしてこれからサントラを購入される人に向けてメッセージをお願いします。

石川今回、3人で楽曲を制作していきましたが、個人的に感じたのは、「チームワークが発揮されてきたな」ということです。チームが一丸となった結果、「いいものを作ろう」という思いを曲として、さらにその先のゲーム体験として、皆さんに届けられたかなと思っています。これからもおもしろいゲームを作るためにがんばりますので、ぜひ温かい目で見守っていただければと思います。

今村僕と石川は今回、初めて本格的に拡張パッケージの楽曲制作に携わらせていただきましたが、ストーリーに沿った曲を作れたのではないかと感じています。サントラはメインクエストを遊んだときの思い出が蘇るような音楽、映像に仕上がっています。買っていただいた方は、あのときの感動を思い返しながら、じっくりと聴いていただければ幸いです。

祖堅『FFXIV』に関わり始めた当初は、サウンドチームは僕ひとりしかいませんでした。そこから、『FFXIV』のコンテンツ量が増えていって、僕ひとりだととても作業が回らないということで、どんどんと人が増えていっていまに至ります。

 BGM班としてはいま、僕らは3人のチームですが、ほかにも多数のサウンドを作るサウンドスタッフが大勢います。彼らが日々切磋琢磨しながらサウンドを作って、よりよいゲーム体験にしようと努力しているところを見ると、すごくうれしいですね。

 プレイヤーの皆さんからの叱咤激励がたくさんあって、お褒めの言葉もいただいて、それらをスタッフみんなで共有しています。それもあって、『FFXIV』はプレイヤーの皆さんといっしょにゲームを作っているという感覚が強いです。

 僕自身もプレイヤーの皆さんといっしょに作ってきたからこそ、ここまで来ることができたと痛感しているので、これからもいい環境、距離感、コミュニティーで、『FFXIV』というゲームを作り上げられていければと思っています。もちろん、我々スタッフも、ゲーム体験をサウンドで盛り上げるべく、精進していきたいですね。

――今村さん、石川さんへのメッセージもありましたら、ぜひお願いします。

祖堅僕はわりといつも地獄のタスクを抱えている傾向があって、その地獄をちょっとずつ、ほかのスタッフに分け合うという役回りをしています。今村と石川は今回、すごくたいへんだったと感じているかもしれませんが、僕からするとまだまだ甘い地獄なので、これからちょっとずつふたりの担当する地獄を増やして、もっと楽しい地獄にしていきたいですね!

――地獄なのは変わらずと……(笑)。ありがとうございました!

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