2022年1月13日、稲葉敦志氏がプラチナゲームズの代表取締役社長に就任したことが発表されたのは記憶に新しい。稲葉氏は今後、代表取締役社長として同社を率いつつ、引き続きスタジオヘッドとしてゲーム開発に積極的に取り組んでいくとのこと。
本稿では、そんな稲葉氏へのインタビューを実施。今回の体制変更にあたって、どのような経緯があったのか。そして、今後プラチナゲームズはどのような変化や新しい試みを見せてくれるのか。気になる質問にお答えいただいたので、最後まで読み逃しのないように。
(聞き手:週刊ファミ通編集長 嵯峨寛子)
稲葉敦志氏(いなばあつし)
プラチナゲームズ 代表取締役社長/スタジオヘッド
会社をよりジャンプアップさせるために必要だった、体制の変更
――まずは、稲葉さんがプラチナゲームズの社長に就任された経緯をお聞かせください。
稲葉急速に話が進んだのは、去年の夏ごろ……ですね。そもそも、(プラチナゲームズの)今後の10年をどうするかを去年から社内でも活発に話し合っていて、佐藤(賢一氏。プラチナゲームズ前社長)とも「このままでも5~10年、ただ会社を維持することはできるよね」という話はしていたんです。でもそれで幸せなのか、それが自分たちのやりたいことなのかと問われると、明確な答えが出せないままになっていて。それで、さまざまな話し合いの中で、現状維持ではなく、会社をジャンプアップさせていこうという流れになったときに、開発畑出身の自分のほうが(社長に)適任ではないか? となったのがきっかけですね。
――会社として攻める動きになった場合、会社の体制もそれに沿ったものにしなければならないということでしょうか。
稲葉そうですね。ただ、自分たちが歳を取ったというのも理由のひとつとしてあるんですよ。プラチナゲームズを立ち上げたのが16年前ですから、僕は当時34~5歳、佐藤も40ちょいくらい。まだまだこれからと言ってもいい年齢でしたが、今年僕も50を超えて、佐藤は還暦に手が届こうという。
――ゲーム業界の方はお若く見える方が多いので、改めて年齢を聞くと驚いてしまいます。
稲葉ゲーム業界だと皆若く見られがちですけど、すでにもう、そういう年齢なんですよ。そしてそういった人間が、「これまでうまくいっていたから、これから先も維持していこう」という方向性を出してしまうと、絶対に衰退へ向かうと思うんですよ。僕と佐藤のふたりともが年齢を重ねたことを、会社全体としてリアルに考えなければならないフェーズになったわけです。また、僕自身、新しいことをやりたい気持ちが大きくなってきているのもあります。こればかりは年を取るほどに強まっていく一方なので。
――今後も新しいことをやりたいからこその体制変更であると。
稲葉僕自身は開発のヘッドをずっとやってきていますし、今後も継続していくので、そこに関しては、じつはそんなに変わらないのかなと思います。とはいえ、細かいところを含めていろいろと変わる面もあるので、やはり体制変更には意味があると、少しずつ実感してきている段階ですね。
――少し話は変わりますが、佐藤賢一さんが社長を務められてから稲葉さんに交代されるまでの約5年間、プラチナゲームズはどのように変わっていったのかをお聞かせください。
稲葉佐藤は、開発以外の部分を支えてきた人間です。財務や法務に関してもすごく知見がある。ですから、いま振り返ってみると、プラチナゲームズの礎を構築するという意味で、とても意味のある5年間だったように思います。僕は基盤をしっかりと作り上げてから「さぁどうしよう」と考えるのではなくて、自分のやりたいことがあるから仕方なくそちらに手を伸ばす……と考えるタイプです。
佐藤は真逆で、まず会社を成り立たせるためにこれをこうしたいというタイプ。僕みたいな暴れん坊ばかりだと立ち行かなくなるであろうことに対しても、きちんと土台を作ってから解決に導ける人間で、5年間そこに尽力してくれました。そこはとてもありがたかったですし、勉強にもなりましたね。
――マネジメントや社長業のありかたを、佐藤さんの横で見て学ばれたと。
稲葉佐藤は育ちや友人関係なども、まったく自分とは異なる人物なんですよ。そういった人間と、ともに仕事をし、歩むというのは、限られた範囲の話ではなく、人生において学ぶことが多かったなと。
――佐藤さんは、今後顧問という立場でプラチナゲームズに関わるとお聞きしています。
稲葉そうですね。会社に常駐するわけではないのですが。実務が追い付かないときに、サポートやフォローに回ってもらう予定です。
――稲葉さんは開発のヘッドも継続されるわけですから、新体制に慣れるまでは、負担が大きくなるのでは?
稲葉そうですね。じつは僕自身、この体制になるのをこれまでは避けていたところがあって。開発会社において、開発のトップが会社のトップになってしまうと、その人の言ったことが“すべて”になってしまいかねない。だから、いわゆる経営層と、現場スタッフのコントロールは担当を分ける体制のほうがいいのかなと考えていました。ただ、いまは「これはこれでいいところもあるな」と、なるべくフラットに考えるようにしています。
――なるほど。少し遡りますが、2020年はプラチナゲームズにとって“第二創業元年”ということで、自社IPの発表や東京スタジオ設立などが行われましたよね。同時にコロナ禍の困難があり、今回の社長就任の話を含め、この1~2年はかなり激動の時期だったのではと思います。
稲葉まさに世界中が激動ですよね。僕もいま、会社ではない場所からリモートでお話ししているのですが、そんな状況でもPCなどを持ち込んで仕事ができる。なんというか、社内の人間も含め、ここ最近でものすごくフレキシブルになりましたね。どこにいても仕事ができるし、どこの人間ともつながれるし。その部分のグローバルさや距離感が縮まったなと感じます。
先ほどの東京スタジオの話なんですが、2021年の夏~冬辺りは感染者が減少し、東京のほうもようやく社員が出社できるようになって、軌道に乗ってきました。残念ながら、再び状況が悪化してきて、出社にも制限が必要ですが、いまはリモートで対応できています。でも、もし、コロナ禍がなかったら、東京と大阪の分断もあったかもしれない。
――それは物理的にも、精神的にも、ということですか?
稲葉はい。物理的な距離感をどうすればいいのかと、どうしてもそこで及び腰になることもありますし。いまは逆にそういうのがなく、東京と大阪のコミュニケーションが非常に取りやすい。当然、コロナ禍自体は喜べるものではないんですが、仕事に対するありかたとか、人と人との絡みかたが、これまでの自分の固定観念を覆すという意味では、悪いところばかりではなかったのかなと。
――確かに。ファミ通の編集部でも、デジタルツールを活用することへの意識が高くなりました。
稲葉ゲーム作りに限らず、仕事をしていたら何らかのトラブルは絶対に起こるものですが、トラブル発生後にその穴を埋めるだけというのは絶対に嫌なんですよ。それはマイナスがゼロになるだけで何も得になっていない。トラブルが起こったことを逆手に取って、何かメリットを見出したいですし、何かあっても、それをポジティブに転換できるように生き続けていきたいですね。本当にいろいろなことがあって、激動の時期なのは確かですが、同時に楽しくもあります。
――エンターテインメントが楽しく作られているのはとても大事なことですよね。
稲葉作っている人間が楽しまないと、お話にならないですよ。自社IPの立ち上げもあって、たいへんなことと楽しいことの両方が同じ量で増えていくと思うんですが、現状はワクワクが止まらない状態です。
プラチナゲームズの社長として、これから伝えていきたいこと
――社長に就任された稲葉さんが、プラチナゲームズをどう動かし、どう変えていきたいか、具体的なビジョンをお聞かせください。
稲葉よりソリッドになっていくと思います。佐藤はプラチナゲームズの土台を、礎を作ってくれたので、僕自身はプラチナゲームズのアイデンティティーに立ち返ってみようかなと。そもそもの話として、新しい遊びを生み出せなくなったらプラチナゲームズの存在意義がないので、もしそうなった場合、どれだけ利益を得られていようとも会社を解散したほうがいいと考えているんですよ。そういった存在意義に立ち返って、より純粋に、新しい遊びを大掛かりに仕掛けていきたいですね。
昔――(前社長の)佐藤体制になるかならないかくらいの時期には、自分たちでIPを作りたいと考えても、なかなか実現できなかったし、仮に作ることができてもすごく小さな規模……インディークラスのものしか作れなかった。今後はそういったところをすべて取っ払いつつ大勝負を仕掛けて、何かひとつだけでも成功させたいなと。どこまでも純粋に、決して後ろを振り向かず、攻め続ける方向へプラチナゲームズを引っ張っていく。それがいまの僕の役目かなと思っています。
――稲葉さんのそういった考えや意志などは、社員の皆さんにも伝えたのですか?
稲葉年頭の挨拶として、オンラインで皆にはそういう話をしたのですが、どこまで伝わっているかは正直わからないですね(笑)。ただ、僕が言ったことに盲目的に従う者ばかりだと、それはそれで気持ちが悪い。僕の言葉を聞いて、「よし、がんばろう!」と奮起してくれる者が数人でもいてくれたら、それで上々かなと。同時に、新しい世代のクリエイターの抜擢や発掘は積極的にやっていきたいなとも考えています。
――稲葉さんとしては、どんどん新しい世代に前に出てきてほしいという気持ちがあるということですよね?
稲葉それは間違いなくあります。もっと反抗的になればいいのに、と思うこともあるくらいです。いわゆるベテランスタッフたちには、もっと寛容になってほしいんですよ。というのも、最近はみんな失敗を許さなくなってきているところがあって。求めるレベルがすごく高くなってしまっているんですよね。一定以上のレベルまで達していないと、「こいつにはつぎのチャンスは与えられないな」みたいな。いやそれはちょっとハードルが高過ぎるし、もっと寛容になれよと。
対して若手には、「王道はこうだけど、逆にあえてこうしたい」といった意味も根拠もないツッパリみたいなものに期待したい。そういったいわゆる“逆張り”って、自分も若いころにやっていたことだし、若いからこそできることじゃないかなと。たとえば50を超えた僕がいま同じことをしても、それは違うと思うし、はっきり言ってカッコ悪い。裏打ちされるものがない自信から生まれる新しいものって、僕はあると思うんですよ。そういうところをもっと出してほしいんですが、意外に従順な子も多くて。
めんどくさい人間がもっと増えればいいなと思っていますよ。そのほうが絶対におもしろいですからね。
――プラチナゲームズは新卒採用も行っていますが、「コイツはなかなかクセがあるな」と目を付けている新人の方は……?
稲葉もう僕自身が直接新卒をイチから判定することはないのですが、いまはみんな安定性を取るんだなという印象で、それがすごく不思議なんですよ。とにかく絵なら絵を、プログラムならプログラムをとことんまで追求し、突き詰めてクリエイティブな力を身につけている代わりに、社会性や協調性に欠ける……なんていう尖った人がクリエイターの道に進むのに、会社に入って数年もすると「人としてきちんとしていないのはダメだと思うんですよ」みたいなことを言い出すのって、不思議だしおもしろいなと。
僕としては、そういう凹んでいる部分ごと愛したいですよね。凹んだ部分がないと出っ張りもないですから。そういった意味で、(ベテラン勢には)寛容になってほしいなーと考えるわけです。
――プラチナゲームズが順調に作品をリリースし続けているからこそ、その流れを止めてしまいたくないというプレッシャーや責任感から、安定を求めてしまう面もあるのかなと思います。
稲葉だからこそ、『ソルクレスタ』みたいなわけのわからないプロジェクトを立ち上げることが大切になってくるんですよ。プラチナゲームズは何をしてるんだ? という(笑)。
――なるほど(笑)。
稲葉僕がつねづね社内で言っているのは、「こいつら、つぎに何をやるかわからない、と思わせる集団でいたい」ということ。そこは大事にしたいところですね。
――件の『ソルクレスタ』を手掛けている神谷英樹さんが副社長に就任されましたが、神谷さんともプラチナゲームズの今後などを話し合っているのでしょうか?
稲葉神谷について、Twitterから受けるイメージで、「人の言うことを聞かないすごく傍若無人な人間だ」と思われている方も多いと思うんですよ。クリエイティブに関していえば、そういった面もあるのですが、僕から見た神谷像って、めちゃくちゃ臆病で真面目なんです。僕は大胆で挑戦的なところがあるので、まさに真逆ですね。お互いにもう50代のジジイですが、多分死ぬまでいっしょに仕事をしていそうな感じはあります。
――これまでずっと仕事をしてきた間柄で、かつ今後もそれが続いていくだろうと言い切れるのは、とても素敵な関係だなと思います。
稲葉これからどんどん頑固ジジイ化していくであろう神谷を見ているのもおもしろそうだなと。自分も神谷も、後進の育成ですとか、伝えていくべきものに関する話はよくしています。
――会社を存続させていく以上、たとえば10年後は、稲葉さん、神谷さんのつぎの世代が経営を担っている可能性が高いわけですからね。
稲葉それはそうなんですが、クリエイティブ業界はそういう跡継ぎを考えることが無理なんじゃないかとも思うんですよ。僕自身は、この先の10年がとても重要なフェーズだと考えていますから、一応10年は社長をやるつもりでいます。
ただ、その後のことはまったくわからない状態ですし、その10年のあいだにつぎの社長を見つけることすら重要視していません。それまでに会社を余裕のある体制にしてさえおけば、取れる選択肢も多くなるでしょうから、まず環境を作っておくことが第一かなという考えですね。
2022年につぎつぎと花開くプラチナゲームズ作品
――プラチナゲームズが開発中のタイトルに関してのお話もお聞かせください。まず『ソルクレスタ』ですが、ついに発売日が発表されましたね。
稲葉いや、たいへんでした……ではなく、現在進行形でたいへんです。デジタルの時代っていいですよね(苦笑)。
――ダウンロード版のみだと、ギリギリまで作り込めるからいいねという話を聞いたりしますね(笑)。
稲葉僕個人は、パッケージ版を売る作品でDAY1パッチが大量に当たるのはあまり好ましいことではないと考えています。いまはオンライン環境がある家がほとんどだとは思いますが、オンライン環境がないと最善の形で遊べないのはどうかと思いますから。でもデジタルダウンロード版であれば、もともとオンライン環境ありきなので、本当にギリギリまで調整などをがんばれたりもします。もちろん修正パッチを前提としているわけではありませんが。早くフルデジタルの時代が来てほしいですね。
――そんな『ソルクレスタ』の発売日である2022年2月22日は、覚えやすさなどを意識して決められたのですか?
稲葉もう、「語呂がいいよね。以上!」って感じですね(笑)。そういった勢いは大事かなと思います。
――作品としての手応えはいかがですか?
稲葉あります。じつは開発がかなり難航したタイトルでして、発売日も再三設定し直しているんですよ。縦スクロールシューティングを作ろう、となったはいいものの、『クレスタ』シリーズの血脈を受け継いでいるがゆえのプレッシャーがありますし、審美眼の鋭いユーザーが多く入ってくるジャンルだからこそのプレッシャーもある。だから下手なものを出すと、「なんだ、プラチナが作るシューティングってこの程度か」という落胆の声が多くなってしまう懸念があって。
本当にくり返しくり返し、直してクオリティーアップして、を続けてここまで来た感じですね。放っておいたらいつまでも磨き続けていると思いますよ――いや、発売です。ちゃんと発売しますよ、大丈夫!
『ソルクレスタ』ゲームシステム紹介トレーラー
――(笑)。2022年はほかにも続々と新作が登場予定ですよね。まずは『BABYLON’S FALL』の発売が迫っていますが、こちらもいろいろと紆余曲折があったのでは?
稲葉それはもう。こちらは開発最終局面といった感じで、まだ気を抜けない状況です。我々としても新しいジャンルに踏み込んだ、多人数向けのオンラインタイトルで、これまでのように売って終わり、というわけではないので、そういった方向へのチャレンジは大きな意義があったと思います。確かにたいへんではありましたが、これなくしてつぎのプラチナゲームズはなかったであろうと言える存在ですね。
――『ソルクレスタ』と同様、かなりチャレンジングなタイトルだったと。
稲葉そうですね。ただ、『BABYLON’S FALL』に関してはスクウェア・エニックスさんの温かさありきというか。技術面も含め、新たなジャンルへの挑戦をサポートし続けてくださいましたし、『NieR:Automata』からお世話になっている齊藤陽介さんの親心みたいなものもあって。『BABYLON’S FALL』の半分はスクウェア・エニックスさんの愛情でできていると言っても過言ではないです。
BABYLON’S FALL | TGA Trailer 2021 (日本語字幕版)
――続いて『ベヨネッタ3』ですが、こちらに関してはいかがでしょう?
稲葉ようやく続報を出せました。映像への反響もすごくて、うれしいですしありがたいです。
ベヨネッタ3 [Nintendo Direct 2021.9.24]
――2022年はいろいろなものが花開く年ですね。
稲葉そうなんですよ。いろいろと重なり過ぎていて本当にたいへん。もちろん各タイトルに対して、スケジュール通りに順番に注力できるのが理想なのですが、開発のトラブルや作業の延期などで、どうしてもお尻が重なってきてしまう。
――これだけのラインを同時に動かせるスタッフ数がいるというのもすごいですよね。現在のスタッフ数はどれくらいなのですか?
稲葉現在は東京スタジオが約70人ほど、会社全体としては300人くらいですね。ただ、まだまだ全然足りないです。とりあえず、500人まではなるべく早く集めたいです。とはいえ、やみくもに規模を大きくしたいというわけではなくて、とにかくやりたいことが多過ぎて。
毎週月曜日に、僕と神谷と何人かで“つぎに何を作っていくか会議”みたいなものをやっているんですよ。ガチガチの会議ではないのですが、そこで漠然とこんなのをやってみたい、こういった企画はどうかと話し合い、ネタをストックしていっているんです。それでまぁ、そのストックが尽きることがない。どれだけでも人は欲しいですね。
――やりたいことをやり切るには、最低でも500人必要になると。
稲葉500人はあくまでも通過点です。さらに言うと、それでも足りないです。
――それだけ大きな会社になると、全体を把握しきれなくなる不安も出てくるのでは?
稲葉会社はプロジェクトの集合体なので、各プロジェクトで何を目指すのかをきちんと押さえておけば、会社は回せますから。
あと、僕の直下で高レベルのマネジメントをしてくれる人材も育ってきているので、僕としては日々の仕事にはできるだけ関わらず、彼らに任せるようにしていきたいですね。
――そういったマネージャーの中には、中途で採用した人材もいれば、新卒で採用されてそこまで育った方々もいらっしゃる?
稲葉そうですね。いろいろなパターンが存在します。中途で参加してバリバリやる形もありますし、昔から……それこそカプコン時代からずっといっしょにやっている人間もいますし。
――なるほど。そういった人材を育成し、社内体制を整えてから作り上げていくものに興味があるのですが、“プロジェクトG.G.”に関するお話を聞いても……?
稲葉えーと……おっと、これから目指すところや、重要な内容をポロっとしゃべりそうになりました(笑)。“プロジェクトG.G.”は、まださまざまなことを検証している段階なので、詳しいお話はできないのですが、今後のゲーム制作に関して言うと、これまでとは違う、もっともっと長く楽しめて愛される作品作りに主軸を置きたいという考えがあります。
もちろん、『ソルクレスタ』のような小粒でアイデアの光る作品や、『ベヨネッタ』に代表されるような、ワンオフで作り込まれたステージを進んでゲームクリアーまでの過程を楽しむ作品なども、大切にしたいですし、作っていきたいと考えていますが、自分たちが未来を形作っていこうとしている作品は、そのどれとも存在感が異質なものになるのかなと。この先5年ほどのマーケットの変遷を考えると、絶対に必要なものじゃないかと思っています。
かなり曖昧な表現が多くて申し訳ないのですが、いまお話しできるのはこのくらいが限界ですかね。
――マーケットの移り変わりの激しさを考えると、やはり発表や発売タイミングには悩みますよね。
稲葉難しいところも多々ありますが、なるべく早く世に出したい気持ちは当然あります。そのためには、人がたくさん必要になるわけです。プラチナゲームズに興味のある方はこちらまでぜひ。
――ではぜひ、これから就職を考えている新卒や中途の方に向けてメッセージをお願いします。
稲葉いまのゲーム業界って、プラチナゲームズ設立当初と比べると、産業としてもかなり安定してきていると思うんですよ。それこそ、巨大メーカーには、有名大学トップの人間でも入れるかわからないというところまで来ている。そういった側面を鑑みて就職するのはとてもいいことだと思います。その一方で、最先端の実験場という側面もあると思います。
とくにゲームハードは、60分の1秒でどこまでリアルなCGをレンダリングできるかという最先端CG技術のつねなる実験場とも言えるもの。それが商業レベルになるまで実装されるフィールドってゲーム業界しかないんですよ。ほかにも、オンラインの技術だったり、クラウドゲーミングなどのアプローチだったり、これから普及していくであろうVR、MR、ARなどの世界だったり。そういうところでのゲームが担う役割って、とても大きいと思うんです。
プラチナゲームズとしては、その最先端の実験場の先っちょにいたいんですよ。そういうところにいたい、いてもいいという人はぜひプラチナゲームズに来てほしいですね。ただ、めちゃくちゃ楽しいとは思うのですが、最前線ゆえに弾が飛び交う場所でもあるので(笑)、そこをよく考えて就職先の目標を決めていただければと。
――プラチナゲームズは、新しいことを求めて挑戦し続ける人にとって、ぴったりな環境ですよね。
稲葉そう思います。仮に自分が毎日同じことを続け、いつか振り返って「数年前と同じことをやっているな」と気づいたときはがく然とすると思うんですよ。自分がこれまでやってきたことって何だったんだと。もちろん、世の中には継続すること、やり続けることが何より大事なものもたくさんありますが、少なくともエンターテインメントはそうじゃない。昨日の自分を否定することから始まって、明日に向けて新たなことへ挑戦することがエンターテインメントじゃないかなと。
ですから、自分はつねにピュアにそういう気持ちを持ち続けていたいし、プラチナゲームズとしてもピュアにやっていきたいですね。
――そういった“気持ち”の根っこの部分は、プラチナゲームズ立ち上げ時からあまり変わっていないと?
稲葉新しいものを生み出すという考え自体は変わっていません。ただ、そこにいたるまでの環境作りだとか、周囲との協力関係だとか、いわゆる協力し合うスタンスに変わってきたのかなと感じますね。やっぱり立ち上げ当時は、作品などもわかるやつだけがわかればいい、みたいな考えがありましたし、仕事に関してもついてこれないやつに対して「何でついてこれないんだ」という気持ちのほうが強かった。とにかく自分中心だったなと。
クリエイティブの根源は自分から生まれるものなので、それは悪いことではないと思いますが、もう少しいろいろな人を巻き込んで、より分厚いおもしろさを生み出していきたいという考えかたに、この15年で少しずつ変わってきました。
――経営陣としての経験があったから、視点が変わってきたのでしょうか。
稲葉何か、改めて言われると全然腑に落ちないんですよね。経営陣とか。社長って言われるのは、やっぱりすごくむずがゆいですよ(笑)。
今後の意気込みを熱く語った稲葉社長。新生プラチナゲームズの新作『ソルクレスタ』は2022年2月22日発売だ。プラチナゲームズの尖った熱意を感じてみたい方は、手に取ってみてはいかがだろうか。