Humble Gamesより、2021年12月9日にNintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One、PC向けに『Ikenfell(アイケンフェル)』が配信された。

 本作は、魔法学校を舞台に、生徒たちが数々の秘密を暴いていくRPG。心温まるストーリーや多様性に富んだキャラクター、美麗なピクセルアートなどが好評を博し、2020年度の各種ゲーム賞にノミネートされるなどの人気を博している。

 本作の開発を手掛けるのは、カナダ・バンクーバーのHappy Ray Games。そのゲームデザイナーであるシェビー・レイ・ジョンストン氏に、本作開発の経緯や、込められた思いなどを聞いた。

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日本のゲームボーイアドバンスの名作に愛を込めて

『Ikenfell(アイケンフェル)』の開発者に聞く。魔法学校を舞台にした美麗なピクセルアートの心温まるRPGはこうしてできた

シェビー・レイ・ジョンストン氏

Happy Ray Games ゲームデザイナー

――まずは、Happy Ray Gamesさんのことを教えてください。どのようなスタジオなのですか?

シェビー“スタジオ”と言うほどでもないのですが、Happy Ray Gamesのメンバーは私ひとりで、大抵は自宅にてひとりで仕事をしています。オフィスもないので、『アイケンフェル』の大部分は公共の図書館やカフェで開発しました。私以外でゲームの制作に関わった人たちは皆、外部の業者や協力者です。

 たとえば、サウンドデザインは、A Shell in the Pitの皆さんに担当していただきました。さまざまなゲーム作品で素晴らしいサウンドデザインを担当されています。

 音楽は、カートゥーンシリーズ『スティーブン・ユニバース』の楽曲制作をしたaivi & surasshuのおふたりに担当していただいたほか、サブリエル・オーガスティンさんにもいくつか楽曲を提供していただきました。そのほかにも、サウンドトラックの制作ではたくさんの演奏家にご協力いただきました。いっしょにお仕事をするのがとても楽しかったのを覚えています。

――本作を開発するにいたった経緯をお教えください。なぜ魔法学校を舞台としたのでしょうか。

シェビー以前から、魔女や魔法使いのゲームを作りたいと思っていました。魔法はゲームの仕組みとして魅力的ですし、取り入れることによってキャラクターの個性や感情に奥行きを出すことができるからです。

 ゲームの舞台を魔法学校にしようと思ったのは、レインボー・ローウェル著の『Carry On』という本を読んで、とても気に入ったからです。学校を舞台にすれば、ある程度地理的な範囲が限られるので、ゲームのサイズを大きくしすぎないようにするのにちょうどよかったんです。RPGでは、世界全体を探検できる場合が多いですが、私ひとりでそのサイズのゲームを作るのはかなりたいへんなので、それより小さめでそれぞれのキャラクターに寄り添うような物語を作りたいと思っていました。

『Ikenfell(アイケンフェル)』の開発者に聞く。魔法学校を舞台にした美麗なピクセルアートの心温まるRPGはこうしてできた

――日本のゲームボーイアドバンスの名作に愛を込めてドット絵の世界を作り上げたとのことですが、なぜゲームボーイアドバンスに心惹かれるのですか? とくにインスパイアを受けた作品はありますか?

シェビー1980年代と90年代にピクセルアートはどんどん進化していき、ゲームボーイアドバンスがその成長のピークだったように思います。なので、ゲームボーイアドバンス用ソフトのピクセルアートは、それ以前の作品よりも美しいと思うんです。とくに、『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』、『ファイアーエムブレム 烈火の剣』、『ゲームボーイウォーズアドバンス』、『メトロイドフュージョン』、『ロックマンエグゼ』のピクセルアートは最高に美しいと言えます。『アイケンフェル』のアートでとくに影響を受けたのは、『ポケットモンスター ルビー・サファイア』と『MOTHER3』です。

――ゲームボーイアドバンス風のビジュアルにする上で、とくに心がけている点を教えてください。技術的に難しい部分はありますか?

シェビーゲームボーイアドバンス風に見せたかったわけではなく、個人的にゲームボーイアドバンスのピクセルアートの見た目が好きだったので、『アイケンフェル』の制作における自分のスタイルとして参考にしました。開発を進めていく過程でも、アートスタイルはかなり変わっていきました。とくに、色使いやアニメーションについては、上達していったと思います。

 どちらかというと、細かい部分や質感よりも、大きくかつカラフルで、フラットシェーディングのようなスタイルが私の好みなので、『アイケンフェル』ではそうなるように注力しました。

『Ikenfell(アイケンフェル)』の開発者に聞く。魔法学校を舞台にした美麗なピクセルアートの心温まるRPGはこうしてできた

――『アイケンフェル』では、性的マイノリティのキャラクターが自分らしく、当たり前のように生きている世界で、当事者だけではなく誰にでも居場所のある優しい世界を目指したとのことですが、そのような世界にした理由をお教えください。

シェビー私自身もそうですが、私の友人や大切な人にはLGBTQが多く、ふだんはLGBTQの人たちといっしょに時間を過ごすことがほとんどです。バンクーバーはLGBTQフレンドリーな都市で、クィアの人(セクシャルマイノリティに属する人)が多く住んでいるので、私になじみがあって共感できるキャラクターたちを作ろうと思いました。

 ゲームを完成させるために、3人のライターに協力してもらったのですが、3人ともクィアだったので、私たちだからこそいちばんうまく書けるストーリーにしました。もし別のストーリーにしていたら、ぎこちなくて自分たちらしくないストーリーになっていたかもしれません。

――ずばり、本作のテーマは?

シェビートラウマ、癒し、傷ついた人を助けること。そしていちばん大切なテーマは、“自分が傷ついているときに他人に助けてもらうことを許すこと”です。

――本作には、主人公のマリットを筆頭に魅力的なキャラクターがたくさん登場するようですが、キャラクター造詣にあたって、心がけた点を教えてください。

シェビーキャラクターについて心がけた点は、実在していてもおかしくないようなキャラクターとなるように書いた、と言えると思います。そうしようと思ったのは、プレイヤーが自分自身とキャラクターを重ねて見て、深く共感してもらえるようにしたかったからです。また、キャラクターたちが抱える問題や痛みは、ストーリーの中で非常に真摯に描きました。そうすることによって、プレイヤーが自分自身とキャラクターを重ねて見たときに、まるでそのストーリーが心から自分に寄り添ってくれるように感じられ、それがプレイヤーを元気づけることにつながると思ったからです。

 ふたりのキャラクターは、前述の『Carry On』に登場するキャラクターをベースに作りました。どのキャラクターか、ネタバレはしませんけどね!笑

――RPGのキモともなる、バトルシーンで心がけたポイントは?

シェビーグリッド状フィールドでの戦略的な移動とタイミングアクションコマンドの組み合わせがポイントです。これまで、ほとんどありませんが、ナイスな組み合わせです。

 “MP”や“マナ”は存在せず、魔法はすべて好きなだけ使うことができます。つまり、ポイントによる制限がないことによって、使う魔法を純粋に戦略や好みで選べるということです。

 魔法は単に攻撃するためだけではなく、敵の移動、味方の回復、テレポート、トラップ、能力強化など、さまざまなトリックとして使うこともできます。腕のいいプレイヤーであれば、きっといろいろな魔法を使いこなせるでしょう!

『Ikenfell(アイケンフェル)』の開発者に聞く。魔法学校を舞台にした美麗なピクセルアートの心温まるRPGはこうしてできた

――本作を開発するにあたって、もっとも心がけた点をお教えください。

シェビープレイする人たちに、“愛”を感じてもらえるように心がけました。ここで言う“愛”とは、友人や家族への愛や、キャラクター、ゲーム、アートへの愛など、さまざまな愛を含みます。

 そして、これがいちばん大切なことなのですが、このゲームをプレイした後に、プレイヤーが自分自身への“愛”を以前よりも少しでも強く感じてくれたらと思います。人は、もっと多くの愛が必要なのに、むしろみずから愛を遠ざけて、自分自身を飢えさせてしまいがちです。ですが、誰もが愛されるに値する存在であるはずです。

――“このシーンを見る前に”機能や“即勝利”機能など、ユーザーに極めてやさしい機能を搭載していますが、こういった機能を搭載することにした理由は?

※本作では、人によっては辛く感じる内容も含まれているため、“このシーンを見る前に”機能を用意。デフォルトではOFFだが、ONにするとそうした展開になる前に警告が出て、シーンを飛ばすことができる。また、ストーリーだけ楽しみたいプレイヤーのために“即勝利”の機能も搭載している。

シェビーアクションコマンドのタイミングを合わせるのは一筋縄ではいかないため、なんらかの障がいを持っている方やケガを負っている方は、ゲームをプレイすることが難しいこともあるかもしれません。そこで、こういった機能を追加することで、より多くの人がこのゲームをプレイでき、ストーリー、キャラクター、アート、パズル、謎解きなど、バトル以外の要素を楽しんでもらえるのではと考えました。また、バトルは好きではないけれど、ほかの要素は楽しみたいという人もいると思うので、そういった人たちにも楽しんでもらいたいという思いもありました。

 “このシーンを見る前に”の機能は、センシティブな内容について編集を担当したジョアナ・ブラックハートさんからの提案によるものです。ジョアナは、このゲームに登場する多くの暗いテーマが、プレイヤーによっては気分を悪くするような印象を与えてしまうのではないかと心配していたんです。結果として、“即勝利”できるようにする機能などと同じように、この機能のおかげでより多くのプレイヤーが楽しめる作品となっています。

 こういった機能を設定できるようにしたことに対して、プレイヤーからの反応はとてもポジティブです。子どもといっしょにゲームを楽しんでいるので難易度やゲームの内容を調整したいと考える親からも好評です。こういった機能を搭載してよかったと思っていますし、今後はもっと多くのゲームに取り入れてもらえたらいいと思います。

『Ikenfell(アイケンフェル)』の開発者に聞く。魔法学校を舞台にした美麗なピクセルアートの心温まるRPGはこうしてできた

――本作にはネコがたくさん登場するとのことですが、やはりネコがカギを握っているのですか? ちなみに開発の皆さんはネコがお好きなのですか?

シェビーじつは『アイケンフェル』では、ネコがセーブポイントになっています! しかも、体力を全回復してくれます! 本当に、かわいすぎて尊いです。幸い、ネコは魔法学校のあらゆる場所にいるので、いつでも近くにナデナデできるネコがいます。ぜひ皆さんも、ネコたちが優しくゴロゴロとのどを鳴らす音で癒されていただければと思います。

――最後に、本作を楽しみにしている日本のゲームファンにメッセージをお願いします。

シェビー『アイケンフェル』は、新旧問わず多くの日本のゲームから影響を受けて制作したゲームなので、日本でのリリースがとても楽しみです。

 日本から遠く離れた場所ではありますが、私は日本のクリエイターが開発したゲームで素晴らしい魔法のアドベンチャーをプレイし、たくさんの幸せをもらいながら育ちました。今度は日本の皆さんに幸せのお返しができるかもしれないと考えると、嬉しい気持ちになります。

 私には、ほかの国や言語でゲームをリリースした経験が一切ないので、緊張はしていますが……。この作品を皆さんに気に入っていただけたらと、願っています!

『Ikenfell(アイケンフェル)』の開発者に聞く。魔法学校を舞台にした美麗なピクセルアートの心温まるRPGはこうしてできた