エグゼクティブ・プロデューサーに齊藤陽介氏、クリエイティブディレクターにヨコオタロウ氏、ミュージックディレクターに岡部啓一氏(MONACA)、キャラクターデザイナーに藤坂公彦氏など、錚々たるクリエイターが名を連ねる、スクウェア・エニックスから発売中のNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)、プレイステーション4、PC(Steam)向けRPG『Voice of Cards ドラゴンの島』(開発:エイリム)。

 本作はテーブルトークRPGをモチーフに、すべてがカードで表現された異色のRPG。本日2021年11月12日は、そんな本作のオリジナル・サウンドトラックの発売日(配信のみ。今後、音楽CDでも発売予定)。ということで、本作のミュージックディレクター・岡部啓一氏に加え、岡部氏とともに本作の作曲を手掛けた瀬尾祥太郎氏、オリバー・グッド氏のお三方に、『Voice of Cards ドラゴンの島』の音楽の制作秘話などを訊いた。

 なお、本日11月12日は配信番組“祝発売! 油断すると曲げた上腕二頭筋マッチョが出てくる!? 全員集合打ち上げスペシャル生放送!”が放送予定。こちらもお見逃しなく!

トラックリスト

01 竜を追いかけて ~旅立ちの声~
作・編曲: 岡部啓一(MONACA)

02 魔物が棲むところ
作・編曲: Oliver Good(MONACA)

03 脈打つ力
作・編曲: 瀬尾 祥太郎(MONACA)

04 竜を追いかけて(Field Edit Version)
作・編曲: 岡部 啓一(MONACA)

05 白昼の街
作・編曲: Oliver Good(MONACA)

06 森の民の小躍り
作・編曲: Oliver Good(MONACA)

07 自称勇者の冒険
作・編曲: Oliver Good(MONACA)

08 黒き魔女の涙
作・編曲: 瀬尾 祥太郎(MONACA)

09 禁じられた呪い
作・編曲: Oliver Good(MONACA)

10 双子の追想
作・編曲: 岡部 啓一(MONACA)

11 双子の追想(Field Edit Version)
作・編曲: 岡部 啓一(MONACA)

12 霊廟に眠れ
作・編曲: Oliver Good(MONACA)

13 穢れを穿つ光
作・編曲: 瀬尾 祥太郎(MONACA)

14 竜を追いかけて ~辿り着いた先~
作曲:岡部 啓一 (MONACA)
編曲:Oliver Good(MONACA)

『Voice of Cards ドラゴンの島』オリジナル・サウンドトラック配信サイト

  • iTunes Store
  • mora
  • Amazon Music
  • レコチョク
  • ドワンゴジェイピー
  • アニメロミックス
    など

岡部啓一氏(おかべけいいち)

兵庫県出身。神戸芸術工科大学視覚情報デザイン学科卒業。株式会社ナムコ(現バンダイナムコグループ)を経て、2004年10月に有限会社MONACAを設立。ゲームやアニメを主なプラットフォームに叙情的なメロディのボーカル楽曲からダンサブルなトラックまでキャッチーな楽曲制作を行う。最近の作品では『ニーア』シリーズのほか、『鉄拳』シリーズ、『結城友奈は勇者である』シリーズなど多数手掛けている。

瀬尾祥太郎氏(せおしょうたろう)

幼少期からクラシックピアノを始め、ベートーヴェンやショパン、ラヴェルなどの古典派~近代音楽に触れながら和声、ソルフェージュを学ぶ。
大学時代に聖歌隊に所属し、宗教音楽の持つ多様な文化に強く影響を受ける中で作曲への興味を強くして、2015年より有限会社MONACAへサウンドクリエイターとして入社。ポップス文化の親しみやすさと、西洋和声の豊かな響きとが共存する作曲スタイルを日々模索している。

Oliver Good(おりばー・ぐっど)

少年のころに家でよく流れていたダンスミュージックに興味を抱き、同時期にプレイしていたゲームのBGMにも興味を持つようになる。遊びでシンセやドラムマシンを勉強し、その後、音楽制作ソフトを入手して打ち込みによる作曲活動を始める。
2011年には学校に通いながらインターネット上で製作した曲をアップロード。2014年になるころには日本人の視聴者と交流を持つようになり、その影響で日本のアニメコンテンツに触れる。もともとゲームが好きだったこともあり、日本で作曲家になりたいと決意する。Leeds Beckett大学を卒業後、2019年より憧れの存在であった有限会社MONACAに参加。

『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地

岡部氏とともに楽曲作りに参加した瀬尾氏、オリバー氏はこんな人

――『Voice of Cards ドラゴンの島』の楽曲は岡部さんはもちろん、瀬尾さん、オリバーさんも作曲を担当されていますが、まずは、瀬尾さんとオリバーさんについて、それぞれの経歴からおうかがいできますか?

瀬尾はい。私は2015年にMONACAに入社し、アニメの劇伴やゲームのBGM制作を手伝わせていただきながら、シチュエーションに合わせた音楽の作りかたを学んでいきました。本格的にメインで関わった最初のプロジェクトはスクウェア・エニックスさんプロデュースのアイドルグループ“GEMS COMPANY”さんの楽曲です。

――たしかに、ジェムカンの楽曲といえば、瀬尾さんですよね。MONACAに入る前は何をされていたのですか?

瀬尾大学に通っていました。

――では、新卒の就職先としてMONACAに入ったと。

瀬尾はい。ただ、音楽系の大学ではなく、一般の文系の大学でした。

――えっ!? では、音楽を専攻して、音楽関係を目指していた、というわけではないんですね!? それがなぜ音楽の仕事に?

瀬尾学生時代に観ていたアニメの影響が大きいですね。たくさんアニメソングに触れていく中で、「神前暁さん(MONACA所属。ゲームでは『THE IDOLM@STER』や『初音ミク -Project DIVA-』、アニメでは『涼宮ハルヒの憂鬱』、『<物語>シリーズ』など、多くの作品のBGMや主題歌・挿入歌などを担当)が書かれている曲が本当に素敵なモノばかりで、とくに強い影響を受けまして。それもあって、MONACAにデモ曲を送りました(笑)。

――それまで音楽は?

瀬尾幼少のころからピアノを弾いていたのと、大学で聖歌隊に入って宗教音楽には触れていました。それがいまの自分の基礎になっています。

岡部ちなみに、その聖歌隊でコーラスをやっていたこともあって、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』など、男性コーラスを使った曲は瀬尾が歌っているものもあります。

――失礼ですが、音楽は趣味の範囲だったということですよね? 岡部さんはそんな瀬尾さんのどういったところを評価して採用されたのですか?

岡部宗教音楽を好んで聴いていただけあって、作品にもそういうエッセンスがありつつも、アニメ好きっぽいポップなところもあって、その両方のエッセンスを併せ持っているところが独特でおもしろいと感じたんです。正直、最初にもらったデモ曲のクオリティーは低かったんですが(笑)。

瀬尾当時はデモのクオリティーが低いことにすら気付いてなかったですね(笑)。

岡部ただ、メロディや和声の使いかたには光るものを感じたので、マンガとかでよくある「荒削りだけど、光るものがある」のパターンか? と思い(笑)、先行投資的な意味で採用を決めました。

――では岡部さんが見出し、磨いて、輝かせたと。

岡部いやいやいやいや(まんざらでない笑み)。ちなみに、『NieR:Automata』では、コーラス以外にもハッキングの場面での8bitアレンジも、瀬尾がやっています。

瀬尾『NieR:Automata』の仕事はMONACAに入社して間もないころだったので、いろいろ勉強させてもらいました。

『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地

――MONACAには精鋭の方ばかりではなく、瀬尾さんのような原石からといったパターンの方もいらっしゃるんですね。では、続いてオリバーさんも入社までの経緯を聞かせてください。イギリスご出身のオリバーさんがなぜMONACAに?

オリバーイギリスに住んでいたころは、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)系の音楽に興味を持っていて、自分でも作っていたんですが、ビデオゲームやゲーム音楽も好きで、とくにお気に入りの作品は日本開発のものが多かったんです。

――日本のゲーム作品と波長が合ったと。

オリバーそうですね。それで日本に興味を持ち始め、あるとき日本の方から「一度、日本に来てみたら?」と言われて、日本に旅行に行くことにしました。日本に滞在しているあいだに、せっかくなのでダメもとでMONACAの採用募集に応募してみたんです。

――なぜMONACAに?

オリバー私が好きな日本の作品の多くは、MONACAが楽曲を作っていたからですね。

岡部少し補足させていただくと、そのときオリバーは帰国の一週間前に応募してきたんですよ(笑)。「これはすぐに会いたいってこと?」とびっくりしつつも急遽面接することにしたんです。実際に会ったのは帰国の2日前とかでしたね(笑)。「すごいタイミングで応募してきたね」という会話をしたのを覚えています。

――そのときのオリバーさんやデモ曲や印象はどうでしたか?

岡部ちょっと独特だな、というのが第一印象でした。根底にある感覚が日本人とは違うんだなと思いました。ただ、曲から日本のコンテンツが好きなことも伝わってきて、単なる洋楽とも違っていた点がとても興味深かったんです。

――なるほど。ちなみに、オリバーさんは日本のゲーム音楽のどんなところがお好きなんですかね?

オリバー日本のBGMや劇伴は、印象に残るサウンドが多く、音楽だけを聴いても成り立つような曲にしようとする意識もあるように感じます。一方、欧米はできるだけ目立たないように、作品に馴染むための楽曲が多い印象です。私はメロディや歌、曲として存在を大切にしている日本……とくにMONACAのスタイルが好きですし、それは欧米にあまり必要とされていないものですね。

――欧米と日本でそんな違いがあるんですね。日本語もお上手ですが、日本語はイギリスにいたときから学んでいたのですか?

オリバーはい。日本のコンテンツを参考に独学で勉強しました。

岡部いまは日本に来てかなり経つので、さらにうまくなっていますが、面接したときから日本語は問題はありませんでした。ただ、日本と文化も違いますし、いざ日本で働くとなると心が折れることもあると思いますし、海外からスタッフを迎えるということはMONACAにとっても挑戦だったのですが、独学で日本語を使えるまでになったオリバーなら困難も乗り越えてくれるだろうということで、スタッフとして入ってもらうことにしました。

――実際に日本で働いてみていかがですか?

オリバー私はイギリスの田舎で育ったので、東京はコンクリートジャングルだなと思います(笑)。イギリスにいたころは、当たり前すぎて自然のよさが見えてなかったのですが、いま思うといいところだったんだなと思いました。もちろん、東京には東京のよさもありますけどね(笑)。

岡部MONACAの近くに大きな公園があるのですが、オリバーはそこをよく散歩していますね(笑)。

――MONACAに入ってからはどんな作品に携わってきたのですか?

オリバー入社して最初に関わらせてもらったのは『シノアリス』(スクウェア・エニックスとポケラボが共同開発しているスマホ向けゲームアプリ)です。クライアントさんへの対応なども含め、すごく勉強になったタイトルです。ほかにも、アニメの劇伴なども作っていますが、基本的にはゲーム音楽の仕事に関わることが多いですね。

岡部NieR Replicant ver.1.22474487139...』でも数曲アレンジを担当してもらっていますね。

瀬尾そういえば、『NieR Replicant ver.1.22』のアレンジの割り振りを決める前にオリバーが「この曲のアレンジをやりたい!」と言って先行してアレンジを進めてましたね(笑)。

オリバー『NieR:Automata』が好きで、自分が新作に参加することになってワクワクしながら、「これは自分がアレンジしたい」という曲がいくつかあったんです。

岡部そんなこともありましたね(笑)。オリバーのやる気を尊重して、それらの曲はそのまま任せることにしました。

『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地

“世界のOKABE”から“世界のMONACA”に!?

――そんなオリバーさんも加わって、MONACAもいよいよグローバルなスタジオに……。

岡部“世界のMONACA”になるための第一歩ですね(笑)。

――“世界のOKABE”(※)にとどまらず、“世界のMONACA”に! ところで、皆さんは配信番組などで岡部さんが“世界のOKABE”と言われることをどうご覧になっているんですか?(笑) 社内では仕事に厳しいコワイ存在、とうかがったことがあるんですが。

※世界的なゲームアワード“The Game Awards 2017”で『NieR:Automata』が“Best Role Playing Game”や“Best Narrative”などにノミネートされ、受賞したのは“Best Score/Music部門。それからヨコオ氏などを筆頭に“世界のOKABE”と称されるように。ただし、“(笑)”付きのニュアンス含む。

『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地
中央がThe Game Awards 2017のトロフィー。

瀬尾いえそんなことはないですね。もちろん、ダメ出しされたときは純粋に凹むことはありますが、ダメ出しの理由をしっかりと伝えてもらえるので納得できますし、勉強になります。ただ、“世界のOKABE”と呼ばれるようになってからは「遠い人になっちゃったなあ」って感じです(笑)。

岡部そんなことないでしょ(笑)。しかも瀬尾は神前を目当てでMONACAに入ったので、最初は私をただの上司としか見ていなかったし。

オリバー私は岡部さんの作品が好きで、最初のころは本人に会うとすごく緊張してしまっていたんですけど、入社してからはイメージ崩壊といいますか、どんどん新しい岡部さんを知ることができて楽しいです。

岡部これは褒められてるのかな?(笑)

『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地

すべてがカードで表現されたゲーム性は音楽作りにも影響

――今回、『Voice of Cards ドラゴンの島』で瀬尾さんとオリバーさんのおふたりを起用したのはどういった理由で?

岡部オリバーについては、本作の音楽のイメージとしてアイリッシュっぽい、ケルトっぽい音楽、というリクエストがあったことが大きな理由ですね。「イギリス出身のオリバーは本場の人間だからやれるよね?」みたいな話をしたんですが、改めて考えると「日本人だから雅楽できるよね?」みたいなムチャ振りかもな、とも思いましたけど(笑)。

――実際、オリバーさんはアイリッシュ、ケルトっぽい音楽と言われてどうでしたか?

オリバーアイリッシュ音楽や、ケルト音楽に特別な興味を持っていたわけではありませんが、おそらく若いころからそういう音楽が無意識的に耳に入ってきていて、いつの間にか自分の中のベースにはあったようで、なのでそれほど意識せずにやれました。

岡部瀬尾はわかりやすいキャッチーな曲を作るのが得意なので、オリバーとバランスを取るために入ってもらいました。

――曲の割り振りはどうやって決められたのですか?

岡部基本的には私が決めています。ふたりが得意な音楽に合ったものを担当してもらいました。

――『Voice of Cards ドラゴンの島』は、すべてがカードで表現されている、というかなりユニークな作りのゲームですが、そのゲーム性を音楽的に考慮した部分はありますか?

岡部最初にゲームのムービーを見せていただいて、アクションゲームのように派手な展開感があるわけではなく、リクエストされた曲数もさほど多くなかったことから、プレイヤーには同じ曲を長く聴かせることになるだろうと思いました。そこで、オリバーには長く聴いても飽きにくい、主張しすぎない落ち着いた曲をオーダーしました。演出が絡むような曲は、比較的わかりやすい感じにはしています。

『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地
『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地
『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地

意外(?)と難しい造語歌詞

――オープニング曲の『竜を追いかけて ~旅立ちの声~』では曲はもちろん、折田雪乃さんの歌も印象的ですが、折田さんはどういった経緯でボーカルに?

岡部折田さんは瀬尾が所属していた聖歌隊のつてで知り合った方です。折田さんには『NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)』(※スクウェア・エニックスとアプリボットが開発するスマホ向けゲームアプリ)など別のプロジェクトの楽曲にも参加してもらっています。エミさん(エミ・エヴァンスさん。『NieR』シリーズの楽曲の多くでボーカルを担当)ともジュニークさん(ジュニーク・ニコールさん。『NieR:Automata』の楽曲でボーカルを担当)とも違う、日本人ならではのよさがあって、折田さんの儚くて消え入りそうな歌声が今回の楽曲にマッチすると思い、お願いしました。

――歌詞はすべて造語だそうですが、歌詞はどういう感じで作っていったのですか?

岡部イタリア語っぽくとかフランス語っぽくといった方向性はいっしょに考えましたが、メロディに対して感情が乗りやすいような歌詞を瀬尾にリクエストして作ってもらいました。

瀬尾造語なので言葉として意味を持たないように気をつけて作りました。あとは、岡部さんもおっしゃったように歌うときに気持ちが乗りやすいもの、歌い心地のいい言葉を選ぶよう心掛けています。ラテン語ベースの造語にするときは、折田さんも聖歌隊にいたので理解も深く、スムーズにやり取りができましたね。

――簡単そうで、難しそうですね。歌い心地のいい文字の並びを意識すると、たとえば、気づかず同じようなフレーズを何回も使っちゃう、みたいなことが出てきませんか?

瀬尾メチャクチャありますね(苦笑)。同じフレーズが2小節後にも出てきちゃった、みたいなことは往々にしてあるのですが、そういうときは母音ではなく子音を変えるようにして調整することが多いです。

岡部実際に歌ってみて、歌い手の方がどうしてもうまく歌えない、発音しづらいというパターンもあるので、そういうときは収録時に変えたりもします。

瀬尾あとは、意味のない文字を並べたつもりが、何かの言葉に聞こえちゃうっていうパターンもありますね。

岡部そういった空耳的な部分も変えることは多いですね。

――日本語の空耳だけではなく、英語の空耳なども気を付ける必要もありそうですね。

オリバー意味という話とは少し違いますが、造語だとしても僕からすると日本語っぽい感覚が残っているようには感じますね。そこが欧米人からすると魅力的に感じられます。ですので、英語ベースの人間が造語の歌詞を考えるとまた違った雰囲気になっていると思います。

岡部『NieR』シリーズはエミさんに歌詞を考えていただいたんですけど、たしかに僕らが聴くとおもしろい響きになっていることがあるんですよね。

――造語の世界も深いですね……。

岡部そうですね。やってみて気づくことが多いです。ほかにも、華やかにしたいところで母音の“u”がきてたりするとこもる感じになっちゃうので、“a”や“e”に変えることもありますし。消え入りそうに終わりたいときには、音の終わりが明確にならないように子音を“s”や“t”にしないようにも気をつけたりしています。

『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地

イギリスに戻ったときに生まれた楽曲も

――楽曲製作時に印象に残ったエピソードはありますか?

瀬尾先ほども出ましたが、本作ではアイリッシュ音楽やケルト音楽っぽい楽曲をイメージしているのですが、明るい曲、悲しい曲、戦闘曲など情感の差別化をどう取るのかというのが想像以上にたいへんでした。というのも、僕がイメージするアイリッシュ音楽やケルト音楽は、陽気で明るい雰囲気が先に立っていたので、悲しい気持ちを表現する曲はどうすればいいのかすごく悩ましい問題でした。

――たしかに、アイリッシュ音楽やケルト音楽は家庭やパブなどで演奏されるダンス音楽的なイメージがあります。

瀬尾その際に宗教音楽の持つメロディのスケール(音階)が、ケルト音楽のスケールの使いかたと似ているところがあると気づき、その要素をエッセンスとして楽曲に落とし込み、悲しい雰囲気を持たせるようにしました。結果としてそれぞれの要素が混ざり合ったいいバランスの曲になったかなと思っています。

――アイリッシュ音楽やケルト音楽で使われる物で演奏されているのですか?

岡部バイオリン演奏は、ヨコオさんのゲームや舞台でお願いしている島田さん(島田光理氏)ですね。フィドル的な奏法で弾いていただいています。

オリバー自分が作った曲と瀬尾さんが作った曲のギターは私が弾いています。

――コーラスは瀬尾さんが?

瀬尾はい。オリバーが作った『禁じられた呪い』と『霊廟に眠れ』で参加しました。

――コロナ禍での制作で何か影響はありましたか?

オリバーイギリスに戻っていた時期があって、コロナ禍で来日できず、実家で作業していたのですが、先ほども言いましたが、私の家は田舎で目の前に森があるんです。曲についてはその森を散歩しながら考えいたら、イギリスの自然風景とイメージが繋がってスムーズに曲が作れました。今回の曲が作れたのは、イギリスに戻ったことによる影響が大きいです。

岡部オリバーの実家は写真や動画でしか見ていないのですが、自然が豊かで『Voice of Cards ドラゴンの島』のオーガニック感のあるサウンドとマッチしたところはあると思います。

瀬尾すごく曲に出てますよね。

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オリバー氏の実家付近の風景(写真提供:オリバー氏)
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とくに注目してほしい楽曲は!?

――ご自身が作られた曲で、とくに注目してほしいポイントをそれぞれ教えてください。

オリバーフィールドで流れる『自称勇者の冒険』では、島田さんのフィドルがすばらしいのですが、ご本人はそれまでアイリッシュっぽい曲を弾くことがあまりなかったと仰っていて、心配をしながら録ってみたら、ほぼファーストテイクからバッチリで、ニュアンスも最初からすごくいい感じに弾いてくださいました。そこに注目しながら聴いていただきたいです。

瀬尾僕はイベント戦闘でかかる『脈打つ力』ですね。オリバーの曲が本場のケルト音楽だとしたら、この曲は自分がケルト音楽に対して思い描くファンタジー感をフィーチャーしたものになっています。いま聴いてもとくにお気に入りの曲で、『Voice of Cards ドラゴンの島』の曲を3人で作り上げることの意味も窺えるのかなと思います。

岡部今回は、いままでの自分の曲に近い概念で作りました。ヨコオさんと私が携わったコンテンツ、ということで興味を持ってくださった方が「いいね」と思ってもらえるような楽曲を心掛けました。

――これまでのヨコオ作品の岡部サウンドからイメージできるような曲にしていると。『双子の追想』はケルト音楽寄りな感じはしますが、『竜を追いかけて』は『NieR』シリーズで流れても違和感なさそうな。

岡部そうですね。ケルト音楽っぽさはふたりが出してくれるだろうと期待して、私はケルト音楽に寄せすぎないようにしました。『双子の追想』は『NieR Replicant ver.1.22』にも参加していただいた中江さん(中江早希さん)にボーカルをお願いしたのですが、中江さんは折田さんとは対照的なパワフルで弾けるような歌声が特徴で、あえて儚い感じの歌にトライしていただきました。結果、エンヤ(アイルランドの歌手。『Orinoco Flow』などヒット曲多数)のような雰囲気が出て、おもしろい仕上がりになっています。今回のサウンドトラックでは、歌い手さんごとのカラーの違いも楽しんでいただきたいですね。

――歌モノにする、しないはどういう基準で決めるんですか?

岡部基本的には歌モノで、というオーダーがあれば、という感じですね。本作ではオープニングで歌モノを、というのはヨコオさんからのオーダーでした。ほかにもいくつかの曲でコーラスを入れてほしいというオーダーはありました。

――岡部さんはヨコオさんの多くの作品で楽曲を担当されていますが、気心が知れてやりやすい部分と、これまでのヨコオ作品の楽曲と違うところも出さないといけいない、といったようなやりづらさもあるのでは? と想像するのですが、そのあたりはいかがですか?

岡部やりづらさはないですね。やればやるほど「ヨコオさんはこう思うだろうな」とか「ヨコオさんはこれ好きだろうな」というのがわかるようになってきて、「ここで使う曲としてなら通るかも」というのもある程度予想ができるようになってきました(笑)。ただ、これまでの楽曲と似たようなものにならないよう、今回の瀬尾やオリバーのように、自分以外のスタッフにも入ってもらって、自分が作る曲とは違う色を出してもらうようにはしています。

――『NieR Re[in]carnation』も先日新章が公開され、新しい楽曲も追加されていましたし、それ以外もいろいろ手掛けられていると思いますが、複数のプロジェクトが進行している場合の楽曲作りは、頭の切り換えがたいへんでは? 

岡部そうですね(笑)。『NieR Re[in]carnation』のほうは瀬尾とふたりでやっているんですが、『Voice of Cards ドラゴンの島』と並行して作業していた曲もありましたから、頭の中でゴチャ混ぜなってくることもありました(笑)。ですので、差別化することをより意識しながら曲作りをしていきました。ですので、制作時期がかぶってなかったら、逆に似た曲を作っちゃってたかもしれませんね(笑)。

――曲名はシナリオ班考案のもとヨコオさんがご監修されたとか?

岡部はい。これは“ヨコオ作品あるある”なんですけど、こういうシーンで使う曲と言われていても違うシーンで使われたりするので、最後にならないとどんなシーンで使われているかわからないですし、曲名はオリジナル・サウンドトラックの制作過程でようやく考える、という感じですので、我々の中では“フィールド01”みたいな曲名のほうが馴染み深いです(笑)。『NieR』シリーズのようにコンサートをやると自然と曲名が馴染んでくるんですが。ちなみに、曲順はゲームの流れに沿った感じでヨコオさんに並べていただきました。

――今回の『Voice of Cards ドラゴンの島』のオリジナル・サウンドトラックの話とはズレますが、音楽配信などでドルビーアトモスなど空間オーディオ対応の楽曲なども出てきましたし、プレイステーション5も対応しています。空間オーディオの技術は楽曲作りにおいて影響を受ける部分はあるのですか? それとも楽曲作りのうえでは、とくに意識しないものですか?

岡部空間オーディオ用に楽曲をチューニングすることもできるのですが、ステレオと違って、空間オーディオは再生するデバイスによってかなり聞こえかたが違ってくるんです。5.1チャンネルのときにも感じたのですが、デバイスや機器によってまったく別モノのような感じになってしまうこともあるので、難しいなというのが正直なところです。ですが、新しい技術があることで音楽表現も広がりますし、とても興味はありますね。

――なるほど。いろいろハードルもあるのですね。では、最後に本日11月12日に配信される『Voice of Cards ドラゴンの島』のオリジナル・サウンドトラックについて、3人を代表して岡部さんから最後にひと言いただけますか?

岡部はい。私は曲を書く以外にも全体のディレクションもさせてもらったのですが、瀬尾、オリバーというMONACAの新しい流れを明確に感じてもらえると思うので、「そろそろ岡部の音楽に飽きてきた」という方にも楽しんでいただけると思います(笑)。ただ、いままでの私のテイストを期待している方にはそれに応える曲も残しているつもりですので、瀬尾やオリバーのよさが明確に出ている楽曲と、ぜひ聴き比べてみてください。よろしくお願いします!

サイン色紙を抽選で3名様にプレゼント!

 オリジナル・サウンドトラック配信を記念して、岡部啓一氏、瀬尾祥太郎氏、オリバー・グッド氏の直筆サイン入り色紙を抽選で3名様にプレゼントします。

『Voice of Cards ドラゴンの島』サントラ配信記念インタビュー。すべてがカードで表現されたゲームに響くMONACAサウンドの新境地
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