十年近く前、プレイステーション3を筆頭にHDゲーム機が主流となって、ゲーム開発に時間とコストが莫大にかかるのが当たり前になった時期、とある著名ゲームクリエイターの方から「大作ばかりじゃなく、小規模なゲームも作れれば、作品をユーザーにもっと届けられるんですけど、そういった企画は(会社には)なかなか通り辛いんですよね」という話をうかがったことがある。
たしかに当時は著名クリエイターの作品は期待値が高いため、内容はもちろん、プレイ時間もガッツリかかる大作を望まれる傾向にあった(もちろん、いまもだが)。その分、開発に時間はかかるし、ユーザーも待たされた分、よりボリュームのある、遊び応えのある作品を望むようになる。また、当時はパッケージソフトが主流だったこともあり、ライトな作品は売りづらいので作りづらい、というのも要因としてあったと思う。
時代は変わり(といってもあれから数年後。ゲーム業界の時の流れは早いですね……)、ご存じの通り、小規模のタイトルでもダウンロード販売でき、スマホ向けなどマーケットも拡大。さらに少人数で開発できる環境も整って、いまはライトな作品も作りやすい状況になっている。
前置きが長くなったけれど、『Voice of Cards ドラゴンの島』をプレイしていてそんなことを思い出し、いい時代になったなとあらためて思った。本作は、ヨコオタロウ氏を筆頭に大作を開発してもおかしくない豪華クリエイター(下記参照)が名を連ねる、コンパクトな内容の作品だ。
- クリエイティブディレクター:ヨコオタロウ氏――代表作:『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズ /『NieR』シリーズ
- エグセクティブ・プロデューサー:齊藤陽介氏――代表作:『NieR』シリーズ
- ミュージックディレクター:岡部啓一氏(MONACA)――代表作:『ドラッグ オン ドラグーン3』/『NieR』シリーズ
- キャラクターデザイナー:藤坂公彦氏――代表作:『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズ
そんな『Voice of Cards ドラゴンの島』は、本日2021年10月28日にスクウェア・エニックスからNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)、プレイステーション4、Steam向けにダウンロード専売ソフトとして発売される(※Steam版は10月29日発売)。
『Voice of Cards ドラゴンの島』はテーブルトークRPG(TRPG)をモチーフに、すべてがカードで表現されているというユニークなRPG。本稿では、そのプレイレビューを動画とともにお届けする。
※ネタバレには配慮していますが、気にされる方はご注意ください。
『Voice of Cards ドラゴンの島』プレイレビュー動画
本作は、ゲームマスター(声優の安元洋貴さん)のナビゲーションによりゲームが進められていき、ボイスは安元さんひとりが担当する。「安元さんをゲームマスターとして部屋でいっしょに遊んでいる感じを大事にしたい」との意向で、安元さんがボイス収録前に声の調子を整えているところや、言い間違えをしたところも、ゲーム中のボイスとして使用しており、いわば「Voice of Yasumoto」(ヨコオ氏談)となっており、安元ファンならずとも必聴の作品となっている。
チームヨコオ流のシニカルな『ドラゴンクエスト』!?
物語は、剣と魔法の世界を舞台に、主人公が人間に仇成す魔物を倒しながら、復活したドラゴンを倒すための旅を描いたもの。その世界観だけなら王道ファンタジーものだが、そこはヨコオ氏がクリエイティブディレクターを務める作品だけあって、ふつうの王道ファンタジーのはずはなく、その王道路線を逆手にとったようなシニカルなものになっており、チームヨコオ流『ドラゴンクエスト』といった内容になっている。
シナリオを手掛けているのは、スクウェア・エニックスの『ニーア』シナリオチームの松尾勇気氏。これまでも配信番組やインタビュー記事で何度か明言されているが、松尾氏は元ファミ通編集者で、編集者時代にはデイリー松尾として活躍していたので覚えている読者の方にもいるだろう。『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』発売当時にはまだ弊社に在籍しており、同作の話などしていたのに。時の流れは早いですね……(二度目)。
ゲームを紹介する側として、たくさんのゲームに触れてきた松尾氏にとっても、王道路線やそれを逆手にとったようなネタは得意なはず。もちろん、ヨコオ作品独特の切なかったりホロ苦かったりするエピソードや、狂気がチラッと顔を覗かせるエピソードなども随所にあるため、それを期待する方も満足できるであろう内容になっている。
冗談じゃなく本当に筋肉多め
そんな本作のキャラクターデザインは『ドラッグ オン ドラグーン』シリーズなどでヨコオ氏と長年の付き合いがある藤坂公彦氏が担当。登場人物だけではなく、モンスターも藤坂氏が手掛けているとのことで、藤坂ファン歓喜の作品となっている。だが、東京ゲームショウ2021での『Voice of Cards ドラゴンの島』配信番組でもイジられていたが、藤坂氏自身のマッチョ体型が影響してか、本作の登場人物には妙に筋肉キャラが多く、バラエティー豊かな筋肉キャラたちを堪能できるのも本作の魅力のひとつだろう。もちろん、筋肉以外も正統派な美少年美少女、病んだ風な町人やら老人やら、さまざまなキャラクターが登場。筆者のお気に入りのクロエにはあるサプライズもあったりと、いろいろと楽しませてくれる。
シンプルながらも味わい深いバトル
バトルはテーブルトークRPGをモチーフにしたターン制のもの。カード下部に表記されているHPや攻撃、防御の数値と敵の数値とを見ながら、スキルの選択や倒す順番などを考えていくシンプルなものだ。スキルを発動するにはジェムが必要になり(ジェムが必要ないスキルも一部に存在)、強力なスキルほど多くのジェムが必要になるため、ジェムの管理は強敵とのバトルではポイントになるのだが、このジェムを2個生成できるクロエのスキル“チャージスペル”はかなり重要だった。また、スキルには振ったダイスの数字によりダメージ追加や状態異常を付与するものがあったり、“ハプニングカード”(属性ダメージや回復量の増減などランダムでさまざまな効果をもたらす)が割り込んでくるといった要素もあり、バトルを盛り上げてくれる。
カードを使った演出も過剰すぎず簡素すぎずの絶妙な塩梅。ディレクターの三村麻亜沙氏(エイリム)いわく「箔押しが光の加減で光る感じや、カードが置かれた時の余韻など見た目の部分や、SE、めくりの動作など、細かな表現を加えることで独特の手触り感が出せた」とのことで、カード表現のこだわりにも注目。
また、街にある遊技場ではバトルとは別のカードゲームが楽しめ、こちらはゲームの進行に合わせてルールが追加されていき、追加ルールをすべて盛り込むと最後まで順位が激しく変動し、盛り上がること間違いなしのカードゲームとなっている。
本作でも絶品の“世界のOKABE”サウンド
本作を彩るMONACAの岡部啓一氏の音楽(MONACAの瀬尾祥太郎氏とOliver good氏も作曲に参加)は、これまでのヨコオ作品同様、美しいメロディーで耳に残る仕上がりに。今回はアイリッシュミュージックで使われる音階のドリアンやミクソリディアン・スケールを使ってフレーズを作ったりしているということで、ファンタジー作品にふさわしい気品溢れる音楽となっている。折田雪乃さんの歌唱によるオープニング曲も透明感があり、爽やかで、個人的にはかなりお気に入り。
構えずに気楽にプレイできる作品
内容もボリュームもライトな作りになっているので、気楽にプレイできるのも本作の魅力。レベル上げなどもとくに必要なく、ふつうに物語を進めて装備を整えたり、バトルでは属性を意識したりすればクリアーできるゲームバランスになっていると思う。とはいえ、ランダムイベントや選択肢による展開の違いをすべて見ようと思えばそれなりの労力が必要だし、さらにはどうやって行くのか不明な島がチラッと見えたり、クリアー後はレベルや装備を引き継いでのプレイが可能だったり、やり込み要素も多少用意されていそう。「周回することで何かあるのか!?」とモヤモヤしているところでこの原稿を書いているので、製品版リリース後にそのへんをゆっくり堪能したい。
シリーズ化も念頭に?
カードですべてを表現している本作は、ベースとなるシステムは本作ですでに完成しているだけに、物語やイラストを変えれば、新たな“Voice of Cards”作品として作りあげることもできるはず。実際にゲームマスターも「“Voice of Cards”の世界」という言いかたをしているので、『ドラゴンの島』自体“Voice of Cards”のひとつ、と捉えることができる。『ドラゴンの島』がリリースされたばかりで気が早いが、TRPGがそうであるように、このシステムでいろいろな物語を期待したい、これだけで終わるのはもったいない、そんな気持ちにさせてくれる秀作だ。