世界的な人気を誇るCD PROJEKT REDのアクションRPG『ウィッチャー』シリーズ。その主人公であるゲラルトが、日本風の世界で妖怪退治を生業とする浪人だったら……? というifのストーリーが展開されるスピンオフコミックが『ウィッチャー ローニン』(The Witcher: Ronin)だ。

 企画・脚本はCD PROJEKT REDでコミック編集を担当するRafal Jaki(ラファウ・ヤキ)氏。作画には妖怪・怪物のデザインに定評があるハタ屋氏を起用し、独特な世界観を特有の味付けで表現する。

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 本書では、全4章のストーリーを約100ページのフルカラーで掲載。強大な妖怪たちを相手に、“ウィッチャー”の力で立ち向かう浪人・ゲラルトの姿が描かれる。含みを持ったセリフや、ゲラルトらしい決断など、シリーズファンであれば馴染み深さも味わえる作品だ。

 これに加えて、『ウィッチャー ローニン』の世界を掘り下げる、各15ページの短編作品も3本同時収録。師であるヴェセミルや、ラブロマンスの相手イェネファーも、ゲラルトと同様の和装スタイルで登場する点に注目だ。

 『ウィッチャー ローニン』を読みたい人は、2021年9月27日まで行われているKickstarterでのクラウドファンディングでの支援を検討しよう。CD PROJEKT REDによると、豪華限定版が手に入るのはこの機会だけとのこと。書籍自体はすでに完成しているため、いわゆる寄付を募って作品完成を目指すといった、通常の支援プロジェクトではない。

 支援の受け付けは2021年9月7日からスタートしており、なんと開始2時間程度で目標金額を達成。今後支援金額が増えるにつれ、国内外の著名アーティストたちによる“和風ウィッチャー”の描き下ろしアートワークなどが随時特典として追加され、製品が豪華になっていくというプロジェクトなのだ。

 追加特典の一例がこちら。人気ゲーム実況集団“2BRO.”のイラストなどを手掛けるTERU氏によるアートワークだ。

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 こちらは『ウィッチャー ローニン』内に収録されるのみならず、クラウドファンディングの支援金額が35ユーロの場合はポストカードとして、50ユーロの場合はさらにポスターとして付属する。今後も国内外の著名なアーティストによる作品が続々追加されていくとのことなので、気になる人はぜひチェックしてみてほしい。

『ウィッチャー ローニン』Kickstarter特設ページ

以前よりあった構想が、ついに形となった『ウィッチャー ローニン』

 ここからは、CD PROJEKT REDに所属し、『ウィッチャー ローニン』のセリフの日本語化、及び日本文化の監修取りまとめ、制作管理を担当している本間 覚氏へのインタビューを掲載。『ウィッチャー ローニン』が生まれたきっかけや制作過程、『ウィッチャー』シリーズの今後などさまざまな話を聞いた。

本間覚(ほんまさとる)

CD PROJEKT RED ジャパン・カントリーマネージャー。

――『ウィッチャー ローニン』の企画がスタートした経緯をお聞かせください。

本間そもそも、『ウィッチャー ローニン』の企画・脚本を担当しているRafal(ラファウ)が、大の日本文化好きというのもあってか、“ゲラルトが浪人として日本にいたら……?”という発想は、『ウィッチャー3』が発売された2015年ごろから、当社内でもテーマというか、話題にあがっていたんです。

――そんなに前からの構想だったとは驚きです。

本間はい。とはいってもゲーム化するというわけではなくて、あくまで話題のひとつ、ですね。ゲラルトの生きざまや、各地を放浪して怪物退治をするという設定が、日本の浪人にイメージが近いよね、という。

 そんな中で、PlayStation Awards 2016でGold Prizeをいただいた際に記念品として制作されたTシャツ(本間氏が着用しているTシャツを参照)に描かれている浪人ゲラルトのアートワークが生まれました。

 また、私がCD PROJEKT REDとして働くようになり、アニメやフィギュアなど、日本の各メーカーさん、及び作家さんやイラストレーターさんたちとさまざまなプロジェクトをさせていただく機会が増えてきまして、ゲーム以外の媒体で浪人ゲラルトの物語を描く可能性が現実的な話になっていったんです。

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――時間をかけて温められた企画だったのですね。2019年にはCD PROJEKT REDの公式ストアCD PROJEKT RED GEARで、ゲラルトの浪人姿のフィギュアが発売されましたが、それとの関連はあるのでしょうか?

本間そちらの和装フィギュアシリーズも、“日本+ウィッチャー”を具現化するプロジェクトの一環です。フィギュアのほうがコミックより前に進行していますので、キャラクターデザインなどはこのフィギュアを参考にしつつ、マンガ家のハタ屋さんに落とし込んでいただいています。

――コミカライズにあたり、苦労された点などはありますか? ノベライズなど、ほかの形での展開案はあったのでしょうか。

本間なぜコミカライズをしたのかという最大の理由は、企画立案者であるRafalがマンガが大好きだったからですね(笑)。また、苦労というわけではないですが、今回担当していただいたハタ屋さんが『ウィッチャー』シリーズの初心者でいらっしゃったため、本作のさまざまな設定についてきちんと理解していただくため、私としてもいろいろな形で補足説明を行いました。

 ゲラルトが旅をする理由や多くの登場人物との関係性など、途方もない情報量を理解していただいたうえで、さらに和風の世界にそれらの要素を落とし込むわけですから、一朝一夕にはいかないわけです。“印”とはどういったものなのか、ゲラルトは怪物(妖怪)に対しどういうスタンスなのかなど、皆さんがご存知の“ゲラルト”をこの世界でも着実に再現するため、細心の注意を払いましたね。幸いRafalは『ウィッチャー』フリークですし、アドバイスがしやすい環境でしたので、その辺はうまくいったかなと思います。

――作画担当にハタ屋さんを起用したのは、どういった理由からなのでしょうか。

本間Rafalはいっしょに仕事ができる可能性のあるアーティストをつねに探していて、日々Skeb(※)やTwitter、ピクシブなどでアートをチェックしては、「コンタクトしてみてくれ」と私に依頼してきます。私財を投じて、Skebで自分の肖像画を描いてもらったりしているんですよ(笑) そういったツールを使い、自分が求める『ウィッチャー ローニン』のイメージに近い絵を描く人を探していました。

 ハタ屋さんはTwitterでもよく妖怪や怪物の絵を投稿されていまして、とても目を引く絵を描くイラストレーターさんです。『ウィッチャー ローニン』ではゲラルトと同じくらい妖怪が重要になるということで、お声がけさせていただきました。最初に3ページ分ほどのパイロット版を作っていただいたのですが、その3ページのデキがとんでもなくよかったので、そのままお願いする流れになりました。

※クライアントが有償でリクエストを送り、クリエイターがそれに沿ったイラストやボイスを制作すると報酬がもらえるサービス。

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ハタ屋氏が描いたパイロット版。

――選考には時間がかかりましたか?

本間いえ、じつは最初にお声がけしたのがハタ屋さんなので、本当にスッと決まりました。

――『ウィッチャー ローニン』の世界はかなり独創的なものになっていますが、どのように構築していったのでしょうか。

本間やはり『ウィッチャー』の世界そのもの、あるいは出てくるものを落とし込むことが最重要であると考えました。『ウィッチャー』の世界は勧善懲悪ではなくて、過程や結末なども含めて考えさせられるものになっていますよね。クエストひとつとっても、村を襲うモンスターが必ずしも悪というわけではなく、そうせざるを得ない理由があったりします。そういった“らしさ”をいかに再現するかを、世界観はもちろん脚本上でも、もっとも気を付けて構築しました。

――原作ありきで、そこに独特な味付けなり、肉付けをしていったと。

本間そうですね。あまりに突拍子もない世界にしてしまうよりは、やはり『ウィッチャー』のファンが読んで楽しめるものにしなければならないと。もちろん『ウィッチャー ローニン』の世界は原作とは別で、完全に独立してはいるのですが、ファンが読んで「ああ、これは『ウィッチャー』だな」と思えるようなものをお届けしたかったので。

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――ウィッチャーの2本の剣が刀になっているなど、原作を形作る記号的なものがうまく溶け込んでいると感じました。逆に、ゲラルトがそのままの名前であったり、イグニやクエンなどの印アビリティも原作のまま登場しますが、これらはあえてそういった形にしているのでしょうか。

本間そこについては、とても悩みました。当初はアビリティを当て字にしたりとか、ゲラルトの名前も和風にするかなど、迷いに迷ったんです。ですが、最終的にはそのままにすることにしました。

――それはまたなぜでしょう?

本間理由としては、まず『ウィッチャー ローニン』の世界が日本ではなく、あくまでも“日本風”の世界であるということですね。歴史的に正しい“日本”にこだわると、ゲラルトのような白髪の白人が街中を歩いている時点で、周囲がざわつかないとおかしくなってしまう。もうひとつは、よりファンに親しんでもらえるのはどちらかと考えたときに、自分はカタカナのままがいいと思ったんです。

 ……いろいろと考えはしたんです。たとえばイグニの印なども、“炎獄何たらの巻”というような名前にしたらどうか、とか(笑)。ただ、どうしてもチープになりがちなのと、やはりファンタジーとして楽しんでもらいたいので、原作そのままでいこうという結論に至りました。

――確かに、そこまで和訳するとギャグっぽくなってしまうようなきらいもありますね。そのあたり、カッチリと日本風世界を作るにあたり、監修などはされたのでしょうか?

本間もちろん細部の修正などは私が行ったところもありますが、Rafal自身が相当に日本文化好きで、日本語もしゃべれたりしますので、監修はあまり必要がなかったですね。作画担当が外国の方だったらいろいろと齟齬が生まれてしまった可能性もありますが、ハタ屋さんが日本人ということもあり、スムーズにいった印象です。

――実際にコミックを拝見させていただきましたが、クエスト受注→問題解決→またつぎのクエストに……といったような形式で、原作ゲームに近い流れになっているなと感じました。

本間そこはその通りで、ゲームの作りを意識した形にしています。ファンがもっとも慣れ親しんでいるお話の展開のしかたは、やはりゲーム版だろうと考えました。依頼を受け、モンスターを討伐する、もしくは対象人物との話し合いになったりして、その裏ではメインストーリーも進行している、というおなじみの流れですね。

――依頼人とゲラルトとの受け答えなども、かなり原作に近い雰囲気だなと思いました。

本間日本語のセリフは自分が担当しているのですが、かなり気を付けて書いたつもりです。ゲラルトは基本的に皮肉屋ですが、かといって女性や子どもに酷い仕打ちをするような人物でもないので、その辺はハタ屋さんにもしっかりとお伝えしました。

――なるほど。劇中に出てくる妖怪はすべてオリジナルデザインなのでしょうか?

本間妖怪というものはある程度決まった形……ステレオタイプな絵が存在すると思うのですが、今回は日本はもちろん、海外の方にも多く手に取ってもらいたいという思いがあり、なるべく“広く知られている”デザインのほうがいいと考えました。誰も知らないような異形の怪物よりも、天狗や河童など知名度が高く、日本文化としてわかりやすいものにするべきだろうと。

――天狗などはかなりおもしろいデザインですね。

本間こちらからハタ屋さんにラフを渡してこういうデザインで……といったことはなくて、すべてハタ屋さんに考えていただいたものを、ほぼほぼ一発採用する流れで、完全にお任せでした。ゲラルトなど登場人物に関しては、小物の位置指定などのフィードバックもあったのですが、妖怪に関してはハタ屋さんの完全オリジナルで自由にやっていただきました。

――Kickstarterでの展開を決めた理由について、改めてお話をお聞かせください。

本間まず申し上げておきたいのが、コミック自体はすでに完成しているので、Kickstarterで寄付を募り、これからコミックを制作する……という企画ではございません。寄付によって商品自体をより豪華にし、ファンの方々へお届けしたいというのが主旨になっています。

 Kickstarterのいいところは、支援額に応じて新しい特典を追加していくといったカルチャーのようなものがすでに根付いていることですね。最低限、書籍自体はこの金額でお届けすることを確約したうえで支援いただき、よりよい物を作り、ファンの方々が受け取ってより嬉しくなるようにKickstarterというシステムを利用させていただきました。

 ただ、今回を逃すと本作品を入手できないわけではなくて、ダークホースコミックスさん(※)経由でのデジタル版(海外版)も決定していますし、あくまでも超豪華な限定版という位置付けになります。そちらの日本版を発売できるかは、現時点では未定です。

※アメリカ・オレゴン州に拠点を構えるコミック出版社。

――完全に『ウィッチャー』ファンに向けたアイテムであると。

本間そうなります。もちろん、新規の方にも手に取っていただきたくはありますが、自分としてはファン向けアイテムという認識です。

 Kickstarterを利用した理由はもうひとつあって、多くの国に対応したプラットフォームということです。CD PROJEKT REDの公式ストアは残念ながら日本への発送には対応していないので、そういったことも考慮してクラウドファンディングという形式にしました。

――購入予定のファンは当然気になるところだと思われますが、今後も続刊はされますか?

本間プロジェクトの進行次第ではあるのですが、Rafal自身も続きを書きたいと言っていますし、我々としても続きを作りたい気持ちは当然あります。Kickstarterも含め、プロジェクトの成功をいまは祈りたいですね。

――『ウィッチャー ローニン』も含め、『ウィッチャー』シリーズ全般の今後の展開、展望についてお聞かせください。

本間ビデオゲームとしての『ウィッチャー』は、すでに発表している通り、新たな作品を開発中です。それが何であるかはまだお話できませんが、制作は始まっていますので、今後の情報にご期待いただければと。

 それとは別に、現在私やRafalがやっているのは、ゲームの『ウィッチャー』をより多くの人に知ってもらい、また楽しんでもらうためにさまざまな分野で展開させていくことです。

 たとえば『ウィッチャー ローニン』がうまくいったら、それをベースにしたフィギュアなり、アニメなどの映像作品なりも作れればうれしいです。単純なグッズ化ではなく、きちんとしたストーリーや新しいビジュアルを用意したうえで商品展開できるのが理想的と思っていますので、ゲーム以外の『ウィッチャー』にもぜひ期待していてください。

――『ウィッチャー』シリーズの今後が楽しみです。最後にファンの方々へメッセージをお願いします。

本間『ウィッチャー ローニン』は、ゲラルトがもし日本風世界で冒険していたら……というストーリーで、海外の方はもちろん、日本の方々も興味を抱いてもらいやすいものになっています。

 今後いろいろな形で『ウィッチャー ローニン』を楽しんでいただける機会はあると思うのですが、3本のオリジナル短編はKickstarter限定になるため、より『ウィッチャー ローニン』の世界に浸りたい、楽しみたいという方はご支援いただき、第2巻、3巻と続けられるようにお力を借りられればと思います。よろしくお願いいたします!