ナンバリングタイトルとしては11年ぶりにリリースされ、早くもシリーズ最高傑作との呼び声も耳にする『ノーモア★ヒーローズ3』。2021年8月27日にNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)用として発売された、この“男どアホウどアクション”ゲームにはいくつかの特徴があるが、ひと目でそのぶっちぎり具合がわかるのは、これまでビデオゲームでは見たことがないような敵──宇宙からやってきた銀河系ガッデムスーパーヒーローたちのデザインだろう。

『ノーモア★ヒーローズ3』インタビュー。「須田さんのオフィスに行ったらガンダムが並んでいて、人はわかりあえると思った」GhM須田剛一氏×敵デザイン牛木匡憲氏

 この戦いかたの想像もつかないような、攻めまくった敵キャラクターたちの数々をデザインしたのは牛木匡憲氏。ひと目で忘れられなくなる唯一無二のイラストを武器に、あらゆる方面で活躍中のアーティストだ。

『ノーモア★ヒーローズ3』インタビュー。「須田さんのオフィスに行ったらガンダムが並んでいて、人はわかりあえると思った」GhM須田剛一氏×敵デザイン牛木匡憲氏
牛木氏ホームページ(https://www.ushikima.com/)よりドローイングを引用

 この彼がどうして『ノーモア★ヒーローズ3』の敵をデザインすることになったのか? 氏の考えるカッコいいデザインとは? 発売を記念してディレクターであるグラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏とともにそんなことを語ってもらった。

 このインタビューは、ゲーム発売直前の週刊ファミ通2021年9月9日号(8月26日発売)に掲載したものに、ゲーム発売前だから伏せられていた部分などをあらためて加えたものだ。ただし、物語に言及するようなネタバレはしていない。未プレイの方も、ゲームをすでにクリアーした方も、読めばまた発見があるだろう。

『ノーモア★ヒーローズ3』インタビュー。「須田さんのオフィスに行ったらガンダムが並んでいて、人はわかりあえると思った」GhM須田剛一氏×敵デザイン牛木匡憲氏
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須田 剛一(すだ ごういち)

グラスホッパー・マニファクチュア代表取締役社長。ゲームデザイナー。1998年の創業以来、『シルバー事件』、『killer7』、『ノーモア★ヒーローズ』シリーズなどでディレクター、脚本、ゲームデザインを担う。

牛木 匡憲(うしき まさのり)

アーティスト。キャラクターデザイナー。日本の80〜90年代のアニメ、マンガ、特撮などをベースに、ユーモラスなものからファッションを意識したものまで、幅広くオリジナルキャラクターを生み出す。

時間を大切に使ってプラスされたもの

――発売おめでとうございます。

須田ありがとうございます。なんとか無事に終わりました。当初の予定より発売が1年延びましたが、時間をいただけたことでチューニングにかけられる時間が増え、その時間を大切に使っていろいろとプラスできました。

――具体的にはどんなものがプラスされたのでしょう?

須田ゲーム全体に影響するようなことですと、今回、過去のシリーズとは少し趣向を変え、章立てのドラマ仕立てにしています。それまでは『2』までと同じように、ランキング戦が大河のように流れていたのですが、そこに区切りと言いますか、ゲーム中では1日10時間と言っていますが、高橋名人の言うように1日1時間、1日に1章ペースで遊べる仕掛けにしています。章の前後には遊びの要素もあり、そこはかなり力を入れてできたんじゃないかと思います。

――章のオープニングとエンディングですね(笑)。須田さんの好きなものを詰め込んだ感じでした。

須田スタッフといっしょに悪ノリして、そういう風味になりました。

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須田さんと牛木さんの出会い

――須田さんと牛木さんは、そもそもどうお知り合いになったんでしょうか。

須田ニコニコで展開していた日本アニメ(ーター)見本市というものがありまして、そこで僕が発表した『月影のトキオ』の監督をしていただいた、神風動画の水野貴信監督にご相談をしたところ、牛木さんをご紹介いただきました。監督に、次回作はちょっとパンチのあるデザインで作りたいと相談したんですね。

 『ノーモア★ヒーローズ3』では主人公トラヴィスが宇宙人と戦いますが、AAAタイトルやハリウッド映画に出てくるようなマッチョなモンスターやエイリアンではなく、誰も見たことがない、インパクトのあるデザインができる方を紹介してほしいと言ったんです。

――誰も見たことがない。

須田宇宙人の姿って誰も知りませんからね。そこで数人名前を挙げていただいた中に牛木さんのお名前があって。その瞬間に「あ、この人だ」と。というのも、NHKの番組『シャキーン!』を観ていたときに、「あ、この人の描くプロレスラーのデザインはおもしろい。いつかいっしょに仕事をしてみたい」と思っていたんですね。ですからもうすぐにお会いしました。

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――牛木さんは須田さんから突然の連絡を受け、どう受け止められたのでしょうか。

牛木じつはゲームにかなり疎かったので、「なんで僕?」とピンと来ていなかったんです(笑)。それは須田さんと打ち合わせたり、キャラクターにオーケーが出たりしても続いていて。

 そんなとき、水野監督やそのお兄さんの健一郎さん(※アーティスト。『ノーモア★ヒーローズ3』では、デーモンのデザインや作画をしている)ともお話をして『月影のトキオ』を観せていただいたとき、須田さんの作品は、僕がイメージするゲームとは違う実験的なものなんだ、とようやく理解しまして。

――そこで納得しましたか。

牛木いや、まだピンと来ていませんでした(笑)。プレイヤーの皆さんはどう受け止めるのだろうなんて考えていましたね。ですが、それから1年半くらいやりとりする中で、やっと「いいのかな?」と思い始めましたね。

――(笑)。須田さんが求めるものが牛木さんの中で判然としていなかったわけですね。

牛木『1』や『2』を見て、「シリーズのトーン&マナーや世界観が僕に表現できるか」という疑問が残っていたんです。というのも、僕はもともとヒーローをよく描くのですが、ご覧になった方たちには、ヒーローというよりはヴィランに見えているなど、世間との乖離をずっと感じていたんです。ですから須田さんが僕をどう捉えているのか、まずそこを僕から探らないといけませんでしたね。

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――探った結果、齟齬がなくなっていったと。

牛木最初は鉛筆画の段階で、須田さんに「これはどうですか? これは?」とラフデザインを何案も出し、須田さんの中の僕を探っていく過程がけっこう続きました。違うとわかると、その打ち合わせの翌日などにまたお見せして。そうやって須田さんと僕の着地点を探ったんです。

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ザコ敵ボーンのデザイン画

――そのときに須田さんに見せていたものはFUなんでしょうか。

牛木もっと人間めいたものでした。より地球人っぽいフォルムのものを見せていたら、「もっと非人間的なものでお願いします」というオーダーをいただきましたね。

須田敵は“ガッデムスーパーヒーロー”と自称しているくらい、スーパーヒーローとしても見えるけど、じつは凶悪な連中なんです。そういう匂いを出してほしかったんですね。それから動いたときに、これまでのビデオゲームでは見たことがないようなキャラクターにしたかった。並んだときに、形はもちろん、高さや横幅など、ひとりひとりの個体が際立っていてほしかったので、「そのバランスを意識してください」と最初は6体、お願いしましたね。

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――具体的にはどういう発注でしょうか。

須田あまり細かい指定はしませんでした。「バランス以外はとにかくフリーで描いてください」とお願いして、そこからチョイスしていって。

牛木須田さんからのお願いで印象的だったのは、幼いFUのデザインと、UFOがモチーフのキャラクターを作りたいというふたつです。幼いFUについては、打ち合わせの時点で須田さんが仰るイメージが完全に伝わったので、その通りの形で描きました。UFOのキャラクターは、Mr.ブラックホールになっています。

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――ランク10位ですね。

牛木はい。須田さんからの具体的なイメージでしたので彼は早めに採用が決まって。あとはいろいろお見せして選んでいただいて、採用されなかったりザコとして採用されたものもあったりしています。

――指定試合ミッションに登場する、技田太郎の解説が入る敵も、すべて牛木さんのデザインなんですよね?

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須田いくつかの敵以外はすべてそうです。それからワザダタローではなく、ギダタローです。

――あっ! キダ・タロー氏が名前のモチーフなんですね(笑)。

須田間違えちゃいけません。一文字違います。

――失礼しました(笑)。

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牛木さんのデザインフロー

――お話を総合すると、敵のシナリオやバトルはデザイン先行で組み立てていったのですか?

須田そうです。「このキャラクターはどんな話しかたをして、トラヴィスとどういうやりとりをするんだろう?」と書いていきました。

――須田さんからの指定がないなら、牛木さんはそもそもそれらのデザインをどう着想し、どういう手順で形にしていったのでしょう?

牛木これはどの案件でもやる僕のフローなんですが、カッコつけて言うなら、潜在意識みたいなものを無意識に出し、手を動かして描きまくるんです。それを、今回の場合ならゲームのキャラクターっぽくなるようにパソコン上で帳尻を合わせていくという。

――潜在意識を無意識に出す。難しそうですね。

牛木そうですね。子どものころに見たものや、直近に見たもの、それこそ自分の机のまわりにあるものなどがたぶん無意識のうちに取り込まれていて、そういう感覚を維持して意識せず取り出せることをけっこう大事にしているんです。

――ご自身の中で、こうフワフワと意識しないで漂わせているような感じですね。

牛木ですから約束事やオーダーが多くなると描けなくなるんですよ。言われたことを意識的に描くと、誰でも想像のつく、ものすごくおもしろくないものになるんです。

 基本的には「ゲームのキャラクターを作るんだ」程度のことだけで立ち向かうようにしています。すると潜在意識の中の『キン肉マン』や『聖闘士星矢』や『ガンダム』などが、無意識ににじみ出て、それがおもしろさにつながっていくんですね。

 それを意識的に出すと模倣になりますし、意識的に匂いを消す作業になると、できるものも描いている自分もつまらなくなってしまうので。「あ、なんかガンダムのここ、出ちゃった」程度に、スパイスのように出てくるとすごく魅力的なものができると思っています。

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――なるほど。その“出ちゃったガンダム”が須田さんにフックするわけですね。

牛木そうなんですよ。初めて須田さんのオフィスに伺ったときに、ガンダムのフィギュアがいっぱい並んでいて、「きっとわかり合える」と思いましたからね。

――ガンダムはお好きなんですね。

牛木好きなんですが、じつは僕はアニメの『ガンダム』は観ていなかったんです。その代わりに、ずっとガンプラとガシャポンとカードダスに触れてきた。というのも実家の向かいがおもちゃのお店だったので、ずっとそれらを眺め、触れながら育っていたんですね。

須田いい環境ですね! 最高じゃないですか。

牛木ええ、最高でした。じつは昨年すべての『ノーモア★ヒーローズ3』のデザインを終えてから、ようやく初代から『UC』まで一気に観したりもしたんですが(笑)。そんなわけでガンダムのスパイスが絵にもあまりにも出てくるので、「ああ、自然に臨めば須田さんの要求するものに応えられるのかな」と(笑)。

――実際そうなっているということですよね。

須田もちろんです。ガンダムもそうですが、いちばんは、狙いどおり誰も見たことがないヴィラン像をいただけたことですね。牛木さんが上げてくださったラフ画をオフィスの壁面に並べて貼ったところ、スタッフのテンションがみるみる上がったんですよ。

 すごいデザインを眺めながら、どう3Dモデル化するかの議論が始まったり、ボスファイトのゲームデザインを考え始めたり、技術的なところも含めてどんな遊びにしていくか、作るべきものが明確になって、チームの士気も一気にグッと上がったんです。

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――『ノーモア★ヒーローズ3』はそこから作られていったと。

須田じつは、先行してアクションのメカニカルのコアを『Travis Strikes Again: No More heroes』(以下、『TSA』)と並行して作ったのち、新しい『ノーモア★ヒーローズ』を作ることに意識が向かっていたんです。ですので当初は『ノーモア★ヒーローズ』らしさのようなものを消していく作業をしていたことが多かったと思います。牛木さんにデザインをお願いしたのもその一環でしたし、ゲームデザイン全般もそうです。

 ただ、新しいものばかり集めてゲームを組み上げていったところ、新しすぎて「これ『ノーモア★ヒーローズ』じゃないかも」という瞬間があったんですよね(笑)。

――(笑)。たとえば?

須田最初の設計の段階で、ボスファイトを100戦組み込むことを目指したりだとか。実際にプランニングを始めると、早々にスケジュールが破綻することがわかりました(笑)。

 ですが「それに近いことができないか」と、ゲームの全体像の流れを設計していたとき、最終的に「やっぱり『ノーモア★ヒーローズ』はランキング戦がメインだ。そこは1作目と同じように10戦でいこう」と思ったんです。そこで牛木さんに4体を追加でデザインしていただきました。

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――10戦に決めた契機はあったのでしょうか。

須田試行錯誤しながら『ノーモア★ヒーローズ』らしさを考えていたときに、周囲の方たちから『ノーモア★ヒーローズ』らしさってこういうことだといくつか指摘され、ランキング戦を始め、僕らが忘れていたことを気づかせてもらったからかもしれません。

――最終的に須田さんが考えた『ノーモア★ヒーローズ』らしさはランキング戦だったと。

須田そうですね。ランキング戦というシステムは、よくできていたと思います。トラヴィスがひょんなことからランカーになり、目的のために階段を駆け上がっていくという構造自体が、『ノーモア★ヒーローズ』なんだなと思いました。

 トラヴィスというキャラクターは、下から這い上がる姿がとても似合うキャラクターだなと。ロッキー・バルボアと通ずるところがあるんですよね。やっぱりあの雑草みたいな目線。それこそが『ノーモア★ヒーローズ』なんだということに途中で気づきましたね。

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ムチ打ちコルセット+縞パンの主人公とか

掛け算がおもしろい

――牛木さんは、ご自身が平面でデザインしたものが、立体になって特殊な戦いかたをしているのを、どうご覧になりましたか?

牛木9位のゴールド・ジョーを見せていただいたときに、とにかく大感動しましたね。僕としては、ゴールド・ジョーは、もし性別があるなら男だと思っていたのですが……。

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――中性的なしゃべりですね。

牛木僕は全身の絵を描くと、下半身がわりと女性っぽくなるところがあって、海外の人たちからよく指摘されていたんですよ。今回、ゴールド・ジョーが中性的にしゃべる演出を見たときに、「あ、そうだよな」と、またその指摘を思い出しました(笑)。

須田なんだかすいません……。

牛木いえいえ(笑)。ですが、単純に「戦う人だから、強そうだから男で」なんて概念を壊すのはいいなと思って。こうした変化球になることで、ゴールド・ジョーのキャラクターに深みがまた与えられてうれしいんです。

 ゴールド・ジョーの顔は、セミのイメージで描いていたんですよね。そこに中性的だとか、磁力だとかいろいろな要素が入って掛け算された感じが、とてもおもしろいなと思いました。ほかのキャラクターもとても楽しみです(笑)。

――するとMr.ブラックホールも、牛木さんがデザインされた時点では、あんな関西弁を操るとは思っていないかったわけですね?

牛木関西弁なんですか?(笑)。

須田バリバリ関西弁なんです(笑)。

――FUをトップランカーにしたのは須田さんなのでしょうか? それとも牛木さんが描かれた時点ですでにメインだったのでしょうか?

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牛木僕が絵に描くときに、真ん中に立たせて須田さんにお見せしていますね。それから彼は最初は仮面をかぶっていたんですが、須田さんが仮面を取って後ろにある顔が見てみたいと仰ったので外しました。いまは顔の上にドラゴンのような黄色いカブりものをしていますが、いまの顔の位置にドラゴンの口があったんです。

――FUはアップになるシーンも多く、4つの目がギョロギョロ動くのがとても印象に残ります。

須田FUは発売前からファンがつくぐらい、強烈でカッコいいキャラクターになったと思います。

カッコいいものとは何か?

――前回のインタビューでは、楽曲を作られた金子ノブアキさんと須田さんの考える“カッコよさとは何か”を尋ねました。

 同じように、牛木さんの考える“カッコよさ”について伺えればと思います。牛木さんにとって何がカッコよくて、そしてそれをどう『ノーモア★ヒーローズ3』に詰め込んだのか。

 ちなみに前回の須田さんは“潔さ”を挙げていて、少なくともトラヴィスはそれを持っている。須田さんご自身の中には潔くないところもあるから、もっとトラヴィスのような潔い男になりたい、と仰っていました。

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牛木うーん。カッコ悪いものが、つぎの世代になるとカッコいいものになったりしますし、「カッコつけているものってカッコ悪いなあ」と思うところもあって、じつはカッコよさって、カッコ悪いものに関係しているんじゃないかなと思っています。ではカッコ悪いものって何かというと、それは弱さなのかなと思います。

――弱さ。

牛木僕の描くキャラクターはどこか弱いんですよ。男性としてカッコつけきれてないと言うか、チンチクリンなんですよね。それをあえて出している。たとえば先ほどのようにゴールド・ジョーならセミだったりなど、気持ち悪かったりダメっぽいものをモチーフにしたりするんです。セミはよく見るとすごく気持ち悪いですよね。

須田すぐ死んじゃいますしね。

牛木そう(笑)。僕にとっては、それをモチーフにして描くことがカッコいいんです。今回のキャラクターも、見た目の話ですが、たぶん全部にそれが散りばめられていて、僕がカッコ悪いと思っている要素を表現したうえで、カッコいいものになったのではと思います。

 トラヴィスは、須田さんが仰るように潔く揺るがないカッコよさを持っていて、物語においてはそれがカッコいいと思うんですが、デザインや見た目として僕が考えるときは、やはりカッコ悪いものにヒントをずっと見出していますね。

須田そういう目線でデザインをしている方はあまりいないと思います。だからこそ牛木さんのデザインって誰にも描けない、まったく新しいものになっているんでしょうね。

牛木ありがとうございます。

須田いや、ソニックジュースとか、ビックリしましたから。

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ソニックジュース

牛木(笑)。

須田パッと見た瞬間はカッコ悪いんですけど、全体のフォルムも個々のパーツも、よく見るとカッコいい。愛でたくなります。

牛木これは須田さんにも言いませんでしたが、浅田飴がモチーフのひとつなんですよ。

須田浅田飴!?

牛木これを描いてるときに喉が痛くて舐めていたんです。胸が浅田飴の缶のようなデザインになっています。

須田あー、本当だ(笑)。

牛木昔からある見慣れたものとして、僕は浅田飴の缶のデザインを完全に“カッコ悪いもの”と捉えていたんですが、そのときよくよく見たら、「じつはコレ、めちゃめちゃカッコいいデザインじゃないか?」、「なんだこのグルグルは?」と思い始めて。

須田確かに意識していませんでした。

牛木「これはヤバい!」と思いましたね。そういう“カッコ悪いと先入観で思っているもの”に、カッコよさのヒントがあったりするんです。

――しかもグルグルの中央から手が出ています。

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須田そうなんですよ。そこから手を出せる、牛木さんのスイッチの入りかたがすごい。

牛木喜んでもらえてよかったです(笑)。

須田いえいえ、そういうデザインが届くから、「すごいキャラにしてやろう」と思うんですよ。

――須田さんも、そこで自動書記みたいな書きかたをされますよね。

須田はい(笑)。僕も何も決めずに、潜在意識下で書くんですよね。何かをカッコいいなと思っても、書くときに「こうしよう」とはあまり考えません。基本的に考えずに書き進めると、勝手にシナリオが出来上がっていくというような。

牛木それはいっしょだなと感じましたね。

 じつは初対面のとき、会社の社長さんという先入観があったので、「はたして僕の考えるカッコよさがわかってもらえるのか?」と訝しんでいたんですね。ですが、やりとりしているうちに、「この人、アーティストじゃん!」と思ったんです。「ああそれで僕が選ばれたんだな」と腑に落ちたんですよね。

須田そう言っていただけるとうれしいですね。

牛木僕が無意識に手に任せているように、須田さんはたぶんスタッフやアーティストさんたちを信頼して任せて、出来上がったものにご自身の潜在意識でテキストを書いて全体を監修して、最終的になんだかすごいアート作品が出来上がるんだなという。それって、ふつうのゲーム作りのフローとは完全に違いますよね?

須田ぜんぜん違うと思います。こんなゲームの作りかたをしている会社は、たぶんウチしかないんじゃないかな……。

牛木そうですよね(笑)。僕も別件でゲーム作りの現場を見たことがあったのですが、須田さんの作りかたは、アーティストがモノを作るフローに圧倒的に似ているんです。そのぶん、たぶん周囲の人がたいへんなんだろうなと(笑)。

須田そうなのかもしれません(笑)。

トラヴィスの価値観

――ゲームの細かなネタに少し踏み込みますが、まず、劇中劇ならぬゲーム中ゲームになっている『DEATHMAN』はどこから来ているのでしょう?

須田あれはですね、牛木さんのお知り合いの早川モトヒロさんという、これまたすごい才能の方にお願いしたものです。

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牛木そうです。天才です。

須田この早川さんのデザインを見たときに、またビックリしまして、「これでゲーム作れるじゃん!」と、牛木さんに早川さんをご紹介していただいたんです。早川さんにゲームの内容を説明したときは、「よくわからないけどいいですよ」という感じで請けていただいて(笑)。早川さんの世界観で上がってきたキャラクターを使って、こちらでゲームを作らせてもらいました。

――デスマンの頭部が謎の三角形になっています。あれは何でしょう?

須田それが……早川さんからいただいたたくさんのデザインから選んだので、あらためてご本人に尋ねないと、わからないんです(笑)。それをドット化したり、今回のUIまわりとかをすべてやっていただいたのが、広岡毅さんというデザイナーさんでこの人も天才なんです。

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――天才のまわりには天才が集まりますね。それから、トラヴィスを強化するために使うポイントの単位、略称WESN、“ワールドエンドスーパーノヴァ”って……くるりの曲『ワールズエンドスーパーノヴァ』からでしょうか?

須田そうです、くるりです。

――なんの説明もなしに、ポンと入っているのがすごすぎてシビレました。

須田名前をどうしようかなと思ったころに、たまたま聴いていたんですね。「訳すとWESNか。あ、カッコいいな」と(笑)。

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――ゲームの芯になるアクションやランキング戦はもちろんですが、加えて劇中のアニメやゲーム、そうした小ネタなど、ある意味振り切っていた『TSA』を経たことによって、今回はさらにものすごく凝っているという印象を受けました。

須田作っている側は、凝れたのか凝り足りないんじゃないかと、もうわからなくなるんですよね。麻痺してくるんです。ですが、最終的に形になったとは思っています。

――初見の起爆力はすごいと思います。くり返し見るところでも、宇宙船に吸い上げられるときの『X-ファイル』のテーマっぽい曲など、何回流れても笑ってしまいます。芯がしっかりしているのに、そういう細かいものの積み重ねもものすごい量になっているので。こればっかりは触れてみないとわからないよ、と読者の皆さんにも伝えたくて。

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須田ありがとうございます(笑)。

――防衛ミッションの戦闘後なども、画面の色が変わる感じとか、流れる曲もシブいですよね。

須田あー。黒と赤になるところですね。あれはカッコよくなったと思います。曲は、僕はフジファブリックの『打上げ花火』という曲が好きで、その後半に入るところのジャカジャカジャ、ジャカジャカジャ、ジャカジャの気持ちよさをイメージしました。

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――フジファブリックにしても選曲が通すぎますね! サカナクションもお好きですよね。同様に入っていそうな。

須田キャラクターにネイティブダンサーがいますね。

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――おお、そういえば(笑)。須田さんと言えばザ・スミスを始め、ブリティッシュロックやポップのイメージですが、最近はそういう平成のジャパニーズがブームなんでしょうか。

須田日本語がちょっと沁みるようになってきましたね。最近は少し戻りすぎて、高校のころに聴いていた佐野元春を聴いています。佐野元春が沁みるんです。

――時代的に『VISITORS』や『Café Bohemia』などですか?

須田そうです。『Young Bloods』が最高にいいんです。

――スタカンぽいですからね。やっぱりブリティッシュ(笑)。あとはデスグローブチップですね。『TSA』ではスキル名がUnicornやF91などガンダム由来でしたが、今回はウルトラマンなんですね。

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須田あれはもうちょっと名前に凝りたかったんですよね。いまはグレートやメビウスやZなどですが、Zにしても、アルファエッジ、ベータスマッシュ、ガンマフューチャー、デルタライズクローと丁寧に付けたかった……。

――(笑)。1作目を作っているときから、『ノーモア★ヒーローズ』には、プロレスやガンダムや『AKIRA』など、須田さんの好きないろいろなものをとことん詰め込みたかったというお話をされていますね。

須田自分の中のルールなんですが、『ノーモア★ヒーローズ』はそれをやっていいタイトルなんですよ。何でもやっていいのが『ノーモア★ヒーローズ』で。トラヴィスというキャラクターがそれを許してくれるんです。

 彼はオタクなんですけれど、何でもいいわけじゃなく、彼自身の価値観があって、そこに筋が通っていれば何でもやってオーケーみたいなところがあります。その彼の価値観を僕が勝手に解釈して、トラヴィスをフィルターにして自分を出しているようなものです。

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――どこか須田さんの分身でもある。ほかのタイトルだと、もっと主人公が指向性を持っているので、そこまではできない。

須田そうですね。トラヴィスというキャラクターと『ノーモア★ヒーローズ』という作品自体のムードがそれを許してくれるような雰囲気を持っています。

もっとやりすぎないといけないんじゃないのか

――そうしたカッコよさが詰め込まれた『ノーモア★ヒーローズ3』の見どころをそれぞれ語っていただけますか?

牛木僕が描いたデザインを、須田さんがどんなかけ算を仕掛けてどんなキャラクターにしてくださったのか、そこを楽しんでもらえたらと思います。僕自身も最終的なものをすべて見られていないので、すごく楽しみにしています。

――ありがとうございます。須田さんは前回のインタビューのときに、「ファンの想像を超える三沢的なプロレスを『3』ではします」と宣言しています。想像は超えられたでしょうか。

須田あの、想像を超えすぎるとそれは『ノーモア★ヒーローズ』じゃなかったということもあり、ある程度超えつつ、ちゃんと試合を組み立てました(笑)。

 最終的にはベストバウトになったと思っていますが、長いこと作っていると、まだやりすぎていないんじゃないか、もっとやりすぎないといけないんじゃないのかと麻痺してくるんですね。ですがゲーム全体の遊びのバランスやリズムはとても気持ちいいものに仕上がりましたよ。

 あとはパフォーマンスまわりも最後に仕上げて、戦闘は60フレームをしっかりキープし、マップ移動は30フレームをほぼキープしています。

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――物語としてはいかがでしょう?

須田今回牛木さんに描いていただいたFUは本当に圧倒的な存在です。それがトラヴィスの前に立ちはだかります。このキャラクターは強靭でないとダメなんですよ。それを牛木さんがすごいデザインで本当に魅力的なキャラクターに仕上げてくださいました。

牛木ネットなどでも「何にも似ていない」という結論で落ち着いてるのが、僕にとって爽快でした(笑)。この時代に、何にも似てないことってむずかしいんです。

須田本当にそうですよね。

『ノーモア★ヒーローズ3』インタビュー。「須田さんのオフィスに行ったらガンダムが並んでいて、人はわかりあえると思った」GhM須田剛一氏×敵デザイン牛木匡憲氏

――それが無意識のなせる技ですね。ちなみにFUという名前には何か由来があるのでしょうか。

須田それはですね、スピルバーグの『E.T.』を1文字ずつ後ろにズラすとですね……。

――なるほど! 『2001年宇宙の旅』に登場するHALが、IBMを1文字ずつ後ろにズラしたんじゃないか、と言われているような感じですね。

須田それです! そしてそのトラヴィスと強靭なFUが、『ロッキー3』に例えるならロッキーとクラバーのようにぶつかり合う。トラヴィスにとっては本当に不足のない相手です。彼に本当に倒せるのかどうかを、ぜひ見届けていただけたらと思います。僕はトラヴィス・タッチダウンという人間の生き様が『ノーモア★ヒーローズ』だと思っています。トラヴィスの生き様をぜひ見届けてください!

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