『killer7』、『ノーモア★ヒーローズ』シリーズなどで知られるグラスホッパー・マニファクチュアが、2020年1月30日に、東京・渋谷PARCOに設けられたライヴストリーミングスペース“SUPER DOMMUNE”にてトーク&ライブストリーミングイベントを開催した。その名も“グラスホッパー・マニファクチュア解体新書”。

 このイベントは、同社の代表である、ゲームデザイナー須田剛一氏のクリエイティブの源泉や、グラスホッパー・マニファクチュアの作品を彩るこだわりの“音”の世界を、トークやライブで解き明かそうというもの。本稿では5時間半にわたったイベントから、興味深いトークを中心に模様をお届けしよう。

須田剛一氏とグラスホッパー・マニファクチュア作品のこれまでを振り返る

 2部構成となったイベントの第1部では、タレントの松嶋初音さんの進行、ライターの宮昌太郎氏の解説のもと、須田氏のゲームデザイナーとしての歩みを、氏が手掛けた作品の映像とともに振り返った。

画面左より、松嶋初音氏、宮昌太郎氏、須田剛一氏

 最初の話題は、かつて存在したゲームメーカーのヒューマン在籍時に須田氏が手掛けた『スーパーファイヤープロレスリングSPECIAL』(1994年)について。

 須田氏と古くから親交があるという宮氏は、同作について、ストーリーモード(チャンピオンロード)内の主人公の純須杜夫(スミス・モリオ)の名前の由来が、須田氏が愛してやまない80年代のブリティッシュバンド“The Smiths”とそのボーカルのモリッシー由来であることを解説。

 さらに杜夫が物語の最後で、頂点を極めたあげく自殺するという結末が、当時人気を博していたアメリカのロックバンド、ニルヴァーナのボーカルであるカート・コバーンの自殺(同作発売の8ヵ月前)を踏まえたものだと言及。こうしたネタをあえてプロレスゲームに仕込んでいることに宮氏は困惑し、当時は須田氏に「この頭のおかしい人はなんなんだ?」という印象を持ったと語った。

 また、プレイヤーが物語を通じて育成し、愛着を持った主人公がそのような結末を迎える点について、発売当初は純粋にプロレスを楽しみに購入したファンの反感を買っていたと宮氏が指摘すると、須田氏も「ファンから怒られるだろうな」と自覚があったと告白。

 さらに須田氏は、このエンディングについて、当初はハッピーエンドとバッドエンド、ふたつのエンディングを用意していたが、「人生を分岐させるのはおかしい。運命がふたつに分かれるのはいけない」と考え、上記のエンディングのみ残したと解説。あえて尖った結末にすることで、“今後の自身のものづくりへの声明”のようなメッセージ性も込めていたということを明かした。

ホラーゲームを経て、会社設立へ

 続いての話題は、サイドビューが印象的な怪談系ホラーゲーム、『トワイライトシンドローム』(1996年)について。同作は当初、別のディレクターのもと開発が進んでいたが、途中でそのディレクターが離脱。そこで後任として須田氏がチームに入り、発売まで漕ぎ着けたという経緯を持つ。

 同作は須田氏がチームに入った時点で、β版までは作られていたものの、シナリオもなく完成が見えない状態で、まず発売に漕ぎ着けるために、想定していた話数を減らし、さらに『探索編』と『究明編』に分割。それぞれ単体の作品としてリリースしたと須田氏。

 その後に須田氏は同作の続編に当たるサイコ系ホラー、『ムーンライトシンドローム』(1997年)を手掛けた後、1998年にグラスホッパー・マニファクチュアを設立することになるのだが……この転機へと至った理由を尋ねられ、「ボーナスが安かったから」と会場を沸かせつつ、実際には当時ラブデリックなどの制作会社への出資を行っていたアスキーより、「会社を立ち上げてみては」と打診された経緯があったと語った。

 グラスホッパー・マニファクチュアという社名は、80年代末~90年代半ばに活躍したイギリスのバンド“RIDE”の楽曲、『Grasshopper』に由来するという。須田氏によれば、自身のデビュー作、『スーパーファイヤープロレスリングIII FINALBOUT』の開発時に朝から晩まで働き詰めたおり、休憩時間に倒れるようにこの曲を聴きながら仮眠を取っていた時期があり、このときの初心を忘れないように、と社名に採用したとのこと。

 グラスホッパー・マニファクチュア設立後は『シルバー事件』を1999年に発売し、その2年後の2001年には『花と太陽と雨と』をリリースしている。須田氏にとって独立後の第一作ながらいまも代表作のひとつである『シルバー事件』が思い入れ深いものであるのは当然だが、『花と太陽と雨と』もとくに思い出深いものであるとともに、ストーリー構成を含め、いろいろな新しいチャレンジができた作品であると語られた。

須田氏の背景は『シルバー事件』(左)、『花と太陽と雨と』(右)

 また須田氏は、『花と太陽と雨と』は当初パブリッシャーとなる予定だったアスキーがゲーム事業から撤退したことにより、発売元がビクターインタラクティブソフトウェア(後に現在のマーベラスにより吸収合併)へと変わったという裏話を明かしつつ、この事件によって、会社の代表としての覚悟が定まったと当時を振り返った。

『killer7』以降、海外での評価を得ていく

 その後は、日本のみならず海外でも人気の高い『killer7』、『シャドウ オブ ザ ダムド』、『ロリポップチェーンソー』の3作品について紹介。『killer7』、『シャドウ オブ ザ ダムド』の2作品については、須田氏の憧れの存在だというゲームデザイナーの三上真司氏(Tango Gamework代表)とともに開発を行った、これまたとても印象深い作品であると語った。

 『ロリポップチェーンソー』は、累計販売本数が全世界100万本を突破したタイトルであり、グラスホッパー・マニファクチュア史上もっとも売れたタイトルであるとのこと。それゆえ2012年の発売から約8年が経とうとしている現在でも、ファンから続編を望む声が寄せられ、業界内部からも続編への出資を打診してきたパブリッシャーもいるという。ただ、こうした人気から「続編を作らないのか」と訊かれることもあるが、権利をグラスホッパー・マニファクチュアが持たないため、すべては権利元の意向によると語られた。

 続いて語られた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版-サウンドインパクト-』(2011年)は、グラスホッパー・マニファクチュアが手掛けた初のリズムゲームであり、大きな社会現象となったアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の映画作品、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』を題材としている。

 このとき発売元に、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの総監督を務める庵野秀明氏に「ゲームのプレゼンを直接したい」と須田氏が相談したところ、何かを察した発売元に強く断られ、制作時は庵野監督に会えなかったというエピソードが披露された。ところが縁は奇なもの、その数年後に須田氏は庵野氏に会うことになる。

グラスホッパー・マニファクチュア×神風動画の制作秘話

 2014年に発売された『SHORT PEACE 月極蘭子のいちばん長い日』は、劇場用の短編オムニバスアニメ『SHORT PEACE』とゲーム『月極蘭子のいちばん長い日』を同時に収録した風変わりなパッケージ。前者は大友克洋氏、森田修平氏、安藤裕章氏、カトキハジメ氏という、名だたる監督たちによって制作されており、後者はゲームながらその短編集内の一作品として位置付けられている。ここでこの作品でグラスホッパー・マニファクチュアとコラボレートしたアニメーションスタジオの神風動画から、代表取締役で演出の水崎淳平氏と、取締役で演出の水野貴信氏がゲストとして迎えられた。

※水崎氏の崎は、立つ崎(たつさき)

画面中央が水崎淳平氏。右が水野貴信氏

 『月極蘭子のいちばん長い日』では、ゲームパートをグラスホッパー・マニファクチュアが、ゲーム内のムービーを神風動画が担当。水崎氏によれば、同ゲーム内のムービーは、いくつかの約束事を決めたあとは、水野氏をはじめ、当時からともに作品を作ることのあった映像制作ユニット“AC部”など、さまざまなクリエイターが独自の表現方法でムービーを制作し、1本の作品に収めているという。実験的な試みではあったものの、水崎氏は手応えを感じたと言い、じつのところ『月極蘭子のいちばん長い日』のムービー制作の経験が、神風動画とAC部がアニメーション制作を担当した、2018年放送のアニメ『ポプテピピック』の原型にもなっていると語った。

 グラスホッパー・マニファクチュアと神風動画は、映像作品『月影のトキオ』の制作でもタッグを組んでいる。この作品は、カラーとドワンゴによる短編映像配信プロジェクト“日本アニメ(ーター)見本市”の一作品という位置付けで、監督を水野氏、脚本を須田氏がそれぞれ担っている。

 このプロジェクトに参加することとなった経緯は、当時ドワンゴにて同プロジェクトのプロデューサーを務めていた志倉千代丸氏に、ヒューマン時代の元同僚である須田氏が直談判。そこから話が進み、制作に至ったとのこと。また、カラーによるプロジェクトでもあるため、同社の代表である庵野秀明氏ともこのときに会うことができたという。

 『月影のトキオ』について須田氏は、“月の裏側に住んでいる少年の物語”と解説。同じく“月の裏”を題材とした須田氏の作品、『KILLER IS DEAD』(2013年)の別解釈の構想が氏の頭の中にあり、それをいつか形にしたいという思いが、この物語に繋がったと語られた。

金子ノブアキさんが『NMH3』楽曲制作のアガりっぷりを語り尽くす!

 神風動画との作品制作についてのトーク後は、話題は『ノーモア★ヒーローズ』(2007年)へ。ここで、シリーズ最新作『ノーモア★ヒーローズ3』(以下、『NMH3』)のメインコンポーザーであり、俳優としても活躍する金子ノブアキさんがゲストとして登場。金子さんを交えて、同シリーズの魅力や『NMH3』の音楽などについてのトークがくり広げられることとなった。

画面右が金子ノブアキ氏

 金子さんと言えば、かつて週刊ファミ通にてコラム“スーパーカネコブラザーズ”を連載していたほどの生粋のゲーマー。『ファイアープロレスリング』シリーズに始まり、須田氏がこれまで手掛けてきた作品もプレイ済みで、日本語吹き替えボイスが追加されたプレイステーション3版『ノーモア★ヒーローズ 英雄たちの楽園』がことのほかお気に入り。須田氏とグラスホッパー・マニファクチュアの作品から感じられるパンク・スピリットに意気を感じてプレイしていたという。

 一方の須田氏は、映画『クローズZERO II』に出演していた金子さんにシビれ、注目。加えて金子さんの友人たちがすでにグラスホッパー・マニファクチュアと交流があったことから、須田氏から改めて金子さんにオファーし、今回のタッグにつながったとのことだ。そのあたりの経緯は、以下の記事に詳しい。

 『ノーモア★ヒーローズ』は、2007年にWii用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャー。筋金入りのオタクにして殺し屋であるトラヴィス・タッチダウンが、全米殺し屋ランキング戦に参戦し、ランキングボードを上り詰めていく様子が描かれている。シナリオのほか、Wiiリモコンを、作中でトラヴィスが使用する武器“ビーム・カタナ”に見立てて行う戦闘システムなどが好評を博し、多くのゲームファンを魅了した作品だ。

 以降、同じWiiにて続編『ノーモア★ヒーローズ2 デスパレート・ストラグル』(2010年)が発売され、2019年にニンテンドースイッチでリリースされた『Travis Strikes Again: No More Heroes』(以下、『TSA』)を経て、2020年に、約10年ぶりとなるナンバリング作品『NMH3』がリリース予定となっている。

 会場では『NH3』の紹介も兼ね、改めて2019年のE3でお披露目となったトレーラーが上映された。

※この映像ではCERO Z相当のゲームソフトを紹介しています。内容の視聴にはご配慮をお願いいたします。

 映像内では、これまでのシリーズでメインテーマとなっていたメロディラインもピアノサウンドとして登場。金子さんによれば、「メインコンポーザーとしてチームに加わった以上、ファンの方々に喜んでもらうためは、自分のシリーズへのリスペクトを込めることが重要」と感じたことから、シリーズの面影を取り入れるようにしたとのこと。

 作中の楽曲制作は、ゲームの開発と同時に進行。当初は敵キャラクターをはじめとするデザイン画や、ざっくりとした作品の世界観などのイメージのみが決まっていた段階からのスタートだったという。作品に対する情報が圧倒的に少ない状況であったものの、ゲーマーかつグラスホッパー・マニュファクチュアのファンでもある金子さんは、そこから情報を汲み取り、楽曲を制作しては随時須田氏に送付。ときには本作のアニメパートの絵コンテをチェックしてイメージを固めたこともあったが、じつはそのコンテを『クローズZERO II』の絵コンテを担当した奥山潔氏が担当しているなどの偶然もあったと明かされた。

 また、金子さんから送られてくる楽曲のすべてにかっこよさを感じた須田氏は、書きかけのシナリオ執筆を再開する際、曲をループして聴きながら作業にあたり、楽曲から受けたインスピレーションをシナリオに反映しているという。

 ゲーム音楽の制作は初めてという金子さんだったが、司会の松嶋さんより、通常の楽曲との作りかたの違いについて訊かれると、「ゲームのサントラはループするもの。くり返し聞いても、つねに脳汁を出させるような、テンションの上がるものでないといけない」としつつ、個人的にいちばんユーザーに立ち返って作れるジャンルだと感じ、「映画の劇伴の制作よりも相性がいいかもしれません」と語った。さらにメインコンポーザーとして自由に制作させてもらっていることから、楽曲を作っていて本当に楽しいと笑顔で語っていた。

 ミュージシャンとしての金子さんは、2019年9月には新プロジェクトとして“RED ORCA”を立ち上げ、楽曲制作などを行っている。同プロジェクトは、とある映画の劇伴を担当した際に、いっしょに参加していたラッパーの来門さんを中心に立ち上げたものとのこと。

 そして“RED ORCA”を立ち上げた時期と『NMH3』の楽曲制作開始の時期が重なったことから、創作意欲が刺激され、ゲーム用に作った楽曲のバンドアレンジバージョンなども制作。いつかはそれらの楽曲を自身のプロジェクトのライブでも披露したいという思いがあることを明かした。ちなみに、“RED ORCA”による楽曲『ORCA FORCE』も、ゲーム内に収録されている。

須田氏のルーツ音楽やグラスホッパー・マニファクチュアの歴代ゲームタイトル楽曲の数々をDJプレイで堪能!

 イベントの第2部では、須田氏のルーツとなった音楽や、グラスホッパー・マニファクチュアの歴代ゲームタイトルの楽曲をテーマにしたDJプレイ、そして『TSA』楽曲制作アーティストたちによるスペシャルライブが行われた。ライブに参加したアーティストは、以下のとおり。

■出演者(敬称略)
#_SUPERCOMBO_(MEEBEE a.k.a KAZUHIRO ABO & DJ1,2)/Doramaru/古川麦/佐武宇綺/yocotasax./DJPrettybwoy/丸省/Meteor/SNAFKN/ミライ(ex.tokyotrill)/Totsumal/Deviryuman/高野政所/KUNIO

 まずはDJフクタケ氏による、須田氏のルーツミュージックを中心としたDJプレイ。須田氏の好きなデビッド・リンチによるテレビドラマ『ツインピークス』のテーマからスタート。須田氏の好きなUKニュー・ウェイヴよりデュランデュランや、イベントでも触れられていたThe Smithsの『This Charming Man』、そして外せない前田日明選手の入場曲『Captured』や長州力選手の入場曲『パワーホール』など、まさに須田氏を構成する楽曲が、SUPER DOMMUNEならではのビジュアルエフェクトとともに多数披露されていた。

 DJフクタケ氏と須田氏は、須田氏がしばし通う新宿ゴールデン街のバーで10年ほど前に出会い、好きなもの傾向が似ていたことから意気投合。以来、交流が続き、須田氏がイベントがあるごとにフクタケ氏にDJプレイをお願いしているとのこと。グラスホッパー・マニファクチュアの10周年のイベントでもすでにDJを務めていたというエピソードや、ゲーム内の楽曲に込められた思いなどがMCにて紹介されていた。

DJフクタケ氏

 続いては、『TSA』の楽曲ディレクターであるMEEBEE a.k.a KAZUHIRO ABO氏とDJ1,2氏によるユニット“#_SUPERCOMBO_”によるDJプレイを交えながら、『TSA』楽曲参加アーティストたちによるライブとなった。ラップあり、四畳半フォークあり、ブラスあり、とここまでですでにイベント時間は3時間を超えていたが、会場のファンたちは疲れを感じていない様子で、つぎつぎと披露されていく楽曲に盛り上がっていた。

DJ ABO氏(写真中央)による激ヤバ『TSA』楽曲に関するトークコーナーも。ちょっと面白すぎ&危険すぎたので、いずれ別の機会に話を伺いたい
まさかの『ムーンライトシンドローム』オンリートークイベント開催も発表に

 ライブコーナーの最後には、tom2氏による、グラスホッパー・マニファクチュアの歴代ゲームタイトル楽曲の数々のDJプレイが披露され、盛り上がっていた来場者たちもまったりとチルアウト。開始から5時間半が経過したところで出演者たちが再登壇し、来場者や当日のストリーミング視聴者への感謝の言葉を述べ、イベントは締めくくられた。

tom2氏
19時に始まったイベントのグランドフィナーレは、なんと24時半!