2021年9月2日(日本時間の9月3日1時ころ)に、Bossa Studiosは手術シミュレーションゲーム『Surgeon Simulator 2(サージョンシミュレーター2)』のSteam/Xbox One/Windows 10版をリリースする(※)。前作『Surgeon Simulator』は2013年にリリースされ、その続編となる『2』が、7年ぶりとなる2020年にEpic Gamesでリリース。そしてそれが今回、Steam/Xbox One/Windows 10にやって来たというわけだ。

※Xbox One版は『Surgeon Simulator 2 Launch Bundle』として発売。

 “手術シミュレーション”と聞くと堅苦しいイメージがあるかもしれないが、このゲームはむしろ、そのイメージの正反対に位置すると言ってもいい、正真正銘のバカゲーだ。そんな、奇妙な手術ゲーを今回初めてプレイしてみた筆者の様子をお届けしてみたい。

 なお、今回リリースされる『Surgeon Simulator 2: Access All Areas』は、昨年8月にEpic Gamesでリリースされた『Surgeon Simulator 2』に1年分の大型アップデートが加わったもの。Epic Games版をプレイした方のために、アップデート内容を紹介すると以下の通り。

  • 表現力が豊かになったキャラクターモデル
  • 4人のヒーローの新しい無料コスチューム
  • 数十種類の素晴らしいユーザー制作レベル
  • Twitchに対応したまったく新しいゲーム内修飾システム
  • 対戦型の新モード“Free-for-All”を含む、1年分のアップデート
  • PCでのコントローラーサポートを含む追加の修正と改善
『Surgeon Simulator 2』(PC)の購入はこちら (Steam) 『Surgeon Simulator 2 Launch Bundle』Microsoft Storeページ

初心者執刀医、大歓迎! 限りなく手術ではない何かをクリアーせよ

 ゲームを開始すると、そのままチュートリアルが始まる。スピーカーからPAMという人物の声が聞こえてくるので、基本的にその声の言うことに従っていれば、つぎにやるべきことはわかる。ただ、内容はスゴく大雑把で、最初の指示は「ボブの右脚が病気みたいね。切り落としちゃいましょう」。わぁ、せっかちすぎる。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
患者の名はBob(ボブ)。何の病気なのかも分からないが、とにかく切るらしい。

 さて、切り落とす……と言っても、周囲にノコギリ的な物が見当たらない。くまなく探していたら小さいメスのような物はあったので、仕方なくこれで挑戦する。

 物を掴むのはマウスの左ボタンを押しっぱなしで、左ボタンを離すと、掴んでいた物も離す。掴んだ状態でマウスの右ボタンを押しながらマウスを移動すると、移動した方向に手首を曲げる。自身の移動はキーボードのW・A・S・Dキーで行い、スペースキーでジャンプ、Ctrl キーでしゃがむ。おもな操作は、ほぼ、これだけだ。

 移動系の操作はFPSなどではおなじみのスタンダードなタイプなのでとくに問題はないが、手のほうの操作は、なかなかにハード。この決してよいとは言えない操作性のせいでメスは逆手持ちになるし、刃の部分を点線に当てようと位置を調整しているうちに、ボブの体のあちこちを切り裂いてしまう。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
くっ……許せ、ボブ! 俺が悪いんじゃない、操作性が悪いんだ!

 しかし、どう動かしても切ることができない。手首の角度は変えられるので、いろいろと向きを試してみるものの、やはり、切るに至らない。「やっぱり、こんな小さいメスじゃダメなのか……?」と、一旦、メスを離してほかの物を探そうとするが、やはりほかに見当たらないので、さっきのメスを掴み直そうとする。落としたメスがボブの股間付近に転がっていたせいで、しばらくボブの股間を撫で回すことになってしまい、「違うんだ、ボブ……これは……違うんだ」と言い訳がましくつぶやきながら掴もうとしていると、掴もうとする手がボブの左脚に当たってしまった。気付けば、ボブの左脚を素手でもぎ取っている。なッ……!?

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
な、なんたる怪力……!

 理屈はよくわからないが、刃物でどうこうするのではなく、手で持って引っ張るだけでポコンと取れるらしい。「なぁんだ、引っ張るだけでよかったのか!」ってのもマズいと思うが、取れたのは左足なので、もっとマズい。「やべぇよやべぇよ……」と思いつつも、右足も引っ張って、とりあえず目的を達成する。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
アワワ……えらいことになってしまった……。

 切り取った……というか、もぎ取った足を“傾斜台”という指定の場所に放り込むとつぎの段階に進むのだが、放り込んだ足が傾斜台の縁に引っかかってしまって下に落ちなかったため、時間切れでやり直しになってしまった。ちなみに、失敗してもつぎのボブが出てくるので心配は要らない。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
足が傾斜台に縁に引っかかってしまっている図。2回失敗したことによって、なんだか猟奇的なことになっているが、見かたによってはセクシーに見えないこともない。ボブ……きれいな脚をしている。

 つぎの段階は、注射を打って血を止めること。手術中にボブの体のどこかから出血すると、失血率が徐々に上がっていき、一定量でゲームオーバーとなる。先程の時間切れも、出血し始めてから時間が経ちすぎていたらしい。

 ……が、これまた難しく、注射器をどう振り回しても打てない。このチュートリアル、具体的な操作をどうすればいいのかをまったく教えてくれないという、「チュートリアルとは一体……」な感じが強いのだが、手を思いっきり右に振った後、勢いをつけて「ンアアアー!」とブッ刺す感じでやったら成功。ペンとリンゴを「ンンンンー!」と合わせる、あの感じでやるといいと思う。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
注射器の、ちょっとカッコいい持ちかた。とりあえず、どこかに刺さっていればいい。

 血液注射らしき赤い注射器と、止血らしき黄色い注射器は非常に重要だ。どんなに手足をもぎ取っても、とりあえず黄色い注射器をたっぷり打てば、完全に出血は止まる。出血多量によるゲームオーバーが怖ければ、最初に赤い注射器でたっぷりと血を増やしておくと安心だ。ただし、注射器類は1ステージで無限に使えるわけではなく、上限があるようだ。

 無事に出血が止まったら、最後は新しい脚を着けて完了。「新しい脚って何だよ」と思われるかもしれないが、とにかく新しい脚が用意されているので、それを掴んで、切断面にンンンンー! とくっつけるだけでいい。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
新しい脚は、こんな感じに用意されている。ボブ~! 新しい脚よ~!

 そんなこんなでチュートリアルは完了。むしろ不安の色が濃くなったチュートリアルだったが……。

 ステージクリアーによって経験値のようなものが入り、使用キャラクターがレベルアップしていく。レベルアップによって、キャラクターのカスタマイズアイテムなどが開放されていくようだ。まあ、ひとり用モードだと、主観視点だから手しか見えないのだけれども……。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
帽子や手袋、服装などのカスタマイズアイテムが増えていくが、中には変な装備品も。
『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
初期キャラはPenny(ペニー)だが、ほかに3人のキャラも選択できる。どいつもこいつも一癖ありそうだが、ペニーちゃんが地味にマッドサイエンティストでヤバい。

エスカレートする舞台、エクストリームな手術

 ステージが進むごとに、プレイヤーの予想を超えた趣向が凝らされている。

 つぎのボブは心臓が悪いとのことなので、まずは悪い心臓を摘出しなければいけないのだが、肋骨が邪魔をしていて、心臓に到達できない。

 じつはチュートリアルにも似たような手術があり、そのときは肋骨をハンマーで砕いていたので、周囲を探してみる……が、ハンマー的な物が見当たらない。仕方がないので、そこらへんにあったビンを手に取り、「フンアアー!」と振り上げて肋骨に振り下ろす。見事に肋骨が砕けて、肺が見える。砕けた肋骨は邪魔なので、掴んでそのへんに放り投げる。つぎは肺が邪魔で心臓が見えないので、肺を両方ともむしり取って放り投げ、目的の心臓を掴んで抜き取る。その後は、用意されている新しい心臓を置けばクリアーだ。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
硬い物がこれしかなかったんだよォーッ!
『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
ふう……完了した(大惨事)。

 「え、砕いた肋骨は? 肺は? ていうか、縫合は? 新しい心臓って何?」と思うかもしれないが、そのへんは考えなくていい。肋骨は砕いたからどうしようもないし、むしり取った肺は床に転がっているが、問題ない。このステージの目的は悪い心臓を取り除いて、新しい心臓を入れることだから、これでステージクリアーだ。やったぜ。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
ステージコンプリート。いい笑顔だけど……あの患者、生きてますかね?

 そのつぎも、手足を新しいものに取り換えるいつもの手術だが、今度は、交換すべき新しい手や足が見当たらない。周囲を見回すと、ガラス越しの隣の部屋に、手足の在庫がありそうな装置が。しかし隣の部屋の扉は閉じている。つまり、「どうやって隣の部屋へ行くか」を考える必要があるというわけだ。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
これ見よがしなスイッチ、そして上部にはわずかな空間……。
『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
手足や臓器は、こんな感じで在庫数が表示されていて、レバーを下ろすと自動販売機のように出てくる。切り取った(もぎ取った)古い手足や臓器と交換でないと出てこないときもあるので、古い臓器はむやみに放り投げず、わかりやすい所にキープしておいておいたほうがいいだろう。

 さらにつぎのステージでは、ついに手術室に辿り着けなくなっており、まず、どうやって手術室に入るかを考えなければいけない。

 ガラス越しに見てみると、2階に怪しげな通風孔のような物がある。まず2階に向かい、あの通風孔らしきフタを外して、あそこから飛び降りるのではないか……? と考える。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
あそこが怪しい……。

 しかし、なんとか階段を見つけて2階に辿り着いたものの、扉が閉まっており、スピーカーからは「ここを通るには腕が必要ね…」と、PAMの声が聞こえる。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
開くのに腕が必要な扉って何なんだよ!

 腕なら、さっきの場所に在庫があったので、ひとつ握って扉へ戻る。「これでええんやろがい!」と腕を置くと、開く扉。予想通り、通風孔のフタが外れ、ようやく手術室に飛び降りることができた。「手術室に飛び降りる」って文章、生まれて初めて使ったぞ。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
やっと手術室に着いたぜ……!

 また、あるステージでは電力を通すためにヒューズを探して奔走することになったりもする。このステージでは、診断に使うスキャナーすらない状態で、手術に必要な物をいろいろとかき集めなければならない。深刻な人手不足。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
ヒューズを求めてダクトの中をしゃがみ歩行中。クッ、外科医がなぜこんなことを……。

 しかし、こうして手術に入る前から焦らされているうちに、いつの間にか自分は手術がしたくなってきていることに気付かされる。早く手術室に入りたくてたまらないのだ。手術室に入れなくなって初めて分かる、この気持ち。安西先生、手術がしたいです……。

疲れた現代人に、ひとときの休息を。人類には、こういうゲームで遊ぶ時間が必要だ

 なぜか左手しか使わない執刀医と、マウスのみで行えるシンプル操作、それゆえに発生する不自由な操作感覚。ふつうならただの批判点になるこれらを、逆にゲーム性として組み込み、その挙動を楽しむゲームに昇華させている。プレイヤーは不自由でやりづらいからこそ生まれる攻略性に翻弄され、そのあまりにも奇妙な挙動は、見る者をも楽しませる。本稿執筆時は発売前の状態でのプレイだったこともあり、オンラインマルチプレイに関しては触れていないが、実況動画の盛況が著しい昨今、なんとも実況動画映えするだろうなぁと感じるゲームだ。最近ではRTA(リアル・タイム・アタック)動画も流行っているが、この、まともにクリアーするだけでも操作が困難なゲームが、RTAでは一体どうなってしまうのかも興味深い。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
ステージごとに規定タイムが設定されているので、元々タイムアタック要素はある。筆者は規定タイム内どころか、ステージクリアーするのがやっとだったが……。

 また、前作は日本語に対応していなかったのだが、今作は日本語字幕に対応しており、取っつきやすさが飛躍的に向上。さらに、自分でステージをデザインできる“作成モード”も用意されているので、長く楽しめるだろう。

『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
『サージョンシミュレーター2』レビュー。目的のためなら手段は問わない、“手術”という概念を打ち壊す奇ゲー
“作成モード”では、部屋の形から小道具の設置等、キャンペーンモードと変わりないステージを作ることができる。作ったステージはオンラインにアップロードすることが可能で、ほかの人が作ったステージをダウンロードして楽しむこともできる。

 手術シミュレーションだと思って始めると、良くも悪くも予想外の展開の連続になると思うが、その無茶っぷりを楽しむゲームでもある。実際、筆者がつぎのステージに進むモチベーションは、「どういうやり口で、こちらの予想の斜め上を攻めてくるか」だった。実際の手術は長時間に及ぶものだが、このゲームの場合は10~20分前後でひとつの手術が終えられるので、気軽に楽しめるのもいい。頭をカラッポにして遊ぶべきゲームであり、最近、脳が疲れている気がする人にオススメだ。あと、できれば本名がボブではない人にオススメだ。

※[2021年9月3日2時20分]配信状況にあわせてプラットフォームなどの情報を更新させていただきました。