ファミ通.comの編集者&ライターが2021年夏のおすすめゲームを語る連載企画。第11回で取り扱う作品は『熱血硬派くにおくん外伝 River City Girls』(リバーシティガールズ)です。女の子だからって、なめんなよ。
【こういう人におすすめ】
- かわいくてビビッドなビジュアルが好き
- ベルトスクロールアクションが好き
- ノスタルジーに浸って感情をぐちゃぐちゃにしたい
ミス・ユースケのおすすめゲーム
『熱血硬派くにおくん外伝 River City Girls』
- プラットフォーム:PS4、Switch、Xbox One、PC(Steam)
- 発売日:2019年9月5日
- 発売元:アークシステムワークス
- 価格:3190円[税込]
- パッケージ版:なし
- ダウンロード版:あり
「熱血硬派くにおくん外伝 River City Girls」オフィシャルトレーラー
ひとめ惚れだった。
これはかわいい。かわいいぞ。チャーミングな女の子。おてんばでビビッドなビジュアル。イラストが持つポップさを巧みに再現したドット絵。すべてに心をつかまれた。
何より、主人公の女の子ふたり組がおしゃれなのである。スカジャンというハードなアイテムをミニスカートに合わせる。ハイウエストのショートパンツをシャツインで着こなす。
そんなおしゃれ上級者のテクニックをゲームに持ち込みます? とくに後者。混乱のあまり、気づいたらSteamで購入していた。もはや自動的に。
以上が『熱血硬派くにおくん外伝 River City Girls』(以下、River City Girls)との出会いである。往年のアクションゲーム『熱血硬派くにおくん』の外伝であることは後から知った(Steamのストアページでは、ゲームタイトル欄に『River City Girls』としか書かれていない)。
さらに言うと、くにおくんを愛するアメリカのデベロッパー・WayForward社が、版権を持つアークシステムワークスに企画を持ち込んで誕生したゲームらしい。ファンの熱意で新作が作られることってほんとにあるんだ。
かわいさに目がくらんで買ったものの、しばらくは積みゲーの一部だった。崩そうと思ったのは2021年7月に入ってから。夏休みシーズンということで、ノスタルジーに浸れるゲームを体が求めていた。日が落ちてきてオレンジ色に染まる空を思い出すような、そんなゲームを。
そこで頭に浮かんだのが、この『River City Girls』である。
昔から『くにおくん』シリーズが好きだった。中でもアクションRPG『ダウンタウン熱血物語』が思い出深い。ひたすら戦闘するのが楽しくて、何度クリアーしたかわからない。
『River City Girls』は当時のテイストを色濃く残したベルトスクロールアクション。敵を倒してレベルを上げ、お金を稼ぎ、キャラを育成するRPG要素も備えている。
しかもそれを作ったのが熱心なファンと来た。無心になって遊べるに違いない。
果たして、それは違いなかった。画面の中にはアメリカナイズされた『くにおくん』があったし、感情がぐちゃぐちゃになった。
ひりひりする戦いに、バイブスがぶち上がる
従来の『くにおくん』シリーズは正義の不良・くにおとそのライバル・りきが主人公(プレイヤーキャラクター)だが、そのふたりが誘拐されるところから本作は幕を開ける。
犯人をぼこぼこにして彼らを助け出すと誓ったのが、ガールフレンドのきょうことみさこ。冒頭でファッションを絶賛したふたりだ。ほんとにかわいいのでみんなコスプレしたらいい。
最初のシーンは教室。席についていたクラスメイトが襲い掛かってくる。そうそう、これこれ! 『くにおくん』シリーズではすぐにけんかを売られるのだ。治安が悪い。
しかも、誰も彼もがけんか慣れしているのがおもしろい。敵対しているわけでもないのに、背後に回り込んで挟み撃ちを狙ってくる。
とくに理由もなくつぎつぎと絡まれる様子から、『初代熱血硬派くにおくん』(※)を思い出した。懐かしい。
※初代熱血硬派くにおくん:1992年8月7日に発売されたスーパーファミコン用ソフト。舞台は修学旅行の大阪。街中で通行人が突然けんかを売ってくる。
弱攻撃と強攻撃を組み合わせてコンボを決め、気絶した敵をつかんでボディを狙い、にじり寄ってくる別の敵に投げつけて一気に大ダメージ。敵を殴るリズミカルな音に、バイブスがぶち上がる。
爽快感と同時に、懐かしい感覚が襲ってきた。敵が強いのである。こちらの後ろに回り込み、殴り倒しても起き上がり、強力な特殊攻撃をくり出す。序盤からひりひりする。
そうそう、これこれ!(本日2回目) 『くにおくん』は容赦がないゲームである(個人の感想です)。難度の低いタイトルもあるが、基本的には気を抜いたらやられる。
教室を出ると、ふたりの女の子がいた。はせべとまみだ。
『くにおくん』は、シリアスな“熱血硬派”シリーズとコミカルな“ダウンタウン”シリーズに大別される。『River City Girls』の主人公きょうことみさこは熱血硬派シリーズの、はせべとまみはダウンタウンシリーズのヒロインだ。
彼女たちとのやり取りで、本作のノリが見えてきた。アメリカのカートゥーンアニメ的なのだ。脳裏にはアニメ『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』が思い浮かんだ。
毒っ気のあるセリフ。回りくどい表現と独特のユーモア&皮肉。そして極端なストーリー展開。『くにおくん』にアメリカ成分が注入されるとこうなるのか。興味深い。
従来のシリーズファンは面食らうかもしれない。本作は『くにおくん』のスピンオフタイトルだが、僕は公式の二次創作だと考えている。海外のファンが自分の感性を活かして作ったとすると、めちゃくちゃおもしろい。
そもそも公式で急に時代劇(『ダウンタウンスペシャル くにおくんの時代劇だよ全員集合!』)になったりしてるし、アメリカンテイストになるくらいどうってことないと思う。
郷愁に駆られて感情がぐちゃぐちゃに
屋内プールのマップに入ると、不意打ちのようにおしゃれな曲がかかった。ボーカル入りで、どこか気怠い雰囲気がある。敵は5人の不良。
どうしてここでボーカル曲が流れるのか不思議だったが、背景グラフィックに描かれたラジカセを見てピンと来た。きっと不良たちは授業をさぼって音楽を聞いていたのだ。
とくに何をするわけではなく、好きな曲を流しながらダベるだけの退屈な時間。漠然とした不安と希望がない交ぜになり、でもどうしようもないから気にしないふりをしてやり過ごす。そんな高校時代の郷愁が、モラトリアム特有の情景がフラッシュバックした。あの時間はもう戻ってこない。
おいおいおいおい何だその演出。エモすぎないか。
ここで確信が強まった。間違いなくいいゲームだ。そもそも僕は戦闘でボーカル曲がかかる演出に弱い。完全に心を持っていかれた。
『くにおくん』の思い出に浸りながらプレイしていたら、思いがけないエモさで『River City Girls』の世界に引きずり込まれた。しばらくすると、また『くにおくん』の記憶に割り込まれることになる。
ひとり目のボスがみすずなのだ。
くはー。そう来ますか。ここでみすずか。くにおくん愛が開発のきっかけだけあって完全にわかってる。
みすずはシリーズ1作目『熱血硬派くにおくん』に登場する巨大なスケ番。3面のボスとしてプレイヤーの前に立ちはだかる、最強の女性キャラクター。
そんなみすずが、最初の壁として、当時のインパクトそのままに登場するのである。時代の流れで恵体美女として生まれ変わってもおかしくないのに、みすずの魅力を活かす姿勢に敬意を表したい。
みすず以外にもシリーズの印象的なキャラクターは登場。ファンがくすりとするような小ネタも随所に見受けられる。
ファンサービスのようなものなので知らなくても違和感なく遊べるが、僕は全体的にうれしかった。
自由で破天荒な姿に憧れた
こうして、僕は序盤からきょうことみさこに魅了された。
本作は熱血硬派シリーズやダウンタウンシリーズの正統な後継ではなく、あくまで『River City Girls』という新シリーズの1作目だと思う。これまでの記号的な要素はそれほど踏襲されていない。
たとえば、シリーズの代表的な技である“まっはきっく”と“まっはぱんち”は完全に別物だし、“にとろあたっく”や“じぶんぎょらい”といった派手な技もない。そういう部分にくにおくんらしさを見出している人からすると物足りないかもしれないが、最初から別物として捉えていれば気になるほどでもない。
最初に『くにおくん』シリーズが流行ったのは1990年頃。不良をかっこいいものと捉えるブームの残り香があった時代だ。僕はアウトローを神聖視するのが苦手なので乗り切れなかったが、不良像をデフォルメした『くにおくん』は好きだった。
“悪さ”ではなく、“破天荒さ”に憧れたのかもしれない。落ちている武器を拾って攻撃する、それどころか倒れている敵を持って武器代わりにする、お店で一見ふつうの食べ物や雑貨(に見えて育成アイテム)を買う。
いま思うと、これはサンドボックスゲームの走りなのではないか。当時はそんな言葉は知らなかったので、ただただ自由なゲームだと認識していた。だから何度も遊んでも飽きなかったのだと思う。
クリアー後は心地いい脱力感に覆われ、いったんコーヒーを飲んだ後、一息ついて再スタートした。2週目からはくにおとりきを使用可能だ。
そういえば、1週目ははせべとまみとの会話が食い違っているように感じた。くにおたちでプレイすれば、違和感の正体に気付けるかもしれない。
ノスタルジーに浸る時間は、まだまだ終わらない。