発売まで2ヵ月を切った、バンダイナムコエンターテインメントの『テイルズ オブ』シリーズ最新作『テイルズ オブ アライズ』(2021年9月9日発売予定。プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)向けに展開)。本作では、ダナとレナという、異なる文化を持つふたつの星を舞台に、主人公アルフェンたちの冒険が描かれる。
近年の『テイルズ オブ』シリーズでは、複数のイラストレーターがキャラクターデザインを手掛けていたが、本作では、バンダイナムコスタジオの岩本稔氏がメインキャラクターすべてをデザイン。また、岩本氏はアートディレクターも務め、画面全体の絵作りを担っている。
新たな時代の『テイルズ オブ』作品として、どのようなアートとキャラクター作りを目指したのか。岩本氏にお話をうかがった。
岩本稔氏(いわもと みのる)
『テイルズ オブ アライズ』アートディレクター&メインキャラクターデザイナー。これまでにも、数々の『テイルズ オブ』作品でキャラクターデザインやアートワークを担当。
美しくも狂暴な世界と、そこに生きるキャラクターたちを描くために
――本作のアートディレクターとキャラクターデザインを担当することが決まったときのお気持ちを教えてください。
岩本アートに関しては、つねにどんなものがよいかを考察しているので、そこは準備万端で、「よしやるぞ!」という気持ちでした。その後キャラクターデザインのお話をいただいたときは、驚きと不安がいちばんに来ましたが、お声がけいただいたことがうれしく、お客様の期待に応えねばという使命感で燃えていました。
――新時代の『テイルズ オブ』作品として、本作のアートの方向性を決める際、重視したことは?
岩本アートは『テイルズ オブ』のいままでのお客様にも喜んでもらい、さらに、いまの時代を生きる多くの方に『テイルズ オブ』へ興味を持ってもらうにはどうすればよいのかを考えました。これまで『テイルズ オブ』では、見ている方に伝わりやすくなるよう“情報量を抜く”マイナスの文化を重視しながら表現をしていましたが、今作ではより幅広いお客様に本格感や凄みを画面から感じてもらうため、質感や光と影などの“情報量を足す”アートにもチャレンジしています。
――では、キャラクターの方向性はどのように決めたのですか?
岩本キャラクターの方向性は、リアルなものから記号的なものまで試行錯誤がありました。紆余曲折ありましたが、最終的には、『テイルズ オブ』らしく親しみやすく愛せるようにするために、いわゆるイラストアニメ寄りにしています。一方、背景なども含めた画面全体では、質感を向上させ、豊かな色、光と影を丁寧に表現して実存感を出しています。その世界の空気感でキャラクターを包み込むような絵作りをすることで、美しくも狂暴な世界に生きているキャラクターの臨場感を感じてもらえるようにしています。
――『テイルズ オブ ゼスティリア』や『テイルズ オブ ベルセリア』と比べると、キャラクターの色の塗りかたが異なりますが、これまでにないタッチで描くのはたいへんでしたか?
岩本今作ではゲーム内での表現が向上していますので、宣伝用イラストでもそちらが感じられるよう、豊かな色や、質感などが感じられるように少し意識して描いています。実存感とキャラクターらしさのバランスをイラスト単体で表現するのは少し難しかったですね。
――本作には、ダナとレナというふたつの星が登場しますが、それぞれの星の特徴を、アート面ではどのように表現しているのでしょうか。
岩本ダナの地は300年前とは変わってしまっていて、カラグリアは“力による支配”がキーワードの荒廃した土地となっています。『テイルズ オブ』では、火山地帯のような過酷なシチュエーションは物語の後半によく登場するのですが、今作では最初からクライマックスなロケーションをもってくることで、お客様にチャレンジを感じてもらえればと思い、このようなアートにしています。
――カラグリア以外の地については、いかがでしょうか?
岩本シスロディアは、ストーリーに関係してしまいますので、キーワードについて詳細を語れませんが、“口をつむぐ寒冷さ”、山々に囲まれ牢の中にいるような閉塞感をデザインに反映しています。メナンシアは、地下資源が豊富で、自然あふれる牧歌的な土地。レナ人とダナ人が共存し、平和な印象をうけるのですが、きれいな世界の裏には不穏な影があります。その隠されたニュアンスについては、実際にプレイしてみてから改めて風景を見回していただければ気づくことがあるかもしれません。
――本作のグラフィックは、本作のために開発された“アトモスシェーダー”で描画されていますが、その強みは何でしょうか?
岩本『テイルズ オブ』シリーズでは、温かみのある手描き感のあるルックが特徴です。ただ、高い品質で手描きのテクスチャを制作できる方は限られていて、人員的な面でも、制作コスト的な面でも、これまでと同じ方法だけで開発を続けていては、これまでも愛されてきた『テイルズ オブ』らしい広大な世界を表現することができなくなってしまいます。そこで、ハードウェア性能や描画技術の向上もふまえ、今作ではその手描きのノウハウや職人技の一部をシェーダーで再現することに挑戦し、これまでと同じく、広くて豊かな世界をいまの時代でもお客様に冒険してもらえるように工夫しています。また手描き風に情報量がディフォルメされるシェーダーに加えて、空気感や質感、豊かな色の変化、光と影の表現にもこだわって、キャラクターやモンスター、魅力的な冒険の舞台をつくっています。
ともに旅する6人のキャラクター、それぞれの特徴
――メインキャラクターが6人であることが判明しましたが、それぞれのデザインについて、こだわりなどをお聞かせください。
岩本各キャラクターの物語的な立場、性格、戦闘性能などを考慮し、まずはそれらが伝わりやすいようにデザインをしています。また、見る人にちょっとしたひっかかりを持ってもらえるように、設定から連想を広げて、裏モチーフ的なアクセントも入れるようにしています。お客様自身が実際にゲームをプレイしてみて、各キャラクターのエピソードや身に着けている意匠などからモチーフを想像したり、想いを馳せたりしていただけるとうれしいです。
●アルフェン
記憶も痛覚もないからっぽの状態から、頼れるリーダーになる変化が描けるよう、物語中に衣装が変化します。当初はボロ服にのっぺらぼうのような鉄仮面からスタートし、勇ましくも少し攻撃的で危うさのある鎧姿へ。前線で戦う者として実存感を出すため、また痛覚のないアルフェンが大怪我することを心配した仲間が頑丈な鎧を着せるだろうと連想して、がっちりした鎧のデザインにしたのですが、そこに『テイルズ オブ』的な特徴をもたせることが難しく、いちばんの難産でした。炎の剣と鎧の焦げる表現ができたことで、なんとか……アルフェンらしさが表現できたかなと。
●シオン
異文化のレナ人を表現する最初のキャラクターだったため、楽しく試行錯誤しました。初期のアルフェンと対になるよう、ボロボロの見た目のアルフェンに対して、気品と美しさを感じられるよう意識しています。また、異文化を感じられるよう、フレームの鎧や独特の美意識を表現できるようこだわっています。
●リンウェル
魔法(星霊術)が使える一族ですが、それを隠し忍んでいることから、大切な研究成果を衣服に縫い込んでいるデザインにしました。前垂れの文字はロゼッタ・ストーンのように複数の言語で書かれています。魔法使いと隠れ潜んでいるイメージから、大きめのフード。かぶると魔法帽子のようになります。
●ロウ
社会への反抗心、少しひねくれているところから、日本の不良を連想しました。格闘の戦闘スタイルに合わせた衣装に、派手な裏地、太いズボン、シルバーのチェーンやベルトが凝っている要素を入れています。
●キサラ
ダナ人でありながら、兵士として、レナ人の装備を身にまとっています。そのため革のベルトなどで実存的な印象を持たせた鎧をつけています。戦闘における“タンク役”として印象づけるため、最初はごつい鎧で着ぶくれていましたが、キャラクターとしての魅力を開発チームで話し合って、いまのような“美しさ”と“頼もしい堅固さ”が両立するようなラインに調整しました。盾キャラらしく前面は装甲が厚めですが、裏面は防御力が薄いデザインになっています。
●テュオハリム
レナ人、貴族。気品と落ち着きがあり、高貴な風格が出るように。その地域になじもうとしていることから伝統的な衣装を着ているだろうと思い、このような衣装にしています。
――サブキャラクターは複数のスタッフが手掛けているとのことですが、そのデザインや監修は、どのように行っているのでしょうか?
岩本メインキャラクターと同様、シナリオやゲーム的な役割から、伝わりやすい大ラフを作成し、方向性の確認を行います。その後、スタッフの適性を考慮して、想定以上の発想を入れてくれそうな方にお願いしています。その方の愛情やこだわり、見た瞬間の意外性や驚きは大切に活かして、世界観になじむように監修しています。
――キャラクターの3Dモデルや動きに関して、とくに注目してもらいたいところは?
岩本いままでより高精細な表現ができるようになりましたので、細部までこだわってデザインしています。シオンの腕のレースなどは見応えがありますよ。またさりげなくですが、イラストらしい豊かな色変化や光と影にこだわっています。動きについては、感情豊かな表情やしぐさにこだわっています。ちょっとした待機モーションや、躍動的なバトルの最中の動きなど、あらゆる場面でそのキャラクターらしさを追求していますので、ぜひ好きなキャラクターを操作して遊んでみてください。
――発売を楽しみにしている読者の皆さんに、ひと言お願いします。
岩本『テイルズ オブ』らしさを大切にしつつ、試行錯誤とチャレンジをした『テイルズ オブ アライズ」。ぜひお手に取って遊んでいただき、少しでも喜んでいただけたなら幸いです。