2021年6月11日についに発売を迎えた、『GUILTY GEAR -STRIVE-(ギルティギア ストライヴ)』(対応プラットフォーム:PS5、PS4、PC)。過去シリーズ作とはまったく異なる進化を遂げた本作には、いったいどんな想いが込められているのか。本作の開発を手掛けるふたりのキーマンへのインタビューでその秘密に迫る。
ゲーム性を一新した理由に始まり、開発するうえで切り捨てたもの、残したものなど、ここでしか見られないエピソードが満載なので注目してほしい。
石渡太輔(いしわたりだいすけ)
シリーズの生みの親。『ギルティギア』ではゲームデザインからシナリオ、イラスト、音楽まで幅広く携わっている開発のキーマン。
片野アキラ(かたのあきら)
石渡氏とタッグを組んで、ゲームの中身を統括するディレクター。ディレクターとしては『イグザード』シリーズから継続して担当する。
既存の『ギルティギア』を捨てることから始めた
――いよいよ発売を迎えた本作ですが、まずはいまの率直なお気持ちからお聞かせいただけますでしょうか。
石渡このインタビューを受けている段階ではまだ開発が終わっていないのですが、間に合うのかなという気持ちです(笑)。
片野振り返ってみても本当にたいへんでした。こんなことあるのかっていうくらい。
石渡開発の規模やスケジュールを振り返ると、自分やアークシステムワークスの歴史の中でも、いちばんきびしいプロジェクトだったんじゃないかと思います。
片野いままではアーケード版をリリースしてから、家庭用版を発売するという形がおなじみでした。ゲーム部分を先に作り、ストーリーモードは後で作るような流れだったのですが、今回はそれを同時進行していたため、かなりたいへんでした。
――いままでにない開発体制だったんですね。すべてが一新された本作ですが、なぜここまで大きく変えようと思われたのですか?
石渡『ギルティギア』はありがたいことに、20年以上も続いてきたシリーズとなっています。長く続いてきた分、いままでの延長線上のゲームを作っていても、新しい層のプレイヤーが入りづらいという問題が発生してしまうため、それを変えたかったんです。また、グローバルな市場開拓を意識し始めたのも、理由のひとつになっています。
――新しい層の開拓というのが、ひとつ大きな理由になっているんですね。
石渡開発費は増えていくものの、ユーザーは減っていくのが現状でしたから、『ギルティギア』というブランドをより多くの人に認知してもらい、プレイしていただけるものにしようというのが大きいですね。
片野また、プレイヤーを増やすという目的以外にも、どこかでガラリと変えたかったというのも、理由になっています。
――イノは本作での衣装デザインが若干大人しめになりましたが、これもグローバルを意識されてのことなのでしょうか。
石渡そうです。イノは衣装の過激さもフックになっている部分でしたので、度胸のいる判断ではありました。自分たちとしてはそれを“規制”とは捉えたくはないんです。より多くのユーザーさんに遊んでいただくための表現変更だと考えています。
――以前のインタビューで、「『ギルティギア』の魅力も全部一旦捨てて再構築する」とおっしゃっていましたが、おふたりが考えるシリーズの魅力とはどんなところでしょうか。
片野自分は、同じキャラクターでも使う人によって異なる戦いかたや戦術になるのが、“らしさ”かなと考えています。
石渡プレイしていて気持ちがいいというアクションゲームの大前提は、当然残しています。また、我々がよく言っている“悪さができる”ゲーム性であることもシリーズの魅力だと思っていて、そこも捨てずに残した部分になっています。
――その“悪さ”とは?
石渡開発の仕様の穴を突くようなテクニックなどがたまに出てきたりしますが、そういったものですね。プレイヤーの皆さんがプレイした経験から新しい可能性を模索して、テクニックにしていく。時間をかけるほど新しい遊びの発見があるというのは、残すべき『ギルティギア』らしい要素だと思っています。
――おふたりとも“自由度の高さ”が魅力だと考えているんですね。
片野本作は、前作までと比べるとシンプルな操作感となりましたが、そういった部分も内包されていると思います。今回もいろいろな仕掛けを隠していますので、いつそれらに気が付いてくれるかなと。早い段階で気付かれてしまうと、「まだまだ浅かったな」と思ってしまうかもしれませんが(笑)。
――では反対に、切り捨てた部分には、どういったものがあるのでしょうか?
石渡まず“コンボの数”ですね。これまでのシリーズ作は、キャラクターによっては10コンボ、20コンボ先まで覚えていかないとダメージが取れないようなゲーム性でしたが、そういった要素は単純に切り捨てました。本作では前作までと比べ、操作の難度やダメージの量などは変わっていませんが、短く終わるコンボなどが活躍するようなゲーム性にしています。
片野また、これは賛否両論あるのは理解していますが、前作までにあった多くのシリーズ共通テクニックも切り捨てました。
――それはなぜでしょうか?
片野『ギルティギア』は前作までの要素にプラスする形でシステムを改良・構築してきました。ですので、新作が出たとしても前作までに培ったテクニックがそのまま使えていたんです。そのため、新作を出したとしても、シリーズの未経験者と経験者でスタート地点がぜんぜん違うものでした。本作では、どの層の人も同じスタートラインに立てるように、前作までに活躍したシステムやテクニックも、かなり取捨選択しています。できることの自由度はしっかりと用意していますが、それらを最初から知っていないと戦えないというゲームにはなっていないと思います。何も知らない人でも、すぐに対戦が楽しめるようになっているかと。
変わったキャラクターの変わらない魅力とは
――キャラクターも姿や性能を含め、デザインを一新されていますが、人選はどのように決めたのでしょうか。
石渡男性と女性の配分やキャラクターの性能など、いろいろな基準から判断しました。
片野発売日に出せるキャラクター数がまず決まっていて、今回は15人だったので、じゃあこのバランスで選出しようという流れですね。これが20人だった場合は、また違っていたと思います。
石渡勇気のいる決断だったのは、ヴェノム(ビリヤードをモチーフとしたアクションで戦うキャラクター)をリリース時に出さなかったことですね。自分の中では、ヴェノムは『ギルティギア』の代名詞のような印象があるのですが、これを入れるか入れないかという判断はけっこう大きかったです。
――ゲーム性はガラリと変わっていますが、キャラクター独特の特徴や魅力は、そのままといった印象を受けました。
片野キャラクターは本来のコンセプトになるように見直しています。ラムレザルなど、まったく別モノになっているキャラクターもいることはいるのですが。
――と、言いますと?
片野もともとあるコンセプトから、歴史を重ねるうえで乖離してしまったキャラクターがけっこういるんです。たとえばファウストは、“奇妙奇天烈でトリッキーな動きをするキャラクター”というイメージがあると思いますが、過去シリーズのファウストはむしろスタンダードキャラクターと呼んでいい性能のキャラクターでした。ゲーム性も一新しますし、いいタイミングなので、キャラクターをもとのコンセプトに戻すように試行錯誤して、キャラクターの性能を決定付けています。
――ちなみに、開発の皆さんで、誰を選出するのかで言い合いになるものでしょうか。
石渡マーケティング的な観点からも意見は出てきますが、概ね、我々の判断に任せてもらえるところがあるので、そんなに言い合いにはなりませんでしたね。
――本作はすでにシーズンパスが発売され、新キャラクターの加入が決まっていますが。
石渡まだまだこれからの情報ということでご勘弁を。新規キャラクターと既存キャラクターも、いい配分で出していきます。
――以前の人気投票で各国の1位だったブリジットや梅喧は参戦するのでしょうか?
石渡……うーん(笑)。
――(笑)。では話題を変えまして、本作はオープンβテストを2回開催されましたが、そのときに、気が付かれなかったネタなどはあるのでしょうか。
片野先程の“悪さ”に通ずるものがありますが、じつはたくさんあります。ですが、こういうのは開発側から言うものではないと思うので、見つけてください。開発としては、見つけてほしい気持ちと見つかってほしくない気持ちがせめぎ合っています(笑)。
――(笑)。本作のここに注目してほしいというポイントはありますか?
石渡対戦格闘ゲームをプレイしたことがある人もない人も、新鮮な体験ができるはずなので、何にしても、まずは1回プレイしていただきたいです。ネットワーク対戦では、“ロールバックネットコード”という技術を本作から採用しました。これにより遠く離れた方とも快適な対戦が楽しめるようになっています。いろいろなプレイヤーが国境を越えて交流できるようになったのは、アークシステムワークスとしてもすごく大きな成果だと確信しています。これを皮切りにして、ゲームを通じた交流というのを広げていきたいです。
――片野さんはいかがでしょうか。
片野自分はネットワーク対戦のレーティング機能ですね。かなり新しい試みをしていて、うまい人はうまい人と、ビギナーはビギナーとマッチングする仕組みになっています。
――ネットワークモードのロビーも前作から一新されていて、驚きました。
石渡すべてを作り変えるという課題があったので、ロビーもイチから作り直しました。
――特定の動作をすると、ドロップキックやスライディングができることを知って、クスリとしました(笑)。
片野ゲームのおもしろさには直結しないのですが、どれだけ忙しくても遊び心を無視してはいけないなと(笑)。
――今後も、どんなネタが隠れているか楽しみです。最後に、読者に向けてメッセージをお願いできますでしょうか。
石渡長い歴史の中で『ギルティギア』を作り続けさせていただきましたが、本作はまったく新しい手触りで、多くの人が同じスタートラインに立って遊べるゲームになっています。格闘ゲームとしてはもちろん、IPコンテンツとしても非常に力を入れて作りましたので、少しでも興味を持っていただけるとうれしいです。
片野オープンβテストでも、非常に多くの新規層の方に遊んでいただくことができました。『ギルティギア』という名前を聞いたことがない、この記事を読んでくださっている方に、「始めるならいまです!」と言いたいです。よろしくお願いいたします。
石渡あと、手前味噌で恐縮なのですが、今回のサウンドトラックは、メタルの歴史に残る出来になっていると思います。ぜひ、デジタルサントラ付きの“アルティメットエディション”もよろしくお願いします!