FGO PROJECTが配信中の人気スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)。その中でもプレイヤーからの人気が高いエピソードとなる第1部 第六章“神聖円卓領域キャメロット”を抽出し、再構成した劇場用アニメ『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編 Paladin; Agateram』(以下、『FGOキャメロット後編』)が、2021年5月15日(土)より全国の劇場で公開中だ。
5回にわたってお届けする主要キャストインタビュー第3回となる今回は、特異点となった“エルサレム”に存在する勢力のひとつである“エジプト領”に属するサーヴァント、ニトクリス(キャスター)役の田中美海さんに、本作の魅力や収録時のエピソードを語っていただいた。
※インタビューは3月下旬に収録。
田中美海さん(たなか みなみ)
1月22日生まれ。神奈川県出身。2012年から2019年3月まで“Wake Up, Girls!”のメンバーとしても活動。『FGO』ではニトクリス役、ワルキューレ(オルトリンデ)役を担当している。(文中は田中)
ニトクリスのイメージは近所の優しいお姉さん。そしてドヤ顔!
――田中さんがニトクリスを演じることになった経緯や感想、意識していることなどを教えてください。
田中いちファンとして『FGO』を楽しんでいたのですが、あるときマネージャーさん伝手に台本をいただいたんです。厚めの封筒に紙がたくさん入っていて、最初に“クラス:キャスター、真名:ニトクリス”って書いてあって。「ちょっと待ってちょっと待って……!」みたいな感じで動揺してしまいました(笑)。
台本には『FGO』とは記載されていなくて、マテリアル(※)などに載っているような資料がたくさんと、最後のほうにちょっとだけ“攻撃のセリフ”とか“絆ボイス”などが書いてありました。それを見て、これが『FGO』のお仕事であるという実感が増していきましたね。当時、新人で『Fate』が好きな人に演じてほしいっていう方針があったみたいで、私がラジオ番組で『FGO』をオススメしていたことを聞いたスタッフの方がそれを知って、推薦していただいたと聞きました。
※マテリアル……設定資料本『Fate/Grand Order material』のこと。
――オーディションではなく、オファーがきた形なんですね。
田中そうなんです。普通プレイしていて「楽しいな~」と発信していただけだったので、とてもありがたいお話でした。役をいただいてからはラジオのパーソナリティに選ばれたりもして、すごく素敵な縁を感じました。
――膨大な資料を見て、ニトクリスというキャラクターに対してどのように感じましたか?
田中ニトクリスという存在を知らなかったので、いろいろ調べるところから始めました。でもニトクリスって、実在していたかどうかもわからない人物で、詳しい資料がほとんどないんです。
ファラオとしての立場ではあるものの自信がなかったり、自分の後に続いたファラオたちがものすごい人たちばかりで追い目を感じていたりという設定もあって、難しい役だと感じました。真面目にビシッとした声色にするのか、ちょっと弱気に見せるのかとか、家で悶々と悩んでいましたね。
結局、収録現場で調整してもらうことにして、いつもドヤ顔をしているけど、絆が深まっていくと違う一面を見せるというギャップがあったり、少しあわてんぼうなところがあったり、ファラオっぽくないけど、そこが可愛かったりという、いまのニトクリスができあがりました。収録現場には奈須きのこ先生もいらっしゃって、ニトクリスに関してもいろいろとディレクションしていただきました。
――奈須さんからは、どのようなディレクションがあったのですか?
田中「もっとドヤ顔で」とよく言われました(笑)。セリフとかにも(ドヤ)みたいな感じでいっぱい書いてあって。「不敬ですよ(ドヤ)」みたいな。
あとは「私が来たのだから控えなさい」とは言うものの、「ちょっと……そんなにこうべは垂れなくていいのですよ……?」みたいなのもあって、真面目であろうとがんばっている子、というイメージが共有できて助かりました。
――そんなニトクリスが初登場となった“神聖円卓領域キャメロット”が劇場アニメになると聞いたときのお気持ちをお聞かせください。
田中アニメ化、それも大きなスクリーンでの映像化ということで、とてもうれしかったことを覚えています。
劇場版より前にあった舞台版(※)を観ていたのですが、そちらではニトクリスは登場しませんでした。それもあって、「もしかして劇場アニメでもニトクリスは出ないのかも……」と不安になったりもして……。なので、意図的に喜び過ぎないようにしていましたね。台本をもらった段階で、ようやく出演できる実感がわきました(笑)。
※舞台版……2017年公演の『Fate/Grand Order THE STAGE-神聖円卓領域キャメロット-』。
――『FGO』本編では声をあてるのは戦闘ボイスが主だと思います。一方で、劇場版ではさまざまなセリフを収録することになったと思いますが、どのような意識で収録しましたか?
田中ファラオというと、オジマンディアスのように近寄りがたい存在を連想すると思うのですが、ニトクリスは近所のお姉さんのような親近感を意識していました。
例えば「愚かな……具体的にどこがと言われると困りますが……愚かな……」みたいなセリフのように、頑張っているんだけど、ちょっと抜けているみたいな。でも本人は意識してそうしているわけではないので、がんばっている空気を残すように演じました。
――ほかの演者の方とかけ合いで収録することによって、キャラクターの印象がゲームと変わって見えたりはしましたか?
田中ニトクリスって、迷っている藤丸(※)たちの前に現れて、一見敵かと思いきや、じつは案内をしてくれる良いお姉さんだった……みたいな感じじゃないですか。『劇場版FGOキャメロット前編』のオリジナルシーンでマシュとの会話シーンがありましたが、実際にかけ合いをすることによって、ニトクリス本来の優しさや面倒見のよさが感じ取れたりしましたね。
戦いに対して迷っているマシュとニトクリスって、心情的にもかぶる部分もあると思うんですよ。その2人がかけ合いをしたことで、とてもいいシーンになっていて。アフレコの際も演じていて達成感は感じたのですが、実際に映像になったものを見ると、綺麗な絵とBGMが合わさったことによって、さらに深みが出ていました。マシュが後編にむけてどうするのかという迷いを、ちょっと救い上げるニトクリス、というような描写で、すごく印象的なシーンになっていてうれしいです。
じつは李依さん(マシュ・キリエライト役の高橋李依さん)とかけ合いをしたとき、うれしかったんですよ。事務所の先輩でもあり、いつもラジオでオタクトークを繰り広げている李依さんと、「『FGO』のアニメーションで初めてかけ合いをしてる!」って(笑)。
※藤丸……『FGO』のアニメ化に際して付けられた主人公の名前。フルネームは藤丸立香(ふじまる りつか)。
――後編の収録時は新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、収録態勢も少し変わったのでしょうか?
田中そうですね。私はオジマンディアス役の子安武人さんと、玄奘三蔵役の小松未可子さんとの3人で収録することになりました。人数が減ったので少し寂しいなという気持ちもありましたが、そもそもゲームって基本的に1人で収録するので、それに比べればかけ合いができるだけでもうれしいです。ヘッドフォンで他の演者さんの音声を聞きながらだと、やはりちょっと味気ないですから。それに子安さんのオジマンディアスがあってこそのニトクリスだと思うので、いっしょに収録できたことが嬉しかったです。
――田中さんから見て、オジマンディアスとはどんなキャラクターに見えますか?
田中一見するととても怖い人物ですよね。心が読めないというか、次にどんな行動にでるのかわからない人。だけど意外と愉快な王様という(笑)。
ニトクリス目線では、本当に偉大な王すぎて、隣にいさせていただいている、という感じだと思います。でもオジマンディアス目線では、ニトクリスもちゃんとファラオと認めているという……一方通行ではないですが、ちょっとすれ違っているところがニトクリスらしいなとも思います。
――『FGOキャメロット前編』の振り返り動画をオジマンディアスとニトクリスのかけ合いで収録されていましたが、いかがでしたか?
田中しっかり3分の尺にまとめなければならないという制限があり、テストの段階ではちょっとオーバーしてしまっていたんです。なので、もう少し速くしゃべらなきゃと思ったのですが……いざ収録に臨んでみると、子安さんがオジマンディアスとして割とゆっくり喋るんです(笑)。
「あ、これはニトクリスがオジマンディアスに試されているやつだ……!」と思いましたね。まさにニトクリスと心が一体になった瞬間でした。実際には、「最後のほうはまくし立てるように演じてください」とディレクションで言われていたので、それを助けてくれたんだと思います。その心遣いがありがたかったし、何より楽しかったです。
3分でわかる劇場版 『FGOキャメロット 前編Wandering; Agateram』
――では、子安さんご自身の印象はいかがですか?
田中とても優しい方ですね。現場で初めてご挨拶したときも、「あ、ニトクリスだ!」みたいにリアクションしてくださって、ご挨拶しやすかったです。後編の収録で私がつまづいちゃったシーンがあったのですが、終わったあとにすごくいい笑顔で「お疲れさま!」と言ってくださったり。おかげでちょっと落ち込んでいた気分も晴れやかになって、もっとがんばろうという気になれました。
――『劇場版FGOキャメロット』の収録を終えて、原作アプリゲームのキャメロットから印象が変化した点などがあれば教えてください。
田中ゲームだと、どうしてもマスター目線で物語を観てしまいますが、劇場版ではべディヴィエールの気持ちにもなれるという点が特徴的です。彼がしてきた旅は本当に大変なものだということはわかっていましたが、改めて映像になると心をえぐられるようでした。全体的にべディヴィエールに感情移入しやすくなったなと感じます。
――印象が大きく変わったキャラクターなどはいましたか?
田中三蔵ちゃん(玄奘三蔵)ですかね。『FGOキャメロット前編』の内容は、物語の準備期間にあたる部分と言いますか、これからどうするのか、という点を中心に描いていました。そのため、先が見えない暗めのシーンでも、三蔵ちゃんがひと声発することで、すごく空気が明るくなることがあって、現場でも話題になっていました。
――田中さんが考える、後編の見どころについて教えてください。
田中前編でのマシュとニトクリスのシーンを経て、マシュが彼女自身の戦う理由や意味を見出していくことが、劇場版全体での最大の見どころだと思います。後編では彼女の成長を見ることができると思うので、そこはぜひ見てほしいですね。私もまだ完成版は見られてはいないのですが、戦闘シーンも迫力がありそうなので楽しみにしています。
――映画版の収録によって、ニトクリスというキャラクターへの理解度がさらに深まった感覚などはありますか?
田中ゲームとアニメでは、感じ方がぜんぜん違いましたね。ニトクリスからは、マスターと自分は対等な立場ではないものの、何か力になってあげたいという優しさがにじみ出ていました。そういうところが劇場版ではしっかりと見ることができますし、再確認できました。
――映画の収録で記憶に残っているエピソードなどがあれば教えてください。
田中ラジオの収録などで、李依さんから『FGOバビロニア』のアニメの収録のお話を聞いていたので、『FGO』関連の現場というだけで楽しみでした。現場では島崎先生(※)がみんなにレクチャーする場面を実際に見ることができてうれしかったですね(笑)。
※島崎先生……藤丸立香役の声優・島崎信長さん(崎の正式表記は立つさき)。古くからのTYPE-MOONファンで知識も豊富なため、TYPE-MOON作品初参加の出演声優から世界観やキャラクターのバックボーンなどについて質問を受けることも多い。
――島崎さんといえばTYPE-MOON愛がすごいイメージがありますが、現場でも『Fate』の話を頻繁にしているのでしょうか?
田中そうですね。劇場版とゲームの違いや設定、舞台背景の話題になると、すかさずフォローが入るみたいな感じです(笑)。島崎さんを中心としつつ、みんなで和気あいあいと話すことも多いですよ。
――『FGO』ファンに向けた『FGOキャメロット後編』の魅力を、ニトクリス視点と、田中さんご自身の視点でお聞かせください。
田中とにかくファラオが格好いいので、オジマンディアスのファンの方々には絶対に観ていただきたいということをまずお伝えしたいです(笑)。また、後半の要となってくる円卓の騎士たちとの戦いの決着がどうつくのか、その過程についても楽しみにしていてください。
私個人の目線としては、ランスロットがめちゃくちゃかわいい、ということだけ! 私が楽しみにしていたマシュとのかけ合いもちゃんと描かれていて、思わずガッツポーズしちゃいました。
――円卓の騎士の中ではランスロットがいちばんお好きなのでしょうか?
田中全員魅力的で悩ましいですが、私はモーさん(モードレッド)が好きですかね。モードレッドの戦闘シーンではちょっと涙ぐんでしまったので、完成版を観るのが楽しみです。
――前編と後編を問わず、田中さんが個人的に好きなシーンを教えてください。
田中前編のアーラシュの宝具シーンが感動しました。個人的に、アーラシュを演じている鶴岡聡さんに対して絶大な信頼を持っているといいますか……アーラシュの宝具の詠唱を絶対にやってくれると思っていたんですよ。それで実際に完成した映像を観たら涙が止まらなくなっちゃって……。
映画の公開に合わせて『FGO』でもアーラシュのモーション改修がありましたが、その直前にアーラシュのモーション改修がくる夢を見たんです(笑)。頭身も高くなって、本当に格好よかったので、「ペルシャの大英雄最高!」とひとりテンションが上がっていました。さすがにファラオが尊敬する大英雄ですよね。
『FGO』アーラシュ宝具“流星一条”
――そういった感動したシーンは後編にもありましたか?
田中ギフトを授かったことで、円卓の騎士それぞれが少しおかしくなってしまっているところでしょうか。特にガウェインとガレスのところがつらすぎて……。なのに前編の来場者特典では幸せそうな2人の姿を描くから、余計に「もうやめて! この人でなし!」みたいな気持ちでした(笑)。
奈須先生のブログで六章Zero(※)のお話を見ているとさらに胸にきますよね。後編には円卓の騎士たちのつらさが特に出ているので、戦っているシーンは毎回涙の連続だと思います。
※6章Zero……奈須きのこ氏のブログ“竹箒日記”にて掲載された、第1部 第六章“神聖円卓領域キャメロット”の前日譚。