マンガに“動き”を感じたことはないだろうか。躍動感のある絵柄やダイナミックなコマ割りは、キャラクターたちの動きをダイレクトに想像させてくれる。

 思春期の頃にはその感覚がさらに一歩先を行っていた人も多いだろう。頭の中ではそのキャラクターがセリフをしゃべり、動き回って激しいバトルをくり広げる。そして、吐息が届く距離で見つめ合う。そんなこともあったと思う。

 そんな懐かしさを覚える体験をそのままゲームにしたかのような作品。それが2021年5月27日発売のPC/プレイステーション4/Nintendo Switch/Xbox One用アクションアドベンチャー『LIBERATED』(リベレイテッド)(※)だ。

※Xbox One版は6月発売予定(ダウンロード版のみ)

『LIBERATED』日本語版トレーラー

『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ

 本作が謳うジャンルは“アメコミ風アドベンチャー”。アメコミのページをめくり、漫画を読み進めていく電子書籍のような形式で進行するゲームだ。背景やキャラクターがコマのなかで動くことで、従来のコミックよりも臨場感が増し、世界観に包み込まれていく。

 さらにコマによってはアクションパートに突入。キャラクターが勝手に動くのではなく、プレイヤーの手で“動かせる”ようになる。

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『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ

 コミックという本来動かない媒体がまるで映画を観ているかのように臨場感を帯び、世界観に没入していく不思議な感覚。これまでにないプレイ感覚と魅力について、プレイインプレッションをお届けしよう。

漫画の中で息づくモノクロームの世界

 本作の舞台は、我々が生きる現代社会に似た近未来。この世界では“シチズンクレジットシステム(CCS)”という、過去の経歴から取引の信用度を設定する管理システムが全市民に採用されている。

 さらにそのシステムを応用したシステム“テミス”により、全市民は個人情報や行動すべてを国家にモニターされ、反社会的と判断されようものなら、金銭取引の停止どころか警察による問答無用の逮捕さえも行なわれる。

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『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ

 国家による監視をともなう絶対的管理社会。まさにディストピアだ。そんな世界に真実を知らしめようと活動する反社会組織“LIBERATED”と、この社会を生み出すきっかけとなった爆破テロ事件の謎を巡り、物語が紡がれていく。

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完全な管理社会であることは秘匿されている。LIBERATEDはその事実を明らかにしようと活動。正義のために暴力での訴えという道を選んだ、彼らの行く末は……?
『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ
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卑劣なテロ活動により、子どもたちの尊い命が奪われた“聖マルタ校”の事件。この事件をきっかけに、テロの事前抑制のため、テミスのプロジェクトが始動した。

 我々の社会から見てもわりと他人事ではない“データによる管理社会”というテーマと、過去の事件に関わる登場人物が織りなすドラマ。思い雰囲気をまとう物語が、モノクロームで統一されたビジュアルによってさらに重厚感を増す。

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重いだけではなく、モノクロームの世界はまさにマンガ誌で読んだ感覚そのもの。フルカラーでは味わえない、独特のなつかしさが感じられる。

 物語を読み進めていくと登場人物になりきって選択肢を選ぶシーンが発生する。プレイヤーは読むだけの傍観者ではなく、物語の流れを決定していく立場にあるわけだ。

 コミックを読んでいて、「私ならこうするのに」、「なんでその選択をするんだ」と、キャラクターの行動にやきもきしたことがある人も多いだろう。本作では、ストーリー展開を決めるのはプレイヤー=読者自身なのである。

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選択肢には制限時間があるので、その場でとっさに選ばなくてはならない。この緊張感もまた、物語に没入するためのスパイスになっている。

 クライムサスペンスコミックとしても十分に濃密な本作だが、その真髄はアクションパートにある。コミックを読み進めていくと、特定のコマでキャラクターを操作することになる。

 アクションパートにも種類があり、シーンに見合ったものが発生。つぎつぎと指示されたボタンを制限時間内に押すQTE(クイックタイムイベント)や、パズルに挑むものなど、物語の随所に散りばめられている。

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 そして重要な局面では横スクロール形式のアクションゲームが展開。キャラクターが動いているように空想するどころか、本当に読者の手で決着をつけることになるのだ。

 ときには銃を構えて迫り来る敵やドローンを撃ち、ときにはパズルのように入り組んだ通路をギミックを起動しながら進んでいく。アクションゲームとしての遊びごたえは十分。

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登場人物と同じ危機や緊張感を、アクションパートを通じて共有できる。物語の臨場感や、没入感をより高めてくれる要素だ。

 なお、アクションゲームが苦手な人や、アクションよりも物語に集中したいという人には、このパートの難易度を大幅に下げた“読者モード”も用意されている。物語への没入の邪魔になることはまずないだろう。

アクションパートは“なりきり”がポイント!

 ここでアクションパートについてもレビューしていこう。全体的な難易度としては、それなりの歯ごたえ。とはいえ、ゴリ押しでも何とかなるレベルでまとまっている。

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オブジェクトを特定の場所まで動かすなどの謎解き要素もあるが、そこまで複雑ではない。制限時間があるシーンも少なく、あったとしてもかなり余裕がある。

 本作のアクションパートでとくに特徴的なのが、右スティックを傾けることで銃を構えるという操作だ。スティックを傾けている方向に銃口を向け、右トリガーボタンで射撃する。

 銃口が向いている方向はガイドラインでわかりやすくなっているが、スティックを傾け続けるという操作の関係で、銃口が自然と震えてくる。遠くにいる敵を狙うには慣れが必要だ。

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少しでも離れたターゲットは狙いにくくなるという、現実の銃のようなリアルさを感じさせる操作方法と言える。
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人間が相手の場合、射撃を頭部に当てればほぼ一撃で倒せる“ヘッドショット”が発生する。ただし、相手がヘルメットを着けていると、一発目は無効化されてしまう。

 リロード(弾の再装填)を行なう動作中に攻撃されるとその動作がキャンセルされてしまうため、敵の前で弾切れを起こすとまずやられてしまうのもリアル。最初はこのリアルさを含む戦闘が、やたらシビアに感じられた。

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空中を自在に飛び回り、強力な射撃をしかけてくる戦闘ドローンとの初戦は、安定しない銃口とリロードの隙のせいで大苦戦を強いられた。

 ここで筆者は、映画などに登場する特殊部隊の動作をイメージした。彼らのように銃口を人間の頭の高さに合わせて保持しながら進むだけでも、かなり戦闘が楽になる。

 敵が出てきた瞬間、つぎつぎとヘッドショットを決めていくのはかなり気持ちいい。

『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ
やはりプロの動きには合理性があったのだ。アクション映画の主人公になったかのような緊張感と高揚感が湧いてくる。

 また、特定の場所にはマークが表示され、“物陰に隠れる”という動作が可能だ。隠れてやり過ごした相手に対しては、後ろから組み付くサイレントキルもできる。こちらもアクション映画さながらの動きだ。

 受けたダメージは時間経過とともに回復するが、隠れている間はさらに早く回復する。深刻なダメージを受けたら隠れるように心がけておけば、2、3人の敵を相手取っても十分に勝機がある。

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隠れることで、ドローンの視界から逃れることもできる。手ごわいドローンが複数いる場面でも、撃っては隠れての繰り返しで各個撃破すれば問題ない。

 正直なところ、リロードのタイミングさえ気を付けていれば、連射しながら突き進んで危なくなったら隠れて回復という、ゴリ押しプレイでも十分に突破できる場面がほとんどだ。だが、それではせっかくの物語の雰囲気にはそぐわない。

 難度が高すぎないため、アクションパートにはやや“遊び”の余裕がある。そこで筆者からオススメしたいのは、物語の雰囲気に没入し、アクション映画のようなクールな絵作りを自分の操作で演出すること。

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真正面から男らしく撃ち合うこともでき、これはこれで気持ちいい。だが、本作の重厚な世界観にはちょっと合わない気もする。
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息を殺して隠れながら迫り来る敵を警戒。アクションゲームとしてはムダだとしても、映画のようなシーンを随所に盛り込みたくなる。

 映画監督になるようなこの遊びかたはハマると気持ちいいが、操作において気をつけたい点がある。

 隠れられる場所でボタンを連打すると、隠れたと思ってもすぐに飛び出してしまうのだ。ゴリ押しで進もうとすると自然に多発する。

 また、よじ登れる障害物に過敏に反応してしまい、足場に手をかけたことで銃が抜けず、敵から一方的に撃たれる……なんて場面もあった。ちょっとカッコ悪い姿を避けるためには、敵を遠くからクールに撃ち抜いたり、サイレントキルしたりといったプレイを心がけるのがいいかと思う。

 個人的には、近接戦闘のアクションがパンチしかないのが少し不満だった。これだと単調に感じるので、いろいろな動きをしてくれたら画面映えすると思うのだが、さすがにないものねだりか。

『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ
複雑な地形をジャンプで渡って進む場面では、ふいに目の前の地形によじ登ることも起こりうる。こういった事故を防ぎつつ、カッコいいシーンを演出したいものだ。

選択や行動で決まる、衝撃の展開とは……?

 本作のもうひとつの大きな魅力として、選択肢やアクションパートの結果によって、先のコマで待つ物語の展開が変化する点も挙げられる。

 その中には、まさかと思わされる展開も多数。ただでさえアクションパートの没入感と達成感で高揚しているプレイヤーに突き付けられる衝撃。精神そのものを不意打ちでぶん殴られるかのような感覚が味わえる。

『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ
『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ
静かに迫ってくるが、確実に息を飲むことになる展開。大小のコマを駆使するコミックならではの技法で緩急をつけて、衝撃が押し寄せてくる。

 本作の物語は勧善懲悪というわけではない。正義とは何か、現代社会のありかたとは何か。考えらせられるテーマがさまざまな立場にある登場人物たちの視点から多角的に描かれる。

 こうした群像劇では複数の登場人物がフィーチャーされるため、個別の感情移入がやや難しいものだ。だが、本作ではアクションパートがその辺をフォロー。しっかり没入できたのもおもしろい。

『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ
登場人物と同じ立場にいるかのような臨場感があるからこそ、彼らの受ける衝撃が自分のもののように伝わってくる。まさかの展開の中にあったこのコマでは、筆者も驚きからリアルにうめき声が漏れた。
『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ
SNSでの反響が描かれ、自分はコメントに高評価をつけるか、低評価をつけるかを選ぶシーン。あまりに身近な題材だ。このシーンのギミックにも「あっ!?」と声が漏れた。

 本編の4冊のコミックを読み終え、一定のプレイ条件を満たすことで解放されるボーナスチャプターでは、プレイヤー(読者)はさらなる衝撃を受けることだろう。実際、筆者は「うわぁ……」と息を飲んだ。

 なお、本作はオートセーブ形式で、任意でのセーブはできない。一度失敗したQTEなどをやり直すには、その巻をまた最初から読み始める必要が出てくることもある。ボーナスチャプターの完全解放は、初回のプレイではほぼ達成できないと思う。

『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ
表紙からしても、ただごとでは済まないと感じさせるボーナスチャプター。ぜひすべて解放して、結末を見届けてほしい。

 “コミックを読み進める”という新鮮な方式を活かしたアドベンチャーゲームとしての部分と、ほどよい歯ごたえで物語の演出にすら一役買っているアクションゲームとしての部分。いずれもゲームの根幹にしっかりとかみ合っており、単なる電子書籍コミックでは終わらない。

 むしろコミックを読みながら映画をも観ているかのような、不思議な感覚に包まれる。実際にコミックが動き出すとこうなるのかと、未知のおもしろさを体験させてもらえた。

『リベレイテッド』犯罪サスペンス漫画の展開を自分で決めるアドベンチャー。コマの中では映画ばりのアクション、漫画は読むだけでなく“動かす”時代へ

 昔から知らず知らずのうちにのめり込んでいた、“コミック”という表現方法の個性。本作を通じてそれを再実感することで、ひたすら漫画作品を楽しんでいた思春期の気持ちも甦る。

 『LIBERATED』は重厚なクライムサスペンスだが、今後は同じ表現手法で痛快なアクションものやヒーローものといった別ジャンルのコミックも楽しめたらと、少年の心が期待して止まない。

『LIBERATED』概要

  • タイトル:LIBERATED(リベレイテッド)
  • ジャンル:アメコミアクションアドベンチャー
  • ブランド:DMM GAMES
  • 発売日:2021年5月27日(木)
  • 価格:
    • PC(DMM GAME PLAYER、Steam)2050円[税込]
    • Playstation4、Nintendo Switch、Xbox One(DL版、パッケージ版共)4378円[税込]

※Xbox One版は6月発売予定(ダウンロード版のみ)

  • PC版推奨環境:
    Windows 10/8 64bit
    プロセッサー:AMD Ryzen 5 or Intel Core i5 (3.2GHz or higher)
    メモリー:8GB RAM
    グラフィック:NVIDIA GeForce GTX 970, AMD Radeon RX 580 or equivalent with 4GB of VRAM
    ストレージ:6GB利用可能