THQ Nordicから2021年5月25日発売予定のプレイステーション4、Xbox One、PC用ソフト『バイオミュータント』は、文明が崩壊した後の世界を舞台に、ひとりのミュータントが新世界の存亡を賭けて戦う、三人称視点のオープンワールドアクションRPGだ(Steam版は5月26日発売)。
本作は、遺伝子構造を再コーディングすることで、外見とプレイスタイルを変更することが可能で、ユニークなマーシャルアーツと剣術、射撃、ミュータントの特殊能力を組み合わせた自由度の高いアクションが楽しめるのが魅力となっている。
“ケモノ系オープンワールドアクションRPG”として、注目を集めている同作だが、開発を担当するExperiment 101のクリエイティブ・ディレクター、ステファン・ヤングビスト氏にインタビューを実施。謎多き『バイオミュータント』の注目ポイントなどを聞いた。
Stefan Ljungqvist(ステファン・ヤングビスト)
Experiment 101
クリエイティブ・ディレクター
アジアンテイストやカンフーなど、心から好きなものを突っ込んだ
――まずは、Experiment 101さんのことを教えてください。どのような開発スタジオなのですか?
ステファンいい質問ですね(笑)。この名前には理由があります。101は基本という意味があります。私はビデオゲームの仕事をして25年ほどになります。子どものころにはアタリのスペクトラムでプログラミングをやっていました。つまり、かなり長いあいだゲームに関わっていることになります。
もっとも多くの時間を費やしたのは、Avalanche Studiosの『ジャストコーズ』や『マッドマックス』などのAAAゲームの開発です。そういった仕事をしてきて、プロジェクトマネージャーなどがたくさんいて、開発プロセスの多い大きなチームではなくて、基本に戻って小さなチームをスタートさせたいと思いました。それが、Experiment 101です。私たちは現在20人からなる小さなチームです。全員が、ゲームデザインから始まり、ゲームを作るところまで深く関わっています。
――Experiment 101はいつ設立されたのですか? 『バイオミュータント』が初めてのタイトルになるのですか?
ステファン設立は2015年です。そして、『バイオミュータント』が最初のタイトルになります。
――ということは、6年以上『バイオミュータント』を開発しているということなのですね?
ステファンそうですね。最初はいまとは違う、俯瞰視点のRPGでした。それまで、私もチームのほかのメンバーも、長くオープンワールドのゲームを作ってきたので、1年やってきて、やはりオープンワールドのゲームにしようと決めました。つまり最初からやり直すことになったわけです。
もうひとつの理由としては、私自身アーティストでもあるので、アートのクオリティーを『ジャストコーズ』や『マッドマックス』のレベルにしたいと思っていました。しかし俯瞰視点では、アートのクオリティをじっくりと堪能してもらうことができません。そこでアートが見えるようにカメラを下ろそうということになったのです。『バイオミュータント』というタイトルにとっては、これはとても大事な点でした。
『バイオミュータント』は、最初は4人で作っていたのですが、スタジオの規模は小さいままにしたいと思っていました。以前仕事をしていたAvalanche Studiosでは150人くらいのチームでしたので、大きな違いがあります。またコンパクトなチームで仕事をしたくなったわけです。
――最初に1年で作ったものはすべて捨ててしまったのですか?
ステファンキャラクターは同じです。RPGを作りたいというコンセプトも同じですが、 “RPG”という要素は、さらに進化してより重要になりました。大きく変わったのはワールドです。8キロx 8キロのオープンワールドになったので、これは最初期とは違いますね。
またゲームメカニズムも大きく変わりました。これもやりたいことのひとつだったのですが、以前よりアクションタイプのゲームになりました。当初は規模を小さくと考えていたのですが、本作に可能性があることがわかり、いまのような形になりました。ポイント&クリックタイプのRPGではなくて、格闘の方向に進み、自由な戦闘システムを取り入れた、より楽しいものにしたいと思いました。
――キャラクターは最初から動物のような感じだったのですか?
ステファンそうですね。私は犬のボストン・テリアを3匹飼っているので、それが理由かもしれません(笑)。じつは、動物が主人公となったキャラクターの夢を見たのです。実際のゲームとはちょっと違いますが……。
ステファンまた、本作はアジアの文化に刺激を受けています。特定の国ではありませんが、入り混じった要素で、いろいろな国や地域からの刺激を受けています。私は8年間ほどフルコンタクトのカンフーをやっていました。また、少林寺僧侶からの訓練も受けています。私の中にあるインスピレーションからかもしれませんが、このゲームには格闘の要素も含まれています。ジョン・ウー監督のアクション映画の銃撃シーンも好きなので、当初はこれらすべてが体験できるキャラクターにフォーカスしていました。
さて、動物にした理由ですが、リアリスティックなデザインにすると、楽しい部分を入れるのが難しくなります。本作では、ゼリー状のバブルの中に入って飛び跳ねることができるのですが、リアルな兵士のキャラクターでこれをやると違和感が生じます。本作をカラフルで空想的なものにしたかったのです。戦争ものや非常にシリアスなタイプには興味が湧きません。怒り狂った男がカラシニコフを持っているようなゲームですね。もし世の中が必要としているならば、ほかの会社が作るでしょう。
――お話をうかがうに、ご自身の関心があるものや好きなものを盛り込んだ作品が『バイオミュータント』ということでしょうか?
ステファンそうですね、しかも心から望んでいるものです。ほかのメンバーも同じ情熱を共有していますので、これは私だけのものではありません。方向性、コンセプト、ビジョンは私が提供しましたが、ゲームそのものはスタジオの総意で作られています。これはとても大事なことです。本作は、いろいろな人から影響を受けて、アイデアを取り入れているんです。
たとえば、ゲームのキャラクターデザインはコラボレーションから生まれたものです。私が最初にコンセプトを出し、それからは全員で作り上げていきました。これができたことはとても嬉しく思っています。大きなチームでは、ひとりのディレクターが明確なビジョンを持って進めるのがふつうですが、小さなチームならほかのメンバーが新しいアイデアを出してくれることもあります。
つまりすべてのクレイジーなアイデアを出したのは、私だけではないということです(笑)。でも、いちばんクレイジーなアイデアは私が出しているかもしれません。
――ちなみに、カンフーに興味を持ったきっかけは?
ステファン格闘技にはつねに興味がありました。1970年代のスウェーデンではテレビ向け子ども番組の数が少なかったのですが、中国のオリジナル人形劇『Journey to the West Monkey King』(西遊記)が大好きでした。この番組から大きなインパクトを受けたようです。格闘技のトレーニングができる15歳くらいなると、すぐに始めました。それから続けています。
――好きな格闘技のファイターは?
ステファンもちろんブルース・リーです!
プレイヤーは何からも制約を受けることなくアクションを楽しめる
――本作にはいろいろな要素がありますが、もっともキモとなるポイントは何ですか?
ステファンいくつかありますが、まずはアクションゲームなので、戦闘の部分についてお話しします。私たちが“フリーフロー”と呼んでいるものなのですが、プレイヤーは何からも制約を受けることなく、楽しめるということです。たとえば、剣を使っていて射撃をしたくなったら、即時に切り換えることができます。非常にすばやく、立て続けに攻撃することができるんです。後方にジャンプして、稲妻を発するといったコンビネーションも可能です。プレイヤーが好きなときに使えるようにしているのです。
プレイヤーの自由は、ゲームのすべての要素におよんでいます。これはとても重要なポイントです。まずはキャラクタークリエイトには、6つのDNA配列があります。これはベースとなる種族と言ってよいかと思います。それは種族ごとに固定された数値ではなくて、まさに“変異”というかのように、パラメータをシームレス増減させて調整できるのです。これは見た目にもすぐに反映されまして、腕力がある設定にすれば、筋肉質になりますし、大きな頭を持つキャラクターは知性が高く、より多くの超能力を持つことになります。
自由度の高さはワールドそのものにも言えることでして、プレイヤーはどこでも自由に行けるのです。
クラフティングでは独自の武器を作ることができますが、これも少し変わっています。たとえば、バナナを持ち手にして歯ブラシを先端に付けることができますし、トゲ付きワイヤー、ガラスの破片なども武器のパーツに使えます。自分の好みのタイプの銃を作ることができるのです。これも自由の要素と言えますね。
Every generation needs a hero.
It's #MayTheFourth and you know what that means? Only 21 days until Biomutant launc… https://t.co/DxCDmPfO4T
— Biomutant (@Biomutant)
2021-05-05 02:06:28
――キービジュアルのキャラクターは、“主人公の姿”というわけではなくて、ひとつの例ということですね。
ステファンそうです。どれだけの組み合わせができるのかわかりません。顔、腕、足などをシームレスに増減させて作ることができるので、固定されたものではありません。ひとつのDNA配列だけを使っても非常に多くのタイプを作ることが可能です。カワイイ感じにも、怒った感じにすることもできますよ。
また、本作には“カルマシステム”があり、ワールドにはダークとライトの要素があります。ダークが悪というわけではありません。ダイアローグやNPCとの出会いの中で、プレイヤーのアクションや道徳心が変化する可能性があり、これはゲームの重要なポイントです。
――NPCに対してよいことをしたら、キャラクターも変化するということですか?
ステファンそうですね。エンディングに影響します。ゲームには6つの種族(トライブ)が登場しますが、半分の3つはダークで、もう半分はライトです。ストーリーでは、主人公はこの中のひとつと仲間になります。ダークトライブと組むことを選択した場合、彼らは“Tree of Life(生命の樹)”を倒してワールドを破壊し、ワールドが再出発することができると信じていて、そのようにしたいと思っています。悪いものを一掃したいわけです。反対にライトトライブはトライブ全体が力を合わせて“Tree of Life(生命の樹)”を救うのが最善の道だと思っています。
――プレイヤーは、最初の段階で6つの種族からひとつを選ぶのですよね?
ステファンはい。最初はひとつの配列からスタートしますが、後から変更することができます。プレイ中はずっと同じ配列のままでもよいわけですし、どの時点で変更しても構いませんが、それはトライブが見つかればの話です。大きなワールドなので、トライブを見つけるのも容易ではないかもしれません。彼らのリーダーを見つけて話す必要があります。
ダークかライトはプレイヤーが決めることです。このキービジュアルはライトです。カルマシステムを搭載したとあるゲームでは、90%のプレイヤーが“善”を選択したようです。本作ではどうなるかわかりませんが、どちらを選んでも楽しんでいただけるように、コンテンツはきちんと作ってあります。
――とても興味深いシステムですが、それは人間をリアルに表現したいからということで生み出されたシステムなのですか?
ステファンいえ、そういうわけではありません。先ほどの話に戻りますが、プレイヤーに自由な選択を与えたいとの思いから来ています。私たちは映画を作っているわけではないので、それは明確にしておきたいです。たとえば、本作ではできるだけカットシーンを少なくしています。それは、できるだけプレイヤーがゲームをコントロールできるようにしたいからです。本作には短いカットシーンはありますが、ストーリーについては、なるべくプレイヤー自身が体験できるようにしています。
ネタばれをしないように気をつけてお話ししますが、本作では子どもとしてプレイする部分があります。序盤でとあるキャラクターに出会い、その後も何度か会うことになります。そのキャラクターはある意味ストーリーの中心にいます。そのキャラクターは、主人公(プレイヤーキャラクター)のことを深く知っており、プレイヤーは子どもとしてプレイすることで、そのやり取りを体験するのです。これは、できるだけプレイヤーにコントロールを預け、選択を提供しているひとつの例です。15分のカットシーンを見せるのではなくて、会話によって、カバーしているわけです。
――本作の魅力であるアクションについて教えてください。本作では、格闘、射撃、ミュータントアビリティのアクションを組み合わせて戦うのですよね?
ステファンそうです。近接攻撃ではプレイヤーは独自の武器を作ることができます。ほかのRPG同様、プレイヤーはゲーム序盤でクラスを選択します。ファンタジーRPGには、“戦士”、“魔法使い”などのクラスがあります。このゲームは似たような感じですが、少し変わっています。たとえば、“魔法使い”がお好きなら、“サイフリーク”がオススメです。このクラスは、超能力のアビリティを持っているんです。
ちなみにクラスも6つあります。“コマンド”というクラスの場合は、ランボーのような姿形で、弾倉ベルトをつけて、上半身は毛皮のみという姿です。
最初に選択したクラスによってどんな武器が持てるのかが決まります。“コマンド”を選んだ場合は、武器はアサルトライフルになります。ほかのRPGと同じように、キャラクターをレベルアップしていけば、獲得した経験ポイントを使って新しいコンバットスキルやパワーをアンロックすることができます。
ステファンまた、本作には変異がありまして、それはふたつのタイプがあります。ひとつは“バイオミューテーション(生物変異)”です。以前公開した動画には、キャラクターが生物汚染された沼のようなところで、ひざまずいているシーンがありますが、一部が破壊された大きな放射能タワーの近くに、このような沼を見つけることができます。ここでポイントを使うことで、とんでもないパワーを手に入れることができるのです。たとえば、上に乗って跳ねることができるキノコや、中に入って跳ねるゼリー状のバブルなどたくさんあります。
もうひとつの“サイオニックミューテーション(超能力変異)”は、より精神的な変異です。この世界にはトーテム・ポールがあり、これを見つけて接触することで起こります。先ほどカルマシステムの話をしましたが、ここではそのシステムから得たポイントを使います。キャラクターには、それぞれダークポイント、ライトポイント、ノーマルポイントがあり、特定のアビリティをアンロックするには、決まったポイントが必要になります。カルマシステムが、ここでも関わっているのです。
――本作には、世界の“Tree of life(生命の樹)”があり、それを巡る物語が展開されるとのことですが、敵対するトライブのボスを倒すことが、本作の目的になるのですか?
ステファンそれはひとつのエンディングのゴールです。本作にはいくつものストーリーが用意されていますよ。
――遊びかたにもよると思いますが、本作のおおよそのプレイ時間はどれくらいになりますか?
ステファン以前は最低10時間と言っていましたが、いまはそれより時間が必要だということがわかっています。最低20時間と言っても嘘にはならないです。オープンワールドのゲームなので、選択肢が多く、探索するところもたくさんあります。メインストーリーを追っているだけで、20時間以上は優にはかかると思います。
――本作のテーマを教えてください。
ステファン動物を使った理由のひとつは、本作が寓話だからです。何千年ものあいだ、世界中の人々は動物をキャラクターに据えたさまざまなストーリーを通じて道徳心を育んできました。本作にはメッセージはありますが、政治的にならないようにしています。たとえばこのワールドには肉食のキャラクターは1種族しか出てきません。ほかはすべて菜食主義です。私自身、菜食なのでそこからきているのかもしれませんが、ほかの人に押し付けるつもりはありません。私の妻や子どもも肉食です。菜食主義を選んだのは18歳の時です。当時格闘技を一生懸命やっていて、トレーナーのひとりから肉食はやめたほうがよいと言われたことがきっかけです。あくまでも私だけのことです。
もうひとつは環境です。“Tree of Life(生命の樹)”をシンボルとしてワールドが壊れていく中でプレイヤーは『バイオミュータント』をプレイしていくのですが、すでに大災害があり、終末があったポストアポカリプティックな世界です。何かが起こったわけです。プレイヤーはゲームを進めていく中で環境災害にも関わることになります。そこには、いまのままのことを続けていけばいつかは対価を払うことになるというメッセージが含まれています。とはいえ、本作はあくまでもゲームです。楽しくなくては意味がない。政治的になるつもりはありませんが、「本作の会話の中に名言、格言がある」という意見は、関係者からもらっています。
ちなみに、“見ざる、聞かざる、言わざる”という言葉がありますが、4つめに“せざる”というのがあります。これは私のモットーです。
――『バイオミュータント』は日本でも注目度が高いです。最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
ステファンどうもありがとうございます。『バイオミュータント』を気に入っていただけて嬉しいです。本作は、最高のゲームになり、皆さんに長く楽しんでいただけるようにがんばって開発しています。楽しみに待っていてください!