NTTドコモが、eスポーツ事業への参入を表明し、国内eスポーツリーグブランドX-MOMENT(エックスモーメント)を設立。『PUBG MOBILE』と『レインボーシックス シージ』のリーグを開催することを明らかにした。日本屈指の企業であるNTTドコモは、なぜeスポーツリーグを立ち上げたのか? X-MOMENTを取り仕切る森永宏二氏に経緯などを聞いた。

【X-MOMENT】
 選手やチーム、ファン、パートナー企業、ゲーム会社が一体となって、世界レベルの選手を日本から輩出することを目的として設立。2月13日より、『PUBG MOBILE』のリーグ“PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE SEASON1”を、16チームが参加しての年間2フューズ制で開始。3月13日から、『レインボーシックス シージ』のリーグ“Rainbow Six Japan League 2021”を8チームで実施している。
 X-MOMENTでは、世界的プレイヤーの輩出につながる取組みとして、所属選手の競技生活を充実させるための給与サポートなども用意。二部リーグやオープン大会を実施し、新たな人材の発掘にも取り組む。

NTTドコモは、なぜeスポーツリーグブランド X-MOMENTを設立したのか? キーパーソンを直撃

森永宏二氏(もりながこうじ)

NTTドコモ ビジネスクリエーション部eスポーツビジネス推進担当課長


日本のeスポーツシーンをワンランク上にもっていきたい

――まずは、X-MOMENTを設立した経緯を教えてください。

森永ここ2、3年NTTドコモでは、日本でも市場が伸びてきているということで、eスポーツに注目していました。EVO Japanにも協賛させていただきましたし、ファミ通さんともいくつか取り組みをさせていただいてきました。そういった取り組みを経て、市場としてこれから盛り上がっていくところのど真ん中に入っていくのが、NTTドコモとしてはいいのではないかという議論になり、リーグを主催してみようということになりました。

――eスポーツに注力する過程で、リーグ開催はひとつの命題だったということでしょうか。

森永欧米や中国、韓国のような国で、リアルスポーツに負けないくらいにeスポーツ市場が盛り上がっている中で、日本のeスポーツシーンをさらにワンランク上げていくことに、私たちが貢献できるのではないかということで、リーグの主催にチャレンジすることを決意しました。

 もちろん、5G時代を睨んで……ということも大きな後押しになっています。昨年サービスを開始した5Gの普及や活用を考えると、eスポーツとは非常に相性がいいと思っています。ゲーム対戦では5Gの低遅延が活かせますし、観戦という意味でも相性はばっちりなんです。

――5Gでは観戦も進化するのですね?

森永これは、2019年のラグビーワールドカップでの使用例となりますが、マルチアングル(※)視聴が好評をいただきました。こういったコロナ禍ではVRでの視聴にもニーズが高まっていますが、高速大容量の5Gはうってつけなんです。

――競技面からも視聴面からも5Gにとってeスポーツは魅力的なコンテンツということですね。では、X-MOMENTをどのようにしていきたいと考えていますか?

森永日本のeスポーツを、より多くの方にご覧いただきたいと考えています。たとえば、ラグビーワールドカップは、ふだんラグビーをプレイしないような女性の方にも訴求しました。同じような形で、私たちとしては、視聴拡大のきっかけを作っていきたいと思っています。その拡大のひとつのきっかけになればと期待しているのが、さきほどお話したマルチアングルなどの映像技術です。“こういう視聴の仕方はおもしろい”という、興味を持っていただくきっかけになるとうれしいです。

――マルチアングルのほかにはどのような取り組みを予定していますか?

森永先日開幕した“PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE SEASON1”では、マップをあらゆる角度から見られるという技術を導入しています。また、東京ゲームショウ2019では、カプコンさんといっしょにARでの配信の取り組みさせていただきました。これによりいろいろな角度から試合が見られるようになるわけです。 “ARで配信”ということで、注目していただけるひとつのきっかけにはなると考えています。NTTドコモには、社内にさまざまな部署がありまして、その部署と連携しながら、eスポーツのよりよい“見せかた”を模索していきたいです。

――そのへんはNTTドコモならではの強みと言えそうですね。

森永はい。現時点では導入予定はないのですが、NTTドコモにはAIや画像解析なども研究しておりまして、分析などに役立てられる日もいずれは来るのかなと考えています。

――AIに画像解析ですか。それは、ワクワクしますね。

森永テクノロジーの観点で特徴を出していきたいということも考えていますし、映像コンテンツそのものに対しても、わかりやすく解説を入れていくとか、そういった部分を丁寧に取り組んでいくつもりでいます。

――ところで、X-MOMENTのネーミングの由来を教えていただけますでしょうか。

森永先ほどから申し上げている“世界に繋がるリーグ”ということで、世界の人たちと熱狂を共有していきたいということを大きな背骨で考えています。その熱狂のモーメント(瞬間)を共有したいということで、“MOMENT”ですね。それに、“X”ということで、いろいろな方が掛け合わせっていく。それは、視聴していただいている方であったり、ゲーム会社の方々であったり、パートナーの方であったりするわけですが、いろいろな方々と熱狂の瞬間を共有したいということで、X-MOMENTという名称にさせていただきました。

NTTドコモは、なぜeスポーツリーグブランド X-MOMENTを設立したのか? キーパーソンを直撃
“PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE SEASON1”の配信番組から。わかりやすい解説などにより、コンテンツ内容をさらに充実させていきたいとのことだ。

eスポーツの盛り上がりには、関係各社の協力関係が不可欠

――なるほど。では、リーグ運営について聞かせてください。タイトルとして『PUBG MOBILE』と『レインボーシックス シージ』を選んだ経緯は?

森永X-MOMENTは、世界で戦えるプレイヤーを輩出していくリーグを作っていきたいという思いがあります。いろいろなゲーム会社さんとコミュニケーションを取らせていただく中で、私たちの考えをご理解いただいたゲーム会社さんと……ということで、まずは『PUBG MOBILE』のリーグを開催させていただくことになりました。『PUBG MOBILE』に関しては、東京ゲームショウ2019から5Gでの取り組みでごいっしょさせていただいたこともあって、ご相談させていただいたという事情もあります。

――『PUBG MOBILE』にしても『レインボーシックス シージ』にしてもFPSですが、銃で撃ち合うゲームということで、NTTドコモというブランドイメージからすると、反対意見はなかったのですか?

森永私たちとしては、“まずはeスポーツを広げていきたい”という見地で考えていくと、世界的な市場で見たときに有力なタイトルとごいっしょしていくのが、ひとつの選択肢であると判断しました。もちろん、いろいろな配慮をしながらリーグを運営していくことは必要なことだと思っていますので、細心の注意を払いながら進めていくつもりです。

――それだけ、MTTドコモは本気ということですね。今後タイトルが増えていく可能性はありますか?

森永そうですね。タイトルに関してはご協力できるゲーム会社様がいらっしゃれば、ぜひごいっしょさせていただきたいと思っています。

――今後、これくらいは増えていくだろうなというメドはありますか?

森永そこは、いろいろなゲーム会社様とごいっしょさせていただければと考えています。私たちの思いとしては、世界につながるリーグかつ、日本のeスポーツシーンをワンランク上げていくために市場に貢献したいという思いでいまして、それに共感してくれる皆様であればぜひごいっしょしたいと、こちらからラブコールを送っているところです。

――リーグが一部、二部にわかれていますが、このへんはリアルスポーツを参考にしたのですか?

森永その通りです。ゲーム会社さんは海外でリーグを展開されていたりするので、適宜アドバイスをいただきながらリーグの方針を作っていきました。いろいろな方々がチャレンジできる環境として、オープンな大会の核となるがリーグがあり、徐々に勝ち上がることで一部リーグにつながっていくというリアルスポーツと同じ階層を作っていくことがより視聴にもつながっていくと判断して、そのような方針にしています。

――プロだけで構成するというよりは、広くオープンにすることで、いろいろな方が参加できるようにしているのですね?

森永そうですね。多くの方にご参加いただきたいので、オープン大会も予定しております。

NTTドコモは、なぜeスポーツリーグブランド X-MOMENTを設立したのか? キーパーソンを直撃
“Rainbow Six Japan League 2021”のロードマップ。オープン大会や一部と二部の入れ替えなどもあり、人材の発掘にも積極的に取り組んでいく。

――X-MOMENTでは選手たちに年間で給与サポートをしていくとのことですが、その理由を教えてください。

森永日本のeスポーツシーンをワンランク上げていく中で、私たちがX-MOMENTというブランドを掲げさせていただいて、世界で戦えるプレイヤーを作っていきたいというときに、きちんと給与保障をさせていただき、プレイに専念できる環境を作っていこうと判断しました。そこで世界で戦える選手が生まれくることにより、視聴者の方も選手に対する憧れが生まれ、リアルスポーツと同じような、ワンランク上のステージに上がってくると期待しています。そういった、安定した環境を提供していこうというのが、給与サポートの根底にあります。

――X-MOMENTに所属しているチームは、ほかのリーグに参加できるのですか?

森永現状は、X-MOMENTに専念していただきたいということで、ご協力をお願いしています。“PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE”に関しては、『PUBG MOBILE』のほかの大会などに出ることは可能ですが、基本的に『PUBG MOBILE』を中心に動いていただくということになっています。

――給与サポートは、現状どれくらい続けられていくのでしょうか?

森永現状は未定です。

――さらに、“PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE”に関しては、リーグの賞金総額が3億円とかなりの高額ですが、マネタイズはどう図られるのですか?

森永私たちとしてはチームの皆さんを含めて、いっしょにリーグを盛り上げていきたいです。そこでビジネスとして成立できるようにするのは私たちだけでは当然不可能で、チームの皆さんであったり、スポンサードいただける企業様であったり、ゲームを提供してくださるメーカー様であったりと、関係社すべてでサイクルを作っていかなければならないと考えています。

 NTTドコモという会社は、iモードやdポイントなどのサービスを展開していることでもおわかりいただける通り、皆さんといっしょにサービスを作っていくことのノウハウだったりマインドは持っている企業です。その社風や会社としてのDNAを活かしながら、eスポーツリーグをきちんとしたサービスに落とし込んでいきたいと思っています。

――“PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE”はすでに開幕していますが、手応えはいかがですか?

森永ターゲットとしているところに関しては、視聴していただけているようで、大きな手応えを感じています。プラスアルファーで、先ほど申し上げましたように、より新たな視聴者を増やしていくことにチャレンジしていきたいです。

――視聴された方からのフィードバックで、印象的なものはありましたか?

森永チームの皆さんへのファンの方の熱が、非常に高まっていると感じました。SNSなどを拝見しますと、選手のイラストを描いている方もいらして、選手に対する憧れやファンの方が増えてきているのは実感します。

――3月13日からは“Rainbow Six Japan League 2021”も始まりますね(※)。

※インタビューを2月下旬に実施しました。

森永はい。大いに期待しています。『レインボーシックス シージ』に関しては、昨年(2020年)秋に“レインボーシックス Japan Championship 2020”を開催させていただいたときも、熱い戦いがくり広げられたんです。このコロナ禍で、なかなか集まって観戦していただくという環境はご提供できていないのですが、私も熱い戦いを見ていて、この熱狂を皆様にお伝えしていきたいなと、改めて実感しました。試合が終わってからも選手が泣いていたりして、この熱い状況や想いを、より多くの人にお届けして、映像の製作も含め、選手にフォーカスを当てて見ていただきたいというのは、いろいろな大会を主催させていただく中で感じています。

 実際のところ、それまであまり『レインボーシックス シージ』のことを知らなかったスタッフが、大会を通して熱い戦いや想いに触れていくうちに感動して、『レインボーシックス シージ』のことが大好きになったということもありました。そういったきっかけとなるように、ぜひこの熱い熱狂をお伝えしていきたい、広げていきたいです。

――世界につなげるとのことですが、最後にX-MOMENTのゆくゆくの目標を教えてください?

森永最初は私たちのリーグから輩出した選手が、世界へ出て活躍してほしいと思っています。そのサイクルが回っていくことで、海外からもX-MOMENTに参加したいという声が挙がってくれば非常にいいのかなと。将来的にはX-MOMENTでプレイしたいと思ってくれるようなリーグにしていきたいと考えていますので、まずはぜひ観戦していただけるとうれしいです。

NTTドコモは、なぜeスポーツリーグブランド X-MOMENTを設立したのか? キーパーソンを直撃
昨年(2020年)10月に行われたNTTドコモ主催の “RAINBOW SIX JAPAN CHAMPIONSHIP 2020”。凝ったセットが選手たちにも好評だった。こういった地道な努力が欠かせない。