PLAYISMから2021年2月25日にNintendo Switch版が配信予定の『リーガルダンジョン(Legal Dungeon)』。本作は、Steamで発売されて好評を博したインタラクティブノベルアドベンチャーゲームです。プレイヤーは新人の女性警部補・清崎蒼となって供述調書を読み、関連する法令や判例を参考にしながら意見書を作成。被疑者の起訴/不起訴の意見を提出していく推理ゲームになっています。
開発したのは、韓国の個人ゲーム開発者・Somi氏。本作は“罪悪感”三部作と呼ばれるシリーズの第2弾となっており、第1作の『REPLICA(レプリカ)』。最終作『The Wake: Mourning Father, Mourning Mother』とともに、インディーゲームファンの間で高い評価を得ています。
罪悪感三部作というシリーズではありますが、物語や舞台設定などで作品相互の繋がりはありません。あくまでも“罪悪感”をテーマにしたシリーズというだけなので、どれも独立した単体の作品として楽しめます。ちなみに、本作は日本語訳を『グノーシア』でおなじみのプチデポットが担当。韓国の法律や判例が飛び交う複雑な設定を読みやすく翻訳しています。ゲームの仕組みから物語の構造まで、罪悪感三部作のなかではもっとも遊びやすい作品であり、Somi氏のアドベンチャーに触れたことがない人にもオススメの1本です。
コンシューマー版では、プチデポットのことり氏によるキーアートも。ゲーム中に顔グラフィックはありませんが、どのキャラクターもイメージにピッタリです!
今回は、罪悪感3部作の物語性と質の高さにほれ込んだ担当ライターがSteam版『リーガルダンジョン』をレビュー。Switch版が気になっている人に向けて、その魅力をお届けしていきます。
『リーガルダンジョン』ニンテンドーeショップページ
法律は迷宮、人の心は魔物。捜査書類の上で繰り広げられる異色の推理物
罪悪感三部作のなかでもっとも好きな『リーガルダンジョン』がSwitchで発売! ということで、個人的にも猛プッシュしていきたい本作。このシリーズはキャラクターの顔グラフィックや派手な画面変化もなく、一見すると地味なのですが物語が奥深くてハマっちゃうんですよ。ゲーム部分も独特で、3部作それぞれでまったく違うシステムなのも好きなところ。
テロの容疑がかけられた他人のスマートフォンを検索し、国家のために証拠を探し出す第1作『REPLICA』の時点で、アドベンチャーとしても非常にクオリティーが高い作品を生み出しています。暗号化された日記帳を読み解き、三世代にわたる一族の過去を暴く第3作『The Wake: Mourning Father, Mourning Mother』も名作です。どの作品も、遊び始めると一気にプレイしてしまうほど魅力的。
国家のために他人のスマートフォンを調べ、反乱分子をあぶり出す。背徳的な行為と罪悪感がたまらない『REPLICA』。
祖父の葬式で残された日記帳の暗号を読み解き、家族に関する秘密と罪悪感に触れていく『The Wake』。
今回紹介する『リーガルダンジョン』は、三部作のなかでもとくに物語とゲーム部分のバランスがよく、入門としても最適なタイトルになっています。画面に表示される供述調書をもとに意見書(捜査書類)を作成し、被疑者を有罪または無罪にしていく作品……と聞くとふつうの推理ゲームに思えるかもしれませんが、まったく違うんですよ! 本作は必ずしも“正解”を見つけることが正しいとは限らないのです。警察内部の政治と成果主義。上位の存在からの政治的圧力。どうみても悪人としか思えない人物を政治的理由で不起訴にしたり、自分が出世するために軽犯罪の法解釈を捻じ曲げて重罪にしたり、ときにはプレイヤーの道徳や良心と反する選択が必要となる場面も……。
そう、このゲームは正義のもとに悪人を起訴するゲームではありません! たとえ有罪だと確信して意見書を提出しても、それを判断するのは裁判所と検察。そして、より大きな力。正義のために真実を求めても、偉い人の機嫌を損ねれば自分の立場が危うくなるだけです。求められるのは良心と真実を天秤にかけ、職務を遂行する“有能な警察官”。まさに大人のミステリー。
警察の捜査と検察の見解。裁判所の判決は必ずしも一致するとは限りません。どちらの顔を立てるべきか。そもそも被疑者の人生をいたずらに左右していいのか。ひとつの事件が終わるたびに考えさせられます。
パートナーのAIといっしょに、供述調書から事件のポイントをつかめ!
ゲームは、大きく分けてふたつのパートに分かれています。メインとなるのは意見書を作成するパート。このパートでは供述調書をもとに事件の概要を書いた意見書を作り、被疑者と(捜査書類上で)対峙しながら起訴/不起訴の意見を提出していく推理ゲームが楽しめます。あくまでも書類上のロールプレイというのがおもしろい設定ですね。
もうひとつのパートは、会話形式で行われるアドベンチャーパート。ここでは警察内部でのやり取りによるドラマが展開し、事件が起きるまでの流れや捜査の状況などが語られます。意見書作成パートの結果によって物語も分岐し、自分が選んだ選択によっては志半ばでエンディングを迎えてしまうことも。
このゲームはあくまでも正義を追求するゲームではなく、政治的な圧力や成果主義が絡む警察組織のなかで職務を遂行することが目的です。すべての事件を解決するためには、プレイヤーの良心や道徳に反する行動を取る必要も出てきます。アドベンチャーパートの会話にも、やるべきことのヒントが隠されているかもしれません。
物語の複雑さも、奥深い構造のシステムも、まさにタイトル通りの『リーガルダンジョン』。実際にダンジョンを歩いて冒険するRPGではありませんが、いかようにも解釈できる法の迷宮と警察組織という魔窟での立ち回り。まさにダンジョンを歩く冒険者のように、プレイヤーは個人の人生と運命を天秤にかけて被疑者と戦うことになるのです。
必要な項目を埋めて捜査書類を作成すると、実際に被疑者と対峙することに。“ダンジョンに潜る”というアイコンをクリックすれば、他人の人生を法の天秤にかけるバトルが始まります。
本作でもっとも特徴的なのは、被疑者とのやり取りをRPGのバトルのように演出していること。法の迷宮(ダンジョン)に潜って被疑者と対峙し、致命的な指摘をして相手のHPを削り、勝つことで報酬までもらえます。まさにRPGのバトル。推理アドベンチャーとしても斬新な表現です。
実際に被疑者を取り調べているのではなく、あくまでもやっていることは書類上での“ロールプレイ”。それを実際のRPGのように表現してくるセンスのよさが光ります。
意見書の作成や被疑者とのバトルと聞いて難しく感じたかもしれませんが、決して理不尽な難易度ではありません。ゲーム自体もAIの“あおい”ちゃんがサポートしてくれますし、供述調書も短いサウンドノベルを読むような感覚で読めます。読み終わったら、あおいちゃんのサポートに従って必要な単語をクリックして抜き出していくだけ。
供述調書から被疑者のデータを作成する段階では、事件が起きた日時や被疑者の名前といった基本的な情報を探すだけなのでそこまで悩むこともありません。
最初に書類を読み込んでプレイヤーが単語を探すことで、事件の概要や登場人物の関係性が自然と頭に入るのも巧みな構造。被疑者と対峙する時にも、何を調べればいいのか自然とつかめてきます。アドベンチャーとしての作りかたがバツグンにうまい! さらに、意見書を作っている最中に新たな事実が判明したり、明らかに有罪の人間を無罪にせよと圧力がかかったり、同時進行でドラマが発生することも。
もちろん、どんな選択をするのかはプレイヤーしだい。無罪として処理した場合は警察内部での立場が悪くなるかもしれませんし、有罪にした場合は検察官からの心証が悪くなるかもしれません。選択によってクビになったり、もっと悪い結果を生んでしまうこともあるでしょう。それも、すべては自分の選んだ“正義”の結末。相棒の“あおい”ちゃんに支えられながら、警察人生が終わらないようにうまく綱渡りしていきましょう。
AIなのに、やたらと人の心理を衝いてくるような発言をする“あおい”。常に画面を動き回り、プレイヤーを陰で支える相棒のような存在です。
かばうべきか、起訴するべきか……成果主義のあいだで揺れる被疑者との対決
被疑者の情報が揃ったら、いよいよ対決。裁判所に意見書を提出するための最後の仕上げです。RPGのように被疑者と向き合い、法の解釈や判例に基づいて被疑者の罪状を判断しましょう。罪の重さも、被疑者の運命も、すべてはココで大きく変わることになります。
意見書の作成は判例や供述調書のなかから怪しいと思った文章や単語をつかみ、右側のボックスに当てはめていくだけ。供述の中に正解がない場合は、判例なども見ていきましょう。
相手が法律に違反している行動を取った。そう思えるなら供述調書のなかから怪しい行動をしている部分を抜き出し、判例や対応する刑法と照らし合わせて突きつけましょう。そうやって核心を突き、相手にダメージが入れば勝利に近づいていきます。
逆に相手が無実だと思えるなら根拠となる行動と判例を照らしあわせて、相手をかばってあげましょう。おっと、すみません。間違えました。“相手を無実にしたいなら”ですね。本当に無実である必要はありません。無実にしたい人間を無実にするのです。そう、求められているのは真実ではないのですから……。
意見書が完成したら、あとは裁判所に引き渡して司法の判断を仰ぎましょう。ここで重要なのは、裁判所からの評価です。上司におべっかばかり使って法的に間違った判断をくだしていると、法機関からの評価ランクが下がって警察を続けられなくなるかもしれません。法と現実の板挟み。巨大な政治力との駆け引き。正しく生きることは、かくも難しいものなのです……。
すべての結末を見届けて、物語の全体像を把握する楽しさ
インタラクティブに関わる意見書作成パートも楽しいものですが、本作最大の魅力は物語。AIのあおい以外は顔グラフィックもなく、被疑者も書面上にしか存在しない。同僚も会話やチャットでしかやり取りしない。それなのに、遊んでいると同僚の個性や被疑者の人生が垣間見えてくるんですよ。とても奥深い構造をした物語になっています。
社会の歯車として成果主義のなかで仕事をしながら、任務のために道徳心も捨て去ることは正しいのか。主人公の新人女性警部補・清崎蒼が遭遇する事件の結末は、彼女が取る行動次第で変わっていきます。ストレートにすべての事件を効率よく解決してハッピーエンドを迎えても、全貌は見えてきません。1周目を終えたとき、あなたはきっと混乱しているでしょう。バッドエンドを見たり、周回しながら同じ事件を別の側面から見ていくことで、このゲームの本当の恐ろしさが見えてくるのです……!
意見書の結果によって分岐していく物語。序盤で選んだ選択があとで響いてくることもあり、クビにされず最後まで生き抜くのはなかなかたいへんです。
自分が取らなかった選択を選んでみたり、正義を貫いて失職したり、ありとあらゆる可能性をすべて見たときに、このゲームが描いている恐ろしさが見えてくるでしょう。いろいろな意味で挑戦的かつ、素晴らしい“社会派ミステリー”です。
ゲームオーバー時や物語の区切りで出てくる意味深な格言。これらは、起きた事件の本質や成果主義が支配する本作の世界を風刺するような内容になっています。
韓国の法律や事件をもとにしているため、日本とは解釈や判例が異なる場合もありますが遊ぶうえでは問題なし。ゲームをプレイしていれば、自然と解けるようになっています。いったい何が“正義”で、何が“悪”なのか。この物語における“真犯人”は誰なのか。クリアーすれば、きっと複雑に絡みあうシナリオに込められた“祈り”と“痛み”が心に深く刻み込まれることでしょう。ゲームとしての遊び応えはもちろん、とても秀逸な社会派ミステリーとしてもオススメです。自分もSwitch版の発売を機に、もっと多くの方に遊んでもらいたいと思っています。ストレートに太鼓判を押したい傑作アドベンチャーなので、ぜひ遊んでみてください!
『リーガルダンジョン』ニンテンドーeショップページ