2020年に作曲家歴40周年、そして声優歴40周年をそれぞれ迎えた田中公平さんと日高のり子さん(※)。これを記念して、ファミ通.comではおふたりへのインタビューを行った。

 第1弾のお相手は、田中公平さん。40年間、ひたすら第一線で活躍し続ける田中さんの、ときに衝撃的で、ときにおもしろおかしい半生に迫る。

※日高のり子さんの“高”は“はしごだか”です。

日高のり子さんのインタビューはこちら!

田中公平氏(たなか こうへい)

『ワンピース』や『サクラ大戦』シリーズなど、アニメやゲームを中心に、数え切れないほどの有名楽曲を生み出した作曲家。ゲーム好きでも知られ、多くのゲームをプレイしている。(文中は田中)

40年間ずっと順風満帆な作曲家人生

――田中公平さんがアニメ音楽の作曲をはじめたのは1982年放送の『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』の挿入歌から。その後、『キン肉マン』や『エスパー魔美』、『ドラゴンボールZ』などの有名作にも関わられています。

田中長いことやってるねぇ。アニメに関わる前もすごくおもしろいですよ?

――これ以前はどんなことをされていたんでしょう?

田中CMとかのテレビの音楽とか、あとカラオケのコピーみたいなこともやってましたね。実際の曲を耳コピして。そのときにスタジオミュージシャンとコミュニケーションが取れたから、自分の作品を出す段になったときもうスタジオワークが完璧だったんですよ。いちからスタジオワークやるのはたいへんなんです。50人くらいいる前に立つと、「絶対馬鹿にされるな」って思っちゃうもん。

――アニメに関わる前の2年間の経験が活きているんですね。

田中私、いちばん聞きたいと思われるような話が提供できないんだよね。下積みのこととか、苦労話とか、ないんですよ。

――最初からずっと順風満帆だったと(笑)。

田中すごい嫌味でしょ(笑)。はじめて10年くらい経ってからはずーっと同じペース。毎年300日以上は働いてますね。でもいちばん働いてたときは休みなしで1000日働いたこともあったなぁ。正月3回超えたもん。

――バイタリティーがすごい……。

田中仕事がくるとうれしいじゃないですか。だから基本、アニメとゲームの仕事は断らないんだよね。日高のり子さんもそれは同じだと思うけど。そういうことをしてると、休みなしでずっと働き続けたりってことになっちゃう。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!

――アニメの作曲家の世間的な立場というのは、やはり1980年代当時と現在とでは違っていたんでしょうか?

田中私がアニメ業界に入ったときは、渡辺宙明さん(※)、菊池俊輔さん(※)、渡辺岳夫さん(※)、この3人でほとんどすべてのアニメの作曲をやっていたんですよ。主題歌から劇伴から何から何まで。

でも菊池さんには「君にはずいぶん(仕事を)取られた」っていつも言われてたね。私は「でも先生、『ドラゴンボール』は取れませんでした」って言って。ちょうど私がアニメ業界に入って少し活躍しはじめたころ、『ドラゴンボール』の編曲の仕事は私のところに来たんだけど、劇伴の作曲までは取れなかったんだよねぇ。そのあと『エスパー魔美』とか『21エモン』とか、以前だったら菊池さんがやってたような作品を私が担当したから、そのあたりからずいぶん嫌がられてたけどね(笑)。

※渡辺宙明氏:作曲家。『マジンガーZ』など、ロボットアニメ、特撮作品の作曲で有名。御年95歳の現在も『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』に楽曲提供を行うなど、精力的に活動。

※菊池俊輔氏:作曲家。『仮面ライダー』シリーズや『ドラえもん』シリーズの数々の名曲を作曲。『暴れん坊将軍』のテーマ曲でも有名。

※渡辺岳夫氏:作曲家。『巨人の星』、『アルプスの少女ハイジ』、『機動戦士ガンダム』ほか、代表作多数。テレビドラマや映画、時代劇でも多くの劇伴を手掛けている。

――でもお互いライバルとして認め合っていた、という関係だったのでは?

田中まあライバルというか、菊池さんは当時から大先生でしたから。あと渡辺宙明さんの言葉でいまも覚えているのが「君みたいな人が来てくれて業界はみんな喜んでる。ありがとう」って言ってくれて。だから、私もその姿勢でずっと居ようと思って、若い人が業界に入ってきたら「がんばれよ」って言ってるの。仕事あげたりして。それで菅野祐悟(※)とかに仕事あげたら、私の仕事までいっぱい取られちゃって。

※菅野祐悟さん:作曲家。『鉄腕バーディー』シリーズ、『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズ、『ガンダム Gのレコンギスタ』などが有名。

――あははは(笑)。歴史はくり返されると!

田中歴史くり返しとるよ(笑)。そういう感じで、3人でやっていたところに私が入ったんですよ。そういう意味では活性化したと思うよ。当時は劇伴に関して、少ない予算でたくさんの曲を収録するっていうのがアニメ業界の鉄則だったの。久石譲さん(※)なんかもそうですよ。久石さん、テレビアニメの作曲をやめるときに私の顔見て“にやっ”て笑って。それから今度は私に安い仕事がいっぱい来て。でもそのときたくさん数をこなせたのはその後のことを考えると良かったね。

※久石譲氏:作曲家。『風の谷のナウシカ』以降、数々の宮崎駿監督作品の劇伴を担当。ゲームでは『天外魔境II 卍MARU』や『二ノ国』シリーズなどに携わっている。

 で、やっぱりそのころは劇伴の収録環境はあまりよくなかったんですよ。安くたくさん録らなきゃいけないから、スタジオを長時間貸し切ってこだわって録るのは難しいし。だから、私から周囲の人に提案したのは「劇伴を売りましょうよ?」って。当時はCDじゃなくてレコードだったけど。ちゃんとお金をかけて作れば売れるに違いないからって提案して。それで『魔動王グランゾート』(1989年)とか『勇者エクスカイザー』(1990年)では無理言ってやってみたら、案の定売れたんですよ。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!

※画像は“魔動王グランゾート Blu-ray BOX”(Amazon.co.jpより)

 一度売れるとビジネスとして確立するから、それ以降もこの手法でやれるようになって。まあ私だけじゃなくて、和田薫くん(※)も同時期にそういうことやり出していたんですけど。川井憲次くんも『機動警察パトレイバー』(1989年)が売れてたし。そのころからちゃんと予算が掛けられるようになった。それでちょっと前まではすごい予算を掛けられて、いい仕事をみんなしてたんですよ。

※和田薫氏:作曲家。代表作に『犬夜叉』シリーズや『D.Gray-man』シリーズなど。

※川井憲次氏:作曲家。代表作に『めぞん一刻』、『ひぐらしのなく頃に』シリーズなど。

――“ちょっと前まで”というのは?

田中いまはまたどんどんCDが売れなくなってきてるからね。まあ『鬼滅の刃』みたいに予算がある作品はいまでもお金が掛けられると思うけど。『ワンピース』もそうだね。いまは作品によってメリハリをつけてる感じで、深夜アニメとかはほとんど打ち込みなんだよね、お金を掛けられないものだと。

『トップをねらえ!』での日高のり子さんとの出会い

――先ほど名前が挙がった『魔動王グランゾート』と同時期には『トップをねらえ!』にも携わられていますけど、同じく40周年を迎えた日高のり子さんに初めて田中さんが会ったのはこの作品で共演したときだったんですか?

田中トップ』のときの、ビクターの3階の練習室。私が先に部屋にいて、ピアノで『トップをねらえ!~ Fly High ~』を弾いてたの。そこに日高さんと佐久間レイさんが「おはようございます!」って入ってきて。僕は「わぁ~日高だ」って思った。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!

※画像は“トップをねらえ! Blu-ray Box”(Amazon.co.jpより)

――あははは(笑)。「あの人気声優だ!」みたいなことですか?

田中やっぱりこっちは知ってるからね。向こうは知らなかったと思うけど。それで音合わせして。あと『トップ』では歌入れのとき会ったくらいですね、確か。

 日高さんはねぇ、すばらしい。いま近くにいるから言ってるわけじゃなくて(※)、いつも褒めてるんだけど、彼女が来ただけで現場の雰囲気が変わるんです。『サクラ大戦』でも稽古場に来ただけでパッと明るくなる。そういう意味でも貴重な人ですね。

※このとき、日高さんは別室に待機していた。

――では出会ったときから、日高さんに対してはものすごく好印象だったってことですよね。

田中いやもうずっと好印象ですよ。あの人に悪印象持つとしたら、飲みに行ったときしゃべりすぎてうるさいってことぐらい(笑)。

――なるほど(笑)。ちなみにこれまでも「私たち同期ですね」みたいな話はしたことあったんでしょうか?

田中ああ、ありますよ。私が30周年のときに記念コンサートをやったんですけど、そのとき日高さんに司会をお願いしたの。そしたら、実際は29周年だったのよ。

――えぇ!? 数え間違いってことですか?(笑)

田中日高さんに指摘されたの。「公平さん、私たち同期のはずですよね? 私、今年29周年ですよ」って言われて。あれぇ? 計算違い? って。集まった2000人のお客さんの前に出ていってさ。「どうもすいません、29周年でした」って。“田中公平30周年記念コンサート!!”って書いてあるところで。全員コケたもんな(笑)。

――(爆笑)。

田中だから真の30周年にもう一度ちゃんとやったの。ヒドいよねぇ。そのとき私も日高さんと同期だって覚えたんだよね。

『サクラ大戦』シリーズでは550曲、すべて新しいことをやった

――では今度は『サクラ大戦』の話に移らせていただきたいのですが、田中さんはキャスティングには関わられていたんでしょうか?

田中それは広井王子さん(※)です。私はキャスティングに関わったことはないですね。『新サクラ大戦』の舞台のキャストさんは私がオーディションで選んでますけど、ゲームの声優さんはすべて広井さんがひとりで決めて、本人にお願いしてる。

※広井王子氏:アニメ、ゲーム、マンガなど様々な媒体の作品を手掛けるクリエイター。ゲームにおける代表作は『天外魔境』シリーズや『サクラ大戦』シリーズ。

――オーディションではないんですね。『サクラ大戦』シリーズの魅力というとキャラクターや世界観など、いろいろあると思いますが、作曲家の視点ではズバリどこが魅力だと感じていますか?

田中自分で言うのもなんだけど、『サクラ大戦』の魅力はやっぱり歌だと思いますよ。世界観を広井さんがまず魅力的に作ってくれたので、そこに合う歌っていうことで作ってるんだけど。あのころからリズム主体の音楽が増えていって、綺麗なメロディーっていうものをみんな書かなくなってきてたんですよ。だから若いファンの方たちに昭和歌謡、大正歌謡だけど古臭くない、いいメロディーっていうのを伝えたくて、ミュージカル要素がある作品を作ろうって広井さんと私で始めたのが『サクラ大戦』だったんですね。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!
作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!

――“歌を伝えたい”という想いがそもそもの根本にあったんですね。

田中それと、レッドカンパニー(当時)の若い人が考えてきたゲームシステムがあって。その企画と、広井さんと私で考えていた企画を合わせたんですよ。そこまでやって広井さんが“自分の仕事は終わった”みたいにしてたから私は「おいおい、ちょっと待て。あんた全部歌詞書きぃ」って言って。広井さん、「僕、歌の歌詞は書けません」って言うから、僕は「何言うてんの? あなたが世界観いちばんわかってるんだから書いてよ。歌詞の書きかた、全部教えるから」って言って。そのあとでものすごく細かく書いた指示書を渡して。こっちで直したりもしつつね。当時はFAXでやり取りしてたんだけど。

 作曲にあたって私が心掛けていたのは“同じことをしない”ってこと。たくさん書いてると、引き出しがなくなってルーティンワークになっていっちゃうんですよね。だから全曲絶対新しいものを書くっていうのをずっとやってたんですよ。だから『サクラ』をやってるあいだものすごく勉強したよ。サンバの曲とか依頼が来たらレコードショップでサンバのレコードを棚の端から端まで全部買ったり。いまは配信でも聴けるからいいけどね。

――キャラクターごとにイメージソングがまったく違いますからね。たくさんのバリエーション豊かな楽曲を作れるっていうのはそういう努力もあってこそなんですね。

田中歌入りのものだけで550曲ありますからね。BGMは1500曲ありますけど。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!
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――『新サクラ大戦』の『檄!帝国華撃団<新章>』では佐倉綾音さんの声質に合わせて作曲された部分もあったとのことですが、日高さんが歌っていた『サクラ大戦3』の『御旗のもとに』なども歌い手の声質に合わせた作曲などは意識されていたんでしょうか?

田中『御旗のもとに』は声質も考慮に入れたけど、まずは巴里っていう舞台ありきだったね。『サクラ大戦2』が終わって、「つぎは巴里です」って、会議室で言われたんだよ。「ゲキテイでやるの?」って聞いたら「いや、ゲキテイに替わるテーマ曲を書いてください」って広井さんに言われて。「ゲキテイよりも良くて、売れるやつ!」って。

――すごい注文ですね(笑)。

田中で、そのときはまだ日高さんは決まってなかったんですよ。だからたしか書き始めは日高さんの声はイメージしてなかったかな。ほかの巴里華撃団メンバーのキャスト、島津冴子さん、小桜エツコさん、井上喜久子さん、鷹森淑乃さんが決まったのはもっとあとだったし。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!

 曲を作ったあとに歌の振り分けをしたんだけど、あんまりハモりそうじゃないなと思って。みんな個性的すぎてね。(帝国華撃団の)花組もハモる曲はあまり書いてないんですけど、さくらの横山智佐さんと、マリアの高乃麗さんで二声の曲を書いたりはしていて。でもやっぱりみんながみんな個性的すぎるからってことで、大ユニゾンが多いのはそういうことですね。

 『新サクラ大戦』はキャストの声がいい感じに似てるんですよ。佐倉綾音さんと内田真礼さんはかなり近い。早見沙織さんは違いがハッキリしてるけどね。でも、山村響さんと福原綾香さんと、5人でいっしょに声を出すと、すごくマッチングするので、綺麗なハモりになるんですよ。だから『新サクラ大戦』の曲はハモりがめちゃくちゃありますね。

『未来(ボヤージュ)』にアフリカンミュージックの要素を取り入れた理由

――『サクラ大戦3』といえばオープニングのアニメーションのすごさもいまだに語り草になります。やはりご自身の曲にあの映像がついたときは驚きがありましたか?

田中あれはもう伝説ですよね。びっくりしましたよ。「いやぁ~、すげぇな!」って。CGかと思った立体的なシーンが手書きだって言われてまたびっくりしたり。さすがプロダクションI.G(※)って思ったよ。いま観ても衝撃ですよね? ゲーム史上最高のオープニングじゃないでしょうか。

※プロダクションI.G:『サクラ大戦3』のオープニングアニメーションを制作したアニメ制作会社。近年の代表作は『PSYCHO-PASS』シリーズや『Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』など。

――CMではフレンチカンカンのシーンで『未来(ボヤージュ)』が流れていたのも印象的でした。

田中『未来(ボヤージュ)』は実際にパリに行ってロケハンしたことが活きてできた曲ですね。パリって、移民がものすごくいる街だから、クラブとか見にいったら黒人さんも多いんですよ。アフリカンミュージックとかいっぱい掛かっていて。フレンチカンカンとかシャンソンは庶民とはいえ裕福な人たちの音楽だったりして、そういうのばっかりだとステレオタイプだよなって思ったの。それでああいう曲にしたら、スタッフ内でも意見が割れたんだけど、押し通した。

――そんなことがあったんですね。いやぁ、めちゃくちゃいい曲じゃないですか!

田中『サクラ大戦3』が出るときに私、ファミ通のインタビューで言ったもん。「君たちはエンディングを観て泣くだろう」って。「本当に泣きました」ってプレイした方からハガキもらったりして。日高さんのあのフレーズがいいんだよね。「こころに吹く風はあなたの愛の風 踊ろう笑顔でLast Dance またいつか会えるから」って。日高さんおいしいんだよあそこ(笑)。コンサート本番で歌ってもらうときはいっつも「ここおいしいんだから絶対はずさないでくれ~!」って祈りながら見てるの。

最先端のゲーム音楽づくりに挑戦した『グラビティデイズ』

――田中さんのゲーム音楽における近年の代表作といえば『グラビティデイズ』シリーズもあります。こちらは『サクラ大戦』の“太正浪漫”な世界観とはまったく違う、いわゆる無国籍風な世界となっていますが、やはり作曲面で意識することも違ってくるんでしょうか?

田中わりとこういうのも好きなんですよ。でも“不思議な雰囲気”って印象だけで曲を書くわけにはいかないから、すごいたくさん説明受けたよ。設定資料とか美術ボードとか全部見て、その説明もしてもらって書いた。『OVERMANキングゲイナー』(2002年)なんかも富野由悠季さんから「エクソダスとは!」とか2時間くらい話聞いたりしたけど、『グラビティデイズ』もそんな感じ。

※富野由悠季氏:『機動戦士ガンダム』シリーズの総監督・原作者。対談で挙がっている『OVERMANキングゲイナー』ほか、代表作多数。

 無国籍風って言ったら簡単だけど、それはけっきょくなんでそうなってるの? っていうのを理解しないとね。それで『グラビティデイズ』にしかない独特の雰囲気っていうのを目指して、一応成功したと思うんですけど。『グラビティデイズ』はSIEさんが力を入れていたから、もうちょっと売れてくれたらよかったんだけどね。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!
作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!
『グラビティデイズ』PS Vita版とPS4 Best Hits版。

――“日本ゲーム大賞2012”で大賞を受賞するなど、プレイした人からは非常に高い評価を受けています。

田中『サクラ大戦』も受賞してますけどね。

――名前が変わるまえの、1996年の“CESA大賞”のときの作品賞(現在の大賞)ですね。

田中そういう意味では関わった作品が大賞を獲ったのは『グラビティデイズ』が2本目なんですよ。自分がゲーム作家という意識はないんだけどね。でもアニメとゲームはわりと客層が似てるけど、違いはもちろんあって、ゲームの音楽は何度もくり返し聴くんだよね。とくにフィールドとか通常戦闘の曲がいちばん重要っていつも言ってるんだけど。ここの音楽がつまんなかったらゲーム自体つまんなくなっちゃう。だから『グラビティデイズ』の通常戦闘曲はすっごくいい曲ですよ。

――壮大かつ高揚感もある楽曲ですよね。

田中ドラムは川口千里さん(※)だし、トランペットはエリック・ミヤシロさん(※)だし。日本を代表する人ばかりが参加してるしね。作曲してるときは自分でやるなんて思ってなかったから、ライブで自分も演奏に参加することになったとき「なんだこの難しい曲、誰が書いたんだ?」って思ったけど(笑)。

※川口千里氏:幼少期からドラムの才能が話題になった若き女性ドラマー。『檄!帝国華撃団<新章>』や『ONE PIECE』主題歌『OVER THE TOP』でもドラムを担当している。

※エリック・ミヤシロ氏:ハワイ・ホノルル出身のトランペット奏者。アニメソングでは『めざせポケモンマスター’98』、ゲーム音楽では『ブレイブリーデフォルト』などに参加。

――あははは(笑)。ゲームで聴いていると、フィールドを歩いているときに流れている曲から、敵に近づくと戦闘曲にシームレスに移行しますが、あれを違和感なく行うための作曲上の工夫などはあったんでしょうか?

田中あれは戦闘曲を読み込んで、入れ替えるやつで、クロスフェードっていうんですけど。Aという敵キャラ用のBGMと、Bという敵キャラ用のBGMがあったら、それが同時に鳴っても違和感がないようにって考えて書いてますよ。クロスフェードで曲が入れ替わるとき、綺麗に聞こえるように、変に感じないようにって、それを3曲書いたの。もうたいへんだったよ、パズルみたいで。あれをサラウンドで聞こえるようにしたら絶対おもしろいって言ったんだけどね。そこまではできなかった。

 いちばん最初の打ち合わせのときに、アメリカの最先端のゲームだとそういうクロスフェードで違和感がない曲が主流になりつつあるってことで、じゃあ私も挑戦しようって。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!

――そういった発想は、ご自身でも最新のゲームをプレイされているから出てくるものですよね。

田中そうですね。どういうふうになったらプレイヤーとしておもしろいかなっていうのは考えてるわけですよ。たとえばRPGで5人のキャラクターが出てくるとして、全員のテーマ曲があって、単体でも成立するし、5人の曲が合わさっても成立するように書いたらめちゃくちゃおもしろいよね? 言ってみてたいへんそうだなぁとも思ったけど(笑)。でもそういうのやってみたいんだよね。

 昔『レナス 古代機械の記憶』(1992年)っていうゲームで、楽器ひとつひとつに旋律が割り振られていて、全部集めるとそれがひとつの交響曲になるっていうのを依頼されて、やったんだけど。ディレクターの柴尾英令くん(※)からのオーダーでね。

※柴尾英令氏:ゲームクリエイター。代表作は『レナス 古代機械の記憶』、『レガイア伝説』など。2018年4月、55歳という若さでこの世を去った。

――いまの技術でそれの発展型のような演出をやったらものすごいものができそうですよね。

田中たとえば“ベースが手に入った”というイベントがあったとして、その曲が「ブン、ブン、ブン」だったらしょうがないでしょ? ベースだけでも聴き応えのあるものにならなきゃいけないんだよね。そういうことをやろうとするときは、教養が役に立つんだよ。そこまで考えなくても作曲の仕事はできるけど、でもいざそういう依頼が来たときに昔ちゃんと勉強してたことが役に立ってるよね。

田中さんはどんな無茶ぶりにも応える、“業界駆け込み寺”!?

――そういったある意味、無茶ぶりみたいなものにも全部対応できるのが田中さんがずっと第一線で活躍してる理由としてありそうですね。

田中無茶ぶりばっかりよ(笑)。『ジョジョの奇妙な冒険』のアニメのときもすごかったもん。主題歌を担当する作曲家の候補の方がたくさんいたらしいんだけど、荒木飛呂彦先生がなかなか首を縦に振らなかったらしくて。最後に僕のところにきて「すみません! あと3日しかないんです!」って言われて。

――ええええ!?

田中それで「しょうがないなぁ」って書いたのが『ジョジョ 〜その血の運命〜』。一発で「はいOKです!」ってなって。

――あの名曲を3日で!?

田中もっとスケジュールがすごかった作品もあったんだけど、私は自分のことを“業界駆け込み寺”と言ってますから。どうぞ、しんどい仕事は私のとこに持ってきてくださいって。なんでもやります。

 そもそもいちばん最初の劇伴の依頼だった『夢の星のボタンノーズ』(1985年)が駆け込み寺案件だったんですよ。1週間後にレコーディングなんだけど、もともと依頼していた作曲家がやれないということになって、「公平くんやれない? 1週間後にオーケストラで76曲収録なんだけど」って。それを3日半で書いて、打ち込みも全部していって。収録の前日はちゃんと寝ていったよ。

 涼しい顔して現場に行ったから「なんやこいつ!?」って思われてたと思うよ。そのときにアシスタントをしていた佐々木史朗さん(※)が音楽プロデューサーとして偉くなってきたときに、『トップをねらえ!』を持ってきてくれたの。『天外魔境』シリーズで広井王子さんと会わせてくれたのも佐々木さん。

※佐々木史朗氏:音楽プロデューサー。株式会社フライングドッグ代表取締役。近年のプロデュース作品は『この世界の片隅に』や『マクロスΔ』など

――なるほど、そうやってつながっていってるんですね……。

2021年は応援してくれたファンへの“恩返しの年”に

――そろそろ最後の質問になりますが、40周年を迎えた現在の心境をお聞かせください。

田中あっという間に40年経ちました。アニメ・ゲームしかやらずに、ほかの仕事は全部断って。やっぱりここが私のフィールドだから。向いてるんだよね、この業界が。私の書ける曲と、彼ら、彼女ら、受け取る側の感覚がきっちり引き合ったからうまくいったんだと思うんですよ。40年間ずっと居心地よかったね。

 そういう意味でもいままでずっと応援してくれたファンとか、最近になってファンになってくれた方もだけど。私の曲をちゃんと聴いてもらう場を作りたかったので、ライブ・コンサートをいくつか準備してたんだけど、コロナで全部中止になっちゃって。2021年は、現時点で発表しているのは早見沙織さんとのジョイントコンサートだけですけど。これからほかにもいろいろ発表していく予定なので、改めて2021年は皆さんに恩返しをしたいと思っています。

作曲家歴40周年・田中公平氏ロングインタビュー。『サクラ大戦』&『グラビティデイズ』の裏話から、『ジョジョ』のあの名曲の秘話まで!

――日高のり子さんとともに活動40周年ということで、田中公平さんから見た、日高のり子さん像や、長くお仕事をともにしてきた中での変化などがありましたら、こちらも教えてください。

田中日高さんは本当に太陽みたいな人だからね。私もどちらかというと太陽属性の人間なんだけど。

――太陽属性(笑)。

田中ふたりとも太陽属性だから話したらものすごいおもしろいんだけど、疲れるんだよ……。だから会うのは1年に5回くらいでいいかなって(笑)。このところ連投なんだけど。

スタッフ このあいだ、日高さんの40周年ライブのときも対談ゲストとして田中さんに出ていただいたんですけど、収録がはじまったらずーっとふたりでしゃべり続けて。

――(笑)

田中打ち合わせ何もいらないからね。日高さんも私も放っておいてもいくらでもしゃべれる人だから。むしろ放っておいてくれたほうがおもしろくなる。

――このあと田中さんと日高さんの対談があって(電撃オンラインにて掲載中)、終わったら今度は日高さんにインタビューさせていただくんですけど、いまの話を聞いて対談が終わらなそうで心配になってきました。

田中いやいや、そこはふたりともプロですから(笑)。大丈夫です。

――わかりました(笑)。本日はありがとうございました!

日高のり子さんのインタビューはこちら!

[2021年2月18日23時45分修正]
記事初出時、渡辺俊幸さんと表記していた部分ですが、正しくは渡辺岳夫さんだったことが判明したため、該当の文章を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。