Bloober Teamより『The Medium』がXbox Series X|SおよびWindows 10向けに配信開始された。定価5850円[税込]のところ、発売記念セールで5265円[税込]での提供となる。Xbox Game Passにもラインアップされているので、加入者は追加料金なしで楽しめる。

『The Medium』紹介ページ

 2020年5月に配信されたInside Xboxで発表されて注目を集めた『The Medium』は、『Layers of Fear』や『Observer』、『Blair Witch』など、数々のホラーゲームを手掛けることで知られるポーランドのメーカーBloober Teamによる最新作。

 現実世界と精神世界のふたつの異なる世界を行き来できる霊能者のマリアンが、かつての共産主義国のリゾートに潜む、恐ろしい謎の真相に迫ることになる。

 『サイレントヒル』などでおなじみの山岡晃氏が、コンポーザーとして参加していることも話題となっている。

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『The Medium』がXSX|SとPC向けに配信開始。“ふたつの世界を、同時に生きる”Bloober Teamによる新機軸のサイコホラー

 今回『The Medium』の発売を記念して、Bloober TeamのリードゲームデザイナーのWojciech Piejko氏とプロデューサーのJacek Zięba氏にメールインタビューを実施したので、その模様をお届けしよう。

 おふたりは、『The Medium』の開発経緯やいかにこれまでにない取り組みをしているか、Xbox Series X|Sに最適化するにあたってのこだわりポイントなどを教えていただいた。また、今回コラボをするにいたった山岡晃氏との関係値のよさをうかがわせるようなエピソードも披露してもらっている。

 そもそも『The Medium』のもととなる企画は、CEOのPiotr氏と奥さんが10年以上温めていたとのことで、何回も始動しては頓挫して……をくり返してきたという。10年前からタイトル名も決まっていたとのことで(ちなみに、“Medium”は霊媒という意味)『The Medium』は、Bloober Teamの“夢が叶った”というか、執念で実現したタイトルだと言えそうだ。

『The Medium』がXSX|SとPC向けに配信開始。“ふたつの世界を、同時に生きる”Bloober Teamによる新機軸のサイコホラー
『The Medium』がXSX|SとPC向けに配信開始。“ふたつの世界を、同時に生きる”Bloober Teamによる新機軸のサイコホラー

Wojciech Piejko氏(写真上)

Bloober Teamリードゲームデザイナー
ゲーム業界歴は10年で、『observer』に参加。
レコードコレクターであり、プロのゾンビとのこと。
(文中はヴォイチェフ)

Jacek Zięba氏(写真下)

Bloober Teamプロデューサー
『Layers of Fear』や『observer』に参加。
仕事の後はポストロックバンド“Transmission Zero”のギタリストに転身。
ホラーゲーム、とくに『バイオハザード』シリーズと『ウォーハンマー40000』の大ファンとのこと。
(文中はヤツェク)

いまだ試みられていないスタイルをホラーゲームというジャンルに落とし込んだ

――『Layers of Fear』や『Observer』、『Blair Witch』など、数々のホラーゲームで知られるBloober Teamですが、本作はどのような経緯で開発されたのでしょうか? 従来のBloober Teamのホラーゲームと比較しての新機軸はどのへんになりますか?

ヤツェク私たちがこれまでに生み出してきたタイトルは、それぞれちょっとした進化をしてきましたが、中でも本タイトルは群を抜いており、革新的ですらあると感じています。一人称視点、三人称視点のカメラから固定、半固定のカメラアングルを織り交ぜた体験は『サイレントヒル』や『バイオハザード』などといった古典的なサバイバルホラーを彷彿とさせます。これまでのタイトルについては、世代に合わせて生み出すアプローチを変えてきましたが、『The Medium』にはいままでのタイトル以上の情熱と愛情を込めています。私たちにとって、本タイトルは長年の夢を実現する、かつてない機会だと思っています。

ヴォイチェフ端的にいえば、ふたつ世界が織りなす物語性でしょうか。この要素を本タイトルの主軸に、これまでにない体験を目指しました。もちろん、ジャンル的にはこれまでと同様に心理ホラーではありますし、Bloober Teamならではの作品を生み出すためにもストーリーとナレーションに多大な力を注ぎましたが、ゲームとしてはこれまで以上に重厚に仕上げています。アドベンチャー形式でありつつアクションに依存しないのは変わらずで、過去のタイトルとは比べものにならないほど仔細に練り上げられており、やり込み要素もふんだんに用意しています。

ヤツェクこれまでのタイトルと比べると差は歴然です。「なるほど、彼らはゲーム作りへのアプローチが根底から変わったんだな」と思えるだけの進歩がそこにはあります。

『The Medium』がXSX|SとPC向けに配信開始。“ふたつの世界を、同時に生きる”Bloober Teamによる新機軸のサイコホラー

――現実世界と霊界を行き来する二重世界のゲームシステムを採用した理由をお教えください。

ヤツェクゲームシステム自体は構想として十年近く存在していました。CEOであるPiotr Babienoとその奥様が社内で度々挙げていたのを記憶しています。

ヴォイチェフ私とヤチェクがBloober Teamに参加する以前から構想自体は存在していたと聞いています。

ヤツェクこのプロジェクトに関しては、社内で動きがあるたびに、それに付随する形で構想の実現を目指してさまざまな試みが行われ、プロトタイプが作られていました。最終的にいまとなってプロジェクトが本格化した理由としては、いまだ試みられていないスタイルをホラーゲームというジャンルに落とし込むことで、まったく新しい体験を生み出したいという意欲が勝ったからなのです。

 プレイヤーにとってはいまだ見ぬ新鮮な体験になり、なおかつタイトルの特色や主人公の視点をより強く押し出すことにも大きく貢献しています。主人公は霊能力者ですから、ふつうの人とは物の見えかたがまるで違っていて、独特でなければなりません。そこで、ふたつの世界を同時に存在させることで、独特な視点を実現しようという流れが生まれました。もっとも、生まれたはいいのですが、ふたつの世界が重なったゲームなど、20年ほど前に発売された任天堂の某タイトル以外は誰も作ったことがなく、参考になる資料もまったくありませんでした。『ソウルリーバー』や『タイタンフォール』といった時空を飛び越える作品もありますが、ふたつの世界に同時にキャラクターが存在するタイトルというのはなかなかありません。

 結果的に、このタイトルの開発には既存の知識はまるで役に立たず、ありとあらゆる作業を根本から作り直し、ときには暗闇をあてもなく彷徨うことになりました。そうした道筋を辿ったからこそ、私たちは、完成形に辿り着いた『The Medium』には自信があります。

ヴォイチェフ『サイレントヒル』シリーズに登場する表世界や裏世界との違いですが、『The Medium』のふたつの世界のあいだには強力な相互作用が仕組まれています。そのため、目的を達成するために世界どうしが干渉しあうことを上手に活用しなければなりません。すでに動画をご覧になったかと思いますが、通常世界の時計の針を動かすことで霊界に変化を起こし、その隙に安全に活動できるようになったり……というのが分かりやすいでしょうか。ほかにも世界間の干渉が起きる要素が本タイトルには大量に散りばめられており、こうした点がこれまでの作品と比べた際に本作の特異性を感じられる部分だと思います。

ヤツェクもちろん、霊界の成り立ちに関しても独自性があります。ポーランド、ひいてはヨーロッパの誇る終焉の画家、ズジスワフ・ベクシンスキー氏の作品をモチーフに生み出されたのが本タイトルの霊界であり、これもほかの作品との大きな違いのひとつになるでしょう。

――本作を開発するにあたって、とくに注力したポイントをお教えください。

ヤツェク先ほどお話しした通り、もともとは上司のPiotr Babienoとその奥様であるMarlenaが、“ふたつの世界を、同時に生きる”作品の骨子をアイデアとしてお持ちでした。その時点で、『The Medium』というタイトルも決まっており、いつか叶えたい夫婦の夢として『The Medium』はふたりの熱心な取り組みに応える形で定期的に浮上をしては試行錯誤の後に、技術的、性能的な側面から実現が難しいと判断され凍結されていました。今回の本格的な取り組みに至る前には、数多くの試作と検討が行われてきました。私たちが抜擢されたときは、「今度こそ!」と意気込みつつ、作品としての質を高め続けることに力を注ぎました。

ヴォイチェフ前述のとおり、本タイトルの初期構想はヤチェクと私がBloober Teamに参加する前から連綿と引き継がれてきていました。多くの試行錯誤の末、もし実際に開発に着手するならプラットフォーマー型の作品として世に出そう、という話だったのを記憶しています。そこから方向転換を行ってフル3Dでの可能性を模索していたこともあるようです。そこからいくらかの停滞があり、最後は『Observer』の開発がある程度落ち着いた段階でボスに声をかけられ、“ふたつの世界に同時に存在する、ひとり主人公”というテーマに興味を持った私たちが現在の形まで開発を進めてきました。私たちは、過去の試みのよかった点を上手に汲み取りながらここまで進んでくることができたと思っています。

『The Medium』がXSX|SとPC向けに配信開始。“ふたつの世界を、同時に生きる”Bloober Teamによる新機軸のサイコホラー

――本作はXbox Series X|S向けに最適化されていますが、とくにこだわった点や「Xbox Series X|Sだからこそこんなことができた」といった点をお教えください。

ヤツェクSSDの採用は大きいですね。PCでもHDDにゲームをインストールしてプレイすることは可能ですが、開発者側から言わせてもらえれば、SSDを使用してプレイしたほうが間違いなくよい体験になると思っています。Xbox Series X|Sがゲーム開発に与えてくれる柔軟性や自由度のおかげで、本当に表現したいものが表現でき、ダウンスケールなどもせずに済んでいます。Xbox Series Xでは4K解像度にレイトレーシングによる描画が行われ、Xbox Series Sでは解像度に手を加えたうえで極力見た目がXbox Series X版と変わらないようにしています。

ヴォイチェフ私から挙げるとしたら強力なGPUとCPUでしょうか。『The Medium』のプロトタイプ自体は4年ほど開発を続けていましたが、旧世代のコンソール機では残念ながら膨大な情報を処理しきれずにいました。セルシェーディングを使ったりすることで画質を単純化するといった妥協ももちろん可能でしたが、それでは求めている作品から遠ざかることになりますから。ふたつの世界をこれだけの品質で実現できるのは性能を含めたすべてが最高水準な次世代コンソールだからこそです。

ヤツェクSSD、GPU、CPU。この辺りが非常に重要であることは間違いないですね。

ヴォイチェフ複数の世界をレンダリングするには非常に複雑な手順を踏みます。『マリオカート』シリーズのようにひとつの世界に複数のカメラを配置する仕組みでは『The Medium』を実現することはできないため、本タイトルではふたつの世界にそれぞれひとつのカメラを配置しています。言わば、4K解像度でふたつのゲームを動かしているようなものですね。

『The Medium』がXSX|SとPC向けに配信開始。“ふたつの世界を、同時に生きる”Bloober Teamによる新機軸のサイコホラー

――山岡晃氏がコンポーザーとして本作にかかわっていますが、山岡氏が参加することになったいきさつを教えてください。

ヴォイチェフ『The Medium』の開発が本格化しはじめたとき、ミッションステートメントに「『サイレントヒル』を彷彿とさせるシリアスなアドベンチャーゲームを作りたい」と書き記しました。それがボスであるPiotr Babienoの目にとまり、山岡さんとコンタクトを取ったうえで興味を持っていただいていると知ったときは、チーム一同興奮してしまいました。山岡さんに作曲していただければ、それだけ『サイレントヒル』に近づけると思いましたから。

 東京で山岡さんに『The Medium』のプロトタイプをお見せする機会があり、気に入っていただけるか内心心配していましたが、大変気に入ってくださって。クラクフにある私たちのスタジオまでお越しになって、作品についてのより深い話し合い、ストーリーのアイデア、雰囲気やゲームプレイを通して訴えかけたい感情についての会話が連日行われました。霊界のモチーフとなったズジスワフ・ベクシンスキー氏の美術館にも行き、作品の世界観をより深く理解いただけるように努めました。美術館とはいえ、中はかなりおどろおどろしい雰囲気で、真っ暗な屋内に作品だけを照らすスポットライトがところどころに置いてあるだけなんです。BGMには死や絶望、終焉をうかがわせるようなものが多く選ばれていますね。美術館からの帰りに、山岡さんが「なるほど。こういう物を作りたいのですね」とおっしゃっていたのを記憶しています。

 彼はその後日本に戻り、ムードトラックをいくつか作曲してくださり、Bloober Team専属の作曲家であるArkadiusz Reikowskiと会うためにポーランドに改めてお越しになり、本格的なコラボレーションを行っていました。新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミック発生以降は、遠隔での共同作業を行いつつ完成を目指されていました。

『The Medium』がXSX|SとPC向けに配信開始。“ふたつの世界を、同時に生きる”Bloober Teamによる新機軸のサイコホラー

ヤツェク山岡さんは非常に親しみやすい方で、ともに働いていると次第に気心知れた同僚のように思えてくるんです。数々の伝説的な作品を手掛けてきた方ではありますが、仕事をするに連れて長年連れ添ってきたチームの一員であるかのように皆が感じていました。

ヴォイチェフポーランドにお越しいただいた際、仕事終わりにはいろいろな場所に行きましたね。街の案内や観光もともに大いに楽しみました。

『The Medium』がXSX|SとPC向けに配信開始。“ふたつの世界を、同時に生きる”Bloober Teamによる新機軸のサイコホラー