ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。元ファミ通.comニュース班のキモ次郎がおすすめするタイトルは、Nintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One用ソフト『ヘッドライナー:ノヴィニュース』です。

【こういう人におすすめ】

  • ふだんニュースを見る人
  • ふだんSNSを見る人
  • コロナ禍に生きるすべての人

キモ次郎のおすすめゲーム

『ヘッドライナー:ノヴィニュース』

  • プラットフォーム:Nintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One
  • 発売日:2019年12月12日
  • 発売元:コーラス・ワールドワイド
  • 開発元:Unbound Creations
  • 価格:デジタル版/1455円[税抜](1600円[税込])、 Nintendo Switch、プレイステーション4パッケージ版/3980円[税抜](4378円[税込])
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え、この原稿ボツっすか?

 『アルゴスの戦士 はちゃめちゃ大進撃』は、テクモ(現コーエーテクモゲームス)から1987年に発売されたファミコン用ソフトである!

 今回はこの作品の魅力について熱量たっぷりに紹介していっちゃおうと思う!なお、30年以上前のタイトルだが、Nintendo Switch用ゲーム集“ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online”のラインアップに含まれているので、現在でも気軽に遊ぶことができるので安心してほしい。

 まず、どう考えても最高なのが各地にいる仙人および闘神インドラたちだ! 上半身裸のハゲヒゲマッチョが座禅を組みながらアイテムや攻略のアドバイスを与……え、この原稿は載せられない?

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】
マジで最高なゲームなのに!

 いやでも、Fさん(ファミ通.comのベテラン編集)からの依頼内容は「年末年始企画で、ファミ通.comの編集やライターが好きなゲームをレビューする企画をやるんだけど、キミもなにか書かない?」でしたよね。だから書き始めたわけです。小学生のときから好きな『アルゴスの戦士 はちゃめちゃ大進撃』のレビューを。

 ほんとこのゲームはマジでヤバいんです。だって、ボス戦になると音楽が止まって、獣の咆哮音だけが鳴り響くんですよ! これが演出なのかそれとも単純に容量の問題なのかは知らないけど、とにかくめちゃクールなのは間違いないわけで、子ども心に「こいつはマジでヤバいな」と幼い股間のオルゴンを熱くし……あ、はい、もうやめます。

編集の醍醐味とは選択と必然性の検討である(ドヤ顔)

 というわけで、冒頭から我ながら寒々しいことこのうえない&長ったらしい茶番をくり広げてしまったわけだが、もちろんこれにはちゃんと意味がある。

 ひとつは、誰がなんと言おうと『アルゴスの戦士』はアーケード版より“はちゃめちゃ”なファミコン版のほうが最高であるという事実の周知。もうひとつは、日ごろ読者の皆様が目にしているニュース記事はすべて、それが伝えるに値するものであるかどうかが、しっかり“選択”されているということの周知だ。

 今回の例で言えば、『アルゴスの戦士 はちゃめちゃ大進撃』はどう考えても最高なゲームだし、与えられたお題も“好きなゲーム”だから僕の選択は間違ってはいないのだが、令和3年のファミ通.comでそのレビュー記事を掲載する必然性はどこにもない。だから、編集のFさんはボツという選択をしたのだ。

 “ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online”での配信開始直後だったら、数ミリの必然性はあったかもしれないが、それでも基本的には新作ゲームおよび業界ニュースを伝えるメディアのファミ通.comで掲載するのはキビシイ。でも、発売○周年や、続編発表、TikTokで闘神インドラのポーズが大流行! などの情報が加わっていたら、途端にレビュー記事掲載は現実味を帯びてくるはずだ。

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】
なんか文字だらけになってしまったので、一旦ここで、本記事のテーマである『ヘッドライナー:ノヴィニュース』の画像をお届けします。

 そんな感じに、ある情報について扱う理由や必然性を考えて、メディアの方針に沿って選択(あるいは除外)することは、編集の仕事において重要なポイントのひとつであり、醍醐味でもあると僕は考えている(もちろん、VIPインタビューなど取材できたこと自体が強固な掲載理由となるケースもあるが)。

 無難な選択をすれば、それなりの反応は得られるだろうが、それなり以上にはならない。逆にチャレンジブルな情報の選択に確かな必然性が描ければ、バズる可能性は生まれる。

 ただし、チャレンジには失敗が付きものなことを忘れてはいけない。バズった情報の足元には数えきれないほどのズッコケた選択が転がっているし、ときにはズッコケすぎて炎上を引き起こすこともあるのだ。

 もし仮に編集のFさんがとんでもないポンコツで、僕が何も考えずに書いた『アルゴスの戦士 はちゃめちゃ大進撃』レビューを何も考えずに掲載していたら……必然性のなさに読者は混乱するだろうし、何かしらの邪推からファミ通.comが炎上する危険性もあった。

 いやはや、Fさんがポンコツな編集者じゃなくて本当によかった……って、いつまで経っても本題に入らないことにイラついている読者の方も多いと思う。

 でも、僕としてはずっと『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビューを書いていたつもりだ。

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】

 つまり、ここまでにぐだぐだと述べた(僕のなかでの)編集の醍醐味――掲載する記事の選択および除外、必然性、ミスしたときのリスク――を、『ヘッドライナー:ノヴィニュース』は追体験させてくれるのだ。

マルチエンディングだが、たぶんトゥルーエンドはない

 プレイヤーは架空の国“ノヴィスタン”で発行される新聞“ノヴィニュース”の編集長となり、同紙に掲載するニュースを選択する。それを14日間続けるだけのゲームだ。極めて単純でシンプルなゲームシステムだが、プレイヤーが体験する物語は極めて複雑でシンプルではない。

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】

 まず、ノヴィスタン国はさまざまな問題を抱えている。

 健康保険の国営化の是非、危険性が噂される合成アルコール飲料の存在(困ったことに発売元の飲料メーカーは新聞社の有力なスポンサーだったりする)、相次ぐ凶悪犯罪とドローンによる市民の監視強化、強いリーダー像を強調する首相と緊張する外交関係、そして国全体に広がる原因不明の病。

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】

 さらに、プレイヤーが編集長を務める“ノヴィニュース”が国家および国民に与える影響力は異常に強い。

 どれくらい強いかというと、掲載するニュースの選択を終えて帰路につくと、はやくも街中にそのニュースの影響が現れているほどだ。合成アルコール飲料を「二日酔いの心配がない最高のパーティードリンク!」と絶賛すれば道にはハッピーな状態の人が現れ、犯罪抑止のための監視強化を訴えればドローンが人々を追従するようになる。だから健康保険や政権の話題に触れるときは十分慎重にならなければいけないし、選択をミスったときのリスクはズッコケや炎上なんて生易しいものではなく、人々の未来すらも左右する恐れがある。ポンコツではいられないのだ。

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】

 そして、現実世界がそうであるように、すべての問題にはハッキリとした正解がない。

 本作は掲載するニュースの選択によって物語が分岐するので、マルチエンディングを採用している。しかし、ストーリーを4周した限り、いわゆるトゥルーエンドってやつはなさそうだし、自分が見たエンディングはすべてバッドエンドにしか思えない内容だった。

『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビューを掲載する必然性は?

 ……と、ここで唐突に話の腰を自分から折るが、ぶっちゃけ、ここまでに紹介した内容は、ファミ通.comをはじめ、さまざまなゲームメディアでさんざんこすられてきたものばかりで、我ながら目新しさに欠ける。これ以上レビューを書き続けても既存の記事を超えられる内容になる自信もない。

 だから、ちゃんとしたレビュー記事はここでやめにして、ググッと方向転換をすることにした。

 詳しいゲーム内容が知りたい人は、以下の記事をチェックしてほしい。

 『ヘッドライナー:ノヴィニュース』が日本発売されたのは1年以上前(2019年12月12日発売)だ。また、レビュー記事が複数存在することからもわかるとおり、“知られざる名作”というわけでもないのである。

 記事の冒頭にてドヤ顔で述べた“編集の醍醐味”とやらに照らし合わせれば、いま本作を紹介する必然性はまったく見当たらないのだが(※)……プレイをすればするほど、僕は本作に対して「“いま”紹介しなければ!」という使命感にも似た気持ちを抱くことになった。

コロナ禍によってノヴィスタン化した現実世界

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】

 本記事を執筆している2020年12月29日現在、東京における新型コロナウイルスの感染者数は火曜日としては過去最多の856人を記録した。前週比で約300人の増と、感染拡大は収まりそうにもない。さらに、海外発生した変異種が日本国内でも見つかった、なんて不穏なニュースも目にした。

 誰もが報道を注視し、その内容に世論は揺れ、政治は混乱を続けている。ネット上に目を向ければ“新型コロナはただの風邪”や“ウイルス兵器”といったうんざりするしかないデマや、無責任極まりない楽観論が目に入ってくる。

 人類の歴史上、ここまで情報との向き合い方を強く意識させられる時代があっただろうか。少なくとも僕は、スマホを10分も触れば情報の海で遭難しそうになってしまう……そして、そんな世の中だからこそ、僕は『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビューを載せることに必然性があると感じるのだ。

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】

 同作の物語が現実世界の状況に即しているから、というのは言わずもがなだが、重要な必然性のひとつだ。発売時期を考えれば“国全体に広がる原因不明の病”なんてギミックは予言的ですらある。とは言え、エンターテインメントコンテンツの多くは世相と無関係ではいられないから、プレイしていてゾクッとさせられる瞬間はあるものの、それが『ヘッドライナー:ノヴィニュース』の本質ってわけじゃない。

 僕が本作を遊んで「こいつはマジでヤバいな」と感じたのは、本来はゲーム的な嘘として機能しているはずの“ニュースの選択を終えて帰路につくと、早くも街中にそのニュースの影響が現れている”というシステムが、いまや現実世界において嘘ではなくなってしまっている点だ。

 感染者数の発表とともにSNS上には人々の嘆きがリアルタイムで流れ、根拠薄弱な新型コロナ対策グッズの情報に踊らされた人々が買い占めに走り、Twitterのトレンド欄には危機感に欠ける政治家を糾弾する言葉が並び、ときにそれは“ソーシャル・ディスタンス時代”のデモ行進になる。

コロナ禍のいま『ヘッドライナー:ノヴィニュース』のレビュー記事を書く意味【年末年始おすすめゲームレビュー】

 “リアルな映像表現”や“リアルな物語”ってのはゲームを評価する際の常套句だが、それに倣って『ヘッドライナー:ノヴィニュース』を評するなら、本作は“リアルなシステム”が魅力のタイトルだ。

 コロナ禍によって現実世界は、社会情勢的にもシステム的にもノヴィスタン化しているように、僕には思える。そしていまは、SNSの存在によって誰もが“ノヴィニュース”編集長のように、自分で情報を選んで広く発信できる時代だ。誠実で賢明な読者・発信者であるための指南書として、『ヘッドライナー:ノヴィニュース』を遊ぶのは悪くない選択であると、僕は思う。

 あと、どう考えても最高なゲーム『アルゴスの戦士 はちゃめちゃ大進撃』を夢中で遊べば、不要不急の外出も控えることができるはずだ。

 とりあえず、2021年もゲームで引き続き生き延びよう。

※TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の2020年12月10日放送分にて、『ヘッドライナー:ノヴィニュース』が紹介されたばかりなので、世間の注目が再び高まっているという点においては紹介する必然性はあったし、じつを言えば僕も同放送がきっかけで本作をプレイしたのである。

ファミ通.com編集者&ライターによる年末年始おすすめゲーム