スタジオアートディンクが新ゲームブランド“G CHOICE(ジーチョイス)”を設立。今後、世界に向けてゲームコンテンツを発信していくことを明らかにした。新ブランド設立の狙いと今後の戦略は? 同社の代表取締役社長 矢島良一氏に話を聞いた。
矢島良一氏(やじま りょういち)
スタジオアートディンク 代表取締役社長
(文中は矢島)
推したいと思ったタイトルを、世界に向けて発信していく
――“G CHOICE”のことをうかがう前に、まずはスタジオアートディンクさんのことを教えてください。
矢島スタジオアートディンクは、現在10人程度のスタッフの会社となりますが、対外的には“少数精鋭のゲーム業界の熟練集団です”と言っています(笑)。設立は2001年で、約20年間にわたって受託開発を中心に、あらゆるゲームプラットフォームのゲーム開発に携わっています。社名からもご想像がつくかもしれませんが、もともとはアートディンクさんと業務提携の関係にあったのですが、2年前に現在の親会社であるアイティエルホールディングスの傘下になりまして、そのときから受託事業のほかに、パブリッシング事業を強化していこうという方針を定めました。ちなみに、現在もアートディンクさんとは良好な関係を築いていますよ。
――今回、新ブランドを立ち上げた理由は?
矢島親会社の傘下になって地歩も固まってきて、当初の方針であるパブリッシング事業の強化に取り組むことになったのですが、パブリッシングブランドがあったほうがいいのでは、と考えたんです。スタジオアートディンクは、来年創立20周年を迎えるのですが、“世界に向けてゲームコンテンツを発進する”との意気込みのもと、“G CHOICE”として展開することにしました。
――どのような戦略を据えているのですか?
矢島基本的には、実力のあるデベロッパーやクリエイターさんが手掛ける魅力あるゲームコンテンツを、日本に限らず世界に向けて発信していくという方針でいます。“G CHOICE”の“G”は、ゲーム(game)のGであり、グッド(good)やグローバル(global)のGでもあります。“すぐれたゲームをチョイスして広めていく”ということで、ブランド名を付けました。
――ブランド名は決意表明のようなものでもあるのですね。
矢島そうですね。「このブランドで売っていくぞ!」という意気込みでいます。
――スタジオアートディンクのタイトルは、今後すべて“G CHOICE”で販売するのですか?
矢島そうですね。スタジオアートディンクには、さきほどお話した受託開発の部署のほかに、開発スタッフを派遣したり、ゲーム業界に特化した講師派遣業務などもおこなっているのですが、自社のゲームパブリッシングはすべて“G CHOICE”に集約させます。言ってみれば、ファーストリテイリングさんにおけるユニクロのような感じでしょうか。
――それはわかりやすい(笑)。では、タイトルセレクトはどのような方針なのですか?
矢島まずは、インディーゲームやリメイクものを中心に考えています。いま、ゲーム業界は二極化していて、莫大な予算をかけて大きなタイトルを作るか、個性的なタイトルをしっかりと育てていくかという方向性になっています。しかも、いまインディーゲームにはキラリと光るタイトルも増えています。さらに言えば、さきほどお話した通り、私たちは熟練集団なので、“目利き”揃いなんですね。すぐれたタイトルを“チョイス”してくれるものと期待しています。一方で、彼らは自分たちでもやりたがる傾向がありますが……。
――といいますと?
矢島メンバーの中には、開発者もいるので、「できれば、自分たちでもやりたい」という声も多いんですよ(笑)。外部の方と打ち合わせをしているときに、あるスタッフが「じつは僕はこれをやりたいんですよ」みたいなことを言い出して、「聞いてないよ~」とびっくりしたこともあります(笑)。
――それはガッツがありますね(笑)。
矢島スタッフは、みんな心の中に自分のタイトルがあるらしく……。みんないいアイデアを持っているんですよ(笑)。ですので、“G CHOICE”は、社外のタイトルと、社内の提案をあわせて検討しています。社内のオリジナル企画でもいいものであれば当然検討しますし……ということで、そのへんはフラットに判断します。先日、“G CHOICE”ブランドとして2タイトルを発表させていただきましたが、その前段階で5、6タイトル検討する段階では、社内のオリジナルタイトルも含まれていました。非常に見どころのある企画だったのですが、「いま展開するタイトルではないかもね……」ということで保留になっています。
――では、数年後にリリースされる可能性も?
矢島あると思います。
――ブランド発表後、2タイトルを発表されましたが、“G CHOICE”で発売することにした経緯をお教えください。
矢島『魔女の泉3 Re:Fine ―人形魔女、『アイールディ』の物語―』は、韓国で非常に知名度のあるインディーメーカーのKiwi Worksさんが開発したスマートフォン向けアプリ『魔女の泉3』を、Nintendo Switch向けに移植したタイトルとなります。数年前に、知り合いの韓国の会社の方にKiwi Walksさんを紹介していただいて、「パッケージで自分たちのタイトルを出してみたい」という強い気持ちをうかがっていたんですね。であれば……ということで、うちのプロデューサーに見せたところ、「ストーリーとキャラクターがいいです!」と、大乗り気になりまして。ではやってみようかということで、発売を決意しました。数年前から動いていたプロジェクトで、実際のところ“G CHOICE”をやっていくことになった、きっかけとなった一本ですね。
――このタイトルとの出会いがあったからこそ、“G CHOICE”を立ち上げる気になったということで、それだけ皆さんが惚れ込んだ作品ということですね?
矢島そうです。もう1タイトルの『ワンダーボーイ アーシャ・イン・モンスターワールド』も、そもそもは知り合いから紹介されたタイトルなんですよ。本作は、メガドライブ版が1994年にリリースされた『モンスターワールドIV』のフルリメイクタイトルでして、ちょうど『ワンダーボーイ』が世界的に話題を集めていることもあり、いけるのではないかということで、展開を決定しました。
――本作の推しポイントは?
矢島開発元であるウエストンビットエンタテインメントに所属していた、もとオリジナルメンバーによるリメイクであることです。ディレクターである西澤龍一さんがかつてのメンバーを集めて、いっしょに作っているんですよ。
――往年のメンバーが集まってリメイク版を作るというのは、ロマンがありますね。
矢島そうですね。皆さんベテラン揃いで、オンラインで打ち合わせをするときも、おじさんの顔がずらりと並んでいる感じです(笑)。本作に関しては、国内のパッケージ版およびダウンロード版の販売は弊社が担当して、海外はININ Gamesが担当します。ちなみに本作は、LLPを作って取り組むタイトルでもあるんですよ。
――LLPですか?
矢島リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ (LLP)ですね。複数の企業が出資をして参加するという、アニメでいうところの製作委員会のようなものです。ゲーム業界ではあまりやらなくて、パブリッシャーが全部負担することが多いのですが、LLPを採用するのはうちの親会社の方針でもあります。“いっしょにお金を出し合ったほうが、よりよいモノづくりができるし、よりみんなで利益を分け合える”という発想です。
――それは興味深いですね。
矢島実際のところ、新鮮な発想が生まれる反面、参加グループが大人数の場合は、意見の取りまとめがたいへんということもあります。『ワンダーボーイ アーシャ・イン・モンスターワールド』のLLPには10の企業や個人が参加しているのですが、基本全員の合意が必要になります。極端な話をすれば、ゲームのテイストを変えるだけでも全員の承認を得ないといけないんですよ。なかにはゲーム開発のことをあまりご存じではない方も参画しているので、さすがにすべて合意にするのはあまりに非効率だから……ということである程度は委任になったのですが、“船頭多くして船山に登る”みたいなことになっていて、そこをどうするかは、今後の課題でもありますね。
――やることによってノウハウが蓄積されるということはあるでしょうね。ところで、両作ともパッケージ版をリリースするようですが、こだわりが?
矢島いま、どんどんダウンロードタイトルが増えているなかにあって、ファンアイテムとしてパッケージ版を出したいという思いはあります。ただ、何も付いていないモノではなくて、何か付加価値を付けて、ファンの方に喜んでもらえるような“コレクターズアイテム”的なパッケージをやっていきたいです。記念になって残すことができるものですね。ただ、“G CHOICE”としては、パッケージ版にこだわっているというわけでもなくて、ケースバイケースで見定めていきたいです。
――今後のことを聞かせてください。これから“G CHOICE”をどのように展開していく予定ですか?
矢島年間1タイトルから2タイトルは出していきたいです。ジャンルに囚われるわけではなくて、そのときにいいゲームと巡り会えれば、それを出していくことになると思います。そのときどきで、推しの強いプロデューサーたちと、「これはいい!」というタイトルを決めていく形でやっていきたいですね。いずれにせよ、私たちが選んだタイトルが、皆さんのもとへ届いて楽しんでいただければ、それに勝る喜びはないですね。
G CHOICEタイトルはコチラ!
スタジオアートディンクでは、“G CHOICE”ブランドとして、現時点で2タイトルを発表している。両作とも、パッケージ版とダウンロード版でリリースされる。
魔女の泉3 Re:Fine ―人形魔女、『アイールディ』の物語―
“G CHOICE”ブランド第1弾タイトルとして、12月17日にNintendo Switch向けに発売予定の魔女育成RPG『魔女の泉3 Re:Fine ―人形魔女、『アイールディ』の物語―』。同作は、韓国のデベロッパーKiwi Walksによるスマートフォンアプリ『魔女の泉3』を家庭用ゲーム機向けに展開するタイトル。 オリジナルデザイナーの手により、キャラクターグラフィックを全面的にリニューアルしているほか、新規のイベントビジュアルやエピソードを追加。あらゆる要素をフルリファインしている。
ワンダーボーイ アーシャ・イン・モンスターワールド
1994年にメガドライブ向けにリリースされた『ワンダーボーイ』シリーズの最終作『モンスターワールドIV』のフルリメイク作。同作のグラフィックをフル3Dにしてビジュアルを大幅に強化。プレイ内容もより洗練されたものになるという。シリーズ初の、アーシャにはキャラクターボイスも付く! 対応プラットフォームは、Nintendo Switch、プレイステーション4、Steamで、2021年早春の発売を予定している。