2020年8月6日に発信された任天堂の決算短信によると、2240万本とシリーズ歴代最高のセールスを達成してますます勢いに乗る、Nintendo Switch用ソフト 『あつまれ どうぶつの森』(以下、あつ森)。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
神田明神が公開するマイデザイン“みこさんのまいしょうぞく”。

 筆者が『あつ森』ゲーム内で身に着けているこちらの巫女装束は、マイデザイン機能を利用してダウンロードしたものなのですが、とっても可愛くないですか? 巫女装束自体はゲーム内で買える洋服でもラインアップされているのですが、こちらのマイデザインの巫女装束は千早(巫女服の上から羽織る神事に用いられる装束)もデザインされているのがすごくイイ……。

 こちらのマイデザインを公開しているのは東京・秋葉原にある神社、神田明神です。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
“みこさんのまいしょうぞく”以外にも、祭りの半纏や浴衣や狩衣などの神社らしいマイデザインが揃います。

 『あつ森』の機能のひとつである“マイデザイン”は、自分で描いたデザインを洋服にして身に着けたり、家具にデザインを貼り付けたり、地面に敷いて道を作ったりすることができ、作品のIDを公開・ダウンロードすることによって、誰でもそのデザインを使用可能です。

 最近ではアパレルブランドや飲食メーカーなどのいろいろな企業が広報手段として『あつ森』を取り入れ、マイデザインの公開などを行う流れができていました。

 しかし、神社が公開するマイデザインというのは史上初なのではないでしょうか……!

 しかも神田明神が公開しているのはマイデザインだけではありません。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
ポイントは夏の無料アップデート第2弾(7月30日配信)で追加された、さまざまな人の島の夢を行き来できる“夢番地”。

 神田明神は期間限定で夢番地を公開しています。ゲーム内で神田明神に行けるだけでなく、そこでは夏の恒例行事“納涼祭り”が再現されているのです。

かんだみょうじん島 ゆめみ解放期間
8月28日(金)~9月30日(水)

かんだみょうじん島 ゆめみの夢番地
DA-0760-0601-9410

神田明神 X あつ森 納涼祭り

 まずは上記の“神田明神 X あつ森 納涼祭り”紹介動画をご覧ください。実際に神田明神を参拝したことがある方ならわかると思うのですが、非常に再現度が高く、ガチ感を感じるのです……。実際に筆者も夢番地機能を使い、“かんだみょうじん島”にお邪魔しました!

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】

 夢番地を通じて、かんだみょうじん島の納涼祭りに到着~!! ちなみにこちらの納涼祭りの文字と神紋のマイデザインはダウンロードもできます。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】

 参道を通って、神社の入口に到着! こうして楼門に提灯が出ている状態は納涼祭り独特なんですって。

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 境内にはたくさんの屋台が出ており、ヤグラの周りでは納涼踊りに興じる人の姿が浴衣を飾ることで再現されています。

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 境内に用意された花火を楽しむこともできます! 神社内で手持ち花火をする機会ってないから新鮮です。これはゲームだからこそできるやつ!

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 御拝殿も再現されていました。用途の違う家具を御賽銭箱に見立てています。それっぽくてすごい……。

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神馬のあかりちゃんもいる!

 神田明神の神馬のあかりちゃんがちゃんといるんです! ディティールが細かいな~。

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神馬のあかりちゃん(「神田明神 X あつ森 納涼祭り」Youtube動画より)。

 色もあかりちゃんにぴったり! あかりちゃんは“スプリング遊具”という家具で再現されているのですが、これは島ごとに色が違うマイル家具なので、ほかの島から取り寄せるなりしている可能性があります。めちゃくちゃ凝っているしやり込んでいる……!

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】

 今年はこのコロナ禍でお祭りをはじめ、花火大会など人が集まる夏っぽいことは軒並み中止な状況。夏らしいことをほとんどしていない筆者にとっても、『あつ森』の中でお祭りを満喫できて、とってもうれしい体験でした!

 平成14年から頒布しているお守り“IT情報安全守護”や、さまざまなアニメコンテンツとのコラボ、納涼祭りで行われているアニソン盆踊りなど、新しいことに果敢に挑戦している神田明神。伝統を大切にする神社はともすると保守的なイメージも付きまといますが、それを差し引いても“神社っぽくない”。

 神田明神のことを以前から知っていると「神田明神がまたおもしろそうなことやっているぞ!」という感想が出るのですが、どうして今回『あつ森』を活用するに至ったのでしょうか。気になったのでインタビューをさせていただきました!

かんだみょうじん島について神田明神にインタビュー

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】

 神田明神(正式名称は神田神社)は東京都千代田区・外神田に鎮座する神社で、神田、日本橋、秋葉原、大手丸の内、旧神田市場、築地魚市場という東京の中心の108町会を鎮守する氏神様です。ご祭神は大己貴命(おおなむちのみこと)、少彦名命(すくなひこなのみこと)、平将門命(たいらのまさかどのみこと)。

 神田明神の神職であり広報担当でもある、権禰宜(ごんねぎ)の加藤哲平氏に話を伺いました。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
取材はビデオ会議のシステムを使って行いました。右側は本記事の担当編集者。

加藤哲平(かとうてっぺい)

神田明神の広報担当。役職は権禰宜。文中では加藤。

――なぜ納涼祭りで『あつ森』を活用するのに至ったのでしょうか。

加藤もともと神田明神は氏神(同じ地域に住む人々が共同で祀る神様)と、氏子(氏神様が鎮守する地域に住む人々)の関係としては、“秋葉原の氏神様”となります。そういうこともあり、積極的に秋葉原の文化を取り入れ、秋葉原の街といっしょに発展していこうという意味を込め、昔からいろいろなものとコラボレーションを行っています。

 平成に入ってからはさまざまなアニメコンテンツとコラボレーションしておりまして、有名になったのは『ラブライブ!』ですが、古くは野村胡堂さんの小説『銭形平次』。こちらはテレビドラマにもなりまして、境内に碑もあります。

――アニメコラボだけではなく、昔からいろいろな取り組みをされてきたんですね。

加藤かんだみょうじん島を作った大きな理由のひとつに、5年前から毎年行っている納涼祭りがこのコロナ禍で中止となったことが挙げられます。それでも、少しでも皆様に納涼祭りの雰囲気を味わってもらいたい。この状況下で、安全に皆様にお祭りに来ていただくためのツールとして、『あつ森』で神田明神の納涼祭りを表現させていただきました。

――納涼祭りが行われるようになったのは意外と最近なんですね。納涼祭りとはどんなお祭りなのでしょうか。

加藤もともとお盆時期は近隣の会社さんもお休みで、境内が閑散とするんですよね。そこで、先代の宮司といっしょに何か参拝客が神社に来てくれることができないか考えました。そもそもお盆は仏教行事です。ですので盆踊りではなく“納涼踊り”をやろうと。

 ですが、納涼踊りだけじゃ神田明神らしさは出せないという話になり、秋葉原の氏神様ということで付き合いのあったスポンサーにもご協力いただき、アニメコンテンツも交えたイベントになりました。納涼踊りを中心に、いろんな小さなイベントが納涼祭りという枠組みの中で行われているというイメージです。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
毎年盛り上がる納涼祭り(「神田明神 X あつ森 納涼祭り」Youtube動画より)。

――納涼踊りを中心として、近隣の秋葉原の方々と作っているお祭りなんですね。

加藤そうですね。さらに納涼踊りにも“神田明神らしさ”を出そうということで、アニソン盆踊りを取り入れました。通常の盆踊りですと、ひとつの団体がリードして行う形がほとんどなのですが、神田明神の納涼祭りは3日間ありまして、それぞれリードする組織が違うんです。

――と、言いますと?

加藤1日目はアニソン盆踊りに特化した方々にお願いしてリードを取ってもらう。2日目は、神田明神の氏子地区は神田地区と日本橋地区に分かれているのですが、(神田地区の)千代田区を代表する団体の方々である“千代田区民踊連盟”の先生方。3日目は中央区にある浜町音頭保存会。こちらは日本舞踊がもとになっていて、浜町音頭は生歌で踊るんです。三味線とか太鼓以外の楽器も用いられるので、独特の盆踊りだと思います。

 三者三様の3日間まったく違う盆踊りを踊ることができるので、盆踊りを踊る盆ダンサー、盆踊ラーの方々にもたいへん好評です。まだ5年目ですけど、1年目2年目からたくさんの方々に来ていただいて、すっかり定着したところでした。

――伝統もアニソンも……3日間参加しても新鮮に楽しめるんですね。それにしても屋台とかヤグラとか、お祭りの空気がばっちり再現されていますよね。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
ココナッツジュースの屋台に、タコ焼き屋台に、金魚すくいも……。

加藤屋台は毎年40店舗ぐらい出ますね。ヤグラがふたつあるのは納涼祭り独特です。ひとつはふつうのヤグラで、もうひとつは特設LED付きヤグラなんです。技術協力していただいている会社さんに、筒状の大きなLEDにいろいろなシステムを盛り込んで頂いて3年前から活用しています。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
かんだみょうじん島にはヤグラがふたつありますが……。
『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
実際の納涼祭りでは、ヤグラのうちひとつはLEDヤグラです(「神田明神 X あつ森 納涼祭り」Youtube動画より)。

――LEDヤグラ……! かんだみょうじん島を公開したとき、周りの反応はどんな感じでしたか?

加藤好意的な反応が多かったです。先日小学校が神社に見学に来たんですが、『あつ森』の話をしたらみんな知っていて、『あつ森』きっかけで神田明神を知ってくれた子もいました。うれしかったですね。

――『あつ森』の影響力、すごいですね!

加藤ほかの神社さんからは「おもしろい」、「さすが神田明神さん」みたいな感じで声をかけていただくことが多かったです。変わっていたのがお寺さん。直接宮司宛に連絡があり、「たいへんおもしろいと思うので、自分のところでもこういうものを作りたいけどどうしたらいいのか」みたいな問い合わせがありました。

――おもしろいですね~!

神田明神で『あつ森』をやる意味

――神社のお祭りって、神様に感謝をお祭りという形で捧げるものだと思うんですけど、こういうデジタルな形でもいいものなのでしょうか。

加藤それはいちばん難しいところで、私個人的にはバーチャルの参拝は意味合い的によくないと思っています。そんな中、なぜ『あつ森』がすばらしいかというと、これは“ゲーム”なんです。ゲームの中には、崇敬する神様はいないというのがはっきりしています。『あつ森』に関しては“納涼祭りを楽しんでもらう”という側面だけでできるのでぴったりだと思いました。

 これがバーチャル空間の中で、神様を崇敬するような形だとまた話が違ってきます。リアルな神様がいて、中でお願い事をして、とかだったら問題が出てくるだろうと思っていました。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
ゲーム内では神様を模した御尊像もマイデザインで再現されています。

――そういえば任天堂はニンテンドーアカウント利用規約の中で、“政治的または宗教的な主張を含むもの”は禁止されていますよね。

加藤今回はあくまでも宗教的目的とか勧誘が目的ではなく、納涼祭りの再現という観光PRに近いものなので、いち神職としては宗教的利用に当たらないと考えています。

――話を伺っていて、“今回のかんだみょうじん島施策は納涼祭りだったからこそ実現した”のかなと思いました。たとえばこれがほかのお祭りだったら、またニュアンスが違う気がして。

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加藤私もまさにそれを思っていて、かんだみょうじん島はいろんな事情が偶然に重なってできたものだと思っています。(ITやゲーム文化が盛んな)秋葉原の氏神様だったというのもありますし、違う地域だったとしても意味合いが変わっていたと思います。納涼祭りというのがまさに秋葉原の士気を上げるイベントとして育ってきた中で、『あつ森』というコンテンツとぴったり合っていた。神田明神でやる意味がちゃんとあるんです。

――要素がひとつ欠けても成立しなかった、というのがこの“かんだみょうじん島”だったんですね。すごいなあ。

秋葉原の街といっしょに進化してきた神田明神

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】

――神社の中でも神田明神がこういう形で進化してきたことを不思議に思っていまして。秋葉原の氏神という土地柄なのか、氏子の方々の性質やそこに集まる人々の性質なのか……。

加藤そのすべてじゃないですかね。当社は奇抜なことばかりしているわけではなく、氏子の皆さまの崇敬があって成り立っていますので。伝統的なものを守る保守的な部分もしっかりあるし、大事にしているからこそ、一見突飛な、現代に合わせた物事もできます。

――伝統などを守る基盤がしっかりあるからこそ、新しいことにも挑戦できるんですね。

加藤守るべきものをしっかり守ってるからこそ、新しく見えることがある、というように私は思います。

 おもしろいのが、“車祓い(交通安全祈願)”は全国の神社で当たり前に行われていますけど、車自体は古いものではないんですよね。伝統というものは時代とともに作られるもの。神社にお参りに来る人はあくまでも現代の人ですので。納涼祭りもいまは5年目ですけど、今回活用した“ゲーム”も100年、200年経ったときにまた違う形に進化していると思いますし、その頃には伝統になっているかもしれない。

――車祓い、たしかに……! 神社も時代にあった形で進化しているんですね。

加藤そうですね。この神田明神の土地柄というのがいちばん物語っているのかなと思います。日本のトップ企業や最先端の企業さんが大手町に、IT関係は秋葉原、職人気質の人が多い神田地域、老舗の日本橋……その特色をすべて皆様に支えてもらっているので、そういうのもすべて現在の明神様のありかたにつながっているのかなと。

『あつ森』で再現した神田明神について神職さんにインタビュー。伝統を重んじるからこそ、“かんだみょうじん島”は実現できた【あつまれ どうぶつの森】
かんだみょうじん島の夢から覚めた筆者。

 最初は「神社が『あつ森』!? すごい!」という好奇心から興味を持ちました。しかし、実際に話を伺ってみると、新しいことに挑戦するだけではなく伝統をしっかり守り、現代に合わせてアップデートを続ける姿勢が明らかになり、秋葉原という街とともに歩む神田明神の今後がますます楽しみになりました。『あつ森』で再現された納涼祭りは本当にクオリティが高く、『あつ森』の持つアイディア次第で無限に再現ができるところ、ゲームの持つ影響力などをうまく活用してらっしゃるなあと思いました。

 100年、200年後には本当にゲームが伝統になっているかもしれないと思うとワクワクします。

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