2020年9月23日~27日(23日はオンライン商談のみ)に開催される東京ゲームショウ2020 オンライン。新型コロナウイルスの影響により、史上初めてオンラインでの開催となった東京ゲームショウは、いったいどのような内容になるのか? 一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の事務局長 山地康之氏を直撃した。

山地康之氏(やまじ やすゆき)

一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)
事務局長

オンライン開催のメリットを最大限に活かす

――東京ゲームショウ2020がオンライン開催に決定するまでの経緯を教えてください。

山地東京ゲームショウは、毎年2月にメディアや関係者をお招きして開催概要を発表するのが通例でした。ところが、今年のその時期は、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が懸念され始めたころでしたので、発表会は実施せず、リリース発信に留めていました。その後、ご存じの通り3月に東京オリンピックが延期になり、4月に入って緊急事態宣言が発令されました。この段階では、9月に30万人規模でのリアルイベントの開催は難しいかもしれない……という認識ではいました。

――たしかに、2月以降状況は徐々にきびしくなってきましたね。

山地さらに5月に入って緊急事態宣言が延長されたことで、リアルでの開催はきびしく、オンラインでの開催を発表させていただきました。毎年多くのファンの皆さんに東京ゲームショウを楽しみにしていただいておりましたので、リアルな形での開催を断念するというのは、非常に苦しい決断でした。しかし、東京ゲームショウを楽しみにしてくださっている皆さんに何かできることはないかということで、オンラインイベントとしての開催を決断しました。そもそもゲームはデジタルコンテンツですから、オンラインイベントとの相性がよいのでは……と考えたのがきっかけになっています。

――オンライン開催を決定して、どのような方針で進めていくことにしたのですか?

山地東京ゲームショウは1996年のスタート以降、今年で24年目となるのですが、言うまでもなく初めてのオンライン開催となります。この規模のイベントがオンラインで開催されるというのは、世界中を見渡してもまだ多くの事例がないと思うんですね。それで、どうしたらいいか、私たちも手探り状態でした。世界中のほかのゲームイベントも、軒並みオンラインでの開催が発表されていますが、まだ、具体的な開催実績はほとんどない状態で先例がありませんでした。

――gamescomなどもオンラインになっていますが、開催はこれからですね。

山地そんな中で考えたのは、オンライン開催による“メリット”でした。これまで東京ゲームショウは、7年連続で20万人を超えるお客様にお越しいただいているのですが、そうは言っても首都圏の方を中心にご来場いただいておりました。これまでも、全国や海外を含めてたくさんのお客様にご来場いただきたいということはアピールしてきましたが、これがオンライン開催となると、場所を選ばないことからも“よりたくさんの方に楽しんでいただける”というという点は、積極的に訴求していくべきポイントだと判断しました。“距離”を気にしなくていいということですね。

――たしかに、遠方の人でも楽しめますね。

山地もうひとつのメリットは会場の制約がなくなることです。東京ゲームショウでは、ここ数年幕張メッセのすべての会場を使い切っているのですが、それ以上の出展社にご応募いただいていて、入り切らない状態でした。それが、オンラインになることで、スペースの制約がなくなるんです。

――出展したい企業にとってはうれしい話ですね。

山地はい。時間についても同様のことが言えます。これまでは、展示ホールは午前10時から午後5時までの開催時間だったのですが、そこはオンライン開催であれば、フレキシブルにできると思っています。たとえば、欧米地域向けのコンテンツであれば、欧米時間に合わせて遅い時間に展開することもできますし。距離、場所、時間の制約がないということが、オンライン開催で意識したところです。

――オンライン開催のメリットとデメリットを見極めて、それに見合ったプログラムを用意するということですね。

山地その通りです。そのうえで、お客様が何を目的にして東京ゲームショウにいらっしゃるのか……ということを考えました。重要なのは、やはり“最新タイトルに触れられること”だと認識していますので、そこは意識しました。今回メインとなるコンテンツとして、“主催者番組”ということで、番組形式で各出展社の最新情報をお届けするプログラムを考えています。これは、従来一般公開日に行っていたステージイベントや各メーカーのブースでのイベントを番組形式にして、順次メインチャンネルで流していくスタイルだと表現するとわかりやすいかもしれません。いままでですと、時間が被ってどちらかしか見られなかったとか、会場が混雑して移動で間に合わないことがあったかと思うのですが、オンライン配信では、これを計画的に整備することで、お客様は順番を追って番組を見られることになります。

――番組は何チャンネル用意されるのですか?

山地3つの公式チャンネルを予定しています。ひとつは、おもに出展社のプログラムを配信するチャンネル。ふたつ目は、毎年恒例となっているインディーゲームを紹介する“センス・オブ・ワンダー ナイト(SOWN)”や日本ゲーム大賞 アマチュア部門 授賞式などをお届けするチャンネル。3つ目は、eスポーツ競技会の“e-Sports X”を配信するチャンネルです。いずれにせよ、視聴者の方がストレスなくチャンネルを視聴できるような番組表を作る予定です。“ゴールデンタイム”と称する時間帯を設定して、多くの視聴者の方が見たいと思われる番組が被らないような時間分けをしたりですとか、先ほどもお話した通り、海外の方が見やすいコンテンツを海外時間に合わせて配信したり……ということも考えています。

――海外向け配信は日本時間の深夜に放送したりすると?

山地詳細はこれから発表させていただく予定なのですが、たとえば海外でとくに人気の高いタイトルを使用したeスポーツは、海外の方が見やすい時間帯に放送することで、より多くの視聴者に喜んでいただけるといった展開をしていく予定です。

――ところで、今後ゲーム関連のオンラインイベントが複数開催される予定ですが、どのような差別化を図っていますか?

山地実際にまだゲーム関連ではこの規模のオンラインイベントが類を見ないため、差別化を図るというアクションは行っていません。あえて差別化という観点で言うと、これまで同様に9月下旬に開催するというのが、すでにひとつの大きな差別化ではありますね。年末商戦前に世界中でいくつか大きなゲームイベントがありますが、ホリデーシーズンに向けて、タイミング的にも新情報を発信しやすいのが、東京ゲームショウの最大の強みですし、このタイミングでしか出せない情報が多いです。オンラインになっても会期を変えなかったのは、それを考慮したからです。オンライン開催なので自由度は高まったのですが、各ゲームメーカーもそれまで東京ゲームショウに合わせてプロモーションの計画を練っていたかと思いますので、そこは変えなかったんです。そこはこだわりです。

東京ゲームショウ2020 オンラインはどうなる? 24年の歴史で初のオンライン開催の方針をCESA事務局長に聞く_01

Amazonでの物販によりさらなる盛り上がりを図る

――先日Amazonでの物販の取り組みも発表しましたね。

山地はい。今回オンライン開催にあたってのひとつの大きな取り組みとして、東京ゲームショウの特設サイトをAmazon内に開設させていただくことにしました。東京ゲームショウにおけるAmazonでの物販は今回が初めてで、この取り組みを通して、東京ゲームショウの公式サイトとAmazonの特設サイトがスムーズに行き来することが可能になります。気になったゲームやグッズがあったら、簡単に購入することができるわけです。

――会期中はさらなる集客が期待できそうですね。

山地これは私の個人的な感想になってしまうのですが、AmazonはECサイトで消費者と直接接しており、私たちよりもユーザーとの距離も近く、それだけゲーム産業に期待していただけているのかなと。今回のAmazonが象徴的ではあるのですが、ゲーム業界以外からもゲーム産業や東京ゲームショウに対する期待が集まっていることを実感しています。

東京ゲームショウ2020 オンラインはどうなる? 24年の歴史で初のオンライン開催の方針をCESA事務局長に聞く_03

――配信番組などに対する各ゲームメーカーからの反響はけっこう大きい感じですか?

山地私たちが想定した以上に反響は大きいですね。配信番組に対しては、各出展社がみずからのチャンネルでも発信されると思いますので、その配信番組も東京ゲームショウのサイトにリンクを貼るなど広がりが予想されます。もちろん、ご自身で発信力のあるメーカーも多いかと思いますが、東京ゲームショウにはいろいろな人がネットに集まってきますから、そこでいままで自社コンテンツを知らなかった方にも興味を持ってもらえる可能性があるんです。それは、リアルであってもオンラインであっても変わることはないです。むしろ、オンラインのほうがより多くの方に気軽に見ていただける可能性が高まるかもしれません。そういう集客力は、やはり東京ゲームショウには期待されているようです。

――東京ゲームショウの開催に向けて盛り上がりは、例年と比べても変わらない感じでしょうか。

山地そうですね。ちなみに、配信番組は持たなくても、特設サイトに“出展社”という形で、自社タイトルなどを展開することは可能です。こちらに関してはすでに100社以上の申し込みがきています。イメージとしては、バーチャル会場にステージイベントとして番組が3チャンネルあって、いままで会場で展開されていたブースが、サイト上に広がっているといった感じでしょうか。番組をご覧になりながら各出展社のサイトを閲覧したり、配信中の番組に視聴したいものがないときは、サイトを回遊したり……といった楽しみかたをすることで、いままでご自身が計画を立てられたスケジュールを、より確実にこなすことができるようになりますね。

――オンライン開催に対するユーザーの反響をお聞かせください。

山地私自身、SNSなども含めて皆様のご意見に目を通したのですが、「残念です」という声も多かったのも事実ですが、「しかたがないですね」と、ご理解を示してくださる方が大半でした。一方でただ、距離的な兼ね合いからこれまで参加いただけなかった方にも楽しんでいただけますし、オンラインならではのイベントに期待するポジティブなご意見もたくさんいただきました。

――オンライン開催に対する手応えはありそうですね。

山地そうですね。リアルな場でコミュニケーションを取って楽しむといったことは、今回は残念ながら諦めざるを得ない状況でした。一方で冒頭でお話ししました通り、ゲームはデジタルコンテンツということもあって、考えかたを変えればオンラインイベントとの相性は悪くないはずなんですよ。今後はテクノロジーや通信技術がさらに進化していきますので、今回はそこまではいかなかったのですが、これからオンラインイベントもさらに進化していく可能性は十分にあると思っています。私としては、来年は幕張メッセでリアルなイベントを開催したいと、切に願っています。ただ、今年オンラインで取り組んでみてよかった部分に関しては、来年以降に向けて積極的に盛り込んでいきたいです。オンラインのメリットを大いに追求しつつ、ハイブリッドな形での開催を追求していくべきだろうなと思っています。

――ちなみに、9月23日に“オンライン商談”を設けた理由は?

山地ご存じの通り、これまでB to Bのビジネスマッチングは専用ブースを設けて展開してきました。海外の関係者にとって、複数回の出張の負担を考えると年に一度のタイミングで東京ゲームショウの時期に訪れる方が多かったです。それは海外展開を目指す国内の関係者にとっても重要なタイミングと思います。従来ですと、ビジネスデイも2日間あったので、どこかのタイミングでミーティングをセッティングすることが可能でした。ただ、今回はオンライン開催となりますので、海外との時差も考慮しないといけなくて、時差を勘案するとこれまでのスケジュールだと時間が短くなってしまうんです。そもそも、北米も欧州も夜の時間帯だとなかなかビジネスの商談はできないので、時間が実質短くなった部分をカバーするために、一日増やした感じです。

――最後に、東京ゲームショウ2020 オンラインを楽しみにしているユーザーにメッセージをお願いします。

山地毎年、東京ゲームショウには多くの方にお越しいただいているのですが、皆様いろいろな目的を持っていらっしゃっています。それはおそらく今年も変わらないと思いますが、皆様のいろいろな目的や楽しみかたに合ったコンテンツを揃えていますので、オンラインでじっくりと楽しんでいただけるとうれしいです。

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