3gooから2020年8月20日にNintendo Switchとプレイステーション4向けにリリースされた『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』は、顔面岩を転がして、障害物を突破しながら敵の城門を破壊することを目指すタワーディフェンスアクションだ(プレイステーション4版はパッケージ版も同時発売)。
同作は、奇抜なユーモアとストーリーが特徴となっており、たとえばストーリーひとつとっても、「トロイア戦争に勝利したギリシャ神話の英雄・オデュッセウスによる長く辛い旅路『オデュッセイア』に着想を得て、オデュッセウスの航海が、あきれるくらい面白おかしく展開します」(リリースより)という具合だ。
圧倒的なビジュアルインパクトを持つ顔面岩といい、奇抜なストーリーといい、思わず「クセがすごいんじゃ!」と判断停止に陥ってしまいそうだが、見た目に惑わされず(?)ゲーム性はしっかりしているようで、本作は、2011年に『Rock of Ages』が、2017年には『Rock of Ages 2: Bigger & Boulder』と順調にシリーズを重ねてきたフランチャイズの3作目。
日本では、2013年に1作目の『Rock of Ages』が発売されたものの、2作目はリリースされておらず、シリーズとしては、7年ぶりのお目見えとなる。本作の原題は、『Rock of Ages 3: Make & Break』なのだが、邦題に“3”がないのはそのためだ。念のためにお伝えしていくと、もちろん本作から初めてプレイしても何の問題なく、純粋に新作として楽しむことができる。
さて、そんなクセの強い本作を開発したのは、チリの開発スタジオACE Team。今回、共同創業者であるアンドレ・ボルドゥー氏に取材をする機会を得た。
ちなみに、ACE Teamは2007年に創業されており、主要メンバーとなるのは、カルロス(Carlos)、アンドレ(Andres)、エドゥムンド(Edmundo)の三兄弟。スタジオ名の“ACE”は、彼らの頭文字から取られているという。仲よき兄弟でスタジオ設立というと、最近だと記者は『Cuphead』のモルデンハウアー兄弟を思い浮かべてしまうが、同じ時間や感情を濃密に共有した者どうしが共同作業すると、ビジョンが共有しやすく、いいモノができるのかしら……などということをぼんやりと考えつつ、お話を聞いてみた。
『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)前例のないタイトルだったので試行錯誤のくり返しだった
アンドレ ・ボルドゥー氏
ACE Team プロジェクトリード
――日本では1作目の『Rock of Ages』が2013年にリリースされてから、シリーズ作としては7年ぶりとなります。改めてとなりますが、『ロック・オブ・エイジス』シリーズができた経緯を教えてください。
アンドレ兄弟間では、“つねに新しいゲームを作りたい”ということを話しています。本作のきっかけになったのは、レストランで「マルチプレイのゲームを作りたいね」という話をしたところから始まっています。双子の兄(エドゥムンド)が、レストランにある紙ナプキンを使って、左側に山と巨石を、右側にお城を書いて、「巨石でお城を壊すゲームを作ろう」と言い出したんです。それで、「どうしようか」ということで作られたのが、スタート地点でした。
――レストランの紙ナプキンから始まったのですね。
アンドレ私たちは、ゲームデザインを考えるときは、つねに突拍子もないところから作っていくことにしているのですが、オリジナルのコンセプトはもっとアクションと格闘的な要素が強いものでした。「さすがにこれだとニッチすぎるからもっとカジュアルにいこう」ということになって、いまの形に落ち着いていったんです。
――それが、どうあのような印象的なビジュアルになったのですか?
アンドレ兄弟3人が、『空飛ぶモンティ・パイソン』(※)がすごく好きで、「あの世界観で何か作りたいたいね」ということになったんです。
※イギリスのコメディグループモンティ・パイソンが制作したコメディ番組。1969年から1974年まで放送
――もしかして、ゲーム性などもモンティ・パイソンの世界観に影響を受けている?
アンドレそうです。奇抜なユーモアやストーリーを含めて、すべてモンティ・パイソンの世界観でやっています。3作目となる『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』では、ギリシャ神話の英雄・オデュッセウスがメインキャラクターで、冒頭では、彼が洞窟に閉じ込められて羊を使って脱出するといったストーリーが展開されますが、そのへんも逐一モンティ・パイソン風を散りばめた感じになっています。
――岩に顔をつけることにしたのもモンティ・パイソン風です?
アンドレテリー・ギリアム(※)が描く超現実的なイラストがファンタジーで、それをゲームに取り入れたいという話はしていましたね。あと、本作は『ロック・オブ・エイジス』ということで、あくまで主人公は“ロック(岩)”なので、それを特徴づけたいとの思いもありました。
※モンティ・パイソンのメンバーのひとり。
まあ、キャラクターが岩であって、人間ではないというところで、みんなが思い入れを持てるような設定にしたかったというのはあります。ゲームを進めるモチベーションを高めるためにも、岩にパーソナリティーを持たせたかったんです。
――最初に「もっとカジュアルにいこう」という方針にしつつも、結果として万人に受ける感じのビジュアルでもないような気が……。
アンドレえーと、最初に“いままでにないゲームを作りたい”ということで開発をスタートしたときは、明確なアイデアはありませんでした。それがゲーム性を練り上げていく過程で、「特別なものができた」という手応えがあり、シリーズ作としてつながっていくことになりました。
こういう話があります。アメリカにピーナッツバターとジェリーのサンドイッチという有名なサンドウイッチがありますよね。これはご存じのように、二枚の食パンにピーナッツバターとジェリー(ジャム)を塗って食べるサンドイッチです。ピーナッツバターとジェリーなんて、一見すると合わないように見えますが、くっつけて食べてみたら意外とおいしかったという例ですね。いまやアメリカでは、ピーナッツバターとジェリーのサンドイッチはポピュラーです。それと同じで、“岩を転がす”と“モンティ・パイソン風”という、ぜんぜん違うコンセプトをくっつけてみたらうまくいったというのが『ロック・オブ・エイジス』なんです。最初はうまくいくかわからなかったのですが、やってみたらとてもクールなゲームになりました。
――マッチングの妙ということなのかもしれないのですが、「これがうまくいったから手応えが感じられた」といった転機となったトピックはあるのですか?
アンドレとくには……。本作のようなゲームはいままで前例がなかったので、トライ&エラーのくり返しでしたね。作り上げては何度も調整を行って……という感じで鍛錬していきました。
――『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』ですが、2作目が終わってすぐに本作の開発に着手したのですか?
アンドレというわけでもなかったんです。『ロック・オブ・エイジス』は私たちACE Teamにとってつねに大事なIPでした。ユーザーさんから続編を期待するご要望も多かったのですが、その時点では『The Eternal Cylinder』という別のタイトルに取り掛かっていて、インディペンデントスタジオということもあって、なかなか手が回らなかったんです。それが、Giant Monkey Robotという知り合いのいるスタジオと共同開発することになって企画が本格的に動き始めました。
――3作目を開発するにあたって心がけた点は?
アンドレ2作目の『Rock of Ages 2: Bigger & Boulder』では、シンプルなマップエディタを搭載していたのですが、ユーザーの方から、「自分のコースを作りたい」というリクエストをいただいていたんですね。『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』では、当初『2』に搭載したようなシンプルなマップエディタの延長線上でやっていこうかというアイデアもあったのですが、「ちゃんとしたツールを作ろう」という方針になり、かなり気合を入れて作っています。
――『ロック・オブ・エイジス』とマップエディタ機能は相性がいい感じですね。
アンドレそうですね。ユーザーからのリクエストが多かったのは間違いないのですが、一方で、スタジオ的にもマップエディタというシステムに興味があったんですよ。『Rock of Ages 2: Bigger & Boulder』のときも実際にうちのディレクターが、開発を最適化するためにカスタムメイドのマップエディタを活用していました。『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』のマップエディタは、その延長線上にあると言えますね。
――趣味と実益を兼ねるみたいなものですかね(笑)。
アンドレ実際のところ、ユーザーの皆さんがいま作っているマップを見ていると(海外では『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』は発売済み)、私たち開発が、いままで作ってきたものとはぜんぜん違う突拍子もないものがたくさんでてきているんですよ。そういうのを見るのが私たちも本当に楽しくて、日本のユーザーの皆さんにも、私たちを驚かせてくれるようなマップをたくさん作っていただきたいです。
――マップエディタ機能では、いろいろな人のアイデアが期待できそうですね。ところで、本作には豊富なゲームモードが搭載されていますよね。“障害物コース”、“戦争”、“タイムトライアル”、 ”スキーボルダー”といったシリーズで好評だったモードに加えて、“雪崩”と“ハンプティダンプティ”が新たに追加されていますが、とくにモンティ・パイソンっぽくでお気に入りのゲームモードは?
アンドレそうですねえ……。やはりオリジナルのモードである“戦争”かな。これがいちばんのお気に入りです。防御ユニットの配置・設定とタマ転がしを交互に行うという、タワーディフェンスの象徴と言えるモードなのですが、カジュアルな分、とても競争心を刺激されるんです。実際にうまい人とプレイすると、「やっぱり実力が違うな」ということが感じられるゲームモードです。テスターさんと関係者でゲームをプレイすることもあるのですが、やはりテスターさんにはかなわないですね。戦略性がいちばん問われるゲームモードでもあります。
――センスが問われそうですね。
アンドレふつうにプレイするのだったら、自分の岩を動かして、少しでも早く相手の城門に行くことを目標にしてしまうのですが、うまい人はそうではなくて、いかにして防御ユニットを設置するかに集中しています。防御ユニットのコンビが、大ダメージを与えられるというのを知っているんですね。
――逆に試行錯誤したモードは?
アンドレ苦心したのは、『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』から入った“雪崩”です。これは、数十の岩が自陣の城門を目指して雪崩のように断続的に転がってくるのを防御するという、戦略マニアのためにデザインされたモードです。この“雪崩”は、前のバージョンのAIを作っているときに、アクシデントでたくさんの岩を出現させてしまったことからインスピレーションを受けて誕生したモードです。「こうしてたくさんの岩を相手にするのはおもしろいのでは?」ということで、作ったモードです。
ただ、生まれたアイデアを実際にきちんと遊べるモードにするのが辛かった(笑)。というのも、おもしろくするとともに、プレイヤーにフラストレーションが溜まらないようにするというバランスを取るのが難しかったんです。あと、もともと防衛ユニットがひとつの岩を相手にすることを前提に作られているので、複数の岩を相手にできるように防御ユニットを微妙に改良するといったことも、バランス調整の一部としてたいへんでした。
――ところで、ACE Teamは三兄弟が創業したということで、僕的にはとても興味深いのですが、スタジオの雰囲気はどうなのですか?
アンドレ私たち3人は、子どものころからいっしょにゲームを作っているんですよ。昔は『DOOM』のModなどを3人で作ったりしていました。つねに3人で協力して作ってきたので、お互いのことはよくわかっていますし、3人が相乗効果で高め合っているということはありますね。すごくうまくいっているとは思います。
――毛利元就の三本の矢ですな。
アンドレただ、家族ということで他人どうしが働いているという雰囲気ではないので、意見が合わないときはすごいケンカに発展しますね。
――あはは(笑)。それはわかるような気がします。
アンドレそういう場合はドアを閉めてしまって、シャットアウトしてしまいますね。まあ、いい面と悪い面がありますよね。
――もしかして、それが原因でスタジオが危機的な状況に陥ったりしたこともある?
アンドレそれはありません。けっきょくいつも全員が同意する方向で収まります。そのあいだの過程の言い合いは激しくなりますが。
――なんだかんだいって仲がよさそうですね。ずっといっしょにゲームを作っているからということもあるんだろうなあ……。三兄弟はどんな立ち位置なのですか? お兄さんがイケイケで、弟さんがなだめる立場だったりとか?
アンドレ(笑)。そういう役割はないですが、カルロスが私の双子の兄で、エドゥムンドが弟です。エドはアート系で、クレイジーなアートや超現実的なものが大好きです。私とカルロスが、ゲームデザインやコンセプトを担当しています。そういう役割分担はありますが、小さいスタジオなので、全員で協力してやっていくことが多いです。そのうえで、お互い興味のあることをやっていくという。たとえば、私はパーティクル効果を作るのが好きなので、『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』のパーティクル効果に関しては、全部私がやっています。
――いい役割分担ができているということですね。それでは最後に本作を楽しみにしている日本のゲームファンにひとことお願いします。
アンドレ日本のゲームユーザーの皆さんに『ロック・オブ・エイジス: メイク&ブレイク』をお届けできることにとてもエキサイトしています。本作を楽しんでいただけたらうれしいです。マップエディタで作ったマップはアップロードできるので、ぜひ世界中のプレイヤーと共有してみてください。私たちはコミュニティのフォーラムも積極的に活用していますので、ぜひ意見をいただけたらうれしいです。