この夏、Nintendo SwitchとPC向けに『Bake’n Switch(ベイク・アンド・スイッチ)』が配信予定だ。
かわいい見た目が印象的な本作は、パンのキャラクターたち(!)が生活する島を舞台にしたアクションゲーム。プレイヤーはパン屋として、強欲な敵となる“スコージ”を倒すために、パンたちをオーブンに入れて守護者を召喚する……という、斬新な設定になっている。
同作を開発するのは、アメリカにオフィスを構える開発スタジオStreamline Studios。設立から20年近く経つというベテランさんのスタジオStreamline Studiosだが、今回CEOであるアレクサンダー・L・フェルナンデス氏とCOOのステファン・バイヤー氏のおふたりにお話をうかがうことができた。ここでは、その模様をお届けしよう。『Bake’n Switch』の開発経緯やStreamline Studiosの成り立ちなどについて、聞いてみた。
新しいものに挑戦したいとの思いから自社IPに果敢に取り組む
さて、冒頭ではStreamline Studiosのことを“アメリカにオフィスを構える”と書いたが、同社の移り変わりというのは、なかなかに興味深い。Streamline Studiosが設立されたのは2001年で、創業の地はオランダ。それが2010年に全スタッフでマレーシアのクアラルンプールに移転したのだという。その理由が、「財務状況が悪化したので人件費を抑えるため」とのことだが、国内ならいざ知らず、海外へ移転とは何ともダイナミックな話だ。
クアラルンプールでの事業は堅調だったようで、スタジオは着実に成長。そして、今年2020年1月に本社をアメリカ・ラスベガスに移すこととなった。それは、「他社とのリレーションシップのさらなる円滑化のためと人材確保のため」とのこと。「カリフォルニアなどは、とても家賃が高くて、家族連れが暮らすのにたいへん。そこで、家賃もそこそこなラスベガスにしました。ラスベガスには開発スタジオがけっこう多いんですよ(笑)」とフェルナンデス氏。CEOのアレクサンダー・L・フェルナンデス氏はラスベガスに移ってビジネスをハンドリングし、COOのステファン・バイヤー氏は、クアラルンプールで開発を統括するという役割分担となるようだ。
200人を超えるスタッフを擁するというStreamline Studiosのおもな業務は、開発の受託およびサポート。日本のゲームメーカーでは、カプコンやスクウェア・エニックスなどとも長期のパートナーシップにあるとのことで、業界内でも開発力には定評があるようだ。
受託をメインとするStreamline Studiosだが、自社タイトルも適宜展開している。『ハーフライフ』のゲームエンジンを活用したPC向けFPS『ガンマン:クロニクルズ』(2001年)とカンフーテイストのバスケットボールゲーム『HoopWorld』(2010年)、そして未来の都市を舞台にしたスマートフォン向けアクション『Nightstream』(2019年)だ。この19年間で3タイトルということで、その数はけっして多くはないが、「自社IPの開発資金を貯めて、おもしろいアイデアがあったら展開する」(フェルナンデス氏)という方針のよう。「そういう意味ではだいぶ痛い思いもしています(苦笑)。ただ、それをやらないとわからないこともあります。クリエイティビティには痛いことがつきものなので……。がんばってやってみないとわからないことも多いです」とフェルナンデス氏は、きっぱり。
そんなわけで、Streamline Studiosが満を持して4本目の自社タイトルとして準備中なのが『Bake’n Switch』となる。本作は、Streamline Studiosが日本で本格展開する初の作品となる。
キャラクターが魅力の『Bake’n Switch』
では、ここからは最新作である『Bake’n Switch』の成り立ちについて見ていくことにしよう。
「新しいことをやりたい!」(フェルナンデス氏)との思いのもとに、マレーシア人、インドネシア人、シンガポール人、イラン人という国際色豊かな5人のコアメンバーが集まって開発がスタートしたという本作。最初は、「家族でいっしょに遊べるゲームにしよう」ということは確定していて、“パン”というモチーフだけがあったという。ところが当初は、「何をやっているかわからないようなゲーム」(バイヤー氏)だったようだ。“ヘンすぎる感じだった”のだという。
と、話をうかがうにつけ、当初はそこまで期待されてはいなかったと思われる本作は、コアメンバー5人が、“絶対におもしろくなる”と、そう信じてとにかく黙々と開発に取り組んでいるうちに、「ある程度ポリッシュ(磨き)した段階で、急に変わった」(バイヤー氏)という。プレイした人の反応がてきめんに変わったのだという。フェルナンデス氏の、「5歳になる娘が、『Bake’n Switch』のキャラクターに興味を持ち出したのを見て、“これは行けるのでは”と手応えを感じました」というコメントが象徴的だ。
いったい何が変わったのか……。「キャラクターに生き生きとした個性があって、“生きているんだ”というメッセージが伝わり始めたんです」とバイヤー氏は言うが、5人のコアメンバーが、“どんなことができるか”をディスカッションして磨き上げた成果が、ある日形になったのではないかと思われる。
多くの人が本作に注目し始めたことに手応えを得たフェルナンデス氏とバイヤー氏は、開発スタッフを30人に増強。急ピッチで開発を進めることとなった。
というわけで、キャラクターが魅力の『Bake’n Switch』。コアメンバー5人が多様性に富んでいるように、登場する7体のキャラクターも、ひとめ見てそれとわかるように個性的になるように配慮したという。また、それぞれのキャラクターに合った、ゲームプレイとなるように工夫しているとのことだ。
当初から”家族で遊べるゲームにしたい”という意気込みがあっただけに、「子どもがゲームを遊んでくれるところなら、どの地域でもリリースしたい」とフェルナンデス氏は意欲を語る。
今後はゲーム新興国・地域での人材育成にも力を入れたい
最後に、Streamline Studiosのスタジオとしての今後のビジョンをご紹介しよう。それは、ゲーム新興国・地域での人材育成だ。「東南アジアやラテンアメリカ、アフリカなどにも新しい才能があることはわかっているので、積極的に発掘していきたいんです」とフェルナンデス氏は言う。
Streamline Studiosが2010年にマレーシアに移転したことは前述の通りだが、当初は現地での人材確保の面で少し苦労したという。それがこの10年間で、オフィスを構えるマレーシアはもちろんのこと、インドネシア、ベトナム、フィリピン、タイなど、東南アジアから積極的に人を招いて、人材を育成。開発スキルの底上げが果たされたのだとか。世界各国から積極的に人材を募っているStreamline Studiosには、いま45ヵ国・地域のスタッフが在籍しているという。日本人スタッフもいるそうだ。ちなみに、人材育成のコツをフェルナンデス氏に聞いてみると、「人を信じるということがいちばん重要です」との、なかなかにシビれるお返事。
「世界には、その地ならではのアイデアやクリエイティビティがあります。それを伸ばして、世界に持っていくことを考えています」とフェルナンデス氏。今後さらなるダイバーシティ(多様化)を目指しての、Streamline Studiosの取り組みは続く。
人に笑顔をもたらすゲーム
取材後……記事を書いていて、『Bake’n Switch』やStreamline Studiosについて気になるアレコレが生じてしまったので、メールにて追加インタビューをお願いしたところ、快くお受けいただいた。以下、その文章をお届けしよう。お答えいただいたのは、CEOのアレクサンダー・L・フェルナンデス氏。
――まずは、『Bake’n Switch』の開発の進捗状況を教えてください。今夏発売とのことですが、開発は順調でしょうか。新型コロナウイルスの影響などはありませんでしたか?
アレクサンダー予定通り、今夏リリースできるスピードで開発が進んでいます。新型コロナウィルスの影響で、マルチプレイヤーの追加や、PCを含めたどの機種でのリリースを優先すべきかといった戦略にも影響が出ました。
開発チームの健康が最優先でしたので、即座に在宅勤務ができるように切り替えました。Streamframeという自社開発のグループウェアがあることもあり、移行はスムーズでした。一斉在宅勤務を経験することで、クリアーなコミュニケーションや、リーダーシップ、マネージメントの重要性を再確認しましたが、幸いにもStreamlineの優秀なチームはモチベーションを高く保ち、納期を守って開発・制作をこなしています。
――ずばり、発売時期はいつくらいになりますでしょうか?
アレクサンダーすぐそこまで迫っています…ということで!
※その後、さらにうかがってみたところ、PC(Steam)版は2020年8月下旬で、Nintendo Switch版はそのあとすぐ!とのこと。ちなみに、後述のプレイステーション4版の発売日は未定。
――日本でのパートナーを探しているとのことですが、その後の進捗はいかがですか?
アレクサンダーいま、ごいっしょさせていただいているパートナーの皆さんとはうまくいっています。コロナで外出禁止など難しい状況になり、お互いかなりフレキシブルに業務に当たらないといけなくなりましたが、長年のパートナーシップのお陰で、双方満足できる形をとることができています。
あと、Bitsummit Gaidenに、ソニー・インタラクティブエンタテインメントさんの Discordの枠にご招待いただき、参加しました。
ということで、結論として、パートナーさんは目に見えて増えていますし、ほかにも可能性のあるパートナーさんとは連絡を取り合っています。
――改めての質問となりますが、『Bake’n Switch』の魅力、特徴を教えてください。
アレクサンダー開発チームの多様性からくるゲーム自体の多様性、これに尽きます。私にとっては、『Bake’n Switch』は違う食べ物や音楽や人々が一斉に集まったパーティーに来て、いっしょにお祝いをしているような、いっしょに開発しているような気持ちになるものです。やはりコロナのせいもあり、「離れていっしょに遊ぼう(Play apart together)」を可能にしたい私たちの願いを、より強くしました。けっきょくのところは、皆さんが愛する人やものとの時間を楽しむことへのお祝いですね。
――『Bake’n Switch』でもっとも注目してほしいポイントを教えてください。
アレクサンダーいい質問ですね!これは基本的に、開発チームの誰に訊くかで変わってくると思います。私としては、人を笑顔にできるところや、仲間で遊べるところだと思っています。一般的なゲームそのものに対して私が素晴らしいと感じることは、感情を掻き立て、その感情が伝染していくという点です。たとえば、私の5歳になる娘が初めて『Bake’n Switch』のキャラクターを見たとき、画面を抱きしめて大笑いして、いっしょに見ようと大急ぎでいとこを呼びに行きました。こういう瞬間こそ見るべきもので、私たち大人の中に眠る子ども心が輝く瞬間だと思っています。
――最後に、日本のゲームファンに向けてのメッセージをお願いします。
アレクサンダー皆さんからのサポートとフィードバックありがとうございます。Discordアカウントをお持ちの方は、『Bake’n Switch』のチャンネルがありますので、ぜひ参加して直接お話しましょう(日本語で書き込みOKです)。『Bake’n Switch』への感想だけでなく、皆さんの“ゲーム愛”について、ぜひ共有してもらいたいと思っています。