「評判なのよ…死んでもいいほどのコーヒーってね」バリスタのマディがシニカルに言い放つ。このカフェ“ターミナル”には時折、死者がやってくる。ここは文字通り、あの世に向かう者が立ち寄る現世で最後のターミナルでもあるのだ。
オーストラリアのインディースタジオRoute 59 Gamesの第1作となる『ネクロバリスタ』を紹介しよう。本作はiOS版がApple Arcade向けに配信中で、日本語対応のPC版が日本時間の7月22日午後11時30分にSteamほかで配信される。
スタイリッシュな演出に全振りした、分岐も選択肢もなしの3Dビジュアルノベル
さて本作、ゲームジャンルは“シネマティックビジュアルノベル”を標榜しており、基本は物語の分岐どころか会話などの選択肢もない完全な一本道だ。
ボイスなどもなく、プレイヤーのセリフ送り(クリック)とオシャレなBGMに合わせて、3Dキャラとカメラとテキストがスタイリッシュな演出で動きまくるという、ひたすらシネマティック(映画的)な演出にすべてを捧げたような凄まじい作りになっている。
物語と演出が命の作品なのでできるだけネタバレは避けるが、話としては冒頭に書いたような奇妙なカフェの現オーナーにしてバリスタのマディを中心に一癖も二癖もある人々(死者含む)が登場し、会話劇を繰り広げていく。
生と死の狭間を描くディープなテーマを背景に、マディをはじめとする人々のシニカルでキレキレの応酬が続いていくのだが、(好き嫌いはあるだろうけど)これもまた演出に負けず劣らずカッコいい。
ホントこれちゃんと日本語化されて良かった
本誌では2018年にシアトルで行われたゲームイベント“PAX WEST”で本作を試遊した際にプレイリポートを掲載したのだが、当時プレイしたのは当然英語版。その演出部分は当時のバージョンでも十分に感銘を受けたのだが、今回製品版でプレイして明らかに違った部分がある。
それはテンポ感だ。記者は英語にある程度慣れているとはいえ、所詮洋ゲーでしか勉強していない第二言語なので、英語版では“セリフを送っては読んで脳内で変換し、またセリフを送って……”とワンクッションが入る。
それがきっちりタイポグラフィ的なレイアウトも考慮して日本語化されているので、流れるようにクリックして読むことができ、それによって演出も“リアルタイムな”会話の速度でスピーディーに展開されていくのだ。
演出命の本作において、このテンポ感の違いは大きい。本作がきっちり日本語ローカライズされて本当に良かったと思う次第である。(ちなみにローカライズはPlayismによるもの)
任意に選べるサイドストーリー
では本作がセリフ送りのクリックだけで終始するかというと、実はそうではない。各章では時折、黄色いキーワードが登場し、クリックするとシニカルな解説を読めるのだが、これがサイドストーリーと繋がってくるのだ。
まず各章の終わりでは、その章に出てきたキーワードを7つ選ぶことができる。選んだキーワードはそれぞれ“お客”とか“マディ”とか“オーストラリア”といった属性が紐付けられており(どの属性なのかは選択後に明かされる)、次章開始までの一人称視点の3Dパート(歩き回れる)の中にある特定のオブジェクトから、サイドストーリーをアンロックできるのだ。
サイドストーリーはそれぞれアンロックに必要な属性の数が決まっているので「あ、コレ読みたいけどマディが足りねぇ」といったことにもなるけれども、一度出現したサイドストーリーは後の章が終わった後からでもアンロックできるという親切設計。「このキーワードはマディっぽいよな」といった感じに“攻略”することになる。
本編・サイドストーリー含めてプレイ時間は2~3時間程度といったところ。公開されているトレイラーなどを見て惹かれた人には間違いない内容となっていると思うので、ぜひトライしてみて欲しい。