PLAYISMが、2020年6月18日にNintendo Switch版を配信した『片道勇者プラス』。本作は、画面左側から強制スクロールで迫る“闇”に飲まれないように右へ右へとマップを移動し、魔王を倒してゲームクリアーを目指す一方通行のローグライクRPGです。

一方通行で後戻りできないローグライクRPG『片道勇者プラス』レビュー。遊びやすさも奥の深さも文句なしの良移植!!_01

 開発したのは、フリーのゲーム制作ツール“WOLF RPGエディター(通称ウディタ)”の生みの親であるSmokingWOLF氏。なんと、本作は作者であるSmokingWOLF氏みずからがウディタを使って開発したタイトルなのです。Switch版はPC版『片道勇者』に加えて、DLC“片道勇者プラス”の要素も収録。オンライン機能を除く、ほぼすべての要素が網羅された決定版となっています。

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 これまでウディタ製のゲームをWindows以外で出すことは不可能と言われていたのですが、さまざまなインディーゲームの移植を手掛けるエスカドラの手により、コンシューマー初のウディタ作品として移植を実現! コンシューマーハードでウディタ製の作品が出るのはインディーゲームの歴史的にも大きな意味を持つ出来事です。ウディタの移植が可能になったことで、本作以外にもウディタで作られた名作フリーゲームやインディーゲームの移植が行われる可能性が高くなりました。まさに歴史的な移植! ウディタ移植の先駆けとなる本作は、その底力を知らせるのにもうってつけの名作と言えるでしょう。というわけで、今回はSwitch版を遊んだプレイレビューをお届けします。

追われながらも取捨選択! 上達を実感できる良質なローグライク

 『片道勇者』は、一般的に“ローグライク”と呼ばれるジャンルに属しています。定義自体はいろいろあるのですが、大雑把に分類すれば“プレイするたびに展開が変わり、プレイヤーが行動するたびに敵も1ターン行動するターン制のRPG”というイメージをしてもらえるとわかりやすいかも? 日本では『不思議のダンジョン』シリーズが有名ですね。RPGなのに、敵にやられてゲームオーバーになるとレベルが1に戻って最初からやり直しという硬派なゲーム性なのもポイント。とはいえ、何もかもなくなってしまうわけではありません。プレイヤー自身の知識やテクニックが蓄積されていくので、プレイすれば自然と上達していくんですよ。そこがローグライクの魅力ですし、本作もその魅力をバッチリ受け継いでいます。

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本作では、運がよければ道中でセーブできるタイミングもあります。ただ、後述しますがゲームオーバーでも引き継げる要素があるので、セーブからやり直すより潔く諦めたほうがよいときも。

 ただし、本作には一般的なローグライクと大きく異なる点があります。それは、世界を食らう“闇”の存在。プレイヤーは、つねに画面の左側から進行する“闇”に飲み込まれないように右へ右へと進んでいかなければなりません。もちろん、闇に飲まれた時点でゲームオーバー。とはいえ、考える時間はいくらでもあります。移動、攻撃、メニュー画面でアイテムを使うといった行動をしなければ時間は進まないので、手を止めてからじっくり考えるのもアリ。つねに頭がグルグル! 焦りまくり!! でも、そこがよい。

 RPGなのに強制スクロールするアクションのようなゲーム性が混ざり、これがローグライクとの相性バツグン! もちろん、RPGなので城や武器屋、町の人なども存在していますし、会話もあります。彼らと会話をするときもターンが経過しますし、町の人たちが背後で闇に飲み込まれても助けてあげることはできません。後戻りはできないですし、ダンジョンに入って脱出できなかったらアウト! 落ちている武器が強そうでも闇が迫っているなら諦めなければなりませんし、敵に足止めされて闇に捕まってもおしまい。攻撃されて体力が0になってもゲームオーバーです。やられたら、最初のキャラメイクからやり直しのシビアな世界。なのに、もう1度挑戦したくなるんですよ。レベルは1に戻りますが、つねに取捨選択を迫られて何度もくり返し遊ぶことで、プレイヤー自身のレベルが上がっているのを実感できるのです。これこそローグライク!

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 慣れてくると1周は30分から1時間くらいでクリアーできるボリュームですが、気がつくと何十時間も遊んじゃいます。そもそも1周クリアーしたくらいじゃ、ゲームの全貌が見えないですし……。本作は、取捨選択を迫るゲーム性と敵の強さのバランスが絶妙で「こうすればよかった!」と悔しくなるし、もう1度挑戦したくなるんですよ。テンポよく遊べるので止め時がみつからない……! 重量制限があり、レベルを上げなければほとんど持っていけないアイテムをどうやりくりするのか。闇が迫るなかでダンジョンに潜るべきか。資金をどう使うか。1歩1歩悩みながら進んでいく楽しさに、目に見えて“闇”が迫る焦燥感が合わさり、本作でしか味わえない体験ができます。

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 一定時間(ゲーム内歩数)が経過すると出現する“魔王”を倒すとクリアーになるのですが、魔王の存在自体もローグライクの楽しみを引き上げる素晴らしいアクセント。魔王は“攻撃を防ぐバリア”に守られているのでバリアを壊さないとダメージを与えられず、それをどうやって壊していくのかを考える必要があります。さらに、序盤から当たり前のようにこちらを狙って出現するので、自分が弱い時にはどうやって逃げ回るのかを考えるのも醍醐味。魔王は朝になると撤退するので、再行動できる“覚醒”や、職業固有のスキルを使って立ち回りながら時間を稼ぐ必要があります。

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 もちろん、魔王を倒す自信があるなら早いうちに挑むのも自由。いつ倒してもいいのです。アイテムの引きのよさやスキル次第ではかなり早い段階で倒せてしまうこともありますし、地道に鍛えてから真っ向勝負を挑むのもプレイヤー次第。魔王の出現までにどう立ち回るのかも含めて、気がつくと冒険の設計図を脳で描いている自分がいます。まあ、たいていハプニングが起きて設計図がグチャグチャのアドリブになるんですけどね。

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ゲームオーバーになっても損をしない評価システム

 このゲームは“くり返し遊ぶこと”へのアプローチがしっかりしているので、ローグライクゲームの入門としてもオススメできる作品になっています。最初のキャラメイクから自由度が高いのですが、ちゃんと初心者は騎士がオススメだと書いてありますし、最初に何から始めるとよいのかもわかりやすく誘導してくれるんですよ。

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最初に選ぶべき世界がバババーーッと出てきて戸惑うかもしれませんが、要は“入力した単語で世界が自動生成されている”くらいに考えてもいいです。

 ゲームの仕組みがわかってくると職業や特徴を変えて再挑戦したくなりますし、学びと気づきのくり返しのバランスがうまい。ああ、あのアイテムはもっと取って置くべきだった。あの武器はいらないな……と自然に覚えていけます。そして何よりよいのが評価システム。これがあるので、ゲームオーバーになっても無駄にはなりません。ゲームオーバーになると、プレイヤーの取った行動に基づいて評価してくれる“評価画面”が出現し、プレイヤーの進行度に応じたアドバイスがもらえるだけではなく、つぎの周回に向けた仕込みができます。

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 たとえば、ゲーム中に手に入れた“次元の金貨”で“次元倉庫”を拡張してつぎの冒険にアイテムを持ち越すことも可能。強い武器を持っていけば、序盤の冒険がグッと楽に! さらに、冒険の評価でもらえる“伝説ポイント”で新たな特徴や職業を解放することもできます。解放した特徴でキャラクターをカスタマイズしたり、便利だったアイテムを持ち越したりと、自分がクリアーしやすいように寄せていくので、ゲームオーバー=無駄ではないんですよ。周回を重ねてクリアーを目指すこと自体が、ゲームプレイのサイクルとして組み込まれているのですね。だから、1周クリアーまでの時間は短いゲームなのに、総プレイ時間は遊ぶ人次第。じつは、反復すればするほど底の深さが見えてくる恐ろしいゲームなのです……!

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 そもそも、1回のクリアーでは発見できない隠された要素や新たな職業も盛りだくさん! マルチエンディングでもあり、くり返し遊ぶほど楽しくなる要素が非常に多いゲームです。そういった意味でもローグライクとしての魅力がたっぷり。入門としてはちょっと変わった部分もあるのですが、本作でしか味わえない体験としてローグライク好きにも初心者にもオススメです。サクサク遊べるユーザービリティのよさもゲームとして褒めるべき点。こればかりは、実際に触れてもらわないとお伝えしにくいですが……。

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やればやるほど拡大していく冒険の世界

 純粋なローグライクとしての完成度も高いのですが、RPG要素もしっかりしています。仲間もいればイベントもあり、会話を読んでいくことで少しずつ見えてくる根底に流れる物語にも注目。1周や2周クリアーした程度では、とてもこの世界のすべてを見渡すことなどできません。条件を満たしてクリアーを重ね、新たな職業で遊んだり、仲間たちと交流することで、世界はどんどん新しい姿を見せてくれるのです。

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 いっしょに連れて行く仲間との会話もありますし、最初から冒険に同行してくれる妖精イーリスとの会話もクスッときて楽しかったりするので、後戻りできない冒険でも孤独じゃないんですよ。会話は1ターン消費してしまうので、ゲームに慣れていないうちは焦って話を聞かないかもしれませんが、時には耳を傾けてあげましょう。

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イーリスとの会話はバカバカしくて結構好き。
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 その周回でできることを考えつつ、失敗しないように最善手を考えて行動するのが本作の魅力なのですが、余裕が出てきてイベントを進めていったり、用意されたキャンペーンに挑んでいくことで世界がどんどん広がっていきます。イベントの途中で失敗してしまえば当然また最初からやり直しなので、せっかく見つけた子どもを助けられなくて悔しい思いをするのも一興。魔王を倒すという道筋は同じなのに、ひとつとして同じ冒険はありません。次元の金貨を集めると城を拡張できてイベントに関わる住民を配置できるようになりますし、遊べば遊ぶほど世界が大きくなっていくのがたまらないんですよ。

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城を改築して住人を配置。ちょっとした要素ではあるのですが、自分が世界を切り開いている感覚がして好きですね。

 あまり語ると楽しみを奪うのでこの辺でやめておきますが、やさしい旅やふつうの旅で1回クリアーした程度では世界の切れ端くらいしか見えないゲームです。噛めば噛むほど味が出るので、ぜひ自分の手で切り開いてみてください。あ、最後にいまさら言うのもアレなのですが、Switchへの移植度は良好ですよ。元がPCゲームなので文字サイズを考えるとTVモニターでやるのを推奨しますが、もちろん携帯モードでも遊べます。ぜひ、お手元で一方通行の旅を楽しんでみてください!

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